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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
25/376

1-24

2021/08/25 話の内容を大幅に変更しております。

2023/03/23 攻略対象の部分を加筆修正しました。

ロキはゼロが来る前にソルやヴァルノスにデスカルを会わせたかった。しかし魔力循環に体力を奪われ、ロキが次に目を覚ましたのは翌日の夕方ごろで、ソルとヴァルノスにゆっくり手紙を書く暇もなくなっていた。


「アリア、なんかいい方法ない?」

「そうですねえ……」


突然両家に押し掛けるのは礼儀的にどうなんだろうとも思うし、けれどこのままでは自分だけでは処理しきれない情報が出てきてしまう。ロキが手元にあるソルのメモを見下ろした。


ソルからあの茶会の後に貰ったメモには、主だった攻略対象の名と性格傾向が記されている。『イミラブ』の本来の攻略対象は5人で、ハズレ要員が1人、隠しキャラが1人の合計7人。ハズレとは、好感度を一定以上に上げるとバッドエンドに到達する特殊なキャラの事で、ゲーム内で詳細は一切語られないが、何故か別の攻略対象の好感度を上げていてもエンディングをこちらが掻っ攫うことがある、どう考えても何かのパラメータが連動していると思しきキャラである。


一旦ハズレは置いておいて、『イミラブ』のメインヒーローは勿論というべきか、リガルディア王国第2王子カル・ハード・リガルディアである。金髪碧眼の王道の王子様タイプで、文武両道、性格も大らかで優しく、しかし怒るときはちゃんと怒る。属性は光。ロキが誕生日パーティに呼ばなかったせいでおかんむりだとロゼから聞いているので、実際は案外短気かもしれないとロキは思っている。


俺様タイプのエリオ・シード・リガルディア。名前から察せられるが、カルの弟、第3王子である。赤毛に蜂蜜色の瞳で、属性は火だ。魔物が好きで、魔術が好きで、研究者気質らしいのだが、ある時エリオの魔物は暴走し、周辺の者たちを傷付け、それ以来自分に近付く人たちを威嚇し続け、それでも周りから人が引かなかったため俺様に見える形に落ち着いた、というのが真相。


兄貴肌の頼れる先輩、アレクセイ・フックスクロウ。フックスクロウ侯爵家の長男で、ペイルブルーの髪と碧眼、属性は水と氷。ソルの最推しだった男。ロキは、というより高村涼が良く覚えていた。


悪役令嬢の弟、トール・フォンブラウ。フォンブラウ公爵家の三男で、攻略難易度は高め。悪役が本当に悪役ならここまで懐かんだろう、と思えるくらい悪役令嬢である姉に懐いており、またロキが本当に悪役らしい悪役の振る舞いをするルートでもある。彼には婚約者がおらず、ヒロインと結ばれればそれはそれで良い、くらいの反応が返ってくる。髪の色はブルーバイオレット、瞳はサファイアブルー。


『イミラブ』のみならず『イミドラ』も含めたシリーズ屈指のヤンデレ、悪役令嬢の執事、ゼロ・クラッフォン。明日にでも来るかもしれないムゲンとドゥルガーの息子で、こちらも悪役令嬢ロキにかなり懐いており、平民でありながら攻略難易度が高い。黒髪で黄色と赤のオッドアイ。


風属性ながら熱い思いを秘めた熱血漢、騎士爵令息、現騎士団長令息セト・バルフォット。平民と扱いはほとんど変わらない程度の爵位ではあるが、その実家の特殊性もあいまって、ちょっとした冒険ものを見ている気分にもなれるらしいルート。髪は深緑と黒の2色、瞳はファーングリーン。


カルとのフラグはロキが誕生日パーティにカルが来ることを阻止したため第一段階は折れていると思っていいとソルのメモには書いてある。ロキがどうこうできる攻略対象の事が実は3つもあるのでどうにか動いてほしいというのがソルの意見のようだ。


ゲームのストーリーに疎いロキでもわかる関係者はカルとトールとゼロだ。トールが懐いているのは既存事項であるのでロキはどうこうするつもりはない。ヴァルノスとソルの持っていた情報が異なることと、大体ソルの情報であっているのにトールの事はヴァルノスの情報に寄っていたことが少し気になるものの、今のロキには何もできることはない。


