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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
235/377

9-14

2025/03/19 編集しました。

「俺ではだめだったかな」

「そんなことねえよ」

「でも、あの子を助けてあげられなかった」

「それがアイツの選んだ道じゃねえか」


とめどなく繰り返される問答を、それでも聞き続ける黒髪の男は、金髪の青年に語り掛ける。


「ロキの選んだ道はロキに歩ませてやれよ」


オレたちの出る幕じゃねえんだよ。


そう言いつつ、黒髪の男も思うところはあるようで。


「思うところはあるんだろう?」

「そうだな。ロキが、幸せってものをちゃんと掴めたら、ちょっとくらいは報われるかな」


何度も見せつけられてきたから、そろそろ温い茶番に飽きたなあと思っていたから、それを嘲笑うように男の目の前で白銀の少年は劇的に死んでくれた。初めて金髪の青年を巻き込んできた。


けれどきっとそれは彼の望むところではなかった。

彼はきっと、この金髪の青年が優しいことを知っていた。


男は青年がボロボロと涙を零すのを丁寧に拭ってやりながら、泣き止むのを待つ。きっとこの涙は止まらない。


酷いことに皆のことを忘れる選択を繰り返す銀色の彼は、きっとこれからも自分をしっかりと顧みることはないけれど。


ルキフェルとかベリアルとか、転生者が知るほどの大層な名前がなかったなら。もっと簡単に、契約を結んでくれたのだろうか。



「どうしたロキ」

「殿下……胃が痛いです」


ロキにそこまでの心労を与える存在なんて知らないから、カルは驚いた。ロキの目の前で一緒にお茶を飲んでいる見目麗しい2人組を見て、カルは首を傾げた。


「いくら何でも失礼じゃないか?」

「もう無礼なら何百回も働いてる気がしますがね」

「うっわ」


カルも一緒に座ったところで2人組が自己紹介をしてくれた。

黒髪がベリアル、金髪がルキフェルというのだという。


「また随分と格が高いのが……」


カルは頭を抱えたくなった。ロキと一緒に居る時点でお察しと周りにはよく言われていたが、、ここまでか。


ロキたちの前世において天使とか悪魔とか呼ばれるものは、この世界では精霊とか神霊とか呼ばれる類に括られるのだが、その中でも格式高いのがこの“欲”を司る系統の神霊たちである。人類ならば誰しも持っているものを司る神霊であるため、魔物に対しては弱くても人間ひいては感情のある知的生命体に対してはすさまじい能力を発揮する。


2人は現在同僚と呼べるサタンの加護を持つ者が近くにいるのを感じ取ってそれについて話していたのだという――つまるところグレイスタリタスの話であろう。


「坊やもお茶飲むかい?」

「……いただきましょう」


ベリアルが立って茶を淹れ始める。ロキは小さく息を吐いた。


「どうした」

「ベリアルがハーブティーを淹れるのが上手くてな。こう……なんかムカつく」

「オレお茶入れんの何百年単位なんですけどー。慣れてんのよ~。ほら、ついでに魔法だ」


ぽちゃんと音を立てて、薔薇の形の角砂糖が放り込まれた。

魔法などと言って、実際は魔法を使ってなどいない。それくらいすぐに分かる。ロキはベリアルの言った魔法の意味を分かっているらしく、眉根を下げて笑みを浮かべていた。


「自分で言うのもあれだが、美味いぜ」


カルは差し出された紅茶を一旦ロキに回す。もう癖になっているので仕方ない。ロキは軽く飲んで「問題ないよ」とカルに返してきた。口に含めば薔薇の香りが広がり、カルはほうと息を吐いた。


「ローズヒップ、だったか」

「御名答」

「ここまで強く香るものなんだな」

「淹れ方次第~」


ベリアルはそう言いつつ赤い薔薇を15本束ねてカルにほい、と突き出す。カルはそれを受け取った。


「よっしゃー」

「? まさか、ロキ、これ何か意味があるのか!」


ベリアルの反応にカルがロキへ問い質せば、


「永遠の友情」


と返って来た。こいつとの友情とか御免被ると言いたくなる理由は不明である。きっとロキを殺したんだろうなあくらいにしかもう思うこともない。


「……あれ? ロキのスキルって確か……」


カルは王族であることもあり、ロキの所有しているスキルの開示を受けている。ロキもカルも自分の力でどんなスキルを所持しているか、などを知ることはできないのだが、魔道具や上位者の力を借りて開示してもらっている。リガルディア王国は、王族に全てを見せることを是とする。王族に敵対することも無いのだから、見られたって問題ないという考えだ。


