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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
278/377

11-10

2025/04/29 加筆・修正しました。

ブライアンには婚約者がいたようで、自分がいながら他の令嬢に手を出すとは、と文句を言いつつブライアンを引っ叩いた割と豪胆な令嬢がロキとソルに謝罪をしに訪れた。


「マーレ・マティグリーと申します。婚約者のブライアンが、本当に、申し訳ございませんでした!」


ブライアンを放置して、マーレはソルに特に頭を下げる。彼女はソルがブライアンの誘いを断るのが難しく、しぶしぶ付き合っていることを知ってはいたようだが、今まで全く姿を見せたことが無かった。ソルはもしかして押し付けられるわけじゃないよねと危惧していたのだが、そういう訳ではなさそうで一安心である。


皆と少しお茶をしたいとマーレが言ったので、プラムたちはそれに付き合うことにした。



「マーレ・マティグリー、転生者です。元日本人です」


まばらに存在しているというべきか、散らばっているというべきか。転生者がまれにいる状況を見てロキは苦笑を零した。マーレもまた、ロキとソル両方が転生者であると聞いて分かりやすく驚いたものである。


「ロキ様が留学生に入っているとは、正直生きた心地がしませんでした」

「まあ、そうだろうね」


蒼い髪、ネイビーの瞳の少女、マーレはどうやらセネルティエを舞台にした乙女ゲームを知っていたらしく、ロキについて、語った。


「私の知ってるロキ様は多分男性です。ていうか、名前出てなかった脇役キャラがロキ様だったっぽいです。お助けキャラだったんですけれど、何でか名乗ってくれなくって」

「うわぁ、とうとう男の俺が乙女ゲームに進出を果たしてました?」

「あああ、その声です、声優誰がやってるか全くわからなかったやつ!!」


割と興奮気味のマーレだが、そこから芋蔓式に判明したのは、セネルティエ王国舞台でソルが隠しヒロインとして登場していること、ロキが名前こそ出ないが既出であることであった。


「まさかマーレの話を理解できる者がいるとは……」

「転生者である事実を隠して生きてきた分、むしろお前は心を開かれている方だと思うが?」

「転生者であることを知らせてはくれなかったが?」

「浮気男にこの話は重たかったか……」

「なにを」


呆れたようなロキの口調にブライアンが少しむくれた。

食堂で茶を楽しんでいるときのこと。


「転生者というのは、存在を知られている分狙われやすい。特に俺たちの世代ならな」

「世代?」

「一瞬で世界の裏側と会話できるような技術があったとしたらどうする。そんな発想はまだこの国になく、その転生者がにわかの知識でそんなこと言いだしたら」


ロキの言葉にブライアンは少し考えて口を開く。


「……狙われるな」

「知ってることかアイデアかどちらかを吐き出させてそのあとはどうにでもできるだろう。女なら娼館、男なら奴隷商にでも売ればいい」

「あれ、こうしてみると意外と治安悪い?」


何か思い当たる節があったのだろう、マーレが眉根を寄せた。プラムがいるため同席しているアレスとアテナは顔を見合わせた。このアレスとアテナ、実は兄妹であった。双子であるらしいこのシェネスティ公爵家の令息令嬢は、案外仲が良いらしい。赤とペイルブルーが一緒にテーブルについていてカラフルだなんて考える。


「必要なものはあると思うのだが」

「むしろ公娼をなくして男どもが暴れたらどうするのですか。奴隷は確かによくありませんが」

「アテナの女尊男卑にはもう慣れたぞ? 泣かないよ?」


ブライアンがテーブルに突っ伏した。ブライアンとプラムが幼馴染ならこのシェネスティ公爵家の子供たちとも幼馴染。恐らくだがエドワードもそうだろう。どうやらエドワードにしろアレスにしろ、ブライアンの拗ねた態度をあまり深刻に捉えているわけではなさそうだ。


