表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
270/377

11-2

2025/04/25 編集しました。

「ここが教室棟、我々3年の教室は3階です。このまま右手に行くとサロン棟、左手に行くと従者の方々の控室棟になります」


プラムが大まかに説明をしてくれる。同じ説明を金色蝶たちは高等部の生徒会長から受けている頃だろうとプラムは言った。


教室棟は宮殿かと思うほど窓が大きく、けれどこれは光の入りがいいなあとそんなことをロキは考える。


「ロキ様達には不思議な校舎なのかもしれませんね」

「そうですね。ここは特に北だからこそといえるのかもしれませんが――窓が大きい」

「リガルディアはここまでないですもんね」


ガラス細工の街、故に透明度の高いガラスをふんだんに使った窓が出来上がるわけだが、窓の縁を真鍮で縁取ってある。ここまで手の込んだものにした理由がわからねえなあとロキが呟けば、元は宮殿だったのだとプラムが答えた。


「なるほど。では改装して学校にしたと」

「ええ。昔は王族も多かったですが、今はそこまで多くもないですしね」


1000人もの生徒を収容できるのだから相当ですよねー、とプラムは言いながら案内を終えて、学生食堂へと向かう。


「増改築は当たり前なんですよね。こっち来て初めて知りました」

「美しさより防御力、なところはあるからなあ……」


プラムと喋りながら入った学生食堂には、結構な人数が既に居り、カウンターに生徒が並んでいた。授業自体が始まる前ではあるが、もうほぼ生徒は揃っているということなのだろう。


「あのカウンターは」

「食券販売用のカウンターです。殺到するから」

「邪魔だもんな」

「ホントそれです。もとは売店だったんですけど、表にも口あるからいいじゃんって思いまして」


このあたりに手を加えたのはプラム自身であるらしい。学食のテーブルは四角く、なるほどこれは平民用のテーブルかとロキは理解した。光のあたりの柔らかい、景色の良く見える窓付近のテーブルは特別席かのように丸いテーブルが置かれていた。


「あ、気付かれました……?」

「ええ。露骨ですね」

「ははは……面目ない……」


円卓はそういうものに使うものではないとプラムが唸った。

どうせ自分たちの力を誇示するために数代前辺りがやり始めた風習なのだろうとロキが問えばまったくもってその通りでございますと返ってきて、プラムはこれの解消のために走り回っているらしい。こんな時期に申し訳ないなあと苦笑を浮かべたのはナタリアである。


「さ、並びましょう」

「王族でも問答無用なんですね」

「学校での扱いは平等に、です。贔屓はしません」


パルディの言葉にプラムはにこりと笑って答え、さっさと並ぶ。カル、ナタリア、ソルを先に並ばせたロキが並ぶと横にカミーリャが続く。


「あまり立場は気になさらないのですね?」

「並ぶということはそういうことですよ。俺の場合は前世の影響もありますが、押し通るのはあまり好きではありません。何なら王族の前にゼロを並ばせたっていい」

「それは俺が困る」

「物の例えだよ。大体お前はイミットなのだから権力に簡単に媚びるような真似はよせよ」


カミーリャはゼロの方を見た。ゼロはタウアの後ろに並んでいる。背後を取られるのが嫌だからあまり後ろに立たれるのは嫌だと言っているはずのタウアが大人しく並んでいるあたり、ゼロにも何かあるのだろうか。


「……争奪戦にはならないのでしょうか」

「ちゃんと準備されていると信じて並ぶのみだ」

「……信用?」

「王族の通う学園の食堂の料理人への信頼、だな。そんなことを言っていたら俺たちは俺たちが作ったものか、ロキたちが自分たちで作ったもの以外食べさせられなくなる」

「……確かに」


従者には従者の会話があるらしい。しかし会話の内容は結果的に、「無理な注文をする生徒がいないこともないだろうから、様々な食材があるはずで、故に普通に作れるものを注文すれば特段食事に困るシステムではない」という結論に行きついていた。


カウンターでメニューを眺めて食券を選ぶ。代金を払ったところでロキがプラムに問うた。


「そういえばこれ、席はどうするんです?」

「実は2階が生徒会用でして。生徒会は平民と貴族が同数入るようにしています。改革の結果貴族ども皆平民と同じテーブルで食えと言って入れ替え中ですね」

「なるほど」


ロキがセトをちらりと見れば、セトとカルとオートが食券をロキに預けてテーブルの方へ行ってしまった。カミーリャたちにはその理由がわからなかったが、彼らがそれぞれバラバラに席に着いたのを見て、席取りのためだと理解する。


「席取りですか」

「これだけの人数だしな。王族がいれば近付いても、学友といれば割り込む無礼な令嬢らもいるまい?」

「オートは女の子っぽいしね」


ああなるほど、それであの3人なのかとカミーリャが理解する。まあ、肉食系の女子ならそれでも飛びつきに行くのだろうけれども。一番近付かれそうなカミーリャはすげなく断りそうだと思ったロキだった。


「本当はロキが行った方が早いんだけれどね!」

「結構効くしな」

「ロキ様の顔使うのもいいけど単純にこんな人数席探して立ってたら邪魔でしょ」

「オートの分は私が持つわよ」


ロキの顔立ちの話をしていたのだと気付いたカミーリャだが、オートたちの物言いには少し引っ掛かりを覚える。カミーリャは確かにロキと目を合わせて喋っているのは辛いが、特段ロキの顔を怖いと思ったことは無かった。ロキの視線というか、その目に底知れぬ何かを感じるだけだ。


