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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
279/376

11-11

気がつけばブックマーク230件超えてました。ありがとうございます。


2025/04/29 加筆・修正しました。

セネルティエ王国は、元は人口的な意味での主な種族としていわゆる人間、ヒューマンと呼称されていたらしい種族の国である。ヒューマンは脆弱ながら知恵が回り、嘘も吐く。他のドラゴンや吸血鬼といった、支配者層からすれば弱っちいだけの存在であった。


それでも集まれば工夫次第でドラゴンさえ狩り得るのだから、集団としてのヒューマンの力は絶大なものがある。自らの種族の長所を生かしてヒューマンが国家という枠組みを作るのも時間の問題だったのだろう。


セネルティエ王国のみならず、周辺国に他種族国家が多いのは、これらの国の分裂元となっているガルガーテ帝国が、ドラゴンとの信頼関係に成り立っていた国家であったためだ。ガルガーテ帝国の正式な国旗は、ヴァイヴァーと呼ばれる蛇型のドラゴンの絡む天秤である。アヴリオスにおいてドラゴンは、世界の均衡を保つ裁定者としての力を備えていた。


ドラゴンとヒューマンが協力する要となっていたのが『竜帝の愛し子』と呼ばれる存在で、これは現在最後の愛し子が列強第4席『竜帝の愛し子』リーヴァとして存命である。


リーヴァの時代にひと悶着あって国がガントルヴァ、リガルディア、センチネルの3つに分かれた話が有名だが、その後ガントルヴァがセンチネルを攻撃し、センチネルの領土が縮小した。その際に分かれたのがセネルティエ他の小国群である。


地方には人間が多かったが、ガルガーテ旧帝国時代から続く人間が支配に従えば不当な支配を行うことのない竜族の支配が続いていた地域であり、セネルティエはその中でもガントルヴァの影響が強く、人間が自主的に動いて立てた国家であった。ただしこの地域はドライアドの森が多く、人間は森を焼き払って勢力を拡大しようとして、逆にドライアドに飲み込まれたのである。何故ならヒューマンという種族は、本質的に魔力を扱うことに不慣れなのだから。


結局、まだ魔力が溢れていた過去の時代において、ヒューマンは支配者層に上るにはいまだ脆弱であったのだ。何より、ヒューマンが慎ましやかに暮らしているだけで、ドラゴンも吸血鬼も人刃もドライアドも手出しはしてこなかったのだから。人間を襲う前提が存在する吸血鬼族と人刃でさえも、特段ヒューマンを狙っていたわけではない。人刃や吸血鬼の言う人間には、ヒューマン以外にヒューマノイド、亜人と括られる人型の魔物を含む。これはエルフであったり、ドワーフ、巨人、ホビットなどの小人や妖精族、獣人族など幅が広く、彼ら(吸血鬼や人刃)が人型でありながら人間とは一線を画していることの象徴であった。


なお、ヒューマノイドまたは亜人に括られる人間の仲間であるエルフやドワーフは精霊の仲間、分類上亜人や獣人に分類されることのあるゴブリンやオークは魔物寄りの存在とされており、所謂亜人種もかなり振れ幅が大きいことが分かる。


セネルティエ王国に至っては、人刃などの人型魔物とも血が入り混じり、ハーフが増え、混血は珍しくなくなった。ちょくちょく吸血鬼とドライアドの血が入るようになって、亜人でも人間でもない精神生命体が中立の立場として、貴族としての力を存分に揮っている。



