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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
256/377

10-10

2025/04/18 加筆・修正しました。

「もうすぐ着きますよ」

「やったー!」


魔物を退けつつ進んだロキたちの眼前に、とうとう真っ白な門が見えていた。後ろを振り返れば、白亜の国境の壁が高くそびえ立っている。あの壁を越えてからは、セネルティエ王国だ。


城塞都市セルタリア。

セネルティエの国境付近の街であり、特殊な軍備が配されていることで知られている。


特殊な軍備といっても、この世界ではという話である。地球でいうところの通常兵装であろうが、そこまで揃えるだけの経済力がセネルティエにあるのかと問われると否であるためこの形に落ち着いていても文句など言われまい。


軍関連施設が落ち着いた暗い灰色の石で、街の中央に集めて作られていた。


「黒いねー」

「そうだな」


民家も黒い。日光がだいぶ弱くなっているので、おそらく日光を取り込むとか、精霊の加護を受けやすい素材とかそういう理由であろうとロキは考えていた。

城壁も黒い。その壁に走る細く青いラインを見て、ロキが最初考えていた理由は本意ではなかったことに気が付いた。


「これなんだ?」

「アダマンタイト鉱石だ。とても繊細な技術だな」


セトの問いにロキは答えた。

ロキたちの知っている鉱物の中には、魔力に対して特徴的な反応を示す霊金属というものが存在する。


もっとも知られているのはミスリルであり、他にオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネがある。また、めったに聞かない上に宝石扱いだがメタリカブルーもここに入っている。


ミスリルは魔力伝導率が高くもっとも加工がしやすい。淡い緑の金属で、光を当てると柔らかく七色に光る。鉄よりも軽く、硬い。魔力伝導率がいいということで軍隊に丸々強化魔術をかけるときなどは非常に効率的である。その代わり、デバフ耐性術式を刻むことで敵の魔力を弾かねばならない。武器に使えばエンチャントを刻むこともできる。


オリハルコンは加護や祝福を受けやすい。硬い金色の金属性の宝石である。刃を造るのに向かず、もっぱら防具に使われている。


アダマンタイトは魔力に干渉する性質を持つ。霊金属の中では最も硬く、最も重く、黒い。物理的な物を切る力が高く、またアダマンタイトが使われた武器は極端に壊れにくくなることで知られる。魔力に干渉するその性質から、魔術封じとして使われることもしばしばある金属である。デバフは弾けるが、バフも弾く、厄介な金属だ。


ヒヒイロカネはとにかく産出量が少ない。性質としては加工しにくさが飛び抜けているものの、武器に加工すれば他の霊金属の追随を許さないほどの性能の武器を作れると伝わっている。赤色で暗い場所に行くと光るという。


「黒いということは、アダマンタイト、ねえ……」

「おそらく」

「ロキ、あれ溝があるよ」

「……」


オートの言葉にロキとカルが顔を見合わせたのは致し方あるまい。

もしオートが言っているのがすべてに施されているとしたら、アダマンタイトに術式を刻むのは難しいので手動で直接彫り込んだと言っていることになる。青いラインのことだ。


地道な努力のたまものということか。


「まあ、アダマンタイトは魔法も弾くしな……」

「対魔物用というべきか、はたまた対リガルディア用だったというべきか。まあ、どちみち魔物への対策に使えるのだから問題はないんだろうよ」


カルとロキの言葉にオートがへー、と感心したように声を上げた。


街の中に入り、宿の前で馬車を降りる。今夜はここに泊まることになっていた。

オートが早速辺りを見回して目を煌かせる。


「わあー!」

「おい、勝手にいなくなんな!」

「あーん」


走りだそうとしたオートをセトが捕まえる。ソルとナタリアも馬車を降りて、宿にチェックインを済ませてからもう一度全員で外に出ることにした。



貿易で成り立っている都市というのは、総じて取扱品目が多めの傾向がある。リガルディアでもなじみ深いものからあまり見ないものまで揃っていたが、セルタリアの特産品が酒だったので俺たち飲めないじゃん、といってセトとカルが笑った。


未成年は15歳までとなってはいるが、普通は社交デビューであるとか、爵位の叙任であるとかを以って成人となる。15歳未満で成人することはできないが、14歳までに何らかの功績を挙げていた場合は15歳になるのと同時に成人することがあるが、例外的。


