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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
262/377

10-16

2025/04/19 編集しました。

こんなに転生者っていたんだね、とはオートの言である。そもそもリガルディア国内に転生者がやたら多い話は街の噂にもよく聞いていたものだが、他国にもいるとちょっと親近感が湧くもの。またロキはあまり気にしていないようだったけれども、カルとナタリアのプラムに対する警戒っぷりが割と狂気じみているとはソルの言である。


カルは以前からプラムとは知り合っていたためか幾分か態度が柔らかかったものの、ナタリアに至っては殺気を隠すのが精いっぱいといったところだった。プラムはナタリアを見た瞬間に影や衛兵を下がらせるようアスターに伝えており、そのことを知ったロキがわざわざプラムとアスターに礼を言うために残る。


「こちらに気を遣ってくださり、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ、気付くのが遅くなって申し訳ございませんでした。……ナタリア様、以前お会いした時はあんな方じゃなかったんですけれど」


プラムの呟きはある種ロキにナタリアをどうにかしてくれというもので、ロキはこくりと頷いてそれを受ける。


「あれはある種の狂気です。ループに疲れて狂ったのは、何も聖職者ばかりではないのでしょうね。学園にいる間も、俺が死なないかかなり見張ってらっしゃいましたし」

「ロキ様ってそんなに死亡フラグが乱立してるんですか?」

「ナタリア嬢にはどうしようもない者も含めて5つほどございますよ。流石に乳幼児の頃のことまでカウントはしてないと思いますけれど」


プラムが何かに気付いたように身体を硬直させる。


「……まさか、教会が関係してるんじゃ――」

「……人の所為にするのは簡単ですが、被害者だから尊くなるものではありません。ロキなんて名前なら、余計にそうでしょう。俺の身内がどれだけ貴女や教会の方を責めるような言葉を吐いたとしても、俺は、言わないように努めるつもりです」


ロキの言葉に、プラムはぐっと押し黙る。被害者が何も言わないことは、泣き寝入り以外にも強い効果をもたらすことがある。他人が良く動くのだ、ああまるでヒロインを守るヒーローのように。そうか、あれは心理戦だったんだと今ならプラムにも分かる。王女としての教育を受けた途端これだ、女のロキにとってヒロインとしてのプラムがいかに毒婦だったかがよく理解できた。


「それに、これから頑張らないといけないことが貴女には沢山あるのですから。今回のホストは貴女です。誇り高きリガルディアの貴族として、俺も貴女たちに危害の及ばぬよう全員の手綱を握っておきましょう」

「……よろしくお願いします」

「はい」


最後ににこやかな笑顔を浮かべたロキと、引き攣った笑みを浮かべるプラム。プラムは知っている、人の手綱を握るのがどれほど難しいことなのか、今はよく理解している。プラムの親衛隊を名乗るヤベー奴らとそれをどうにかうまく動かそうとして四苦八苦している軍神の加護持ちの兄妹を間近で見ているからだ。ロキもまたヤベー奴の1人なのだと理解して、よくこれが敵に回らなかったなとループしてきたであろう過去のプラムのいた世界を思い返した。


本当はそれさえ、本人の記憶にないだけだったり、何らかの形でロキがそんな危なっかしいことをする未来を選択しなかっただけなのだが、そのことは、発狂した者たちのみぞ知る。



プラムは他にも留学生を数名迎えねばならないということで、一旦ロキたちを放置することとなった。その間にデスカルの使いだという風精霊が顔を出したので一度ロキたちは黒箱教の教会に顔を出すことにする。


黒箱教の教会は黒い石を使った建築物、というよりも、巨大な岩を地面に埋め込んで、岩から削り出して作られている。黒い箱のような外見は、この宗派が黒箱教と呼ばれる原因になったのだと一目でわかるものとなっていた。


「黒箱教ってあんまり人いないんじゃなかったの?」


ソルの言葉に風精霊が笑って答えた。


『今が多いだけだよー。とっても優しいシスターさんがいるから!』


黒箱教は基本的にはカドミラ教の影に隠れていることが多いため、あまり人が集まることはないのだが、今は随分と人が多かった。勝手口側にたむろしている人々の服装は、綺麗とは言い難い。恐らくだが貧困に喘ぐ者たちなのだろう。それでも最低限小綺麗にしているのは、もしかするとここにいる人気のシスターさんのおかげかもしれない。


