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今回、相手の煽りがちょっとアレな内容になっているのと、主人公がどえらくキレ散らかして暴力的になっていますので、ご注意ください。
2025/04/28 編集しました。
ロキとブライアンの決闘は、生徒たちにはそれぞれの受け止められ方をしたようだ。ブライアンの派閥に属している貴族たちはロキを遠巻きにしたり、ソルに寄ってきたりと貴族らしい動きをしていた。
ソルが刺繍が得意だと知った令嬢の1人はどうやら商家の出だったらしく、リガルディアではほとんど手に入らない珍しい刺繍の入った布を持ってきたり、茶会を開いてソルを招き、一緒に刺繍を刺したりして仲良くなっていた。
ロキの方は、カルと連携でもしたのか、王家に近しい貴族の派閥を丸っと味方に引き込んだようだ。現状のセネルティエ王国は貴族の力が強いものの、元々強い貴族がさらに強くなり、弱小勢力は大人しく吸収されるしかないような状況になっているらしい。プラムが状況を説明しようとしたら、ロキはぴしゃりと言い当てた。
「オーガ、オーク、ラミアにケンタウルスか。人間相手によくぞここまで踏み止まった!」
ただの学内決闘の様相を外れ始めたのは致し方ない。セネルティエ王国の辺境付近は所謂亜人、人型の魔物が治めている地域が多いのだ。人刃族であるロキに彼らが味方するのはある種当然だったろう。
王家や支配者層がヒューマンではない国家はリガルディア王国だけではないのだ。ともすれば、貴族や有力な家が亜人混じりなのは当然ともいえる。
「ロキ、そこまでわかるの?」
「大体匂いで分かりますよ。プラムは植物の匂いがします」
「そうなんだ……」
人刃は鉄臭いんだよね、とオークの混じった生徒が言う。完全なオークというより、同年代の人間よりも大柄で耳の形と位置が違うくらいなのだが、この学校に通っている中ではこれでもかというくらいオークの特徴が出ている。丸めの顔が愛嬌があって割とオーク混じりというと驚かれることが多い生徒だ。
「そっか、オークは鼻が良いんだっけ」
「うん。ちなみに吸血鬼の匂いと人刃の匂いはちょっと違う」
ちょっと得意げなオーク混じりの男子生徒を見て、ロキも笑っていた。
プラムがよく見ていたファンタジー作品ではオークは忌避されるモンスターの一種だったが、こちらでは亜人扱いなのだからたまったものではない。魔物と亜人の差はどこにあるのか、どこからがモンスターなのか、はっきりしてほしいと今でも思っている。
「……あいつ一応ドライアドのはずなんだけどなあ……」
「人間に寄っているんでしょう。ドライアドも基本的には気紛れで自由を好むので、それであの俺様が出来上がっているんだと思います。でもちょっと矯正しないと、帝国にいいように乗せられて国家崩壊のトリガー引きそうですよね、あれ」
認識していたことではあったのだが、ブライアンについてロキに改めて口にされると怖いのでやめてほしいと思ったプラムだった。
♢
「では、ブライアン・フーリー対ロキ・フォンブラウの決闘を開始する」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
留学生と決闘など前代未聞もいいところ。ブライアンとロキが訓練場で向かい合う。立会人はプラム、ソルである。止めに入れるようにということでそれぞれエドワードとカルが待機している。周囲にはカミーリャたちをはじめ、4クラス分の生徒たちが観戦しに来ていた。
「皆見に来るんですね」
「本来はほとんど行われないから、皆興味本位だろ」
カミーリャの言葉にアレスがすげなく返す。
ロキが勝った場合はこれ以降ブライアンはソルに対して一切食事や散歩に誘うなどの行為をしないこと、ブライアンが勝ったら、ロキやソルとの婚約を破棄する相談を家に持って帰る、という条件で2人はこの場に立っていた。
「ロキ勝っても負けても実質勝ってる」
「婚約破棄なんて簡単にできるわけないもの。分かっててやってるわ、あれ」
オートとソルが呟くように言葉を交わすと、聞いていたモードレッドたちが口を開いた。
「ブライアン不憫だな……」
「致し方あるまい……まあ、横暴な態度を取り続けているのだから当然の報いと言えばそうなのだが」
「そもそもロキとソル嬢の婚約、申し込んだのはロキの方だとか」