「ロキ様、どうしてもお伝えすべきことなら、緊急招集しちゃっていいと思いますよ」

「礼儀的にどうなの?」

「転生者にしかできないことってありますよ。コウモリちゃん飛ばしましょうか?」

「うー……、お願いするよ」


ロキは大人しくアリアの提案に乗ることにした。どちらにせよあの2人、できればロゼとも情報共有はしておかなければならない。

ロゼ、ヴァルノス、ソルに向けて手紙を書き、アリアに任せる。コウモリは緊急性の高い手紙の時に使う使い魔なので、昼間で申し訳ないが飛んで行ってもらうことにした。



「よう、アーニー! 相変わらず忙しそうだな!」

「……ロギア。そう思うなら手伝え、お前の分の書類も俺に回ってくるのはどうにかできんのか」

「そいつぁ無理な相談だ! 俺はお前ほど頭は回らんからな!」


茶金の髪にエメラルドの瞳の男が笑う。アーノルドは突然の来客に目を丸くしたが、ロキがコウモリで手紙を出していると伝えていたのでその中にロッティ公爵家があったのだろうと想像できた。ロキが体調を崩したためアーノルドは在宅勤務中である。


ロキが応接間で呼んだ3人を待っている間、アーノルドは応接間で一緒に客人たちを待っていた。上等な革張りのソファにロキとデスカルが座って待機している。デスカルも王族に引けを取らぬほど人間の、というか貴族文化のマナーに精通していて、ロキはデスカルの所作についてあれこれ質問していた。


「お前が来ているということは、ロゼ嬢も来ているんだな」

「ああ、でもロキ嬢にプレゼントがあるって言ってた」

「娘を放置してくるな大馬鹿者」


アーノルドが持ってきた簡易机の傍にロギア用に丸椅子が置かれる。ロギアが座るとアーノルドは何も言わずにロギアの前にロギアの分だった書類を置く。アーノルドがまとめて処理しているが、ドワーフの自治区やエルフの自治区とのやり取りはロギアに任せるべきだという判断からだ。じきにロゼが小箱を抱えて応接間に入ってきた。


「ロキ様、お誘いありがとうございます」

「いえ、こちらこそ、急に呼び立ててしまって、ごめんなさいね」

「いえいえ、こればっかりは1人で対処できることには限りがございますもの」


ロキはカッターシャツに紺のスラックスと細いベルトを着けているだけだ。いっそ凛々しささえ感じる。ロゼはモスグリーンに白と黒でアクセントの入ったドレス姿だ。


「ロゼ様、落ち着いた色が似合いますね」

「ロキ様こそ、色が少ない方がラズベリルが際立ちますね」


2人がフフと笑い合って、これプレゼントです、開けてくださいな、とロゼが小箱を渡す。ロキは小箱を受け取って開ける。中には精巧な銀細工のペンダント。中央にはエメラルドがはめ込まれている。


「エルフの祈り石と、ドワーフの銀細工ですか?」

「ええ、本当はお渡しするのはもう少し先の予定だったのですけれど、あまり先延ばしにすると本当に必要な時に貴方の手元にないかもしれないから」


ロゼがはにかむ。ロキはドワーフとエルフの仲の悪さを伝え聞いているので驚いた。


「よく両者が頷きましたね?」

「……そのことも含めて、話がしたいの」

「……分かりました」


何か事情があったようだ。デスカルがちらとロキが手荷物箱の中身を見やって、目を細めた。


「あら、其方の傭兵さんは何か御存知のようですね」

「ロゼ様、彼女上位者ですよ」

「あら。風精霊だとはわかっていましたけれど、上位者ですか。実はエルフが頂く風怪鳥フレイライカだったりして」

「そうだけど?」

「「えっ」」


なんだよ、とデスカルが少し呆れたような表情をする。ロゼが頬に手を当ててそのままふるえている。ロキも驚いて目を見開いているのだが、ロキの場合はアツシの正体に気付きつつあったが故というのもある。


「俺の知り合いがエルフの族長やってる。大方そっちから情報が行ったんだろ」

「あ、あとでその辺りの事も聞かせていただきますわよ!」

「ん、了解」


丁度アリアが応接間のドアをノックした。ヴァルノスとソルの王都邸宅は茶会の日以来転移ゲートで直通になっているので、準備に少し時間をかけたようだ。カイゼル伯爵家は夫人とヴァルノス、セーリス男爵家は男爵とソルが来ていた。


