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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
271/378

11-3

2025/04/25 編集しました。

「あー、式とかあるのか、怠いぞぅ」

「ロキ君って意外と脱力してますね」

「気を張り続ける性分じゃないですからね」


朝、目を覚ましたロキとカミーリャは簡単に洗顔を済ませて着替えを始める。結晶時計をカミーリャが持っていたため頼っているが、現在おおよそ午前7時頃にあたる。もう少ししたらゼロとタウアが朝食を持ってくるだろう。朝食は平民生徒たちが食堂をメインで利用するため貴族生徒たちは寮室で摂るのが基本になっているとプラムが言っていた。正確には、平民なんぞと一緒に食えるかと貴族が威嚇するから貴族らしいなりをしている(と分かる雰囲気を纏う)ロキやカミーリャは怖がられるだろうというプラムの配慮であることが何となく察せられていた。


互いの簡単なチェックを済ませたタイミングでゼロとタウアがドアをノックした。2人を部屋に入れるとてきぱきと朝食の準備をして、ロキとカミーリャが食事を摂っている間にゼロが他にすることがないかのチェックを始める。本来は朝食の後に着替えるのだが、制服である以上ロキもカミーリャも自分で着ることができた。


そういえばロキは、どれか3つ選んで列強から贈られたアクセサリを身に着けることを義務付けられた。セネルティエ王国側も正直個人で列強とパイプを持っているような奴を留学生にされて大変な思いをしているだろう。ロキはセネルティエ王国側からの要求はよほどロキの自由を侵害しない限りは聞くつもりでいる。


「ロキ、忘れ物はないよな?」

「タウアが完全にゼロの上位互換で笑える」

「……」


少しゼロがふくれっ面になった。そんなことは分かっていると言わんばかりに恨めしいという表情をしている。


ゼロは基本的に護衛役である。使用人としてのスキルが決して低いわけではないのだが、いやむしろイミットとしては非常に高いレベルにあるのだが、仕上がりの質的にはタウアに劣った。故にロキはタウアに優先的にやらせた方がいい、と判断した。逆にカミーリャ曰く、タウアをあまり矢面に立たせたくなく、戦闘を受け持ってもらえるならばそちらの方がいいとのことであったので、その条件でカミーリャとロキは一緒に行動することを選択した。


食事を終えたロキとカミーリャが腹休めの時間をおいて、身だしなみを整え始めると従者2人が生き生きと動き始める。最後にブレザーのジャケットを羽織ると、ゼロとタウアもジャケットを羽織ってついてきた。



始業式の段階で留学生全員の紹介が行われた。リガルディア王国の留学生一団、ガントルヴァ帝国の留学生、シルヴィニア王国の留学生、といった風に紹介が終わると、誰が何組に振り分けられたかの発表も一緒に行われた。


セネルティエ王国学校中等部第3学年は4クラスあるが、人数が一定でなく、一番人数が多いのが1組の53人、2組は31人、3組は35人、4組は28人となっている。理由は、親がどのクラスに入れたいというのをある程度操作できてしまうためだ。生徒もクラスを移動できる方法があるらしく、人を入れ替えるのではなく人気のある先生がはっきりわかってしまうところがなんとも言えないところである。


よって、人数がある程度平均になるように学校側で留学生の振り分けを行ったのだろう。2組にカル、ソル、セト、3組にパルディ、4組にロキ、オート、ナタリア、ゼロ、カミーリャ、タウアのクラス分けとなった。


ロキとゼロ、カミーリャとタウアを引き離せないとみて、カル中心とロキ中心にリガルディア留学生を分けたのだろうというのが分かる。カルとロキが少し驚いたのは、プラムの所属が4組だったことである。一番人数が少ないクラスに居るのが、なんだか不正していない証のような気がしなくもない。


そして現在、教室。


「ロキ・フォンブラウだ。これから1年間世話になる」

「オート・フュンフです! よろしくお願いします!」

「ナタリア・ケイオス。よろしくお願いします」

「ゼロ・クラッフォン、よろしく」


「キョウシロウ・カミーリャと申します。俺のことはカミーリャと。よろしくお願いします」

「ユウイチ。呼称はタウア。よろしくお願いします」


4組、学級委員は気怠げな緋色の髪の少年で、先生はというと、男のエルフが担任、副担任は優し気な初老の男性教師だった。副担任は中肉中背で、髪はアッシュブロンド。瞳がシャンパンゴールドに煌いていて、ロキはどことなくジークフリートを思い出した。


「えー、と。学級委員のアレスです。留学生の皆さん、1年間よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


アレスと名乗った学級委員だが、かなり顔が怖い。オートがすっとロキの後ろに隠れた。ロキはアレスと視線が合わないことに気付く。ああもしかして目を細めているのかと何となく悟った。アレス、ということは十中八九武神アレスの加護持ちだろう。