順にモードレッド、ランスロット、ガウェインの言葉である。負ける気がこれっぽっちも無いのがよくわかる、とギーラが面白そうに眺めていた。
「怖じ気付かずに来たことは誉めてやろう」
「おや、ありがとうごさいます。ナデナデさせて差し上げましょうか?」
「……その人を食ったような態度をやめろ、不愉快だ」
「人の婚約者に手を出そうとする女好きの雑種に言われたくありませんねえ」
ロキが最初っから嫌味全開状態になっているので、相当おかんむりなのだろう、とゼロが呟く。実際ロキはなかなか感情を表に出す男ではないのと、言葉をしっかり選んでいることが多いので人を攻撃しているときはその意思が明確にあってやっていることが多いからである。
両者構える。風が吹いて、ブライアンの栗色の髪とロキの銀髪が靡いた。ブライアンは長柄斧を持つ。ロキが少し顔を顰めたのは、自分と得意武器が被っていたからだと思われる。
「……バルドルなら喜んで使われてやりたいところだが、お前とは武器被りの時点で願い下げだわ」
「ふん、所詮人間に使われる以外に能の無い種族が何を言う!」
ロキがハルバードを構え、ブライアンが踏み込んでロキの居る位置に斧を叩き込んだ。ロキは半身でそれを避けてハルバードの先端でブライアンの胴を突く。ブライアンが柄を引いてハルバードの切っ先を弾いた。
「人刃のくせにその程度の力しかないのか! 俺でも弾けるぞ」
「やれやれ、頭の足りないゴリラですこと」
ロキがハルバードを横薙ぎに振り抜く。ブライアンは斧と身体に強化魔術を使い、ロキの一撃を受け止めた。
「――!」
「はは、よく見たらお前シラー入りか! 欠陥個体! 親御さんが可哀そうだな、子供が欠陥個体だなんて!」
上手く受け止めきったことで調子づいたのだろうか。ブライアンがロキのハルバードを弾き、斧を横薙ぎに振るう。ロキの反応が遅れた。柄を引いて受け止めたが、そのまま後方に吹き飛ばされる。どしゃぁっ、と地面をへずって土煙が上がった。
「ああ……」
「そんな……」
カルやソルが蒼褪めた。審判役のネメシスが何か言いたそうにしている。カミーリャは驚いたような顔をしていて、プラムとアテナは真っ青だ。
「……これは学内決闘と言えど、決闘。ならば、殺しさえしなければ、いいよな?」
「なんだ、お得意の魔術でも撃ってくる気か、欠陥個体さんよ」
土煙が上がった中からロキがふらりと立ち上がる。ブライアンは更にロキに挑発的な言葉を向けた。
「……」
エドワードが何か言いかけて口を噤んだ。
「沈黙は肯定と見なすぞ、審判」
「……」
ネメシスはロキの言葉に沈黙を貫く。
もう、これは、ブライアンが悪い。
「俺が欠陥個体だといったな。それは正しい」
ブライアンは目を見開いた。戻ってきたロキの身体にはほとんど傷がついていない。服が破れたくらいだろうか。そして、瞳が湖のような碧に染まっていた。
「……なんだ、その目」
「ん? 何、お前が俺に本気を出させたってだけだ。気にするなよ」
ロキが笑う。薄気味悪く感じた。次の瞬間、ブライアンの身体に凄まじい重さがのしかかった。
「!?」
「ほら、どうした? 俺は欠陥個体で、俺を生んだ母上は可哀そうなんだろう? そんなに余裕があるならこれくらいの魔力圧はどうってことないんだろう? ほら、逃れてみろよ」
ロキが完全にブチギレていた。
「うぐぅ、ぎ、」
ブライアンは逃げようとした。呼吸ができない。ロキから出ている魔力量が尋常ではない。このままでは死んでしまう。ロキは追って来なかった。呼吸ができるところまで漸く逃れたブライアンが、ほう、と息を吐いた瞬間、横薙ぎに棒で打たれて身体が吹き飛んだ。
「ぐッ!」
「背中見せて逃げちゃうなんて、熊でも追いかけちゃいますよ? 退却方法も知らないんですか? それとも俺が君を殺さないからって舐めてかかってます?」
いつの間に接近してきたのだろう。転移だろうか。そんなに魔力が動いたようには思わなかった。ブライアンの頭に疑問符が浮かぶ。ロキは待ってくれなかった。
「リガルディアの人刃の欠陥個体と呼ばれている有名なヤツは3種類います」
「うぐ、」
転がったブライアンをロキが蹴り上げる。魔力を込めずに蹴っていることが優しさだろうか。
「その1、クローディ公爵家のドラゴンブレス」