「おー、皆呼ばれたんだな! レベッカ夫人も、御健勝そうで何より」

「ロキ君、娘を招待してくれてありがとうね。ロギア公爵、貴方ちょっとはアーノルド公爵を見習ったらどうなの?」

「ロキ君、娘をお招きいただいて感謝するよ。今後ともよろしくね」


何ともカオスである。ヴァルノスとソルが苦笑しながら挨拶をして、それぞれソファに座った。


「大人はこっちだ、今日のメインは子供たちだからな」


ガルーが大人たち用に丸椅子を用意しているのを見ていたロキは、全員丸椅子なのか……とちょっと驚いた。とりあえず全員貴族なんだけど。普通に丸椅子にそのまま座っているし。


「……貴族ってもっとふんぞり返ってるイメージあるわよね」

「それな……」

「うちは想像通りの貧乏貴族かなぁ」

「装飾が多いのは応接間くらいよね」


ロキは応接間の内装を見渡す。この部屋には絵画が何枚か飾られているが、他の部屋には絵画などなく、置物や花瓶の方が多い。ロキの部屋も花瓶が1つあるだけであとは絨毯くらいなので、そもそもあまり華美なのものが好まれない国家なんだろうなと想像がつく。


『……さて、こっからは日本語のお時間だ。まずは仕切って悪いが、ネイヴァス傭兵団第3部隊隊長デスカル・ブラックオニキスだ。手短に行くぞ』


デスカルが日本語で名乗ったことで空気が引き締まる。ロゼ、ヴァルノス、ソルの順で前世の名も紹介したところで、全員メモを取り出す。ロキだけ鉛筆を持っていることに気付いて全員それを欲しがるハプニングはあったものの、順調に話し合いがスタートした。


『まずは今回の経緯だけど、手紙で書いたとおり、デスカルが持っている情報が俺だけでは処理しきれないと判断した』

『本当は竜の小僧(ゼロ)も居た方が良いんだがな』

『俺の発案当時何も言わなかったじゃないか。まだ来てないぞ』

『まだ忘れてるだろうなと思っただけだ。これから俺があんたたちに伝えることは、あんたたちのオタク脳を使えば理解は早かろうよ。心して聞け』


デスカルの物言いは、彼女が精霊であることを理解すればこそ、許されるものだ。しかしそちらの方が端的に言う事が出来て伝わりやすいのもまた事実。


『この世界を作っている世界樹。アヴリオスという名だ。この世界樹が、この世界のループを認めている』

『ループ?』

『繰り返してるってこと?』

『ああ』

『あ……』


ソルとヴァルノスは疑問符を大量に浮かべているが、ロゼは何かに気付いたようだ。


『ロゼ嬢、居ただろう、エルフにもドワーフにも。何か言ってる奴が』

『……居たわ、居たわよ。そのことを相談しようと思って来たのよ』


ソルとヴァルノスは少し考えていたが、ループしていると上位者が言うならそうなんだろう、という何とも言えない順応の早さを見せた。


『よし、とりあえず受け止めたな』

『なんかループって言うとリゼ〇思い出すけど』

『ああいう局所ループじゃない。時間は戻らねえ、無かったことにはならない』

『どちらかというと、某魔法少女が近いかしら?』

『理解はしやすいだろうが、原理が違うので近いとはいえんな』


日本のアニメ文化に明るいなこいつという感想を飲み込んで、ロキはソル、ヴァルノス、デスカルを中心とした会話を聞いている。


『ただし、期間は20年から100年。お前さんらの世代が現役の間はいつでもループの可能性がある』

『『『えっ』』』


ロゼも声を上げた。ロキは一度聞いているので何も言わなかったが、ソルとヴァルノスがロキを見る。ロキは2人と茶会で話したことが現実味を帯びていることを頷きで肯定した。


