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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
257/376

10-11

2025/04/18 加筆・修正しました。

セルタリア2日目、ロキたちはギルドへと向かった。

セトとロキに関してはそろそろランクを上げておくかという話になっている。


「次何級になるの?」

「俺は今黒鉄だから、次は赤銅級だな」


ロキの言葉にソルがいいなあ、と小さく零した。

ソルたちも登録はしているのだが、まだ何もしていないこともあって黒鉄級に上がるのが先決である。


ソルたちもいよいよ高等部も間近なので、魔物の討伐依頼などを受けて昇格試験等を受けていこうかと話しながら、ここへやってきた。

オートも一緒についてきた。登録をしたいと言い出したので連れてきた、が正しい。


「ロキたちはもう登録終わってるのかー……」

「まあ、俺たちは魔物狩りにも行くからさ。リガルディアなんてフォンブラウに限らず自領での登録を済ませている奴が大半だろうよ」


オートも国内にいる間に登録しておけばよかったのにとはナタリアの言である。とはいってもオートの成績等を鑑みて、オートがそこそこ強いのだということを知らなければ、十中八九止められてしまうのだけれども。


こんなに小さな子が、とカウンターの受付嬢が呟いて、まあそうなってしまうよなあとカルたちは顔を見合わせた。付き添ってきてくれたアンドルフに登録の手続きを任せて集会場で水を飲む。


オートの年齢はロキと同い年である。覆らない事実なのだが、いかんせんオートは小さいし童顔だしで小さく見られる。ドワーフの血が混じっているのは事実のはずであるのに、なぜこうも若々しいのか、というか子供っぽいのかについては、ホビットじゃね、といういかにもな憶測が飛び交っている。


アンドルフが戻ってきてオートにギルド章を渡した。青銅のプレートである。早速何かやるかという話になって、掲示板を眺める。


「簡単な討伐とか?」

「オートって血はダメなんじゃないの?」

「僕そんなよわっちくないよ!」

「「えー? ほんとにござるかぁ~?」」


ソルとナタリアがオートをからかい始める。ロキは掲示板を睨んだままス、と目を細めた。


「どうした、ロキ」

「……いや、討伐依頼が多いなと思って」

「ふむ……確かに。増えているのかもしれないな」


他国のことなのでそこまで気にかけているわけではないが、これから1年間を過ごす国のことなのだ。少しくらいは気にする。


「……少し、父上に手紙を書いてくる。受けたいクエストがあったら選んでおいて。カル、この場をお願いします」

「ああ、分かった」


もうそろそろ殿下呼びも隠す必要があるだろう。ロキは敢えてカルのことを呼び捨てにした。カルは少し面食らったようだったが、ギルドの人の多さを見てか、すぐに頷いてくれる。ナタリアとソルはすぐロキとカルに敬称を付けるのを止めてくれるだろう。


「ロキ、私も一緒にいいかな?」

「構わないよ。ソル、セト、カルとオートを頼む」

「「了解」」

「オートはおとなしくしていろ」

「えー」

「返事」

「はーい」


ナタリアはレオンたちに手紙を書くつもりなのかもしれない。

ナタリアとロキはいったんクエストボードの前を離れる。ギルドは手紙の運搬も請け負っている場合がある。ここはそんなカウンターがあったからそちらへ向かった。


「で、本題は何だい、ナタリア?」

「私、本当はプラム様のこと許せてないんですよ。ちょっとした愚痴です」

「そうかぁ」


ナタリアは案外根に持ちやすいのかもしれない、と思いながら、ロキはカウンターに寄って行った。ロキとてループについて全てを把握できているわけではないし、全てを把握するにはあまりにも周回を重ねすぎていることは勘付いていた。恐らくシドが冗談めかして言う何万回、とかいう表現も事実か、もしくはもっと重ねているかなのだろう。ナタリアの言っていたことが本当なら、彼女自身が覚えているのは20回程度ということになるが、人生を20回も覚えていなくていいのである。

ロキはカウンターに声をかけた。


「すみません、こちらで手紙を出せますでしょうか?」

「ここは転送で送るから高いよ?」

「構いません」

「大銀貨1枚。これに書いてね」

「ありがとうございます」


カウンターにいたのは宿屋の女将さんかと思うような朗らかな女で、ロキは受け取った紙に軽く解析魔術をかけて何も仕込みがないことを確かめるとその場で簡潔に手紙を書いた。時間にして3分ほどである。ナタリアも同じく紙を貰って、近況などを認め始める。


「お願いします」

「早いのに綺麗な字を書くねえ。どこかのお貴族様かい」

「セネルティエ王立学園への留学です。国境を越えたので親に手紙でもと思いまして」

「なるほどねえ」


女は特に手紙の内容を見ることもなく折りたたまれたものをそのまま受け取って、今度は少々特殊な魔法陣(コード)が刻まれた封筒に入れて他に手紙を一緒に置いている箱に入れた。