「4組副担任のギーラ・スクリプトゥムだ。よろしくね」

「よろしくお願いいたします」


ギーラは笑って、それじゃあクラスの皆の自己紹介を聞いてもらおうかな、と言う。名前と趣味だけでいいよとクラスに言えば、とりあえずプラムから自己紹介を始めた。


この自己紹介で知ったのだが、このクラスにはロキの祖父と同じく、円卓の騎士の加護持ちがいた。やたらと目につく赤子を抱えた藍色の髪の少年、ランスロット。金髪にオレンジのグラデーションの掛かった天然パーマがきつめのガウェイン。金髪でシトリンの瞳のモードレッド。若竹色にオレンジのメッシュが入った髪のベディヴィエール。プラム曰く先王の世代にアグラヴェインもいるそうで、加護持ちにも地域性があるんだろうなと、この国にトリスタンの加護持ちがいることを知るロキは思うのだった。


「じゃあそろそろ席を決めようか」


ギーラの言葉に、前の方に空きが目立つ教室をロキは眺める。正直何処でもいい。好きな席に座っていいよ、と言われたロキは真っ直ぐモードレッドの横の席に向かった。


続いてオートも席に座ったようだ。とはいえ、オートは近眼気味なので一番前から2列目までが良い所だろう。席に着いたロキが見ると、オートは2列目に座っていた。ロキの傍にはゼロが座り、ナタリア、カミーリャ、タウアもそれぞれ席に着く。


「はい、じゃあ連絡事項を伝えるよ」


全員席に着いたのを確認したギーラがそう言って、校内の施設利用における注意の連絡をして、『校内決闘』についての注意事項が書かれたプリントを掲示コーナーに張り付けた。


「とうとう皆も『校内決闘』の対象年齢だ。疑似的な決闘のためのルールだから、命を失うことは無いけれど、下手なもん賭けちゃダメだよ。トトカルチョも禁止。守らなかったら先生悪い子を食べちゃうからね」


留学生の皆にも分かるように説明しておくね、と言ってギーラは簡単な説明をしてくれる。

まず、『校内決闘』は学校内の施設で行うことが義務付けられている。そして、決闘を申し込む方法は白い手袋を相手の足元に投げつけることであり、拾い上げると受諾することになるので注意が必要。


特に人刃とは決闘の作法が違うからね、とギーラはロキを見た。


人刃の決闘の作法としては、日本人と言えばわかりやすいだろうか。果たし状を送る、または武器を持って挑みかかる。後者の場合は明確に相手に挑む意思表明を行う事でも成立する。人刃が武器を手放すことはまずないためこのような形に落ち着いているようだ。


連絡が終われば解散となった。ほんの少しの間の自由時間に飲み物を売店に買いに走っていく生徒がなかなか多い。

ロキは横の席にいるモードレッドの挨拶を改めて受けていた。


「改めて、モードレッド・ディライドレアだ」

「ロキ・フォンブラウだ」


2人はしばらく睨み合っていたが、どちらからともなくニヤ、と笑って握手を交わした。


「あれだけで友情を築くから男子って不思議よね」

「僕にだってわからないよ?」


ナタリアとオートの素直な言葉にカミーリャは自分だって経験が無いと言いたくなってしまった。というか、貴族の子弟ならばそうなのではないのだろうか。前世があるとはいえ、ロキは奔放な気がする。


モードレッドはロキの髪を見て、こんなに綺麗な銀髪は初めて見る、と高評価を下した。そりゃ、従者が丁寧に磨いてくれますからとロキが笑顔で答え、日光を受けてプリズム効果を発する銀髪にモードレットが触れることを許した。


クラスメイトと仲良くなろうとする姿勢は高評価。しかし媚びるな諂うな。ロキは円卓のメンツを足掛かりに話しかけに行くことにしたらしい。次に声をかけてきた藍色の髪に春空色の瞳の少年は、縹色の髪の赤子を背負っている――ランスロットだ。


「ランスロット・アラゴと申します。このような姿で申し訳ない」

「その子は?」

「息子のギャラハッドです」

「息子なの」


驚愕に目を見開いたカミーリャたちは決して悪くない。


「あはは……結婚はしていません。諸事情で生まれた魔物との相の子でして」

「その割にはかわいがってる」

「かわいいですから」


魔物を嫌う人間は多いのだが、魔物との相の子なら魔力を混ぜて出来上がった個体であろう。

ランスロットにギャラハッドが生まれたのは学校の演習中だったそうで、学校側もランスロットが面倒をみれるならと許可したのだという。

タウアが眉根を寄せた。


「つつけばいろいろ出てきそうな人だなあ……」

「ナタリア、実情は」

「弄って楽しい背中任せて頼もしい良い人」

「弄れるかァ!」


その突っ込みは正しいよ、オート君。

すっかり突っ込みを放棄しているロキを横目に、カミーリャはランスロットを見た。柔和そうな青年だ。ギャラハッドは起きているがやはり魔物ということもあってか人間の言葉をしっかりと理解はしているらしく、泣きはしない、むしろはっきりと目が合っても見つめ返してくるという状態だった。


