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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
252/377

10-6

2025/04/17 加筆・修正しました。

移動を開始して4日。今日も今日とてごとごとと馬車が揺れる。道が悪いなあ、とゼロが呟いて、アンドルフらに何か言ってから、降りて、と馬車の中にいたロキたちに言ったのは、仕方がないだろう。


「今日泊まる街はまだ先では……」

「あー、魔物が通ってる」


カルの言葉にセトが窓の外を見て返した。ロキは窓の外を見て目を細め、指笛を吹く。


『お呼びですか』

「カルとオートを守れ」

『御意』


姿を現したフェンリルが受け答えをして、ロキたちが馬車から降りれば周りを護衛騎士たちが固めた。

ロキはアンドルフに一言告げて少し先で道を調べているゼロの側へ向かった。


「ゼロ」

「ロキ」

「どうなってる」

「わかりづらい。暗くなってきた……」


夕焼けが空をオレンジに染めている。これでは確かにわかりづらいだろうなとロキは思う。ふとカンテラを作ってカルの方へ掲げて見せた。カルが気が付いて中に光を入れる。


「これで見えるか」

「ああ」


ゼロが詳細を調べ始め、ロキはざっくりと辺りを見回し、足跡がいくつかの種類あることに気が付いた。腹這いに進んだのであろう物もあるが、はっきりと足跡のあるものもあり、けれどロキは最近雨が降っただろうかと足跡を見ながら思うのだ。


北に向かうほど湿気は減っていく。空気は乾燥していくのだ。精霊がいようといまいと緯度が高い場所はどうにも寒いらしい。自分たちの立っているこの場所さえやはり惑星の上にあるらしいことを知って少しほっこりした。


さて、辺りを見回してもそこそこ背丈の高い植物があるにすぎず、木はあまりない。ゼロが顔を上げる。


「ロキ、ここは早く抜けたほうがいいかもしれない」

「近くに何か?」

「魔物が北に集まっている気がする。道中でそもそも遭わな過ぎだった」


ロキはここまでに戦闘した回数を数えて、なるほどと思った。


「カル殿下」

「どうした」

「馬に切り替えましょう」

「?」


ロキは馬車はアイテムボックスにしまっておけばいいのだから、と言う。カルはいきなりのことに驚いていたのだが、魔物にあまり遭わなかったことを鑑みると、と言われて納得した。


「よいのですか」


アンドルフの問いにロキは答える。


「ここから先魔物に遭うことになるだろうね。フェンリルがいるとはいえ遭わな過ぎたし。セト、荷物においてるコウは大丈夫?」

「寝てたわ」

「なら問題ないな。アイテムボックスには生き物は入らないから、起こしておいて」

「おう」


セトがコウを起こせば、コウは寝ぼけたままセトの頭に落ち着いた。重いと言いつつ落とさないセトのバランス感覚はかなりいいのではないだろうか。


カルが仕切る方がいいが、今はロキが仕切ることにする。カルがロキに目配せして全て任せる、と伝えた。


馬車をアイテムボックスにしまい、ロキはフェンリルに、カルたちは馬に乗る。オートはセトの前に乗った。


「ねえロキ、うちの馬って魔物相手に止まっちゃうけど、この馬たちはそうはならないんだよね?」

「ああ。お前がパニックになってセトを巻き込まん限りは安全だ」


万が一にもないだろうがな、とロキがくつくつと笑った。オートはハーイ、と気の抜けた声で返事をし、アンドルフたちが周囲を確認して出発した。



ゼロは正しかったなあ、とオートは思う。現在、先頭をロキとフェンリルが走り、そのあとに続くようにカル、セトとオート、ナタリア、ソルが続き、アンドルフたちが周りを固めて走っていた。後にはウルフ系の魔物が続く。この場合驚くべきは、馬の持久力についてくるというか、先導できるフェンリルの持久力だろうか。