「よろしくお願いします」

「はい、確かに」


ロキは大銀貨を女に渡し、ナタリアが同じように手紙を出し終わったのを認めてから掲示板へ向かう。オートたちはようやく掲示板を離れてクエストを受注したところだったらしい。


「あ、ロキ、おかえり!」

「ただいま」

「ナタリアもお帰りなさい」

「ただいま戻りました」


クエストの依頼書をオートの手から受け取ってざっと流し読みしたロキは、内容を概ね把握したので紙をオートに返した。


「何がいるかな?」

「そうだな、オートの初戦闘、だよな。準備は多いに越したことはないが、あまりかさばらないように」

「じゃあ魔力ポーションでいいかな。どーせ僕剣振れないし」

「拗ねんなよ」

「言外にちっちゃいって言わないでよー!」


ロキとオートがわちゃわちゃとじゃれているのを眺めつつ、ナタリアはソルにクエストの内容を確認する。受けたクエストはフォレストディアの討伐。難しいことは考えず、多くなりすぎたフォレストディアを20ほど狩ってほしいとのことである。


「フォレストディアってあのほそっこい奴だよな」

「ロキがシカって呼んでるやつでしょ? あれ角痛そう」

「当たんなよ?」


リガルディアではほぼ見ない魔物である。魔物と言っていいのか、動物と言っていいのか、それとも、この世界に野生動物はいなくて皆魔物なのか。皆魔物と呼んでいいとロキは思っている。そうでなければ、飼い猫の尾が二股だったり、二足歩行したり、喋ったり、きっとしないから。


フォレストディアはいわゆる鹿である。森にしかいないが、リガルディアのように危険地帯すぎると流石にいないようだ。リガルディアの魔物が総じて体が大きいのも彼らが生きていき辛い原因だと言えるだろう。


ロキはギルド章を確認してアイテムボックスに仕舞い直し、武器を確認する。セトたちも簡単に武器の確認をして、オートが魔力ポーションを購入して、出発した。



オートがセルタリアの近くの森の入り口で薬草をいじり始めてはや10分。ロキたちは魔物に全く遭わないので静かに辺りを伺っていた。


「……なんか様子変よね」


ソルの言葉にセトが小さく頷いた。


「フォレストディアはもともと警戒心の強い魔物だと習った記憶があるけれど、それにしても酷いわ。こんなに魔物に遭わないなんて」

「ナタリア、何かの前兆の可能性は?」

「可能性がないわけじゃないけれど、こんなことなかったわ。私の知らない何かかもしれない」


警戒するに越したことはなさそうだな、とカルが呟く。ロキは空を見上げて精霊の姿を追っていた。


「ロキ、何かあるの?」

「……いや……まだわからん。精霊が騒がしい気は、する」


ロキはそれだけ言うにとどめ、太陽の方を見る。

リガルディアにも多いが、こちらはさらに多い、城壁持ちの都市には門が閉められる門限が存在する。太陽が沈むのが案外早いので歩きで帰るならそろそろ魔物を追い回す段階に移らねばならないだろう。


「オート、魔物を追うぞ。お前の足で歩くなら帰りに1時間は欲しい」

「わかったー」

「戦闘訓練あんまりオートって参加してないよね」

「やってるよ? 武装は重過ぎるだけで!」


オートが杖をそっと取り出す。エメラルドの魔石のついた細い杖はおそらく女性用だろうとわかる繊細な装飾がなされていた。


「それお姉さんの?」

「うん! 姉さまがくれたの! うちはお金ないから」


オートほど魔術の才能が有れば、とロキが呟いたが、オートはロキをちらっと見て笑った。ロキが小さく溜息を零す。


「途中で折れても知らんぞ。お前にその杖は合わない。それにその魔石はもう限界だ」

「知ってる! 兄様にも言われた! 一応替えの杖は持ってきたよ!」

「それ練習用の学校で貸してるやつじゃね?」

「今のところこれが一番魔力の通りがいい!」


ロキとセトと言葉を交わすオートは、まさに魔術方面に進むべき適性を持っているのだとその会話だけでソルたちにはわかってしまった。リガルディアの民は総じて何らかの武に秀でているものが多い。魔術か、武芸か、献身かは問わないのだ。


平民まで戦士脳筋で括れた時代もあったことだろう。貴族は人刃という武芸寄りであるし、王族は竜交じりの魔法と純粋なパワーで全てを捻じ伏せる者である。平民たちは種族によるが、概ね一般的な人間の歩兵のようなものだったと考えられているらしい。かつては神々の神殿へ出向けば直接加護をもらえた時期もあったというから、一概に人間が弱いわけではないのである。


ロキたちはそっと森へ入った。


ロキとオート、ソルとナタリア、カルとセトで組み、ゼロは単独で周辺の警戒を行うことになった。それぞれで解散してノルマは5匹ずつとする。


「何かあったらドゥーかヴェンを呼んでね。俺に伝わるから」

「わかったわ」

「ああ」

「ん」


そして刻限までロキたちの、フォレストディアとの追いかけっこが始まったのである。

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