酒が飲めるようになるのはそれからだ。

今年漸く15歳を迎えるロキたちにはまだ少々遠い話である。


「ビーズもいっぱいあるわね」

「寒い地域ってお洒落な服あるよね」


ソルとナタリアがビーズを眺めながら言葉を交わしている。ロキは細やかな銀細工を見て、ドワーフでもいるのだろうかと思いながらそれを手に取った。


「ロキ、それ何?」

「銀細工だ。純銀だな」

「わかるの?」

「シドと契約したときにわかるようになった」


オートの問いにロキは答え、ソルとナタリアの方へ向かう。セトとカルもビーズを覗き込んでいた。


「セトがビーズ見てる……」

「実はレース編みの材料を持ってきててさー」

「あ、じゃあ綿で袖口につけるレース編んで。今度リメイクしようと思って持ってきたドレスがあるのよ」

「いいぞー」


セトが小さなビーズを眺めているのをオートが覗き込む。合わねえ、と呟いたオートにうるせえ、とセトが返した。


「セト、今度レース編み教えてくれないか」

「えー、ロキがやったら絶対俺より良いの作るからヤダわ」

「酷いやつだな」


まあ、やるからには極めるがな、と一言余計にロキが付け足した。お前はどこ目指してんだとカルが溜息を吐く。


セトは結局いくつかのビーズを購入した。オシリスに何か作りたいのだと笑って言うから、ロキたちは顔を見合わせて、いいんじゃないか、と返しておく。


転生者にしかわからない話ではあるけれども、ロキたちのいるリガルディアはドイツ色の強いゲルマン系の言語に近く、この世界にしかいない魔物も少なくはないが、地方としてのリガルディアを現すのはリンドヴルムであったりと、とにかくなんだかドイツ推しなのである。


国内に住んでいる者たちの文化の混合もすさまじく、名前だけとってみてもそもそもアーノルドからして英語圏の名前であったりする。なお、別の人物にアルノルトという名の人物がいるらしく、スペル一緒なんだよとアーノルドが言っていたことがある。


セトはエジプト系であるし、ロキはなぜか古ノルド語のままであるし(そのまま英語になっているので何とも言えないが加護持ちなのでそういうことだろう)、ゼロたちのことを考えると日本も混じっている。神々の名前はもうどうしようもない気もするが、ドゥルガーはインドであるし、ソルとルナはラテン、エリスはギリシアでここまで混じるかといいたくなるのも無理はない。


しかも名前の省略も酷かったりする。ロキたちからするとスペルは長いのに前の方しか言っていない名前もあるくらいだ。

ロキが知っている中では、カルのスペルが“カール”だったり、エリオのスペルが“エリオット”だったり。


文化についてロキが思いを馳せているうちにセトの買い物は終わり、ソルとナタリアが布を眺め始めていた。ロキはいくつかビーズを買ってソルたちを追う。


「あ、追いついてきたわね」

「すまんな」

「いいわよ、何か考えてたんでしょ。話変わるけどこれとこれどっちがいいかな」

「女児用か」

「ええ」


冬用の服は作ったけど夏のはまだだもの、とソルが言う。ここでカルが孤児院に送る服だと理解してなるほどと呟いた。


「今夜ロゼに話をしてみるか」

「え、いいんですか」

「向こうには幸い平民の友人たちもいるからな。もう着ない服があるのなら譲り受けるのも大事だろう」


ありがとうございます、とソルが頭を下げる。ロキとソルで勝手に始めたことではあったけれども、ジグソーパズルの売り上げの一部が孤児院にそっと物資で送られたりしている。主に動いていたのはロキから引き継いだエリスだったけれども、きっと彼女ならうまくやっているはずだ。金で渡すと碌な事にならないのは流石にオレイエの一件で学んだ。


比較的麻や綿の生地も多いので、平民でも問題なく使える。絹だけはどうしようもないのであまり使わないが、人形遊びには使えるだろうという話を今している。精巧な人形を作れれば着せ替えもできるだろう。まあ、明らかに裕福な者向けの嗜好品となるが。


「ジグソーパズルはちゃんと運営できていたんだな」

「店番に関してはフォンブラウで雇った人間を使ってるけどね。エドガーとシドがいるから問題はなかろうという楽観的な思考でお送りしております」

「エドガーがいるなら安心だな」


カルが笑った。現役商人の息子であの商魂逞しい男ならきっと上手くやると、信じて疑わない。


「だいぶ日が傾いてきたわね。そろそろ戻りませんか、殿下」

「そうだな。戻ろうか」

「もうー?」

「もうだ、帰るぞオート」

「はーい」


まだ店を見て回りたがるオートを連れて、カルたちは宿へと戻った。


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