「この世界の歴史なんてものに興味などないけれど、知っておくにこしたことはないのよね」


アレスとアテナはギリシア神話に関連する神々の名を持っている。世界樹には直接の関係のない名であるため、歴史を紐解けば外来者であることがわかる。

外来者という言葉はセネルティエの学者が勝手に作った言葉だったようで、ロキも初めて見るものだった。


「すごいな、こんな昔のところまでさかのぼったのか」

「あ、それあんまり信憑性ないらしいけどね」

「ロードたちよりも昔の世代のことを確かめるのは大変だろう」


プラムの言葉にロキが返せば、アレスとアテナが口を開く。


「古代人種の生き残りが今もいるなら話聞けるんだけど」

「古代人種は長命な者が多いと聞きます。探してみるのは良いかと」

「それ言うなら人刃はヘファイストスよりも前からいた種族だろ。人刃にいないのか、長く生きてるやつとか、折れてない御先祖様とか」


本をぺらぺらとめくりながら、アレスの言葉に反応を示したのはセトだった。


「俺の実家にいるぞ、列強より古い人刃」

「まじかよ」

「会えるん?」

「知らね。完全に暗器らしいからあんま起きてはこないって」

「変な言い方するなセト、もったいぶんなよ」


ロキがすかさずセトの言葉をつつき始める。セトは懐からリンクストーンを取り出す。今はロキが改良してポストピアスの宝石代わりにしたものをセトも着けているのだが、それとは別に、セトの父であるゲブ騎士団長が欲しがったこともあり、改良前の片手に持てる程度のサイズのものででよければ、と譲ったのである。これはセトとゲブたちバルフォット家の連絡用、もしくは王宮からの指示をすぐ受けるために使用することになっていた。


「昨日父上が連絡してきてさ。話聞いたら起きたんだとよ。なんかの前兆だろうって」

「バルフォットの初代はかなり長期間生きていたと聞いている。ガルガーテ建国前から起きていたはずだろう」

「らしいな。んで、リガルディア建国後に眠ったと」


セトの言葉にカルが続けた。ロキが知っている情報を続ければセトは頷いた。人刃という種族の長命さが強調されたエピソードと言えるだろう。ロキたちもこれからあまり世代が離れていないのだから空恐ろしい。


「ロキたちって大体その世代から何世代くらい経ってるの?」

「そうだな、多分16世代くらいじゃないですかね」

「うちも16だな」

「私人刃じゃないですけど、一応20世代くらいだったはず」


ロキとセトが16、ソルが20と答えて、プラムは考える。

人間だったら5世代なら200年満たない。2000年なら50世代くらいは必要だろう。セトの御先祖様がどれだけ強力な個体なのかは何となくその寿命で悟れてしまう。


「ガルガーテの建国から、って前置きいるな、これ」

「ちょうど転身ができなくなったころからですもんねー」

「予想よりも昔の話をしていた!」


ロキの言葉に鋭く突っ込みを入れたプラムにナタリアとロキが笑う。リガルディア王国自体が2000年続く長命国家であるため、割と歴史を綴った書物が残っているのかもしれない。ロキの多分という言い方は、世代にそこまで拘っていない人刃の雑さが垣間見えているといったところだろう。


こういうのって教会が記録してるんだよねー、というソルの言葉でプラムは確かにゲームにそんな隠し要素あったな、と思い返す。そしてふと、ロキが訪れる教会が黒箱教のものであることを思い出す。


「そういえば、なんでロキって教会と仲悪いの?」


プラムが問えばロキがプラムを見た。


「神子というのはもともとシヴァの権能を借り受けている存在のことを指しているらしいですね。もとは“英雄(ファミリア)の時代”に起きた戦争の産物だったんですって。で、その神子を教会が庇護下に置こうとするでしょう? リガルディアの貴族は大きな家に生まれた神子が俺以外に、王家の、王妹殿下がいます。殿下の方は教会に盗られてまして、そもそも貴族と教会が仲が悪いんですよ」

「うわ、根が深かった」


プラムは呆れた。教会、怖いもの知らずかな?

リガルディアの民は基本短気なので、殴り合いになると絶対負ける人間が喧嘩を売っていい相手ではない気がするのだが。


「シヴァってインドの破壊神だったかな? 伝聞系ってことは列強から聞いたの?」

「どちらも肯定しておくよ」


ソルの確認にロキが答えていた。プラムが再びロキに視線を向けると、ロキがさらに説明をくれる。


「俺と教会の仲が悪い理由として、一番はそもそも貴族と教会の仲が悪いからですが、両親が他の貴族と結託して教会の勢力を追い出した所為もありますね。教会は名目上神子の保護を謳っています。本来なら保護を受ける方がいいと言えるかもしれませんが、リガルディアでは王妹殿下を教会が強奪した形になっているせいで公爵家の子供まで持っていかれるのを王家が警戒しました」

「なるほど」

「半分嘘です」

「ヲイ」


納得しようとしてたのに、とアテナが呻いた。ロキが笑う。


「それで、本当は?」

「概ね事実関係はそのまま、タイミング丁度良かったから王家が乗っかって教会を追い出しただけです」

「リガルディア王家って有能なの? 無能なの?」

「せめて低能だと言ってくれ」

「アンタも十分酷い」


ナタリアがロキの頭を打っ叩く。リガルディアの歴史上最も悪政を敷いたのが3代前の愚王エイハブ・ファン・リガルディア。リガルディアのみならず近隣の小国ならよく知る、リガルディアの外交が壊滅的に暴虐になった時期のことである。


