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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
253/377

10-7 とある世界線の話

2025/04/17 加筆・修正しました。

「この度は婚約おめでとうございます、カル殿下、プラム殿下」

「ああ、ありがとう、ロキ」

「ありがとうございますー」


盛大なパーティの場で交わされる温もりと光にあふれた光景。銀髪の少女が金髪の少年と紫の髪の少女の婚約を祝っていた。


幼いころ、カルの婚約者にと勧められたのはこの銀髪の少女――ロキ・フォンブラウだった。カルは彼女のその才能に嫉妬したものである。


婚約は一応していたが、ロキが病弱であることと、そのロキに接触してきた死徒列強の関係から婚約は無しとなることが確定したのが高等部に上がる直前。ロキは中等部3年の間ほとんど学校に出てこず、自宅療養に努めていた。


ロキとの婚約は正式な手順を踏んで解消され、新たに同盟国となることが確定したセネルティエの第3王女プラム・セネルティエとカルの婚約が決まったのである。


「まさかロキ様がちゃんと婚約破棄に応じるとは思ってなかったけど、これはこれでいいよね。すっごい病弱みたいだし」


プラムはそんなことを独り言ちた。

プラムは()()、ロキを追い込んでなどいない。セネルティエからリガルディアに留学はしたが、多少のいじめはあったが、目くじら立てずに純粋に目の保養になる少年少女を堪能したものである。


その見目麗しい少女の中の1人が、ロキだった。


プラムはロキを悪役令嬢として裁くのに疑問を持っていた、乙女ゲームのプレイヤーである。プラムにとってロキは、カルとの恋愛においては確かに難関足り得たが、それは理不尽な横暴さ故ではなく、理不尽なまでの正論を並べたてるからであった。


ゲームにはなかったロキの病弱な設定。

プラムはロキが倒れかけたのを助けた側だった。


王妃教育の仕上げにかからねばならない時期に、重篤になっていく。ロキはそのことを気に病んでいた。そしてどうやらロキも、転生者であるらしかった。


悪役として動くことはあまりなかったロキだが、それでもロキのことを隠れ蓑にして暗躍した貴族たちはいた。ロキはそれを潰すだけの体力もなかったのだ。利用されっぱなしでこれではいけないと、頑張ってはいたようだが、直接的にプラムが被った被害は止められなかったらしい。病弱で体が動かないが故に自分たちを手足として使ったのだと供述したロキ派を名乗る令嬢たちに、プラムは鉄槌を下した。ロキならばもっとプラムの直すべきところを徹底的にあげつらって失脚させる方を選ぶのが分かっているからだった。ロキは自分の鬱憤を晴らすようなやり方はしない。自分の感情よりも政治的な立場を優先させる、根っからの騎士みたいな貴族なのだから。


リガルディア王国現王妃がロッティ公爵家から出ている以上、次は別の公爵家から出るのが望ましかった。しかし、ロキ以外の令嬢はロッティ公爵家のロゼ、姉であるスカジ、妹であるコレーしかおらず、スカジはガントルヴァの第2皇子との婚約があり、コレーは母方の血統があやふや。ロキが王妃になるのが最も穏便だった。


そこでプラムは考えた。このまま悪役令嬢のはずだがめちゃくちゃ美人で嫋やかで折れてしまいそうなこの深窓の令嬢と仲良くなってしまおう、と。


今まで通ったルートにも飽きてきたし、リアルっぽさを追求して、公爵家の令嬢なら友達としても申し分ないだろうし、と。


目論見は当たった。

ロキは何と前世が男であったことが判明、義務的に婚約に付き合っていただけだった。

カルもロキの中身については知っているらしく、気遣いも婚約者というよりは友達を見るような感覚のようで。ロキからはついでに自分の信頼できる派閥の作り方のコツと、制裁のコツも教えてもらった。学校で練習してみなよ、とボーイッシュな口調で言われた時は驚いたが、カルも、城を任せるならば飴と鞭の使い分けができるようになっていてもらわれねばなと言ったので、遠慮なく練習させてもらうことにした。


プラムもいろいろと考え併せて、決めたのである。

カルのことはかなり好きである。顔が良い、性格も良い、ロキを最後まで捨てないところもなかなか、ロキと仲良くなろうと考え始めると好印象になってくる。ロキが悪役令嬢として活躍している場合はロキうざいカル攻略難しいなんて話になるのだが。


ロキに、婚約解消を考えてくれと告げた。自分が嫁ぐ、と。

そうすれば国内の貴族のパワーバランスは崩れない。ロキは無理にカルと結婚する必要はなくなる。


ロキは検討すると答え、父に相談した。

父はロキの中身が男であることを知らなかったらしいが、ロキが年を追うごとに寝込むことが増えているのも考えてか、婚約解消に賛成した。


母がいればもう少し早く動けたんでしょうけれどね、とロキは苦笑する。

プラムはその言葉にどこか引っ掛かりを覚えつつ、やはりどんどん寝込むことが増えていくロキを気遣いながら、無事にカルと結婚までこぎつけたのだった。



もうすぐ終わるなあ、とプラムは考えていた。エンディングまでの日数がもうあと1週間もないのだ。結婚式を挙げるところで『Initation/Lovers』のカルルートは終了である。


