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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
242/375

9-21

2025/04/07 編集しました。

ロキは向かってきた5人ほどの黒服の中に白い髪を見つけた。一瞬目が見えて、それが浅い赤の瞳であるのを確認した。


「トール」

「はい、ロキ兄様」

「奥にいるあれが神子だ。俺はあれをやるよ。向こうの障壁を割れ」

「はい!」


トールが虚空から呼び出した長柄鎚を構えて飛び出していく。ロゼが金色の炎を辺りに広げた。


「たぶん打ち消されるけど、やめないでね」

「ええ、そこは大丈夫。殺す覚悟はあるわよ」

「……向こうの首は、炭化する前に取ってあげようか」

「そうね」


ロキとロゼは短い言葉を交わす。エミリア王妹殿下を連想することから、神子に手を出せない貴族は少数だが存在している。ロキたちはそれではないだけだ。


ロキが虚空から刀を呼び出し、鞘から抜き放つ。ロキが張った魔力障壁にぶち当たったとたん神子がそれを打ち消した。雷を纏ったトールの鎚はたやすく相手の魔力障壁を破砕する。続けて放った連撃を黒服の1人が受け止めた。


「――堅いっ!」

「掴まれるな、魔術も使え!」


トールの声にロキが素早く声をかける。大人たちのほうで光の柱が突き立った。レオンの父親、ランベルト・クローディだろう。


大人が押し込まれている。神子のせいであろう。ロキは小さく息を吐く。何人いるのかわからない。ならば。


「父上――!!」


ロキが声を上げる。アーノルドがロキを見た。


「30秒」


ロキはそれだけ言って、神子に切りかかった。

アーノルドは目の前の敵に視線を戻して、ニヤ、と笑う。


「30秒後に形勢逆転らしいぞ?」


炎と氷は風に吹き荒れ、鋼が多くの命を絶った。



子供に荷が重いと判断された敵を、子供たちを背に庇った母親たちがさばいていく。戦闘に慣れている第2王妃ブリュンヒルデがそのアイスブルーの髪を振り乱して槍を振るっていた。


「抜かれた!」

「ロキちゃん!」


スクルドは軽く振り返っただけで息子に後を託す。ロキは改めて魔力障壁を確認し、そして身体強化を前衛と分かっている者たちに掛けていった。どれだけ母たちの壁を越えたところで、子供たちを守るためにロキという、アーノルドがバスタードソードでは倒せないような子供がいるのである。そしてロキは1人でそこに立っているわけではないから、スクルドはそれ以上何かを言うのは止めていた。


「やあっ!」

「……」


ロキに切り掛かってきた神子はロキが受け止めやすい場所にばかり打ち込んできた。

神子本人はそこまで強くなかったと見える。魔力障壁を消した分体力の消耗もあったのだろうけれども、ロキがタックルを仕掛けただけで案外簡単に吹き飛んだ。ロキは細身だが進化個体だ。その辺の平民出身の神子なんかには負けない。


ナイフを持っていたが蹴って払う。引き倒してそのまま右腕を踏みつけ、左腕に刀を突きさせば苦悶の表情を浮かべた。


「容赦ないな」

「殺しに来たくせにどの口が言う?」

「殺しに来たんじゃないよ」


少年の声だった。フードをとると、白い髪が見える。


「アサシン適性は低そうだな」

「うん」

「何故来た」

「君を迎えに来たんだよ、ロキ・フォンブラウ」


宗教にのまれた狂信者の類かとロキは眉根を寄せた。


「君は世界のために必要だ。世界は君を中心に回っているの」

「ふざけたことをぬかすなよ。俺が死んだって世界は回る」

「回らないよ、だって君が死ぬたびにこの世界はやり直しをしているのだから」


ああ、ループをしているのかと、覚えている者がいるのかと、ロキは思う。す、と息を吸って、王宮中の魔力という概念を()()()()()


