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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
261/376

10-15

2025/04/19 加筆・修正しました。

「予定通り、ですね」

「どうなる事かと思ったけれど、案外普通に着いたわね」


ナタリアとソルの言葉にカルとロキが顔を見合わせる。オートは酔い始めたと言って昼過ぎに眠ってから今も起きていない。セトが担いで出てきた。


ロキは下町の通ってきた道を思い返す。整備されていて綺麗な道だったが、さすがはカドミラ総本山のある国の王都、総本山たる大教会は大きく目立っていた。


ゴシック調の巨大なステンドグラスのある荘厳な教会は、ロキたちが身を固くするには十分な人の出入りがあった。ロキはどうしても教会と関係があるため切っても切れないが、カルたちからすれば未遂を含めてロキを何度も拉致しようとした宗教である。許すはずもない。


理由は不明ながらわずかにでもロキに友好的だった教皇とは不定期的に連絡がつかなくなるのだが、現在もまた連絡がつかなくなっているともいうし、不穏である。


ロキは小さく息を吐き、目の前の王宮を見上げた。建造された年代が異なるのか、教会とは異なりバロック調の優美な装飾が多かった。出迎えのために出てきた中に子供の姿がある。王子王女なのだろうなとロキは適当にあたりをつけてカルの少し後ろに立つ。前に出てきたフレイと同い年くらいの青年が口を開いた。


「ようこそおいでくださいました。私はアスター・セネルティエ。立話は何ですので、付いてきてください」


緑色の髪とピンク色の瞳に、花の色が強く出た方がいるものだと感心したのはロキだけではなかろう。



応接間に入り、国王陛下がいらっしゃるまでお待ちくださいと言われて、ロキたちは互いに自己紹介をした。案内をしてくれたアスター含め、その場にいた子供は3人とも王族だった。


少年はガイラルディア・セネルティエ、第2王子。毛先が緑の金髪とオレンジの瞳を持つ。

少女はプラム・セネルティエ、第3王女。ロキたち基準で言うと、ピンクにかけてのグラデーションの掛かったアメジストカラーの美しい髪と瞳を持っていた。


席について紅茶を飲みながら談笑していて、しばらくしたところでようやく国王がやってきたのでロキたちは居住まいを正す。


「よく来てくれた、リガルディアの方々。私はセネガル・セネルティエ。今後1年間お主らを預かることになる」

「カル・ハード・リガルディアと申します。よろしくお願いします」


代表としてカルが挨拶をして、ロキたちは礼をするにとどめた。この時は流石にオートも起きている。


「君がオート君かな」

「あ、はい」

「技術部門は私の直属でね。これから何かと顔を合わせることも多くなるだろうが、よろしく頼むよ」

「ひゃい」


背が低い、その一点において見破られたのか。いや、そんなつもりは相手にないのも分かってはいるのだろう、しかしオートが一気に緊張してしまった。ロキは少し笑う。


「陛下、僭越ながら発言を御許し頂けますでしょうか」

「構わないよ」

「では。……オートは基本的に日常の礼儀作法以外は王族用には教えておりません。失礼の無いように言い含めてはおりますが、至らぬこともあるかと。御容赦くださいませ」

「ああ……大丈夫だよ。私も昔はよく言われた!」


悪戯っぽく笑って見せたセネガルにロキは目元を緩めた。


「オート、最低限敬語は忘れないこと、いいね?」

「はーい!」


これで同学年はちょっと信じられないなあとは誰の言だっただろうか。

ロキが出会った初期の頃はもっと大人っぽかった気がするが、慣れてきたら気が抜けた、とでもいうべきなのだろうか。


セネガルはまだ公務が残っているらしく、プラムにロキたちの対応を任せて足早に戻っていった。


「……お忙しい方ですね」

「あはは……今の時期は特にですね。そろそろ魔物が増えてくる頃ですし」


カルの言葉にプラムが答えた。アスターとガイラルディアはロキを見て落ち着かない様子である。


「どうかなさいましたか……?」

「あ……いえ……」


アスターが少しプラムの方を見た。プラムは少し肩をすくめてアスターを見ると、ロキたちに向き直った。


「この中で転生者の方はいらっしゃいますか」


そりゃいるよとロキたちは顔を見合わせる。いや、この場合は、プラムが転生者であることが大まかにわかったと考えるべきだろうが。

ロキ、ソル、ナタリアが手を挙げれば、プラムは目を見開いてソルを見た。彼女はロキが転生していることは知っていたのだろう。


防音魔術が作動し、プラムが席を立って軽く礼をした。


「では改めて。プラム・セネルティエ、転生者でございます」

「リガルディアの転生者代表として。ロキ・フォンブラウです」


ロキが席を立って礼を返す。アスターとガイラルディアが不安げにロキたちとプラムを見比べている。


「ロキ様、一つお聞きします」

「なんでしょう」

「貴方は前回を覚えておいでですか?」

「いいえ」


ロキがきっぱりと覚えていないと告げれば、プラムは目を見開いた。


「……御爺様が言ってたのと違う」

「……先王陛下が?」

「……貴方は私を恨んでいるかもしれないから、と……」

「……まあ、普通はそうでしょうね」


ロキは思う。シドの嘆きも、ミームの叫びも、忘れてはいない。けれど自分で記憶を捨てたことを、後悔などしはしない。役に立っていることは多いだろう。しかしロキにとってはそれはどうでもいいことの一つになった。