ロキが無礼を承知の上で王宮を訪れ、プラムに会いたいと言ったのだからカルと顔を見合わせたものだ。


「どうなさいましたの」


テラスでロキと対面して紅茶を飲む。

ロキは白いワンピースを着ていた。髪も肌も白いロキが白い服を着ると、儚く消える雪の精霊のようだとプラムは思う。


「もうすぐエンディングですわね、プラム様」

「ええ、そうね。もうすぐ終わりだわ」


ロキは双子の姉がプレイしていたと言っていた。この後戦争なんだ、とも。きっとその戦争にロキは参加しない。この後があると聞かされて、これはゲーム、と言い切れなくなって、プラムは揺れていた。

自分の意識があるのは16歳から。それまでの人格はどうなったのかと、考えたことがないわけではなかった。ロキが言う戦争は、いったいどこの話なのだろう。この後と言っているからもしかしたら、自分の意識はその時プラムの中に残っていないのだろうか。残っていないのだろう、今までだってプラムは戦争に参加したことなどない、戦争の片鱗すら感知したことが無かった。


ここはゲームの世界でなどなくて、現実の中に差し込まれた、本来ならば世界からはじき出されるべきものが今あるプラムの意識だったとしたら?


「プラム様、お願いがございます」

「なんでしょう、ロキ様」

「……きっと結婚式に私は行けません。だから、この場で祝わせてくださいまし。ご結婚、おめでとうございます」


不穏だなと、プラムは思った。

せっかく友達になれたのになあと、思う。

けれどきっと、あまり体調がすぐれないのだろう。


「ゆっくり休んでね、ロキ様」

「ええ、ありがとうございます。……ゲームだったなら、よかったのに」


ロキが空を仰いだ。プラムは目を見張る。


「え……?」

「……貴女にとってはゲームかもしれません。でも、違いなく私にとっては現実でした」


ロキはそう言って、そっとプラムの手に金属片を握らせた。


「これは?」

「私のハルバードは折れてしまったのだけれど、その破片です。持っていてくださる?」


私も、皆と一緒に居たかったから。


ロキの言葉に、この人はもういなくなってしまうんだなとプラムは悟った。

それがきっとわかってしまったのだ。だから慌てて、友達になった自分に別れを告げに来てくれたのだろう。


「ありがとう、ロキ様、大事にするから」

「ふふ、あまり重く捉えなくてよくってよ。……貴女がどんな道を歩んだとしても、現実なのだと、覚えておいて」


たとえ荒唐無稽な、ループに巻き込まれていたとしてもね。


ロキは声に出さなかったけれど、プラムの不安に揺れる瞳を見て、フ、と笑んだ。



ロキは去っていった。一週間後の結婚式には来なかった。

そこで終わりだと思っていたら、こんな情報が入ってきた。


「ロキ・フォンブラウ様が亡くなられたそうです」

「いつのことだ!?」


カルの方が早く反応した。

プラムも報告を待つ。


「……一週間前だそうです」

「――」

「そんな……!」


プラムは驚いた。あの日、一緒にお茶を飲んだあの日。

亡くなったというのだろうか。


糾弾されなくても死んでしまうのか。

治すことは、できなかったのだろうか。彼女の死を自分も悟ってしまっていた、けれどどこかに希望も持っていた、魔法があるじゃないか、と。


プラムの周りに光が集まり始める。ああ、もうすぐリセットらしい。


こんなに悔しい思いをするのは初めてだ。もっとロキと仲良くなりたかったなあと思うのだ。それに、男だったというのなら、男としてのロキにも会ってみたかった。


ロキが最期に口の動きだけで教えてくれた、ループ、それが非常に気になる。

カルは最近政務にかかりきりだった。


「貴様何者だ!?」


カルの声にプラムは目の前に立つ赤毛の女に気付き、視線を上げた。


「何者だってかまうまいよ。さてプラム殿、君の()()()()()()()()()()だ」

「……私も死ぬの?」

「いいや? これでこのクソみたいな憑依型のループは終わりという話さ」


赤毛の女は顔に一文字に傷が入っていて、整った見目が台無しだった。

ループはこれで終わり。その言葉に集中する。


「次があるならやってみろ。乙女ゲームはおしまいだ。次は皆大好き現実のお時間さ、夢は終わりだ、いい加減お人形でいるのは飽きただろ?」


光が一層強くなり、プラムの意識はいったん途切れる。いつもならこのまま意識を後ろに引っ張られて、また16歳のプラムとしての人生が始まる。

けれど、赤い髪の女が死神の如き巨大な鎌を振り下ろすのと同時に、何か、背中でプラムを吊っていた紐が、切られた気がした。

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