「しかし、まさかマーレがここまでいろいろとしゃべるとは思っていなかった」

「隠しキャラでもないイケメンが来たらびっくりしますよね? しかも転生者」

「そりゃ驚くだろうけれども。その呼び方はあまり好きではないのでこれ以降使わないでいただけると助かるかな」

「あら、承知しましたわ」


ロキの言葉にマーレが答える。恐らく今のマーレは国内外の貴族で誰が味方にできそうで誰が敵になり得るのかを測っている最中なのだろう。今は特にロキたち留学生が来ているから姿を隠していたに違いない。


「どんな心境の変化だ、マーレ」


ブライアンの問いかけにマーレは答えた。


「別に、これなら悪役令嬢演じる必要ないなって思っただけですよ。今モーションかけられてるのロキとリガルディアの王子様とアレスだし」

「私にモーションかけたからブライアンは外されたのかしらね」

「逆ハーエンドあるしそのうち狙ってくるかもしれない」

「そのゲームで私が悪役令嬢って初耳~……」


順にマーレ、ソル、マーレ、プラムの台詞が続く。

知っているゲームがあれば知らないゲームがあってもおかしくはない。プラムはプラム自身が悪役令嬢だったゲームを知らなかっただけだ。


「悪役とかそういうの一回考えんのやめようぜ……? 軽んじられているようで癪に障る」

「アレスがそこまで言うのは珍しいな?」

「なんか……ロキを見てると、な。ゲーム、って言葉にすっげえ反感を覚える」


中等部3年、14歳にして175センチを超えるアレスはいわゆる巨漢と呼ばれるタイプであろう。ロキは彼がこの先190を超えることを知っているのでやっぱりでかいなあくらいにしか思っていなかったが、ゲームという言葉を嫌うのなら特段その単語を言う必要はない。


もっとも、これらの発言で一番混乱しているのはカミーリャなのだが。彼はまじめな分ゲーム発言を受け止めるのが辛かったようだ。


「ゲーム……この世界が? 創作物……? じゃあ俺はいったい……?」

「主、それは関係ない」


タウアの方はしっかりと何か根っこに持っているらしく、静かに言葉を紡いだ。


「創作物だと言われようと、現実ではないと言われようと、それはあくまでもそれを言っている奴からの話でしかない。俺たちにとってはここが現実だ。――少なくともあんたもそう考えているんだろう、ロキ」


タウアに話を振られたロキは小さくうなずく。微かに笑う。


「俺は、まあ、突拍子な話でしょうが、ループだのゲームだのという言葉を割と口にしてきました。けれどそれを言い訳にされてプレイヤーの思った通りの行動をするものだと決めつけられた登場人物のように言われるのは我慢なりませんね。だいたい、そう思うのなら“転生”などという言葉を使うなという話です。俺たちがただのキャラクターであるというのなら、ヒロインはさぞかし人形に見えることでしょう。ヒロインなんて観測者にとっての玩具でしかないのです。玩具に感情などありませんよ」


ロキの慇懃無礼にさえ感じる強い意志を持って放たれた言葉は、ヒロインという存在を認めつつも、そこにあるのはヒロインとしての姿ではなく、現実に存在する1人の少女であるという彼なりの価値観に即したものなのだろう。割り切って使えるなら、ループもゲームもその事実を表示するために記号にしかならない。


ロキは誰がヒロインなのか分かったのだろう、とナタリアがソルに呟いた。ナタリアはもう誰がヒロインであるのか知っているようで、ソルは少しばかりそれが可哀そうに思えた。何度も繰り返してきたナタリアは、特に何も思わなくなるほどには擦り切れていることがままあって、ロキと会ったことでまれに感情が爆発するように発露することはあれども、それ以外はまさに人形といった感覚を覚えるのも事実だったから。


ロキにどれだけ問うてもヒロインを教えてはくれないし、それはおそらくだがソルたちを守るためにロキたちがとっている行動なのだろう。ゲームの強制力なんてものは存在しちゃいないと頭ではわかっていても、そうなったルートがあると示されているだけでも絶望ものだ。


