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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
274/376

11-6

2025/04/26 編集しました。

人生とはだれかを中心とした物語だ。

ならば世界とは、誰も中心になどならない、俯瞰的に淡々と語られる物語なのだろう。



「ロキ、ロキ・フォンブラウ!」

「――」


ロキを呼ぶモードレッドの声に、皆がそちらを振り向いた。当事者であるはずのロキはなぜか本に視線を落としたままだが。


「おい、ロキ」

「何の用だい、モードレッド?」


す、とロキは視線を上げてモードレッドを見る。モードレッドは手に小さなガラス玉を持っていた。


「これ、やる」

「……これは、宝玉か。なんでまた俺に?」

「今朝クッソみてーに夢見が悪かったんでな! 八つ当たりしてたら出てきた!」


八つ当たりに宝玉を生成するレベルのモンスターとやり合うのかとロキが苦笑を浮かべた。

宝玉を生成するのは所謂Bランク以上ものであるため、なかなか強力な個体に八つ当たりをしてきたようだ。

モードレッドの夢見が悪かったのは今日だけではないからとガウェインが言うが、十中八九ループのせいだとロキには簡単に理解が及んだ。


しかし、ロキの夢では途中で途切れているのである。自分の頭がいかれていたのは覚えているが。こうなるからロルディアのもとへは行きたくないのだ。


「あまり夢見のいい話でなかったのは事実ですし、私も少々熱くなりましたので、モードレッドをとやかくは言えないのです」


ガウェインがそう言いつつ武器の手入れを始める。ロキたちが来て、担任がネメシスになってからはかなり脳筋なクラスになっているらしいことを伝え聞いていた。


「ロキ、見て見て!」

「今度は何を作ったんだ」

「えへへ」


ロキの周りには意外と会話が絶えないもので、リガルディアに戻ってもこうならいいのになとはゼロの言である。リガルディアでは確かに階級を意識することが多いため話しかけづらい男ではあるが、だからと言っておしゃべり好きな彼と話さないのはそれはそれでもったいないじゃないかと。


