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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
24/376

1-23

2021/08/22 大幅に修正しました。

魔力結晶で明かりを灯す壁掛けのランプが、温もりのあるオレンジ色の光を揺らめかせる。細やかな刺繍の施された赤い絨毯と、手織りらしい白と黒のタペストリーが部屋を彩る。

そんな応接間にて。


「ロキちゃん、ドゥルガーがムゲンとゼロ君連れて来るって!」


スクルドが手紙を読んで笑顔を浮かべた。ロキがプルトスとある種の和解を果たしてから約1週間後、漸く家に戻ってきたアーノルドがロキを膝の上に乗せたがってからはや3時間、ロキは未だに父の膝の上で紅茶を飲んでいる。

アーノルドはロキが倒れたことにより一度すべての仕事をほっぽリ出して駆け付けたらしい。流石に他の公爵やジークフリートもロキが倒れた、半転身したという話を聞いて一度即刻アーノルドを帰したらしい。半転身がこの国でどう扱われているのか垣間見えた気がしたロキだった。


「ドゥルガー殿とは、どのような方なのですか?」

「ロキちゃんはイミットって知ってる?」

「名前くらいは」


ロキは聞き覚えのある名前に震撼しつつスクルドに問う。恐らくこの口振りだとスクルドの友達とかそんな感じだ。ロキが聞き覚えがあるのはムゲンの方だが。


「イミットというのは、普段は人の姿をしている竜種の事よ。特にその中でも耳が尖っている人たちのことを言うわ」

「そうなんですね」


イミットってそんな定義だったのかとロキは目を丸くした。竜に変化することはロキも知っていたのだが、最後のスクルドの言葉にそれもそうかと納得した。そうでなければ、リガルディア王家もイミットになってしまう。リガルディア王家は竜種ではあっても狭義ではイミットではないので、耳の形は重要なのだろう。


「ドゥルガーは、そんなイミットの旦那さんと子供がいる黒竜種の加護持ちよ」

「これでもかと属性詰め込んでますね??」


ロキはついツッコミを入れてしまった。だってそうだろう、竜種の血統はそれなりに珍しいのに、そんなイミットと(恐らく)結婚してて子供がいる、そんな竜。竜である。珍しい血統以前の問題ではなかろうか。


ロキの反応に満足したらしいスクルドが満面の笑みを浮かべてクッキーに手を伸ばした。アーノルドがロキの髪を指で梳いてやりながら口を開く。


「近くに来ていることは知っていたが」

「近くでムゲンの仕事が終わったみたいよ。1週間後には来るって書いてあるから、到着は明後日かしら」

「……前触れがあるだけましか」

「イミットは鳩使わないものねえ」


これは後で調べた方が早いと思い、ロキはアーノルドを見上げた。


「父上と母上は、ムゲン殿やドゥルガー殿とはどこでお知り合いに?」

「俺はギルドでが最初だな」

「私は同級生の顔合わせの時ね」


父上ギルドに出入りしてたんですかとロキが驚くと、アーノルドが少しバツが悪そうに頬を掻く。アーノルドとスクルドは同い年なので、アーノルドが一足先にギルドで顔を合わせていたという事なのだろう。


「ロキちゃん、こう見えてもアーノルドは、学生時代は結構荒れてたのよ」

「え、そうなのですか?」

「確かに、荒れていると言えば荒れていたな」


父上の学生時代ってどんなのですかと聞きたい気持ちが勝る。そんなロキの様子を見たアーノルドがロキの頭を撫でた。


「ロキは、ギルドがどんな所か知っているかね」

「主に魔物の狩猟、討伐依頼の斡旋所だと聞いていますが」

「そうだ。それ以外にも、都市の清掃や土木工事の人手集めにも使われている」


ハローワークとほぼ同義、この世界にある冒険者という特殊な職業がこのギルドの存在を強めている。貴族であることとギルドへの所属は相反するものではないからね、とアーノルドが言った。


「強い者ほど戦いに出なければならん。魔物相手では特に、な」

「リガルディアの貴族は、魔物の発生を抑えたり、討伐数が増えたりすると、爵位の変動が起きることがあるの。だから怠け者はすぐに爵位が落ちるわ」


アーノルドの言葉だけ聞くとノブレス・オブリージュの精神を垣間見るが、スクルドの言葉である種強制されているものだということが分かる。爵位を失いたくなければ、魔物討伐で功績を上げるしかない。フォンブラウのように長年公爵に居座っている家はどうなるかわからないが、スクルドの口ぶりだと割とあっさり爵位が落ちるのだろう。


逆に、よくぞ爵位を落とさずここまで保っているものだとも思える。下手をすれば平民落ちだって割と身近なのだろうに。ロキはスクルドとアーノルドをかわるがわる見つめる。


「まあ、爵位を上げるか下げるかは国王または女王が決めているんだがな」

「王妃も王配も臣籍降下した王族も口出しすらできないものねえ」


どうやらこの国の王様は貴族の地位をあっさりと揺るがす権力を保持しているらしい。それくらいの方が、賢王の下にある国としては安心かもしれないが。ロキはまだリガルディア王国の体制を詳しくは知らなかった。