『つまり、あのゲームってロキ様が悪役なんじゃなくて』

『ループの複数ルートを描いたもの……?』

『……流石、2()()()は理解が早くて助かるねえ』

『『『『!!!』』』』


4人とも驚いたのは言うまでもないだろう。後方でも音がしたのでアーノルドたちもこちらの話を聞いているのは明白だ。


『……前回も同じ話をしたってことか』

『戦争直前だったから、手短にだがな。いろいろとデジャヴュを感じることも多いと思う、特に、ソル嬢とロゼ嬢はな』

『あら、何かあるの?』

『あんたら基本その身体だからね。ヴァルノス嬢は、俺は実はその身体で会ったのは初めてだ』


また新しい情報が出てきた、とロキはぼやいた。ロゼが口を開く。


『……ヴァルノスもカイゼル夫人も居る前で言うのはちょっとあれだけど……カイゼル家の嫡子は、死産のはずよ』

『無〇転生か?』

『何それ』

『あー、鈴木はハーレムもの嫌いだったな……すまん』

『ハーレム系の異世界転生ものね、理解したわ』


デスカルが小さく息を吐いて口を開く。


『端的に言うのであれば、魂が離れてすぐの、死にきってない身体に別の魂が入り込んだ。ヴァルノス嬢、あんたアイテムボックス使えないだろう?』

『! ええ、使えないわ。関係あるの?』

『身体の持ってるアイテムボックスの所在に、別の魂からではアクセスできないんだ。だから、前世を覚えていないだけで、魔力があってアイテムボックスが使えない奴は中身は別人だ』


ちょっとぞっとする話でもある。ちらと大人たちを見れば、少し不安げにカイゼル夫人がこちらを見ていた。


『前回久留実が入っていたのはどこの子だ?』

『名前は覚えてないが、平民だったと思うぞ』


ヴァルノス――松橋久留実は文字通り転生先が動くのだろう。頭を鈍器で思い切り殴られたような気分だ。


『で、この世界がループしてんのは分かったけど、それをどうにかしろってこと?』

『まあ、そうなるな。ループに上位者が巻き込まれたんだ。このままループを続けると、アヴリオスの幹が折れる』

『はあ!? 何それ!?』


デスカルはどうやら世界の心配をしているようだ。ソルは上位者である彼女がまさかロキのために腰を上げたとでも思ったのだろうか。いやはや、そこまでロキは自惚れてもいなければ、ソルがそう思う根拠などどこにもなかったと考えた。


『世界の心配なんてされたって私たちに実感が湧くわけないでしょ。そんなんで協力しろって?』

『世界が崩壊したらどうせ皆死ぬ。この崩壊は止めなきゃいかん。そして、ループも、だ。世界樹の箱庭の中は時間が巻き戻ってても、世界樹そのものの時間が戻るわけじゃない。今こうしている間も、世界樹はただその寿命をすり減らしている』

『……』


そんなことを言われたって、分からないものは分からないのである。ソルは考え込んでしまった。ロキは、何となく冷めた目でデスカルを見ている。


『……なんだい、ロキ』

『……いや、何で俺たちがどうこうする前提で話しているんだろうと思ってな』

『……ああ、そっか。そこを言ってなかったな』


デスカルはとても素直でいい奴なのだろう、話しぶりから見てこの率直な物言い、嘘や難しい言い回しは苦手なのは想像に難くなかった。


『……ロキ、お前さんが世界樹の支柱だからだ。アヴリオスが折れたら、お前は人柱になる。人々はそれを望むだろう。まともに扱われることなんてない。……この先は色々と言えんぞ! 俺はまだお前のスレイプニルに蹴られる覚悟は無いんだ!』


ああ、隠し事もまた苦手なのか。優しい奴だなと思いながら、ロキはニコリと笑みを浮かべる。


『まだ俺はスレイプニルに会ったことなどないが、それは置いておこう。その言い草だと見て来た様な?』

『チラ見した時にお前吊られてたからな』


我が兄ながら情けない、とデスカルが呟く。ロゼがそれを拾い上げた。


『あら、どうして貴女のお兄様がそこで出て来るんですの? 貴女が風怪鳥フレイライカとするなら、兄君は氷怪鳥ライフレイカでしょうか。氷属性ならロキ様とも相性がよろしいですわね』

『あーもーしっかり貴族しやがって! そうだよ、不肖我が兄ライフレイカがロキと契約を結んでいたことがある! でもどれだけ戦火を逃れたところで人間の欲なんざ無限に膨れる、受け止められるわけない。そうやって求められて人柱になった。世界樹を引きちぎるほどの捩じ切る引力に晒されながら、ロキ自身の次の柱を作らないために耐え抜いた』


惨い、とヴァルノスが呟いた。ロキは、ロキ神の神話みたいだ、と思った。地底に押し込められて、引き裂かれた息子の腸が変じた鎖でつながれて、毒を吐きかけてくる蛇の毒に苛まれながら、ラグナロクで解放されるのを待ちわびる霜の巨人。