「先王陛下は私のことを警戒しておいででしたか」

「……失礼ながら、そうです」

「ロキなんて名前、警戒しない方がおかしいですからね。我が国は寛容に過ぎます」


ロキからすればリガルディアがおかしいのだ。自分の価値観もだいぶおかしいことは知っている。


「ループの事情は御存知ですね」

「はい」

「ナタリア、感想は」

「前に会った時より性格がだいぶましになってる感じがするわ。まあ、あの時は16歳だったけど」


ナタリアに話を振れば辛辣な回答が返ってきた。


「だいぶ教育されたようですね、プラム殿下?」

「それに関しては何も言えませんね」


プラムは苦笑を浮かべた。黙ってはいるが、アスターとガイラルディアから殺気が飛んでくる。ナタリアはそちらに殺気を放った。


「!」

「……!」


2人が震えた。黙ってて頂戴と小さく呟いて、ナタリアはプラムに視線を向ける。


「きっと先王陛下が言ってくださってると思うので詳細は省きますけれども、もう私たちを巻き込んで戦争の火種をまき散らすのはおやめください。どうせ戦争は起きるんですから、これ以上向こうに口実を与えないでくださいね」

「え、どうせ、って!? 絶対に起きるんですか!?」


プラムが大きく目を見張った。どうにか回避できないかと考えていたのだなと舌打ちと共に呟いたナタリアの声は案外プラムの耳にも届いてしまった。


「当然じゃないですか。転生者の方々は何度も貴女を諫めようとなさっていたはず。それをここまでループを繰り返すスイッチになっていることに気付かず、他に同じように繰り返している者がいる可能性に気を配らなかった貴女の責任だわ。だって貴女は王女様なのだもの」


為政者としてどうなの、とナタリアは小さく言った。ロキは瞑目し、口を開く。


「俺たちが確認している中で、カドミラ教会に所属している司祭及び大司祭のうちのいくらかは、ループの影響で発狂している、といって差し支えありません。出発前にも襲撃を受けましたしね。最近神子の目撃証言が増えたりしていませんか。子供が消えたとかも」

「……あれ関係あるんですか?」

「拉致された子供のいくらかは行き先に候補がいくつかありますね。まあ、こちらに関しては申し訳ない。狙われているのは私ですから」


ロキはプラムの様子を窺う。様々な情報を一気に詰められたためかプラムは混乱し始めていた。


「子供は消えています。平民宿舎で集団でいなくなったこともある」

「教会に介入できないのなら先に教会の末端の宗派をいくつか叩くといいでしょう。過激派が多いので叩き潰すなら一気にどうぞ」


ロキはある程度の情報提供はすべきだとカルたちに提言していた。カルたちも状況に応じてロキに判断は任せるとした。故にここは、ロキは自分の信じたように喋ることとした。


「プラム殿下、今は国のことに集中を。我々リガルディアと貴女方セネルティエは事情が異なるのですから、合わせる必要はない。いいですか、もうお分かりだとは思いますが、これは乙女ゲームではありません」

「――はい」


乙女ゲームではないなんてもうとっくにわかっている。プラムはロキをぎっと睨みつける。


「……わかってると理解してるは違うと思うよ?」

「オート?」


座っていただけのオートが口を開けば皆視線を集中させた。オートはきょとんとした表情で首をかしげた。今のは明らかに毒だった。


「……俺からの恨みよりも、俺の友人たちからの恨みに気を付けたほうがよさそうですね、プラム殿下」

「……そうみたいね……」


プラムはどっと疲れたように息を吐いて、椅子に座り直した。


「疲れた……」

「疲れさせた自覚はありますよ、殿下」

「ロキ様って女も男もそういうとこ変わらないですね! この攻略対象めが!」

「女の時は攻略できたんだったな! 忘れてた、俺悪役令嬢なのに攻略対象だ!」


朗らかに笑ったロキにアスターとガイラルディアは面食らったようだ。必要ならば女にもなるぞ、とロキが発言したことでその場がさらに混乱を極めるのだが、ここでは割愛しておく。


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