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2025/04/19 編集しました。
ロキとオートは見つけたフォレストディアを追いかける。
「オート、そっちへ行った」
「見えた! 行くよ!」
フォレストディアはロキが想像していたよりも大きかった。3メートルほどの鹿であった。リガルディアではほとんど生きていけないらしいが、よく見れば鹿の角ではなく木のような形の角をしている。リガルディアでよく見かけるのは2メートルほどのエッジディアという角が刃になっている魔物であるため、平和的な形だなと思ってしまうのは致し方あるまい。
「紡ぎ、流れる不可視の糸、舞い上げるは木々の刃。【トルネード】!」
オートが簡略化した魔術でフォレストディアの足を傷つける。
「上手いね」
「実家では狩もよくやってたよ?」
「なるほど」
食費を浮かそうとしたのかー、となんとなくわかるのは、ロキ自身の実家の領民がやっているのを知っているからだ。
フォレストディアが足を切られてバランスを崩し、転倒した。ロキが畳みかけるように刀を振るってフォレストディアの首を刎ねる。
「これで5匹目だ」
「うん! 目標達成!」
オートは笑顔でロキに走り寄ってくる。ロキはオートの杖を確認して、まだ魔石が割れそうにないことを確かめる。かなりの回数魔術を使っていたのでもうそろそろ買い替え時というやつだ。
「ロキ、僕頑張ったよ!」
「ああ、よく頑張ったね。この調子なら高等部での実習もちゃんとできるんじゃないか?」
「やったー!」
集合地点とした森の入口へ戻ると、すでにカルとセトがそこにいた。彼らのタッグだと近距離近距離で組んでいるため雑魚相手ならば後れを取ることはなかっただろう。ロキとオートは逆にロキが近距離ができるとはいえ遠距離遠距離で組んでいる。近距離と近距離ほどストレートにはいかなかったのも事実だろう。ソルとナタリアは近遠距離と超近距離が組んでいるため、獲物さえ見つければそこまで時間はかからないだろうとロキは思っている。
「あーん、最後だわー」
「お疲れ様ですー」
ソルとナタリアがすぐに戻ってきた。ほとんど時間は変わらなかったぞとカルが言えばソルはそうかあ、と小さく笑う。
「そろそろ戻ろう。オートの足だと閉門まであまり時間が無くなるだろう」
「そうだな。オート、間に合わなさそうだったら担ぐからな」
「えー」
「お前飛べないだろ」
「ぶー……」
オートは何かと担がれることが多いため毎回確認も取られている。むしろセトだと確認なしにオートを担ぐことが多いのでロキとの間にはこのような会話が成り立っているのだけれど。
早速ゼロに声をかけるとすぐに姿を現したので7人で帰路に着く。ロキはゼロがノルマを達成して早々に近くで待機してくれていたことに気付いていたが何も言うまい。
「結構森の深いところにいたような気がするね」
「そうだな。隠れていたのかもしれない」
オートの言葉にカルが答える。カルたちは案外奥へ入ったらしい。ロキが場所の管理をしていたためオートとロキはあまり深くまで入っていないのだが、それでもそう感じるだけのものがあったのだろう。ロキもまた、あまり深くに入らないように努めていたのに深入りしていた気がしていたようで、眉根を寄せた。
草原を歩いて移動する最中、まったくと言っていいほど魔物に遭わない。フェンリルたちが近くにいるわけでもないにもかかわらず、である。感覚としては、日本の田舎の町中に全く猫がいない感じがしたロキだった。
丈の低い草を眺めながら歩く。乾燥しているとまでは言えないが、リガルディアに比べると湿気は少ない感触がする、とはソルの言である。
沈み始めた太陽を背に、ロキたちは衛兵の立っている門を目指した。
♢
ギルドに戻って証拠品としてフォレストディアの耳を切り落としたものを提出し、ロキたちは宿へ戻る途中、店に寄った。
「見たことないビーズがある!」
「そこで女子である私たちじゃなくてセトが飛びつくところね」
「ロキも目が輝いてるけどね」
「どちみち男っていう」
ソルとナタリアの言葉など知ったことではない。ロキは刺繍も編み物もするし、セトはレースを編むのが趣味だったりする。ビーズがあればなお良し。オートも見たい見たいと言い出したので結局7人全員そこでビーズを眺めた。
「小さなビーズだな……こないだ見たのより高くないか?」
「形が揃ってる。こりゃ高いな」
「大玉のガラスビーズもあるな。流石ガラスの国は違う」
ロキの言葉にソルが首を傾げると、ナタリアが答える。
「セネルティエって、ガラス工芸が有名なんですよ。ロキ様は毎回セネルティエでのお土産はガラス製品を見ていらっしゃいます」
「毎度物は違うのか」
「たまに同じものを。高坏は珍しいので好んでおられましたね。お酒に強いものだから」
「まだ成人してないから酒は飲めないわよ」
顔を見合わせて笑い、ロキは大玉のビーズを手に取った。店の奥では店主らしき若い女が少々恐縮したようにロキたちを見ている。
「中に金箔が入ってる。綺麗だな」
「姉様に何か買っていきたい……姉様もいろいろ編み物するし……」
「抱えてやろっか?」
「おねがーい!」
セトの提案は普段のオートならば拒否しただろうが、よほど姉たちへのプレゼント選びが大事らしい。
オートはセトに抱えられてビーズを眺め始めた。
「この赤いの綺麗」
「赤いの高くね?」
「金を混ぜてるんじゃないか」
「へー」
オートが青いビーズを手に取る。これいいなあ、と言って緑のビーズも手に取った。
「これとこれにする!」
「それ何に使うの?」
「編み物! 姉様に使ってほしいなって!」
オートが御機嫌でビーズを選び、ロキとセトも変わった形のビーズを選び取った。
「お会計お願いしまーす」
「は、はい!」
ロキたちがそれぞれ精算を終えると、ソルたちも布を眺めたり金属を見ていたりしていたのをやめて集合する。
「ロキとセトは自分で使うのか?」
「そうだな」
「ああ。なんか可愛いの出来たら見せるよ」
「習おうかなあ……?」
オートが真剣に2人にレース編みを習おうかと思案を始めるのは実はもう少し先の話ではあるのだが、ソルが「これ以上女子力の高い男子を増やしてもらうと困る!」と本気で言ったためロキが笑った。
「ロキ、笑わないでよ」
「いや、あまりにも真剣だからな。そもそもオートのこれは今に始まったことでもないだろう」
「そりゃそうなんだけどね!」
アイテムボックスに荷物を放り込んで、いよいよ7人は宿に帰った。ゼロが従者よろしく全く喋らずにい続けたことにナタリアが驚いていたが、そもそもゼロは従者である。
「やっと従者らしさが身に着いた……?」
「けなされている気がする……」
多分事実だよとロキは言わないでおくことにした。というあ、ナタリアの中のゼロはどういう人物なのだろう。そこに興味を持ってしまったロキだった。