「しかし、ムゲンが来るなら食事の準備をしておいてやらんとな」

「そうねえ」


ムゲンはたくさん食べるから、とスクルドは笑う。アーノルドはガルーにムゲンが来た時のための指示を出し、丁度そのタイミングでデスカルたちがドアをノックした。


「入れ」

「あざます」


ロキは野球部のようなありがとうございますにちょっと笑ってしまう。デスカルとアツシは見知らぬ藍の髪の亜人を連れていた。


「あら、其方の方は?」

「こいつも上位者ですよ。一番ロキ様と相性がいいしずっとこっち見てたんで呼びました」

「そうなのね」


連れられている亜人は耳が横に尖っており、頭には濃紺の左右非対称の角が生えている。瞳は金色であり、リガルディアでは特に珍しいカラーリングだ。上位者と言われて納得できるくらいには。


「俺はリオ。槍を持ってるのは、俺からの手加減だと思ってね」

「竜人か」


アーノルドが反応したのでロキは目の前の武器を持った亜人が竜人と呼ばれる種族であることを認識した。


「竜人は魔法が強いから、武器を持つことで一撃目は魔法を使わない、という意思表示をしている。とはいえノーモーションで魔法が撃てるからあんまり関係ないがな」

「父上詳しいですね」

「……もともと研究をしていたからな」

「父上、すごいです」

「……」


純粋な気持ちでロキがアーノルドを称賛すると、アーノルドが少し照れたようにロキの頭をわしわしと撫でる。ロキはアーノルドが魔術の研究をしていたということを、アンリエッタから聞いてはいた。魔術の研究が難しいということも、想像はつく。


「……魔法と魔術って違うのですか?」

「魔法を人間が理解できるように解体したものが魔術だ。魔術は理論で話ができるが、魔法は無理だな。世界の理そのものが捻じ曲がる」

「あー」


魔法を科学で再現すると魔術になってしまうらしい、とロキは理解した。魔法がまさしく『魔なる法』ということだ。とてつもなく大規模な話になることは、間違いないだろう。


「うん、紅狼の言う通りさ」


リオは笑う。柔らかな金色の瞳に、何かを思い出しそうだ。ロキは少し首をかしげた。見覚えがあるような、ないような。


「流石に覚えてないかあ」


リオが笑う。ロキはどうやら以前リオと面識を持っていたらしい。全く分からないが。


「とりあえず」


デスカルが口を開いた。


「ロキ様は精霊が見えない。じゃあ上位者と契約するしかないだろうよ。その年齢で部分転身・半転身を起こすような魔力量の時点で精霊と契約してない方がおかしい」

「何故ロキが精霊を見ることができないのかに心当たりはあるかね」


アンリエッタがロキを守るために吐いた嘘は、アーノルドは知らぬことだし、ロキも特に気にした様子を見せないものだから、アンリエッタとの会話を知っているガルーやアリアの方が泣きそうだった。


「精神的なもんだな。しかもあんたらとは直接関係がないタイプの。そこはこちらに任せてくれ」

「どういうことだ?」

「アーノルド閣下、あんたたちじゃどう頑張ったって解決できないから上位者に任せろ、世界樹が関係してると言ってやった方が良いかな」

「!」


アーノルドが目を見開いた。ロキは自分が精霊を見ることができないことをアーノルドが知っていたらしいことを特に気にした様子はないが、こちらの会話にしっかり聞き入っている。


世界樹、とまたファンタジー要素満載な言葉が出てきて、そういえばカドミラ教は世界樹関係の宗教だったなと思い出した。


「何故ここで世界樹が出て来る?」

「特別ロキ様を気にかけてる様子が伺えたよ。ま、詳細はまずは当人に話をしてからということで」

「……」


デスカルが無理矢理話を断ち切ったのでアーノルドも渋々引き下がる。ロキの抱える異常を解決する手段をデスカルたちが持っているのだけは間違いないようなので、アーノルドは複雑ながらもデスカルを睨むのを止めた。


「ロキ様、ここからはちょっと日本語で喋るが、いいかい」

「構いませんよ」


んじゃ遠慮なく、と日本語で話し始めるデスカル。アツシが魔力回そうかと言ってロキの手を取ったので、ロキはデスカルとアツシの方へ移動した。



『よし。魔力は一旦アツシに任せておいて。あと、お前さんの中身が男だってことは知ってるから、口調も男にしてていいぞ。女口調疲れるだろ』

『わかった、お言葉に甘えさせてもらうよ』


雰囲気変わるねえ、とリオが呟く。ロキの魔力を外部から操作し始めたアツシの手は前回と変わらずひんやりとしている。


『ここで話すことは父上たちにもお伝えしてもいいんだよな?』

『ああ、ロキ様の語彙力でそれが叶うならぜひそうして欲しいね。俺の語彙力じゃ無理だわ』


どんな複雑なことを言われるんだろうとロキが身構えたのを見て、リオが笑う。


『簡単と言えば、簡単だよ。理解ができないだけで』

『へー。もったいぶらずに100文字以内で答えな』

『100字ある、有情』


ロキの言葉にデスカルが返すのを見て、アーノルドたちは少し驚いているようだった。ロキの言っていることが全く分からない訳ではないだろう。少なくともリガルディア王国は日本語をある程度知っている国家であり、ロッティ公爵は日本語を理解できているとロゼは言っていたという。つまり、アーノルドもそうである可能性が高い。


