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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年春休み編
248/376

10-2

2025/04/17 加筆・修正しました。

夕食を食べ終え、温泉にやってきたロキたちは温泉にはしゃぐオートを捕まえつつ風呂に入った。


「あー!」

「頼むから走らんでくれ」

「えー」


オートはすっかりロキたちに慣れ、はっちゃけた性格を遺憾なく発揮している。ロキはオートの髪を引っ張るという非情なことをしながらオートを引き留めていた。実際足元は石畳みたいな状態であるし、こけて頭でも打ったら目も当てられない。


前世の知識の方が近い構造をした温泉に少しひやりとしながらロキはオートを近くのブースに座らせる。ロキたちが先に入り始めてはいるが、この温泉、混浴である。じきにソルとナタリアも来るだろう。


前世と感覚が離れてきているとはいえ、混浴だとドキッとするのは、上流貴族子弟として色々と叩き込まれているからだろうか。用意された手桶に汲む専用のお湯を汲んでブースに入る。横のブースに来たカルはオートの髪を洗い始めたロキを眺めて口を開いた。


「よく他人の髪を洗う気になるな?」

「こいつのが極端に長く感じるから余計に、かな」

「なにおう! 僕の髪ロキとそんなかわんないよ!」

「なら身長の問題だな。もうちょいどうにかならんか」

「上の方で結んでるよ!」

「あー、それでやたら落ちてきてるのか」


雑談しながらオートの青緑の髪を丁寧に洗う。普段から自分で洗ってるから大丈夫だよ、とオートは言うが、それはオートの従者がついてきているときに言っていい台詞である。今回は居ないのでオートが使うケア用品の使い方などロキには分からない。


「ねーロキ、大丈夫だってばぁ」

「俺はお前が持たされてるケア用品の使い方知らねえのよ。今回ザカリーさん居ないでしょ、自分でケアしろよ」

「うぉあん、そうだった!」


はい、目を瞑って、とロキが声を掛けるとオートはしっかりぎゅっと目を瞑った。カルがくすくす笑いながら桶をもう1つ使ってお湯を汲んで来てくれる。ありがとう、とカルに礼を述べてロキはじゃばじゃばとオートの髪の泡を流した。ロキの髪もなかなか長いので洗うのは大変だが、そこはゼロがやるだろう。


「オート、あんまりはしゃぐとこけて頭打つわよ」

「えー」


ソルとナタリアがやって来たらしい。バスタオルを胸の辺りから巻いている。なお、混浴とはいえ湯船は一応男女で分かれていた。貸し切りという事でもないので他の客もいる。


オートに身体くらい洗えるだろ、と言って解放し、ロキ自身も身体を洗う。ゼロが自分の身体を洗う前にロキの所に来たようで、手桶にお湯を汲んで待機している気配がした。ロキがざっと身体を流したところでゼロが声を掛けてくる。


「ロキ、髪洗う」

「おう、任せた」

「ん、じゃあロキ、カル殿下の髪洗う時呼びなさいな」

「おう」


ソルは先に身体を洗って待機してくれた。

ロキもゼロがロキにストレスを掛けないように髪を洗ってくれるのに任せ、終わったらカルの髪と身体を洗う。カルは髪を洗うのが苦手と自称するくらい髪の管理が苦手で、割とシドがロキの髪と一緒に管理していた節がある。今回はロキとソルがその役を担うことになった。磨かれることに慣れ過ぎているので高等部では苦労しそうだ、とロキが言うと洗う練習しよ、なんてか細く聞こえてきた。


一通り洗い終わったら泡を流して、湯船に浸かる。オートが泳ごうとするのを止めているセトがオートのせっかく洗った髪がお湯に浸かるのを気にしていないようだった。


「ちょっとオート様、髪の毛湯船につけないでくださいー」

「ほえ? ごめんなさい」


仕切られているとはいえ完全に分かれているわけではないので気になったのだろう、先に浸かっていたナタリアの言葉にオートがおとなしく泳ぐをのやめた。泳ぎたかったと目が語っているがロキも許す気はない。ロキとソルがカルの髪もタオルでまとめ上げてしまったのを見て、オートは目を丸くしていた。


ロキが一足先に湯船に浸かっていると、横に来たカルがロキの身体を見て小さく声を上げる。


「?」

「お前こんなに傷多かったか?」

「――ああ、」


ロキはカルの指摘を受けて身体を見下ろし、もうとっくに塞がった沢山の傷を眺めた。

こんなに自分の身体はぼろぼろに見えるものだっただろうか。不思議なものだなと視線を上げると、ナタリアと目が合った。


「ロキ様もうちょっと自分の身体を顧みたらいかがです?」

「なんでこうなったのか全く俺にはわからんのだが?」

「ついでに留学モードに入って表情作り始めたのもやめてほしいわー」

「ソルのそれは認めんぞ」


ロキの返しにナタリアとソルが笑った。ロキが表情を作るのは今に始まったことでもなし、気にしたら負けだ。


「ロキ様が無表情なんだってことにもはや我々は気付けなくなりつつあります」

「それな」

「オートも読めてたよな」

「うん?」


オートは首をかしげたが、セトやカルはロキの無表情を読めるようになった自分に何か達成感を改めて感じていたりする。ゼロは会話に入ってこずに湯船でゆっくり疲れを癒していた。


「触っていい?」

「構わないけど……見ていて気分のいいものでもないんじゃないか?」

「へーきへーき」


傍に寄って来たオートがロキの腕の傷をなぞる。傷と言っても若干跡が残っている程度のものではあるのだが、それにしても多い。それが実家で訓練していて付いたものだという事実は何となくこの場にいる5人とも察していた。