「ベディヴィエール・サリシャと申します」

「それ義手ですか」

「あ、はい。見抜かれたの初めてですよ」


若竹色にオレンジメッシュの髪とエメラルドグリーンの瞳の少年が声をかけてくる。本来避けるであろう話題にロキは遠慮なしにずかずかと入り込んでいった。えげつない、と聞いていた周りは思っただろう。よくもまあここまではっきりとプライべートに踏み込めたものだ。ロキにとってはなんてことないことだったのかもしれないが。

最後に金髪オレンジグラデーションの髪とオレンジ色の瞳の少年が進み出て礼を取った。


「ガウェイン・イルソーレと申します」

「出た太陽ゴリラ」

「それプラム殿下にも言われたんですが!」


遊戯(ゲーム)のネタは往々にしてよく使われるものだ、とロキが返す。彼らの前世にはそんなゲームがあったということなのだろうなとカミーリャは理解した。

いや、このガウェイン・イルソーレは実際太陽ゴリラと呼ばれるその性能をのちにカミーリャたちも目にすることになるが、今は置いておく。


円卓の騎士は二桁いるものの、この世代は6人、らしい。アーサーはリガルディアにいるからおいておく。どうやらガウェインに妹がいるらしかった。


結晶時計が至る所に置いてあるようで、生徒たちが慌てて戻ってくる。その手には果実水のボトルが握られていて、売店見に行こうかな、とロキが思ったのは致し方ないと思われる。


生徒たちが戻ってきた事を確認した担任、男のエルフが漸く動いた。今まで司会進行をギーラに任せていたのだが、副担任ではできないこともあるのだろう、プリントを準備していた。


「では、早速。私がお前たちの担任のネメシス・サルバトーレ。こんななりだがハーフエルフだ。お前たちは全員一律生徒として扱う。専門は精霊魔法、属性は風と土と水だ! 質問があるなら挙手!」


毛先が青緑がかったブロンドの男は、耳の形はエルフのものと相違なかったためハーフだとは気付きにくかったのだが、人刃の目は騙せないらしい。逆にハーフエルフだったのかとカミーリャは思った。人間である彼にそこを見分ける術はない。ネメシスの名を頂くこの教員はどうやら、エルフにしてはガサツな方のようで。


「はい、留学生の方々に対してはどうすればいいですか! さすがに失礼だったりもあると思うのですが!」

「留学生の方が慣れろ! わかってて留学してきたんだろうからな!」


「はい、留学生の方々と模擬戦がしたいです!」

「気が早い! まだ施設開放されとらんわ落ち着け!」


「オート君撫でたい!」

「本人に聞け!」


このクラスって何の心配がいったんですか、とプラムに問いかければ、いや、今年は円卓のテンションがやたら高いわ、と返ってきた。


「エルフにしちゃテンションお高いですねえ」

「そうか?」

「どちらかといえば、バルティカに似ているような。テンションが上がってくるとそんな話し方しますし、彼」

「我らの長に似てるのかー。まああの人に育てられたからなあ」


ロキの言葉にさらりとネメシスは答えながら教卓からプリントを取り出して配り始める。


「もう皆飽きたかもだけど一応、新学期の心得、ね。あと留学生諸君、得意属性と武器は」

「リガルディア、ロキ・フォンブラウ。メインはハルバード、バルディッシュ、刀、サブでレイピア、スピア、属性は火、氷、闇、変化、それ以外は詳細を知りません」

「おし、次」


「リガルディア、オート・フュンフです。杖と、銃? です。風属性です」

「へー、銃使うのか。リガルディアの国宝か? 次!」


「リガルディア、ナタリア・ケイオス。メインは暗器、属性は闇」

「ふむ。次」


「リガルディア、ゼロ・クラッフォン。メインは刀、属性は零」

「お前さんも祖か。次」


「ガントルヴァ帝国、キョウシロウ・フォン・カミーリャです。メインは一応両手剣、あとランスも使えます。属性は……たぶん火です」

「わかんねえの?」

「すみません、魔力測ったことなくて」

「そうかい。次」


「ガントルヴァ帝国、ユウイチ。呼称はタウア。メインは拳、属性は闇」

「タウアって……ははーん、そこかけられてんのね。にしても闇多いな!?」


これでおっけー、とネメシスは笑ってプリントをしまう。お前獣人の方が性に合ってるよとロキなら突っ込むであろう笑顔をクラスに向けて言い放った。


「これから1年間よろしくな、生徒諸君!」


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