「馬が緊張しちまってるな」

「フェンがいるだけましよ。挟まれてないもの」


後ろを軽く見やりながらセトとソルが言葉を交わす。ゼロが弓を構え、魔力で編み上げた矢を放った。

ロキが時折小さな氷の壁を立ち上げて足止めを図っている。地面を凍らせてみたり、とげのようなものを生やしたり。

バチバチと音がすればアンリエッタが青い魔石を片手に水を浴びせかける。全体の様子を見てセトがロキに言った。


「くそ、振り切るのは無理だ! ロキ、迎え打つぞ!」

「わかった。アンドルフ、騎士を死なせるなよ!」

「はっ」

「一度壁を作る。ナタリア、ソル、間に挟めるか」

「問題ありません」

「いいわよ」


ロキがパッとフェンリルから飛び降りる。


「フェン、遊撃」

『御意』


ロキはぱちんと指を鳴らした。直後、魔物の群れの目の前に透明な氷壁が立ち上がる。中に黒いワイヤーと一直線に炎が広がった。

魔物が勢い余って氷壁に激突し、向こう側が赤く染まった。


「ロキ様、流石ですな」

「奴らの速度ならすぐに回り込んでくる――来たか」


判断が早いやつがいたようだな、とロキは呟いて、再び氷壁を立ち上げる。今度の氷壁はかなり薄いが、複数枚層状になっているようだ。ナタリアとソルが目配せして炎と魔力で作ったワイヤーを氷壁同士の間に丁寧に設置する。


「アンドルフ、最上級火属性精霊(イフリート)を呼べるか」

「何をなさるのですか?」


魔物が再び激突する。


「またすぐにぶつかる魔物はいなくなるだろうから、防衛の方が面倒になると思う。辺りを焼き払って」

「フェンリルは」

「火は効かない、遠慮はいらん」

「承知しました」


ロキの指示を受けてアンドルフが氷の壁の中で契約精霊の最上級火精霊(イフリート)を呼ぶ。金色の炎の身体を持つ少年が姿を現し、アンドルフの指示を受けて氷の壁の中から出て行った。


直後、紅蓮の炎が氷を周りを覆っていった。オートがロキを見上げる。


「ねえロキ、今どの辺?」

「あー……どれくらいだろうな……アンドルフ、俺たち今大体行程のどの辺りにいるのかな?」

「本来ならばもう街に入っているはずでございましたが、そこを飛ばして次の街を目指しています。そこまではあと半日くらいでしょうか。次の街を出発して半日ほどでセネルティエとの国境でございます」


街壁のある街は基本的に門があるが、魔物を振り切ることができずに街に入るのは基本御法度である。門を守っているのが領主の指示で動いている兵ならばいいが、そうではない街も多いのだ。門を破られれば、逃げ場のない街の中の人々は死んでいくだけだ。であるから、魔物に追われている冒険者は基本的にちゃんとした迎撃設備がある街に行け、という話になってくる。


ロキたちが今日立ち寄る予定だった街はそこまでしっかりとした迎撃設備がない街だったので、とばして次の街へ強行軍で進んでいる、というのが実情なのだ。ゼロの勘はよく当たる。言語化できていないだけで、恐らくちゃんとした根拠みたいなものは存在しているのだろう。


それにしても、とロキは騎士たちの方を見やる。騎士たちの中には負傷した者がいた。傷口が黒っぽくなっているのを見て、周りの騎士たちが顔をしかめた。


「お前平民出身か?」

「あ、ああ……」

「まずいな。浄化魔法使える奴いるか」

「一応。やるぞ」


騎士たちの会話にロキとカルが目を見合わせて沈痛な面持ちになる。ロキたちは顔を見合わせ、騎士の傷口を眺めた。


「あれは?」

「瘴気だろう。文献で見たことがある」


文献で見た、程度の知識なのは、もともとリガルディアが瘴気の濃い土地柄と言えるためかもしれない。怪我をしたからといってこんな簡単に肌が黒ずんだりはしなかった。


そもそもこの瘴気というもの自体、魔力の中でも淀んだものだとされている。噴き出すエリアは限定されているが、詳細な理由は知られていない。


魔力の濃度が濃すぎても障るが、それとは明確に一線を貸して表現されるのが、瘴気というものだった。魔力障りは魔力の濃度が低い所へ行って安静にしていればある程度は収まるものだ。治まることがないのが瘴気だった。また、魔力障りは魔力を追加すると余計症状が悪化する。見極めが大事な似たような症状、という扱いであった。


浄化が済んで肌の色が元に戻った騎士は、しばらく休まされることになり、壁の外が静かになってから、ロキたちはゆっくりと移動を再開した。

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