「でもお肌すべすべだよ」

「余計痛々しいわ」


ロキの正確な突込みにナタリアが噴出したのは悪くないと信じたい。



温泉から上がると、クーラーボックスが置いてあって、そこにコイン入れがあって、金を入れるとクーラーボックスが開くらしい。オートが目をきらめかせていたので、ロキは声をかけた。


「飲むか?」

「うん!」


この留学についてきた中で最も天真爛漫を絵にかいたような男であるオートの笑顔に、ロキは「平和だなあ」と思う。大銅貨を1枚入れて牛乳瓶を2本取り出した。


おつりの小銅貨1枚が返ってきて「自販機……!?」と驚愕したのは致し方あるまい。

転生者がなんぞ作ったのだろうと思いつつロキは釣銭を受け取り、オートに牛乳を渡す。オートは牛乳瓶を受け取ると、腰に手を当てて飲み始めた。


笑ってしまったロキは悪くないだろう。銭湯に来た気分である。まあ事実、今はホテルのようなところにいるわけだが。

ロキは両手で瓶を持って椅子に座り、飲み干す。


「……ロキ、女の子みたい」

「なんだと」


オートの言葉にロキが少しうなだれた。自然とそうしてしまっただけだったのだが、女の子みたいと言われてしまえば、そうなのだろうなあと思うロキである。

だが、腰に手を当てて牛乳を飲み干しているオートには言われたくない。


微妙に地球の現代らしさのある文化にロキは笑いつつ、上がってきたソルたちがロキとオートを見て目を丸くしたので瓶を揺らして見せた。


「どこの銭湯よ?」

「知らんな。そこにあったぞ」

「コーヒー牛乳あるんですけど」

「実は向こうにアイスがあったりするよ」

「食べたい」


ナタリアの言葉でソルがそちらに顔を向けた。

早く着替えろ、とゼロが悲鳴に近い声を上げたのでしぶしぶオートとロキが着替え始める。

2人どころかナタリアとソルまでタオルを巻いただけの状態なのだからまあ、そうなるのも仕方あるまい。


ロキがちゃっちゃと魔術で全員の髪をまとめて乾かし、浴衣に着替えた。イミットが多く利用することが伺えるのだが、ロキは何も言わずさっさと着る。オートは着方がわからず、ロキを見上げていた。


オートに浴衣を着せて、ぼんやりしていたロキははて、と首を傾げた。


「……オート、お前女だったっけ……?」

「僕は男だよ!? 真面目な顔してなんてこと言うのさ!」


髪が下りてるからわからなくなっただけでしょ、とソルが笑った。カルとセトの着付けも終えたところで、6人で部屋への帰路にある売店へ足を運び、アイスを買う。


「シャーベットある」

「普通にアイスクリームもあるの。あ、私これ食べよ」


ナタリアは球体のアイスが入れられているカップを手に取った。青緑とクリーム色のアイスである。


「チョコミントとかあったの!?」

「なんか、ここに卸してる商会が個別に結んでる契約らしいけどね。たしか、ワーナー商会だったかな」


ワーナー、と小さくロキは呟いた。


「嗜好品を取り扱っている商会だな。ここにきて名を聞くことになるとは」


ロキが目を細めれば、ナタリアは苦笑し、ほら、と適当にアイスを取る。


「ボーっとしてたら私が選んじゃいますよ、ロキ様」

「それは困る。葡萄がいい」

「はいはい」


ナタリアはアイスを持ち替えてカウンターへと向かった。オートが抹茶アイスを選び、カルは不思議そうにソーダシャーベットを、セトはイチゴのアイスクリームを、ソルはオレンジシャーベットを、ゼロは桃のシャーベットを選ぶ。近くにテーブルがあり、そこで食べ始めた。


「あ、おいしい!」

「こりゃ転生者ですな」

「どっかで保護されているといいけど」

「知ったこっちゃねえな」

「そういえばロキもシャーベット作ってたわね。簡単なのかしら?」


窓の外を眺める。擦りガラスと透明なガラスの間のようなガラスを通して、空はもうすっかり濃紺に染まっていた。


「……修学旅行思い出すなあ」

「確かに」

「シュウガクリョコウ? なんだそれは?」

「勉強のための旅行、って言えばいいんですかね。ある学年で遠い地域に飛ぶんですよ。旅行と変わらないことも多いけど、戦争の傷跡とか、そういうのを見せて『二度と戦争なんてしないようにしましょうね』とかいうの」


カルが問えばソルがそのまま答える。転生してからまざまざと突き付けられた現実は、転生当初のソルたちならば耐えられなかったのではないだろうか。そんな甘えたことを貴族が、しかも実のところ戦闘担当のフォンブラウ子飼いの男爵家であるセーリスが、言えるはずはないのだけれども。


「平和な世界だったのだな」

「遠いところではまだ戦争あってましたけれどね。それに、敗戦国でしたし」

「負けてたのか」

「そうですね。ロキがフォンブラウにしてはおとなしいのも多分その辺のせいですよ?」


超平和でしたから、とソルは言い、ロキは小さく頷いた。


「格闘訓練はできるのに人を殺せないのと同じです。……まあ、もう吹っ切れました。あれが悪いことだったとは思っていませんから」


ロキはシャーベットを食べ終えて立ち上がる。ゼロがそれに反応して立ち上がり、食べ終えたカップを回収してゴミ箱へ持って行った。


「俺は少し夜風にあたってきます」

「俺も行こう」


カルが立ち上がる。

セトだけ残り、ゼロはオートとともに部屋に戻ることになった。


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