「まあ、別に愚王(イブ)陛下が悪いわけではないんだがな。彼の父王と彼の時代に教会にいいように手玉に取られたらしい」

「先々王陛下にさっさと王位を譲って宰相の力を削ぐ為に奔走してたのはなぜ貴族に広まらない」

「そんなことしてたの?」


リガルディアに教会が入り込んで勢力を広げたのはそう昔のことではない。カルの呟きに思わずプラムが聞き返す。


「まあ、見事に王家は叩かれていたらしいですけどね。“だから人間から妻など迎えるなと言ったのに!”」


ロキが物語を読み上げるように言葉を発する。ナタリアが苦笑を零した。


「今のセリフはよくリガルディアで貴族子弟が親しむ本の一節なんです。愚王と呼ばれることを自分への戒めとして国民に許可なさったエイハブ陛下は、今も生きておられますよ」

「長生きだな……」

「普通死んでから批判が出るものじゃないの??」

「王家の人が死ぬまで待ってたら数百年経っちゃいます」


愚王の時代、リガルディアは荒れた。

対外的にも、内政も荒れたのだ。


当時一番の失策と言われたのが、フォンブラウ公爵家の領地替えだ。フォンブラウ家の領地移動はアーサーの父の世代が該当する。結果として魔物を抑える役目を担いきれなかった貴族の家が複数没落した。アーサーは魔物に奪われた土地を単騎で取り戻し、息子テウタテスが王女のエメラルディアと婚約することになった。


リガルディアの爵位は実力に見合っている場合が多い。まれに没落しているが、その場合爵位を降格させられる場合も少なくない。これは王家とドラクル家を抜いた公爵5家の話し合いで決められる。数年単位で更新があるので実はリガルディアの貴族はあまり気が抜けない。すべては人間という弱者を守るために作られた制度の一部である。


「いいようにあれをとられちゃったんだよね」

「宰相は確かに有能だった、それで侯爵家まで登ったのは褒めても罰は当たるまいよ」

「でもそれで人間を上層部に食い込ませすぎたのよね」

「人間が上になれば人刃狩りが始まるのは道理だったろうにな。だからこそエイハブ王はそれを食い止めたかった」


プラムが顔色を悪くした。何があったのか、プラムは歴史を学んで知っている。


「人刃狩り――史上最大の、教会と王家主導の虐殺の再来、ですか」

「そうだ。再来と呼ばれる元になってる時代の生き残りが、クラウンとリリアーデ殿だな。刀の人刃はクラウン殿だけ、しかも本人もハーフときた。人刃はあれで絶滅も同然だった。同じ過ちを繰り返したくなかったんだろう」


人間を守るために人間と契約を結ぶことで成立する種族が生まれ、その種族を人間は虐げた。ただ、それだけなのだ。


「そりゃ人間中心主義の教会とは仲も悪くなるな」

「人刃を悪とするなら、世界樹の作った大半のものが悪だろうよ。人刃は世界樹が呼んだ旅人が初代だと言われているし。世界樹のやったことを世界樹信奉者が否定して何がしたいんだか」


だから教会との溝は深いのだ。ロキが、というか父であるアーノルドと教皇との仲がいい現状の方がおかしいのだろう。


「で、今その宰相の家は?」

「ジーク陛下にいいように事務処理に使われてますよ。側妃が物理的に強くて、流石としか言いようがないです。ま、父上やロッティ公爵、ソキサニス公爵も噛んでいるらしいから、仕方ないとも思うけど」

「つまり?」

「魔物の矢面に立たせてないだけましと思え、とさ」

「傑作だわ」


金色蝶(パピーリオ)がくすくすと笑った。


「愚王よりもその前の王様に恵まれなかったのね、リガルディアは」

「もとより王には向かない種族だ。人刃だって戦争以外には能のない種族なんだぜ。国家運営できてるだけましだと思ってくれないか」

「それで本当に運営できるのか、ってのは聞かないでおいてあげるわ」


カルの弁明に金色蝶(パピーリオ)の辛口な評価が光った。


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