ここ1年以内のことだったかな、と風精霊が言ったので、ロキたちは何となくそれが誰なのか分かった。なるほど、そういうことか。


「彼女がうまくやれてるのならそれでいいんだがな」

「下手に私たちと接触しない方がいいとかなんじゃないの?」

『人間って変なこと考えるよねー』


精霊にはよくわからない感覚だと風精霊は言った。ロキは緩く繋がっている自分と精霊たちの繋がりを確かめながら歩を進めた。



黒箱教の建物は質素だが見た目が堅牢である。黒い石を使った重厚感溢れる教会で、よく見ると箱型の建物にはびっしりとレリーフが彫り込んであった。中から黒地の布に黒で刺繍とレースを施されたシスター服の少女が出てくる。


少女はフードを目深に被った少年を連れていた。2人は少し言葉を交わして街へと向かう。黒箱教の横には孤児院がある。貧民街が近いこともあって、たまに炊き出しもやっている。貴族が金を落としていくことはほとんどないのが現状ではあるが、少女と少年にはいくつか得意な内職もあった。お金は潤沢とは言えないけれど、食材を買って皆の食事の準備をしよう。


「ユウキさん、今日はお客様もいらっしゃるので、早めに帰ってきましょう!」

「了解だ、リリスちゃん!」


出てくる直前に破壊神サッタレッカが言ったのだ、今日はリリスに客が来るよ、と。リリスはこの客がおそらくリガルディアで世話になった貴族子息たちであろうと考えていた。理由は強いて言うならば、勘である。


「今日はお肉を買って、あと小麦粉を買いましょう。もうすぐなくなってしまうから」

「わかった。アイテムポーチの空きは十分だぜ」


ユウキと呼ばれた少年は笑って答える。リリスは白髪を丁寧にまとめていた。髪は何となく銀髪の少女の顔が浮かんだので、その少女と同じような髪型にしてみた。

あの銀髪の少女は一体誰なのか、リリスははっきりとは覚えていないけれども、伝説にある神の御使いではないかと勝手に思っている。それほどまでに彼女は美しかった。


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男の姿の方ははっきり言ってほとんど覚えていない。感想はある。

美しい顔ではあった、ただ、軽薄そうだ。その表情の裏に隠されているものは、きっと想像以上に重く苦しいのではないかと、リリスは思った。詳細など知らない、あの時が初対面の人だったはずなのに、やたらと思考に絡む白銀。


一度会って礼を言わねばならない。黒箱の教会に入った以上親との連絡は取れなかった。リリス・ガートナー、正式には、リリス・フォン・ガートナー。それはガントルヴァ帝国の貴族令嬢の名前である。リリスはカドミラ教に背いたことになってしまった。ガントルヴァ帝国ではカドミラ教が国教に定められていた。国教に背いたのだ、帝国ではもう生きていけない。背教は貴族にあるまじき罪として裁かれるだろう。理由も分からず死にたくはない。


黒箱教に来てから出会ったユウキは頼りないけれど一生懸命リリスのために奔走してくれる男の子で、隣接する孤児院の子供たちに懐かれつつリリスと暮らしている。時折顔を見せる水色の髪の少女神や黒い髪の少年神とはある程度面識があるらしく、祭壇で喋っていることがあった。


そしてこのユウキ、時折おかしな行動に出る。未来を知っているかのような行動を起こすのだ。その結果ぼろぼろになって帰ってきたことも少なくない。


本人がこれでいいのだと言うからそのままにしているけれども、リリスには何もできないのだ。リリスに加護をくれるのは子を産む大いなる母を表す“リリス”という神霊でしかない。リリスは回復魔法を持っているけれど、魔力がとてもではないけれど、足りないのだ。癒しなどそう簡単には使えない。治癒魔術を覚えたいと思うこの頃である。


街に出て必要な物を買った直後、ユウキが少し立ち止まって、すぐにリリスの手を引いて一目散に走りだす。直後、リリスたちのいた場所で魔術の暴発、それに巻き込まれての一連の騒動が起きた。


「リリスちゃん、先に帰ってて。裏通りを通ってね。表は通っちゃだめだからな!」

「う、うん」


表を通らないでといわれたら通らない。ユウキが間違ったことはない。リリスはこういわれた時にはユウキの言うことを聞くようにしていた。結果的にユウキがどんな形で戻ってきたとしても、だ。


ユウキは引き返して騒動の中へ突っ込んでいった。きっと何かユウキがせねばならないことがあるのだろう、くらいに考えて。



時間があるからと言って城下町の散策に出ていたロキたちは突然起きた魔術の暴発による喧噪に巻き込まれた。この場所に来たがっていなかったナタリアの言葉「そろそろ危ないですよ」という言葉にとっさにロキとゼロが前に出てカルたちを庇い、誰かがはぐれるなどということは無かったが。