そして気が付く。人刃だ、と。


「……ロキ君」

「何でしょう、カミーリャ殿?」

「……彼ら、もしかしてロキ君を怖がっているんですか?」


カミーリャの問いにロキが少し目を丸くして、ゆる、と頷いた。


「よくわかりましたね。ああいう会話は何の話してるのか通じないことの方が多いんですけど」

「え、と。その、俺は君の顔を怖いとは思いませんでしたから」


ロキが少し嬉しそうに笑った。


「ありがとう、カミーリャ殿」


カミーリャは思う。言い方は悪いが、ロキの顔は整ってはいるのだが、いかんせん近づきがたい雰囲気を纏っているのも事実なのだ。将来的には鋭い目つきになるのだと何となくわかるくらいの切れ長気味の瞳は、けれど今はまだ幼さを残した大きめの目で、怖さを感じることは無い。ましてカミーリャより背が低いのだ。つまり、ロキを怖がっているのは人刃族。オートはロキよりも小さいが、その言葉を受けて普通に言葉を返したりしていたのはセト、ナタリアで、彼、彼女においては人刃族という特徴を上げた方が早いだろう。


何より、ロキ本人がそれを肯定するような返事をした。人刃は他の人刃を恐れるのか? そんな疑問がカミーリャの中に浮かんできたのは仕方がないかもしれない。


「ロキ様、若干顔怖いもんね」

「端的すぎる。というか傷つくぞ流石に」

「その顔で無表情なんだもの。まして真っ白で本当にお人形みたい」

「誰が陶器人形だ」


誰もそこまで言ってないと思います。


ほら、ナタリア嬢はやっぱりそんなことを言ってる、とカミーリャは思いながら料理人に食券を渡した。



和食は流石になかったなとゼロが少し項垂れていて、ロキが小突いていた。カミーリャのマナーのレベルの高さにリガルディア組が感嘆の声を上げるのに対して、カミーリャはロキがほとんど音を立てずに食事をしていることの方に驚いていた。微かにでも音は立つものなのに、なんでそんなに音が立たないのだと。


タウアは無難にそつなくこなしていくスタイルであるとカミーリャは記憶しているが、手足にちょっとした事情を抱えているために銀製の食器が怖いと漏らしていた。カルの「なぜ銀なんだろうなあ木製でいいのに」とはとても王族から出たとは思えないセリフである。毒をものともしないからこその台詞ともいえるだろう。


ちなみに一番食事マナーが下手だったのはセトで、心苦しいと呻いていた。どうやって音立てずに肉切っとるんだとロキに問いかけて、お前ナイフはいいけどスプーン下手すぎ、と言われていた。


いざ全員が食べ終わって片付けよう、となった時、プラムをはじめとしてロキたちがぱぱっといくつかの食器を重ね始めたのでカミーリャは驚いた。本来ならばそんなことはしないのだが。


「軍と同じですか」

「?」


タウアも一緒に食器を重ね始める。軍で3年は扱かれてきたというから、と考えたところでカミーリャも理解できた。つまり持って行きやすくするために同じ形の食器をまとめているのだろう。ちなみにメインディッシュの皿は重ねないらしい。肉類を食べている者が多かったから、洗い易くするなら重ねないのは普通だろう。


重ねたそれを持って返却用カウンターへロキがさっさと行ってしまう。ゼロ、タウア、ソルとナタリアとセトもそれに続くものだからなんだか動かねばならないような気がして全員が飲み終わったコップをある程度重ねてカウンターへ持って行った。


「見事に流されてるのが1人」

「高位の者が動くと周りは焦りますものね」

「オート君が動けないのは何となくわかりますけれどね」


オートはただでさえ椅子に座っていて足が地面に着いていない。まあつまりそういうことなのだ。椅子からは飛び降りるしかない。


戻ってきたロキたちにああそうだ、とプラムが今まですっかり忘れていたと話し始めた事実に、おおふ、と小さく呟いたのはソルだったと言っておく。


「すみません、この学校よく考えたら皆さんのこと敬称省くかもしれません」

「へ」

「先生の中に公爵がいるんですよ。しかも王家直系の。つまり叔父なんですが」

「その方が校風を強化してしまった、と」

「はい。御爺様に似た方なんですが、平等とはこういうことだ、と言って、どうせ俺は王以外に敬称なぞいらんのだから全員呼び捨てだ、生徒も呼び捨てだ、学校の中では生徒は生徒、教員は教員じゃ、と」

「熱血公爵の予感」


よく考えたらその言い方だと多分先王の息子だよな、それ、とカミーリャは思う。そりゃ似る。


「なので、なかなか慣れないとは思うけれど、これから私のことはプラムと呼んでくださいな」

「リガルディア一同、敬称不要だ。仲良くなれたような気がするので好ましい」

「同感です。では、家名で申し訳ないですが、カミーリャ、と」

「僕のことは、お好きにお呼びください」


それぞれ言い合って、では、と。


「なんか一気に仲良くなった気分ね」

「その割にはソルは顔色が悪いが?」

「ねえロキ、私この乙女ゲーム知ってるんだけど」

「この時代すら乙女ゲーム化してるのか」


波乱の予感で幕が上がった中等部3年である。


ちなみに、この学校の経費を削減するために給仕係をいっぺんに撤廃したという。だから自分たちで持っていくしかないよとプラムは笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