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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
237/377

9-16

2025/04/05 修正・編集しました。

「あんたがロキか」

「初めまして、ウォーレウス殿」


ウォーレウスははあと息を吐いた。このやり取り、何度目だろう。



今回は随分と違う進み方をするなと、そんな感想を抱いたのは3日後のことだった。

そう、ウォーレウスはループしている事実を知っていた。


今まで見てきたのは、およそ20回。これから会うことになるシドのことを思い出し、気が重くなる。あの男も気付いてなどいなかった。


ロキはウォーレウスを客として扱った。影武者として紹介されたわけではないし、第一一応貴族の養子に入っている。けれども、養子に入ったからといって差別がなくなるわけでもないのに、こんなにも寛大な処遇なのはきっと、ロキの前世の話に繋がってくるのだろう。随分と平和な世界に生まれたのだろうと予想できた。


胸糞悪い死に方しかしない主人であるなあと、ウォーレウスは独り言ちる。マフィアに入ったお前だけには言われたくねえと返されそうだが、それはそれである。


ウォーレウスの時間はたまに止まる。止まったらその時が、ループの合図。

ウォーレウスの体感では40年以上経っているのに、ウォーレウスの周りの時間はまだ、アーノルドに最初に拾われてから2年程度しか経っていない。世界を渡るとはこういうことなのだなとぼんやりと考えた。


「ウォーレウス」


柔らかく名を呼ばれて、ウォーレウスは顔を上げた。

ロキが手招いている。銃の扱いについては一応、ウォーレウスが回収してウォーレウスの世界のジャンク屋に持って行くということが決まった。こちらの世界で鉛弾の文化などが発達してみろ、精霊を止めたら世界が崩壊する。そうなったらもう目も当てられないのだ。ロキが確実に動くから、だめなのだ。


「ロキの死亡フラグを1個叩き折れたって感じだね」

「オートにだけは言われたくねえな……」


銃の回収に至るのは初めてだった。逆にウォーレウスは思った。たぶん、これでロキが動いてロキが死んだ世界線がどこかにある。間抜けだろうか。


鉛がダメだと言っているわけではない。それを精霊に向けてはいけないと言っているのだ。銀も同様である。意味もなく銀製の武器を振り回していればそれだけで鉛弾を乱射するよりひどいことになる。銀で傷付いた精霊は二度と戻ってこない。そうなればそこの機構を左右する精霊が姿を消し、力の強い少し遠くの精霊の力が及ぶようになる。この世界は恐るべきことに熱帯とツンドラが隣接しうる。砂漠と熱帯林が隣接しうる。人間が適応するにはおそらく、時間が無さすぎる。精霊とは世界の秩序そのもので、地球でいうところの気候変動は半分が物理法則、もう半分が精霊任せだ。


テラスでゆっくりと茶を飲むロキの傍らに、ゼロとシドが控えていた。

ゼロの方は剣呑な光をウォーレウスに向けている。シドの方はといえば何の変化もなし。だが、この男なにぶん慣れていることには強い。ちらとウォーレウスを窺った彼の目には、親しみさえ浮かんでいた。


今回は覚えているのか、とウォーレウスは思う。ロキは何も言わずにウォーレウスの存在を受け入れた。直感で動いた方が世界のためになる謎の男だ。シドはきっとロキに追従するのだろう。この世界でウォーレウスは絶対弱者である。魔法を知らない。学がない。魔術が分からない。でも加護はない。身体能力だって一般的な人間より高いくらいしかない。動けないわけじゃないが、この世界ではそれだけでは生きては往けない。絶対強者というのは、ロキみたいなやつを言うのだ。


こちらに来ると、一応抗争があって銃乱射だのなんだのがあるはずの元の世界での出来事も、生温く感じる。よっぽどお前らの銃より魔物の方が強いぞと。そしてそれを一撃で仕留める膂力を彼らの誰もが持ちうる。オート・フュンフでさえもだ。弱い弱いと散々なじられる彼ですらそれで、ならば生来有り余る膂力を有する人刃族たるロキ達の強さも納得がいくというもの。