「……君はやることの規模が違うなあ」

「神子が何人か混じっているだろう」

「僕が打ち消すとは思わないの?」

「打ち消せるもんか。お前さんにここまでの魔力はないし、これは早い者勝ちだ」

「心外だな」


けれど実際そうなのだろう、と目で尋ねれば、神子は諦めたように小さく頷いた。


「迎えに来たのは本当だけどね」

「成功したことは?」

「5回くらい」

「……すごい成功率だな」


内通者いたのか、とロキは苦笑を浮かべた。大方レイン、レオンあたりであろう。彼らはロキに対して不満を持っていたから。良い意味でも、悪い意味でも。


大人たちが驚いた声を上げたようだが、次の瞬間貴族側が圧し始めたようだ。打ち消されたのは魔力。つまりもう強化魔術は使えない。種族的なステータス差で人刃の血が入っているリガルディアの貴族と、どこの血統ともわからない人間の可能性が高い烏合の衆であれば、どちらが押すかなど分かり切ったこと。トールが吹き飛ばした男がロキたちの横まで飛んできた。


「なんで俺を引き入れたがる?」

「だって君は、最強の神子だもの」

「ラックゼートは?」

「あの人は僕らのことを認めてはくれなかったよ」

「ほう」


明確な何かがあるのだろうけれども、まだわからなかった。ロキは神子に顔を近づける。


「なぜ俺なんだ? 最強だからなんだ? 何の関係がある?」

「僕は、ロキ、君が、幸せなら――」


けほ、と目の前の神子は咳き込んだ。末端が黒くなってきている。ロキは小さく舌打ちし、刀を神子の首に当てる。


「あれ……殺しちゃうんだ……?」

「……どうせ周りの奴らに魔力をとられていたんだろう? 炭化して死ぬのは辛いよ?」

「ふふ……優しいなあ」


神子は笑った。情報が抜けないのは惜しいが、これ以上苦しめる必要はない。炭化の速度が上がった。


「概念は打ち消せても、存在そのものを打ち消したわけじゃない。使えなくなるだけで吸い取られることは止められない。お前はこのまま死ぬんだろうよ」

「――」


ロキの言葉に神子は小さく頷いた。

胸糞悪い。


「ロキ、君は、もっと、自分のことを、気に、して――」


炭化した腕が嫌な音を立てて落ちた。もう喋るな、と小さく言って、ロキは神子の首を切り落とした。


「敵にまで心配されているのか、心配したから敵になったのか……まあいい。忠告、痛み入る」



怪我人は幸い大人だけだった。子供たちはロキが案外あっさりと敵とはいえ神子の首を刎ねたことに驚いていた。血を被ったトール、血糊を拭うスカジとフレイ、ロキを見て、唖然としたのはカルだけではないはずだ。


ソルはそんな4人を見ていても特になんて反応することもなく、タオルを渡したりぬるま湯を渡したりしていた。


平和なはずのリガルディア、貴族の子供が荒事を知っているのはおかしくはないけれども、それでもこうして命を奪うことに躊躇いもないのかと、そう思った。


魔物の命は奪えるのに、人の命は奪えない。それ自体がおかしいのだけれども、けれども。


「ロキ」

「はい」


カルがロキに声をかければ、ロキはカルの方へ眼を向けた。欠損魔法を使ったためか少々疲れているらしいロキは、刀の手入れをして亜空間にしまいなおして、身体ごとカルの方を向く。


「御苦労だった」

「殿下の御身に何もなければ」

「先ほどは何を言われた?」

「情報が欲しかったのですが、狂信者の類でして、微妙に核心を突けませんでした」

「……そうか」


精神的に負荷のかかった令嬢たちが数名倒れたため医務室へ運ばれていった。

狂信者などというのは戯言だろうとカルにはわかっている。けれどロキがそういうということは、情報を抜けなかったのは、ロキがそちらの方がいいと思ったからなのだろうともわかる。


「抱え込むことはなかろうが、思いつめるな。どちらにせよ父上たちに殺されていただろう」

「ええ、わかっています」


ロキが綺麗に首を刎ねた神子以外に、あと3人、神子はいた。誰もかれも炭化して、1人は炭になった。弔いの場所はあるのだろうか。


「神子をタンク役にする、か」

「指先が冷たくなっていく感覚があるんですよね、あれ」

「覚えているのか?」

「ドレインを受けた時と似たような感覚になるから、生き残りのために積み重ねてあるのでしょうね」


ドレインなんて誰がするんだとカルは言いかけて、ゼロが視界に入ったのでそれ以上言うのをやめた。たぶんというか十中八九ゼロのせいであろう。


「カル殿下、ロキ、湯浴みして来い、と」

「わかった」

「ああ」


パーティ会場に乱入者が来て、見張りは何をしていたんだといわれるだろう。ものの見事に全員死んでいたので、言い訳のしようはないが。


時間は静かに、過ぎていった。


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