「カル、無事か」

「ああ。お前は」

「今の俺に物理は効かん」

「周りの人間が痛がりそうだな」


魔術の暴発で最も面倒なのは火属性で、本当に爆発する。ロキは火属性なので特に問題はないが、瓦礫が吹っ飛んでくる可能性もあるのでなかなか大変なのである。

ロキは周りで倒れている人間を見渡す。街中で突然起きた爆発にしては局地的な気がした。威力を絞ってあるというべきか。


「……狙われたか?」

「これ毎回あってるから私たち()狙ったとかではないと思う」

「いつもはどうなってた?」

「知らない。私がここに来るときは大体あるけどこんなに大きな騒ぎにはならないことの方が多い」


本来これにぶち当たるのはプラムだよとナタリアが告げる。ただの事故ならばいいと結論を出したが、ロキはふと考える。この世界とゲーム、明らかに先行しているのはゲームのはずなのに、違和感。


「今改めて思ったけれど、ナタリアも結構擦り切れてるわよね」

「何を今更って感じなんだけれどね」

「それな」


ナタリアについてソルが呟いたことでロキは思考を中止した。今はこの状況解決を優先すべきである。ロキとナタリアが前に出て、そっと魔力で編んだワイヤーを伸ばす。セトがナイフを構え、ソルとオートが小さな杖を構えた。


ロキは魔力の流れを辿る。ばきんと音がした気がした。自分の魔力に片目の視界を飛ばして行きついた先はそこまで遠くもない路地。魔力の暴発は本当にただの事故のようで、けれども近くに動いている人影もある。


状況確認のために視界を戻そうとしたところに走り込んできた少年にロキは驚いて目を見開く。少年の手には木刀。何をする気だろうかと見物を決め込むか、はたまた、と考えたところでドルバロムの声がした。


『ロキ、あの子に手を貸してあげてほしいな。あの子だけじゃ勝てないから』

「――わかった」


ドルバロムが言うということはデスカルたち、果てはルイとスピカが噛んでいる可能性に思い至る。ロキはワイヤーの両端にナイフを括りつけて走り出した。ナタリアがそれに驚きつつも追従する。


「どうしたの!?」

「今乗り込んでいった奴単独では弱いそうだ」

「なるほど?」


ナタリアの反応からして、この事態は初めてのようだ。まあ、上位者が噛んでいるのであれば初めてでも仕方がなかろうとロキは考えた。カルたちもついてきた。致し方あるまい。

そう遠くない場所にある建物の影、複数の男の気配。おそらく移動しようとしていたのだろうが、そこに木刀持ちの少年が躍り出たため足止めされたのだろう。


少年も自分だけで勝てるとは思っていなかったらしく、ロキたちが踏み込む前に、叫んだ。


「衛兵さーーーーーん!!」


どこかのラノベの最初の頃かな、衛兵じゃないが、と苦笑してロキとナタリアは建物の影から出て声をかける。


「やあやあ、こんなところで何をなさっているのでしょうか?」

「ああ?」


男たちは5人ほどいた。暗い色のローブを着ており、同じマークの刺繍があること以外に所属を表すものはなさそうだった。


男たちはナイフで武装している。ロキはスっと近付いて、ワイヤーで男の1人を釣り上げた。


「うおぁ!?」

「神子の暗器使いか……!」

「糸が見えねえ!」


ロキは、こいつらは慣れているな、と思う。少年が男たちに木刀の切っ先を向けて言った。


「で、おっさんたちどーすんの? このまま大人しく捕まっとく?」

「ちっ、なんでこいつら……!」


ロキははてと首をかしげた。ああもしかして、とロキは笑みを浮かべる。


「貴方がたがお使いになっていたステルスの魔道具ならたぶん俺が壊しましたよ?」

「!?」

「はい、時間切れよ。【精神(マインド)監獄(プリズン)】」


小声ながら詠唱をしていたらしいナタリアの声と同時にうっすらと黒い檻が男たちの上から降りてきて、男たちはくったりと動かなくなった。


「てかこれ人為的なものだったんだ。ロキ様が居なきゃ捕らえられないか……」

「厄介か?」

「ステルスがあるの今まで知らなかったから。ロキ様が破壊してなきゃ私の魔力程度じゃ壊れなかったんでしょう。……先にこいつらに逃げられてたみたい」


今までロキ様がこちらに来ても()()に関わることは私の前ではなかったから、とナタリアは言った。ロキとナタリアが踵を返す。ナタリアは少年の顔を見たけれど、知った顔ではなくて、特に関係があるとは考えなかった。


ロキは表情を変えないまま手を握り込む。


「ありがとうございました!」

「……」

「……」


礼を言った少年に、ロキとナタリアは一度足を止めた。


「……必要な時には助けを呼べ。発されてもいない声は誰も拾わんからな」


おそらくロキよりも年上であろう少年にその言葉を残してロキは立ち去った。


この少年――ユウキとロキたちが再会するのは、1時間も経たない内の話である。


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