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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
249/376

10-3

2025/04/17 編集しました。

夜風にあたると言ったロキは言葉の通り、テラスに出て、ついてきたカル、セト、ナタリア、ソルの前でへらりと笑って見せた。


「ちょっとばかり怖かった話をしてもいいかい?」


いいぞ、とカルが答えれば、ロキは虚空――アイテムボックスからスッと刀を取り出す。


「……人を殺したことはないはずなのに、殺したことを身体が覚えているというのは、なかなかに怖い事だね」


出立前のパーティでの一件であろう。ロキはそこで初めて()()の命を奪っていた。

そしておそらく今までのループの結果殺しの感覚が身体に残っていると、そういうことを言っているのだろうな、と。


ナタリアがそっと口を開いた。


「記憶がないが故の恐怖、ですか」

「……ああ。多分、そういうことだろうね。無意識に誰かを殺した可能性を提示されている気分だ。夢の中でなら何度も殺しはしたけれどね」


ロキの言葉に、はたとカルは気付いた。

気付いてしまった。

気付いているべきだったことに、今更。


「……」


ロキは、殺す側であり、殺される側である。

カルを殺したこともあるだろうが、それ以前に、裏切られ、ラグナロクの引き金を引く役目を担い、世界をまるっと救って消えていく英雄であった。それを英雄と称するのは、ループがあったが故の話。


こんな英雄がいてたまるかと夢の中の自分たちは叫んでいたけれども、今の自分たちは夢として見ているが故に、重ねてちゃんと気付いていなければならなかった。


ロキは一人だった。ラグナロクの時は特に単独行動だっただろう。どれだけ寂しかっただろうか。夢の中で延々と繰り返される裏切りと葛藤は、大衆と化したカルたちに想像などつきはしないのである。


事件を自分が起こすことがわかっているというのは、どんな気分だろう。

本心を曝け出したくても公爵令息という立場上それが許されないロキに、本心を話せだの腹を割って話そうだの表情を取り繕うのをやめろだの、口だけでそういう場を用意すらしないのは傲慢にもほどがあったのではないか。


ソルが少し眉根を寄せたが、息を吐いてこう言った。


「私は謝らないからね。間違ってるとは思わないし、必要なことだと思うし」

「ソル嬢……!」


思わず咎めるような口調になったカルに、ソルはハン、と鼻で嗤って見せる。


「そもそもそんなことにならなきゃいいのよ。カル殿下、御自分が間違われたら殺す権利をロキに与えるとかどうです? 最高のストッパーでは?」

「ぐっ……」


そもそも誰が間違っているのかと言われれば、きっとそれは王族としての重責から無意識に逃げたがっているカルであるから。カルさえ流されなければ、ロキが敵に回ることもないのだということは、夢を見ていけばなんとなくわかっていた。セトが口を開く。


「ロキ、お前、やっぱり殺しは怖いか?」

「いいや、と言いたいけど……それは無理だな。殺すのは怖いよ。でも、殺したならばその後も生きていくのが勝者の務めだろう。立たねばならない、間違ってはならない、それが貴族であり、公爵家である、と」


こんなところか、とセトの言葉に答えたロキは言った。

セトはロキがあっさりと魔物を屠る姿を見ている。人間相手にもむしゃくしゃしていれば容赦なく人刃の拳を叩き込む姿も知っている。


だからこそ、なんだか、人を殺すことに恐怖を感じているロキが、人間らしく思えたのである。


「魔物相手なら容赦ねえのにな」

「魔物と人間を完全に分けて考えているだけだろうよ」

「お前も半分魔物に突っ込んでるけどな」


セトが笑えばロキもつられたように薄い笑みを浮かべた。

まだ冷たい風が5人の髪を揺らしていく。


「怖い夢、もう見ないといいけどなあ……」

「いやー、まだあるだろあれは。でも割とマジで、ロキの公開処刑はもうないことを祈りたい」

「酷い時には寝不足になるからやめてほしいわ……」


ナタリアは夢を見ないので苦笑を浮かべていた。

まあ大丈夫では、とナタリアが自信のかけらもない言葉を紡いだ。


「どっからくるのよその言葉……」

「なんとなくですけれどね。なんか大丈夫な気がします」


結局何の根拠もないのだけれども、ずっとうじうじ悩んでいるよりはずっとましだろうと結論付けて、ロキたちはそこで会話を切り上げて部屋に戻るため屋内へ入った。



オートが布団に興味を持ったためベッドに荷物を放り投げて、ロキとゼロの方にやってきた。セトとカルは呆れていたけれども、オートの姿に癒されるのも事実である。ロキが薄い表情の中で口元を綻ばせているのが、オートがここに居ることを肯定していた。


布団って硬いんだね、とオートが言う。ロキはそうだな、とオートに返す。障子をゼロが閉めて見せると、セトが明かりを消して月光のみが明かりとなった。


「わー、きれー……」


オートはモノクルを外している。髪も結んではいないから女の子に見えるといったロキの言葉はあながち間違いではないだろう。ロキは畳と障子の暗い部屋の中で、懐かしさを感じていた。


前世の実家がこんなだったなあ、と思い出しながらその風景を眺める。オートがロキの方を見て、ロキの手を引いた。


「?」

「ここ開けるよ!」


障子を開けて、カルとセトも中に入れ、と言って、ロキはオートが何をしたいのかわからなかったのだが、カルとセトが中に入ってきてオートが障子を閉めると、ロキは柔らかな月光に照らされた。


「ロキの目ってキラキラしてるんだな」

「……そうなのか」

「うん」


セトの感想にロキは鏡を探す。ゼロが鏡をロキに見せた。キラキラした目がそこにあった。うっすらと差し込んだ光を取り込んでいるらしい。色の異なる宝石の性質を持っているようで、むず痒い。


「俺の目はペリドットじゃないんだがな……」

「ゼロの目はぎらついてて怖いし、ロキくらいがいい」

「……オート・フュンフ、流石に俺でも傷つく」

「えっ、ごめん?」


怖いのか、俺、とゼロが呻いた。ロキが目を細めて笑う。


障子を開けてセトとカルがベッドに戻る。差し込んだ月光でロキの銀髪が煌いた。


「おお、すげえな」

「……」

「ロキの髪だよ。こんなキラキラしてたんだな、ロキって」


カルが苦笑を浮かべて、オートの頭を撫でる。


「美しすぎるものは、儚く見えるものだと母上が言っておられたが……本当だな」

「なんで僕を撫でるんですかー!」

「ロキは同級生に撫でられる感じじゃないだろう?」

「にゃー!」

「うお、」


オートが抗議らしき声を上げた。ロキは覆い被さるように背中から抱き着いてきたゼロに驚いて前屈みになる。


「ははは、ゼロにとっちゃ目に毒だったか」

「そろそろ寝るかー」


カルとセトがおやすみ、と言って障子を閉めてベッドに戻っていった。ロキも布団に戻ることにする。少し離して敷いている布団をオートがくっつけ始めたのでまあそれもいいかとロキはゼロを引っぺがし布団に入る。


オートはゼロとロキの間に入ってきたのでそのまま。

ゼロがしばらく動いていたが気にせず目を閉じた。


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