オートが持ってきたのはどうやら何かの歯車機構らしく、一か所回すとすべてがつながって回るようになっていた。


「何を作る気なんだ」

「えっとね、これは時計だよ! 結晶時計だけだとわかりづらいからね!」


オートはロキに笑顔を向ける。オートは戦闘には向かない。ロキによく話をしに行くメンツというのは案外戦闘向きではない者が多いことに、ミームなら気が付けただろうか。

ロキは、自分もそろそろリンクストーンの改良を始めなければなあと呟いた。せっかく石なのだから、宝飾品の代わりにしてもいいだろうと考えている。


「ロキってモノ作りも好きなのか?」

「ああ、まあな」

「ならばちょうどよい人がいるかもしれません」

「ほう」


モードレッドの言葉にベディヴィエールが重ねる。ロキがそちらに視線を向けた。本はとうとう栞を挟んで閉じた。


「冒険者ギルドの隅っこでアミュレットを作っている方がいらっしゃるのですよ。まれに貴方がたが話すような言葉も出ているし、転移者なのでしょう」

「神様転生か何かかな?」

「そのカミサマテンセイが何かはわかりませんが、3年ほど前にこちらにいらしたようですよ。彼女のアミュレットは非常に質が良い」


どうやらランスロットも利用したことがあるらしい。どんなものなのかと問えばこれですとあっさり手渡された。

セネルティエでもよく見かけるウルフ系の魔物の牙を使ったアミュレットで、ロキはじっとそれに刻まれた術式を読み解く。


「……完全に独学だな。セネルティエのものでもリガルディアのものでもない。まして列強とも違う」

「やはりですか」

「ロキー、どういうこと?」


みせてみせてとオートが手を伸ばす。壊すなよと念を押して手渡せばオートもぶつぶつと呟き始めた。


「おそらくこのアミュレットの作者は魔法も魔術も使えない。詠唱も知らなければ魔法陣も知らない、完全に素人だね」

「それでドラゴンの一撃防ぐとかどんな神の御業ですかそれ!?」

「転移者か転生者で間違いない。ゲームには術式とかない場合も多いからね」


十中八九コマンドとしてアミュレットに術式を付与(エンチャント)しているだけだとロキが告げればなるほどとランスロットから返ってきた。


付与(エンチャント)ですか。確かに、それならば多少は意志の力でのごり押しが利きますね」

「そしておそらくだけれど、その人物はその力をちゃんとは理解していないだろう。このアミュレットの耐久性は。術式によるものではなさそうだけれど」

「ああ、『素材に左右されるので過信はしないでください』とのことでしたよ」

「ふむ」


オートが解析終わったと言ってアミュレットを返しに来る。


「何か分かったか」

「うーんとね、ほんと、一辺倒な感じがするよ。ロキみたいに相手に合わせて術式変えてるわけじゃないってゆーか」

「ふむ。やはりコピペタイプだろうね。しかし素材に左右されない術というのも面白いな。飽きずにアミュレットを作り続けているなら、引き抜けるやもしれんなぁ」

「引き抜くって、リガルディアに連れて行く気ですか」

「無論」


ロキが悪い顔してるとオートが呟いた。ああこれが悪い顔かとランスロットたちは理解する。


「できれば会って話をしたうえでリガルディアに連れていきたいな。その人物には会えるかな?」

「大体安息日にはギルドにいますね。魔物に安息日はないですから」


ランスロットたちとロキが話しているところに、プラムが何話してるのとロキの傍にやってきた。週末にでもギルドに行ってくると告げれば、私もついていきたいと言い始める。ギルドにお姫様が行くとなるととランスロットたちが顔を見合わせたところで、大丈夫よとプラムは笑った。


「私の護衛たちも来るから。普段私の傍にいないからわかりづらいでしょうけど、ちゃんといるのよ?」

「ああ、アレスとアテナでしょう?」

「え、気付かれてる」


プラムが驚いた顔をしたが、ロキからすればアレスの方はつつき回したくなり、アテナの方は少し力量不足に思える。アレスについてはもっと言うべきこともある。少しロキは考えたが、言っておくことにした。


「プラム、アレスには言っておいてほしい。“あまりうじうじしているとロキが宣戦布告に行くぞ”とね」


さて、次の予定は決まった、とロキは呟いて伸びをする。まだほんの暫く程度ではあるが、セネルティエ王国で過ごしてみて、カミーリャたちを連れて行ってみたいところもできたが、それより先にトリスタンに会わねばならないとロキは思っていた。トリスタンは、現在連絡が取れていない教皇の息子である。教皇は父アーノルドと旧知の仲らしく、心配していたのを覚えている。あまりロキを教会に行かせたくはないが、最悪の場合は教会にアーノルドの代理として顔を出してもらうことがあるかもしれない、と手紙で伝えられたところで、もしかすると連絡が取れていないのは思ったよりも重大な理由があったりするかもしれないとロキは考えた。だからこそ、教皇本人は無理でも息子の方になら、と思っていたのだが。


「ところで円卓の」

「ひとまとめに呼ばれた」

「なんでしょう」

「トリスタン殿と連絡ついてたりしない?」

「……」


モードレッド、ガウェイン、ランスロット、ベディヴィエールが黙ってしまう。さっきまでキャッキャ言っていたはずのギャラハッドも空気を読んで大人しくなっている。


「……何故こうなる……」

「私たちも何度も会おうと思って伺いを立てているのですが……」

「何故か門前払いです」

「手紙もおそらく握り潰されているのでしょうね」

「教皇猊下がこんなことをするとは思えないけどな……」


手紙がめっきり通じなくなったのはこのせいかもしれないなとロキは思う。それとも、勲の妹が伝えてくれた事象に何か関係あるのか――。


「ギルドに行った後、教皇猊下のもとへ殴り込むか」

「怖い事話してるなオイ」


いつの間にかネメシスが教壇に立っていた。ネメシスなら理解はできるだろう、この話の顛末を。


「まあ、止めやしねえが、列強の誰かに言っとけよ。ほんとならトリスタンはもう初頭部にいないといけないのにまだ来てないからこっちも大わらわだ」

「長引いていますね。後で話を聞いても?」

「じゃあ我らの長に助力を仰ぐってことで良いのか?」

「構いません。バルティカは比較的話の通じる列強ですしね」


セネルティエ、ほとんど列強についての伝承が失われている国だと思っていたがとゼロがぼやく。

列強を引っ張り出すほどやばいのかとモードレッドが呟くものの、モードレッドなら恐れずに突っ込んでいきそうだがとロキが思ってしまったのは致し方なし。


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