ナタリアがそっと口を開く。


「それでもそのゲーム知識に助けられている部分があるのも事実なんです。まだ右も左をもわからなかったころから、助けられています」

「でもここは現実だ。ゲームなんて言わないでくれ」


カルの強い口調にナタリアが黙る。おそらく苦手なのだろう。ロキは軽く肩をすくめる。


「知識と記憶を切り離して考えろ、ナタリア。お前が持っている情報に確かに俺たちは助けられてきた。実際はゲームじゃないと口で言ってもゲームと認識しているのはお前なんじゃないのか」

「ロキが何でそんな簡単に分けて考えられるのか不思議でなりません」

「それは“覚えていないから”だろうよ。お前と違って俺にループの記憶はないし、前世での記憶に伴う感情も、もう薄れた」


ロキは思っているのだ。

ループというのが本当に同じ世界を何度も繰り返しているのだとしても、夢という形で現在のロキたちに影響を及ぼしているということは、実体験としてそこに成立していたものであろう、と。夢とは記憶の整理のために見るのだともいうから、予知夢の類でないのは確かである今まで見てきた夢は、きっと何らかの形で残滓があるのだと。


ループ、と不穏な言葉が聞こえたことに気付いてイルマーレと、いまいち理解が及んでいないらしいブライアンの態度が明確に分かれる。首を傾げたブライアンと、明確に表情が曇ったマーレは、ブライアンよりもマーレの方が現時点ではロキやプラムの話にちゃんとついてこれることを現していた。


「……最近俺は、ループというのは、グラウンドや砂場に木の枝で引いた線みたいなものだと考え始めたよ」

「……線、ですか」

「ああ、何度も上書きして、深く深く刻まれて、一度均しただけでは消えないような」


ロキの言葉にナタリアが眉根を潜める。ループをロキが例えるのはこれが初めてではないのだろうが、ナタリアはこの表現を聞いたのは初めてのようで。


「ひかれた線があるなら、そこをたどってしまいませんか」

「それを無理やり変えているんじゃないかな。どうせ大まかに起きる事象は変わらんみたいだし。何年に誰が死ぬだとか、そういう類のものさ」


それだけルートを変えるのは難しいのだろう、とロキは小さく言う。


「分岐点を大量に作ればあるいは。……いや、帰結点が同じでは話にならん気もするな」

「ロキ、なんて神霊のほかにも面倒ごとを運ぶ類のものがいたなんて」

「気にしたら負けよ。出てくる問題にそれぞれ対応しなきゃいけないだけなんだから」


ロキは頭が良いからすぐ小難しいことを言い始める、とカルが言う。頭がよく回ることと、人間に思考パターンを理解していることは別物であるため、ロキの方が小難しく考えるのは仕方がなく、それさえ考慮すべきこととしてカルが頭を回せば、カルは恐らく道を違えたりはしないのだ。


「これだけ同世代に転生者がいるってことは、何か意味あるってことですよね、たぶん。教会にでも行ってみます?」


マーレはそう考えるのか、とプラムはマーレの方を見やる。


「ロキはお留守番ね」

「それならカミーリャ殿が適任では」


プラムの提案にソルが口を開く。アテナがさらに提案をすると注目がカミーリャアに集まった。カミーリャは聞いた話を少し整理していたようだったが、視線に気付いて顔を上げる。


「俺ですか? 問題はありませんよ。具体的に何を聞いて来ればよいのでしょう」

「「「いいやつすぎか」」」


総じて突っ込みが入った意味が分からないカミーリャが首を傾げつつ、次のサファイアの日に教会へ行くことが決まった。ロキをはじめとするほとんどのメンツは居残ることが決まる。


「アレスとアテナが動かせないから私は無理よ」

「ぶっちゃけリガルディアが動くわけない」

「私も今は喧嘩売ってるしやめておくわ」

「じゃあ私たちも……」

「残りますね」


結局タウアとカミーリャ、マーレとブライアン、そしてエドワードの5人に行ってもらうことが決定した。


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