誰かの喉が鳴る。


『それで、その後はどうなったの』


ソルの問いに、デスカルは小さく息を吐いた。


『ループの元凶が()()()()()()()()()から、その世界はそのままだ。とはいえ世界の殻の方が耐えられなくて、支柱になったロキが守れた箱庭だけが残ってる。住人は、ロキ本人と従者くらいかな』


あーあ言っちまった、とデスカルはソファに沈み込む。


『……デスカル、その世界のロキに、母親は、居たのか』


ロキの問いにデスカルは小さく頷いた。


『言っただろう、別の世界線に跳んだって。ロキ、この世界線はお前さんが母親を喪った世界が根底にある。これから先もいろいろと悩まされることは多いと思うが、それは今のお前の現実じゃないと覚えておけ。……さっきそこの嬢ちゃんたちも言っていたが、ゲームに反映されている世界線は少なくともこの世界線の話で、全部ループの選択肢だから、お前さんらが知っているのは未来じゃなく、過去の話ってことになる。だが世界に起こる大まかな事件はゲーム通りだ。それ以外にもいろいろと起きてるから、うまく回避しな』


デスカルが身体を起こす。投げっぱなしの意見は、それでもロキが拾い上げる。


『わかった』

『……お嬢ちゃんたち、この通り、ロキは抱え込みやすいんだ』

『納得したわ』

『支柱だから?』

『いや、人刃だからだ』

『うわー、どうしようもないじゃん』


ロキは自分が呆れられたことには理解が及んだが、ソルたちが何に呆れているのかは理解できなかったようで、首を傾げた。


『とりあえず、ループを回避しなきゃせっかく仲良くなったロキ様がめちゃくちゃ大変な目に遭うのは分かったけれど、具体的にはどうすれば良いのよ? しかも上位者様は力を貸してはくれないわけ?』

『ゲームでうまく対処しただろうが。トゥルーエンドを目指しな。あれが一番最初の普通のルートだ。そして俺たち上位者はアヴリオスの管轄下にはない、よって精霊召喚・契約によって初めて直接世界への干渉権を得る。お嬢ちゃんたちが俺たちと契約したら、手を貸してやるよ』


精霊召喚ができるのは中等部に上がってからだ。そもそも現状ソルもヴァルノスもロゼも魔力を扱うことができない。既に魔力が発現しているロキがおかしいだけなのだ。


『先が長いわよ!』

『まあまあ、言ったろ、ループの期間というか周期は基本的に20年から100年の間だ。お前さんたちが20歳になって初めてループの可能性が出て来る。それまでが準備期間だが、本格的にループの元凶と会えるのは高等部上がってからだと思う。今まではそうだった』

『あと10年あるわね』

『まだ魔力も使えないうちからこんな話してるなんて信じられないわね』


ロキはそろそろアーノルドにツッコミを入れたい。さっきからペンの音が1ミリもしない。こっちの話聞いてて仕事できてないなと思うのは致し方ないだろう。


『ま、何はともあれ、俺はロキが精霊を見れないのを何とかせにゃならん。人間社会のことは人間に任せる』


ああ、だからわざわざ大人を追い出さずにそこに留めていたのかと納得して、ソルは分かったと頷いた。


「んじゃ、あとは頼む。ロキはまずは魔力の流れをきちんと整理してみないと。最悪火竜を呼ぶけどな」

「あ、燃やされる流れかこれ」

「上位者の炎は炎耐性が高くても燃えるからな。俺たちが付いている時しかできないから早く目処付けたいんだよ」


後は、と細々した情報の交換をして、令嬢たちが、ロキを守るぞ!という意気込みに溢れたころ。ロキの頭をデスカルが撫でて、呟くように言った。


「ガキの頃くらい守られてやれ、ロキ。お前に守られた俺が言えた義理じゃないがね」


風が揺らぎ、周りに聞こえない言葉だったことを理解する。結晶時計を見るとおよそ夜8時くらいを指しており、ご飯食べていくか、という話になり、皆で食堂に移動した。ムゲンのために食材をかなり集めていたので大人数が来た程度になら対応できるとアーノルドが言った。


この後大人たちの秘密会議が持たれたのは言うまでもないことだが、議題の半分くらいはうちの子可愛い、であったことは、ロキたちの与り知らぬ事である。


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