げほ、と咳き込んだブライアンが何とか両腕で次のロキの蹴りを受け止めた。右手をロキが振ると、ロキの周辺に小さな炎が浮かび、色を青に変える。
「その2、同じくクローディ公爵家のイエローオパール」
炎がブライアンめがけて飛んで行く。
「うわ、わっ、あつっ!」
ドライアド混じりの人間に炎を放つとは、ロキが怒っているというのは本当なのだな、と誰かが呟いた。
「その3、フォンブラウ公爵家のドラゴンブレス」
ブライアンに燃え移ったはずの炎が消えて、ブライアンが息を吐いた。目の前にロキが近付いてくるのを、蒼褪めた顔で見ている。動けないのだろう。
「欠陥個体と呼ばれるこれら3種類の人刃は、それぞれの血統が持っている特徴を極端に尖らせた性能を持ちます。たとえば、フォンブラウ家のドラゴンブレスなら、魔力への干渉力が非常に高く、誰の魔力でも自由に操れてしまうであるとか」
ブライアンがびく、と肩を震わせる。
「あ、うわあ、やめ、やめろっ!」
「あらら、もうギブアップですか?」
ロキが小首を傾げた。ブライアンの腕を奇妙な脈が張っていて、不規則に脈動しているそれが膨らんでくるとブライアンは悲鳴を上げた。
「やめてっ、やだ、いやだあっ!」
「木のくせに斧に挑むからこうなるんですよ」
ロキはブライアンに触らない。ブライアンの腕を張っていた脈が、一ヶ所ぷしっと音を立てて破れた。
「ぎゃあああああああっ!!?」
ブライアンは夢中で脈を押さえる。そのまま蹲って動かなくなった。
「……ロキ、殺してないよな?」
カルの言葉にロキは濃桃色に戻った瞳で笑って答えた。
「勿論! あと気にしないでくださいさっきのはでっち上げです」
「あ、そうなの?」
ネメシスが息を吐いて、「勝者、ロキ・フォンブラウ。後なロキ、今お前が言ったことマジだからな」と言った。
「……マジすか?」
「え、無自覚であれやったわけじゃないよな?」
「ちょっと強めの幻覚を見せたつもりだったんですが」
「それが事実だとしたらお前集団幻覚起こしてるぞ」
「え」
ロキを怖がる視線がいくつもロキに刺さる。数名の令嬢が倒れたようだ。カミーリャも蒼褪めていて、タウアが心配そうにカミーリャを支えていた。
「アレス、どう?」
「……ん、」
プラムが確認させたブライアンの腕の切れた脈だが、実際に目に見えているし、血ではないが何か液体が漏れていた。ついでに近付いたらなんだか少し甘い匂いがする。
「ロキ、切れた脈まだ見えるんだけど」
「……おいおい、幻覚魔術は現実には干渉しないはずだろ」
プラムの報告にオートとロキが寄っていく。オートも甘い匂いを嗅ぎ取ったらしく、なんじゃこれ、と言いながらブライアンを眺めた。
「ロキ、これ何?」
「……ドライアドの樹液かもしれん。傷の手当はしておく。切開するわけにはいかないしな」
ネメシスが駆け寄ってきてすぐにブライアンの傷を塞ぐ。ロキはその間に魔力の調整をしてやって正常に戻したようだ。できると自覚すれば慣れるのは早いらしい。
決闘というにはあまりにも血腥い内容となってしまったが、人刃とやり合ってこれで済んだなら大分マシな方だとネメシスとギーラが口を揃えて言う。教師たちは、事前にロキが人刃であることを伝えられていたらしい。プラムの叔父である公爵だけが、何か考え込んでいた。
しばらく他の生徒を眺めていたエドワードがふと、思い出したようにソルに問いかける。
「ソル嬢はどんなタイプが好みなのか聞いても?」
「そうねえ……一言で言うなら、頑張るバカかしら」
「……頑張るバカ?」
ロキのことを現していると察したのはリガルディア組にとどまらないだろう。ようやく立ち直ったのかカミーリャが普通に歩いて近付いてきていた。
「そ。目的のために頑張るんだけど、うまくいかなくて、それでも次の目標を設定して、ゴールを目指して、諦めきれない大馬鹿よ」
「……そんな英雄みたいなタイプ……?」
「そうね。英雄ね、こんなのは」
ソルが笑う。横にやってきたロキは肩をすくめた。
「それが叶っていたらとっくにそいつは英雄になってるだろ」
「そうね、叶ってないのは残念だけれど、だからこうして思いを巡らせることもできるんじゃないかしら」
ほら、誰の話してるか知らんがそろそろ戻るぞー、とネメシスが声をかける。ロキたちはそれぞれのクラスへと戻っていった。
ブライアンは煽るだけ煽って虎の尾をわざと踏みに行った、と暫く笑い者になったとか。