「ウォーレウス」

「あん?」

「お前を侵食してるのは、俺か」


ロキの問いかけにウォーレウスは目を見開いた。探知されたことはなかったが、ここに来て。侵食とは、人刃族が本来の意味で増える――生殖とまではいかないのが特徴だが、子供という括りになるものを生み出すときに行う行為である。


「……そうだと言ったら?」

「お前は縛られるのが嫌なんじゃないかと思ってな。まあ、やろうと思えばいつでも飛び出していきそうではあるが」

「分かってるんじゃねえか」


侵食を弾けるだけの力をウォーレウスは持っているし、子供であるロキはまだ侵食の力はそんなに強くない。そうだ。これはこの自分によく似た大馬鹿野郎のために傍に居てやるだけだ。ウォーレウスは思う。


「ならば解放の必要性はないかな。だがそこまで進んでいるならどちらにせよ俺の解放は必要だよな。いつか番を連れて来い。そいつに譲渡するから」

「へいへい、いつか、な」

「先に死んでくれるなよ? お前()()()()()()? お前の中にいるやつら大丈夫?」

「なに、俺が最後まで浸食されたら剣山に全員早贄にしてやるって言ってある」

「お前は百舌か」


世界樹というものの存在をつい最近まで疑っていたロキの台詞とは思えないほどの順応の仕方に、ウォーレウスは色々と悟った。ロキは恐らくただ感知した事実を述べているだけで、正しく世界樹の存在を認識しているわけではないのだろう。剣山という言葉を聞いてか、ああ、人刃の話かあとオートは納得したように呟いてクッキーに手を伸ばした。ウォーレウスはロキを見て目を細める。


「まあ、一応あの銃の行き先も決まったし、ひとまず一件落着、か」


カガチが結局帰るタイミングを逃して一緒にお茶している。ロキはカガチの言葉に小さく頷いた。


「様々な世界線があるにしても、異能を持った地球人がいる世界線まであるとは驚いた」

「ない方が驚きだがな」


ウォーレウスの言葉にカガチとロキは笑みを浮かべる。ウォーレウスはそう長居する気はなかったらしく、次の満月の時に渡ると言って去っていった。


「……ウォーレウスって、今までにも会ったことがあるんだよな?」

「あるぜ。アイツもほとんど知ってる」


ロキの問いかけにカガチが答えた。カガチは小さく笑ってロキの頭を撫でる。厳密には彼はループしていないのだが、今ロキに言う必要はないだろう。ただ、彼は知っているのだと、その事実だけ認識していればいい。


「ああでも、ロキ」

「?」

「銃が普及していない理由については、黒箱教の奴らが一番よく知ってる。聞いとけよ?」

「なんだ、お前は語らないのか」

「俺っちの拙い説明でどうにかなるもんじゃねえからなあ!」


カガチは席を立つ。もう行ってしまうんだなとロキも席を立った。


「見送り?」

「ああ」

「お前はそういうとこ変わんねえなあ」


カガチは過去を懐かしむように目を細め、ロキの頭を今一度撫でて立ち去った。

見送りといっても転移するまで見ているだけなのだが、一緒に言葉を発さずに見送ったオートとエリオはその後すぐにロキに跳び付いた。


「?」

「ロキー! 死徒列強ってもしかしてあんまり怖くなかったりする!?」

「ああ……怖くはないけど――オート、お前を単独であいつらに近付けさせはしないからな。お前絶対放置したら死ぬタイプだ」

「俺がついて行きますから!」

「エリオはもっとだめだ、王族に何かあったらこっちの首が飛んじゃう」


ちったあ保身しろこの研究馬鹿ども、とロキが2人に拳骨を落とすのを遠くから眺めていたヴァルノスが、「あんたも大概だと思うけど」などとぼやいていたのは脇に置いておく。


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