それも分かっていてデスカルはロキに先に話すなどと言っているのだろう。転生者であるが故に理解できることも多いだろうから。


『ロキ様、いや、ロキ。お前さん、ありとあらゆる場面でデジャヴュを感じることはないかい』

『……』


ロキはデスカルのペリドットの瞳を見つめ返す。ロキが単なる違和感として処理してきたものを、今ここで彼女が拾い集めて何かの結論を示そうとしているのは、分かった。


『それが?』

『……そのデジャヴュに確固たる理由が付けられるとしたら?』

『……!』


ロキの頭にとある説が浮かぶ。今まで実は頭の片隅にあった話。ロキは唇を噛んだ。ありえないと思っていたこと。けれど事実なら様々な事象に説明のつくこと。


『……あの幻聴が、過去に起きていた事実だとでもいうのか?』

『正解だ』


デスカルのペリドットの目にも、なんだか見覚えがある気がして、ロキは目を逸らした。よく似た目を知っているような、あの色はもっと青く深い色だった気もするが――。


『……結論を言おう。アヴリオスは、タイムループしている。――ほら、100字以内で説明してやったぞ』

『それ引っ張るのか!』


自分が受け止めなければいけない事実よりツッコミが先行してしまった。ロキは頭を抱える。タイムループ、単にループと知っていいかもしれない。過去の事象が今目の前で起きている。ロキは何も知らないし覚えていないのに、感じるデジャヴュは確かにあった。


『……ループなんて、本当に起きるのか』

『起きてる。俺たちが巻き込まれてないのは、別の世界樹の管轄下に居るからだ。俺たちはアヴリオスの住人ではない、だからアヴリオスのループには巻き込まれない。外側から見ていたよ』


世界が複数あるらしいことはロキも知っている。アヴリオスと呼ばれるのがロキたちの住んでいるこの世界の世界樹の名前らしいことも、かつて居た神霊とは世界そのものが異なっていることも、異世界転生した自覚もあるのだから、複数の世界が存在することに関しては疑う理由はない。


『リ〇ロじゃねえんだぞ!』

『あんな局所ループじゃねえ、20年から100年単位でのループだ』


いつループするかわかったもんじゃない、とロキは思った。デスカルがそれを読み取ったようで、小さく息を吐いた。


『なぜ俺たちがお前にわざわざこんな話をしていると思う?』

『……関係者?』

『正解だ。流石、頭の出来が違うね』


ロキの頭はとても回転が早い。望まぬものでも結論を導き出してくれる。しかも割と正確に。


『ループの中心にはお前がいる。そして一番被害を受けてるのもお前だ』

『……そんな聖人根性で赤の他人を精霊が拾うはずがない。上位者となればなおさらだ。俺は、俺たちは、あんたの何を巻き込んだんだ?』

『……』


ロキはある種の確信をもってデスカルに問いかけた。精霊についての本を読んだのだろう。上位者の事も書いてあったのだろう。精霊は人間が思っている以上に気紛れだ。デスカルは目を細める。


『俺とアツシが育てた金属精霊だ。息子でいいだろうな。名前は、ゴールド。お前さんの前世では、金子奏斗と名が付いていた』

『奏斗……』


ロキは前世の親友兼悪友の名が出てきて目を見張った。少し思うところがあるようで、視線が僅かに俯く。名前で呼ぶということは、それだけ親密だったのだろうなとアツシがぼやいた。


『……え? まさか、あいつも来てるのか?』

『フェイブラム商会の1人息子だな』

『流石に頭こんがらがってきたぞ』


ロキはデスカルを見て、アーノルドの方を見る。アーノルドは何か考え込んでいるし、スクルドは蒼褪めていた。


『よし、デスカル殿。俺だけでは分からん情報がいくつもあるから、そこの情報の補填を行える令嬢たちとあんたを引き合わせたい。大丈夫か?』

『オーケーオーケー、茶会でもなんでも行ってやるよ』

『日程が決まったら伝える』

『ああ』


カイゼルで茶会を開くことが確定したようなもんだなと思いながら、ロキは一旦ソファに身を沈めた。なんだか疲れてしまった。アーノルドが切り替えてロキとデスカルの会話の中で分からなかったであろう部分を根掘り葉掘り聞いているらしいのが聞こえたが、ロキにはもう目を開けている体力がなかった。


「あ、ロキおねむか」

「そりゃそうでしょ。魔力循環他人に任せてるのって思った以上に体力使うし」

「それもそっか。よしよし、眠って大丈夫だぞ」


アツシがロキの魔力を引っ張るのを止めて、抱え直して背中を優しくポンポンと叩く。ロキはそっとアツシに寄りかかった。今は冷たいようで、ほんのりと温かい。何となく懐かしい気持ちに浸りながら、ロキは目を閉じた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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