カルがロキのスキルの中に上位者由来のスキルがあったことを思い出した。それに応えるようにベリアルが口を開く。


「ん? ああ、『虚飾』はオレだぜ?」

「はっ? じゃあなんでロキを死なせちゃってんだ!?」

「いやあ、オレにルキフェルの光魔法とかぶつけたらそりゃ、自分が消し飛ぶでしょ」

「何俺そんなことしてんの?」

「ルキフェルと強制契約でなア」

「ちょ、ベリアル!」


楽しげに話し始めたベリアルと裏腹にルキフェルは声を上げた。ロキは構わずそれについて尋ねる。


「強制契約?」

「君、ちょっと前まで精霊見えてなかっただろ? あれの原点が、ルキフェルと強制契約してオレを消し飛ばしたお前が何かを誓った結果だったわけだ」

「上位者と強制契約なんて聞いたことがないよ」

「そりゃそうだ、お前らの言う上位者とオレたちは違う。オレたちの方が圧倒的にか弱い存在だ。ただし、お前らの言う上位者としての一面も持っている」


ゆっくりと自分たちのことを話すベリアルは、ロキを守護していた存在だったことをあっさりと明かした。ロキはきっとそんなことも分かっていたうえでベリアルを消し飛ばしているのだろうけれども。


「……こちらではそちらの面が強調されている……のか? いや、でも……」

「ああ、オレたちはどこぞの英霊たちみたいに召喚されなきゃ出てこれないわけじゃないから本体が来てるぜ? ああでも、吹っ飛ばされたオレは残念ながら分霊みたいなものだったな。あの世界線はオレの魔力量に耐えられなかったから」


安定していないところはガタガタになっているのだろうなとロキは悟ったようで、茶請けのクッキーを摘まんでしばらく考え込んだ。


カルは目の前のルキフェルを見る。デスカルの授業ではまだ彼らについては聞いたことがない。次の授業で問い掛けてみようか、それとも向こうから話し始めるのが早いだろうか。


「――ロキ」


ルキフェルが口を開く。ロキは顔を上げた。


「なんだ」

「……私は、君がちゃんと、また、精霊と契約してくれて、嬉しい」

「……?」


ロキは首を傾げる。本気で分かってない顔だなあとカルは思った。


「契約すればその分制約も多くなるのに、契約してくれて嬉しいとは一体何事ぞ……」

「……君はあまりに、多くを背負い過ぎたから。それを私は見てきたから」

「……これっぽっちも覚えちゃいないがね」

「君が覚えていなくても! 背負ってきた事実は変わらない」


ルキフェルを見てベリアルは薄く笑みを浮かべた。ルキフェルはベリアルのお気に入りなのだろうなとカルは思う。


「一緒に背負ってあげられなかった。気付いてもあげられなかった。ごめ――」


ルキフェルの言葉はロキに制止された。ロキは瞳を剣呑に光らせていた。


「……」


ルキフェルは息を呑む。


「――ルキフェル。俺は覚えていないと言った。謝罪は不要だ。謝罪などするな。胸糞悪い。貴様それでも『傲慢』か」


――ロキは、周りの者に理想を押し付ける癖がある。

これはカルが常々思ってきたことだし、ロキも分かっていることだった。その癖に救われた時も、押し潰されそうになった時もあっただろう。


こう定義されたお前はこうあるべきだと言ってはばからない、それがロキである。

王族とは、貴族とは、戦士とは、英雄とは、そう言って定義を与え分かりやすく周りをディスったり尊敬したり。


ロキは今、目の前の精霊に向かってそれを突き付けている。揺らぐことを許さないわけではないのだ。そこまで固定して相手を測ることを、ロキはしない。ただ、こうあるべき時にこうしろという理想を言っているだけだ。だがまあ、それをできたら皆苦労しない。


その理想を突き通した結果が、こうあってくれと大衆に望まれた姿を見せ続けた結果が今のロキだというなら、こんなひどいことはない。悪役を求められて演じて最後に死んで、はいおしまい。そんな胸糞悪いエンディングなどカルは願い下げだ。


ただ、だからこそ分かることもある。今、ルキフェルは謝罪するべきではない。謝罪するくらいならばロキ以外の――光に適性のある者と契約を結び、少しでもロキにとって動かしやすい駒を作ってやるべきだ。前へ進まねば何も変わらない。


「……そう、だな……ああ、私は『傲慢』だ。……謝罪など、している暇はないな」


ルキフェルも理解したようで、何よりだなあとカルは思う。だからこそ、次の言葉を上位者たるルキフェルへ向ける。


「ルキフェル様」

「うん?」

「私個人として申し上げます。ロキは光を扱えば確実に多く魔力を削られるでしょう。なので、光に適性のある者との契約をしていただきたい」

「――!」


ルキフェルが目を見開いた。カル自身この提案にうまみがあるから、悪い話ではないと考えている。この大馬鹿者が単独で背負い続けようとするというのなら、傍に行って少しでも一緒に居てやらねば。今持っている荷物を回してもらうのがベストだが、新しく背負い込もうとするものを回されるので妥協してやる。


「ロキ、お前だけに背負わせたくはない。俺はリレーのアンカーになる気はないぞ。どうせなら二人三脚の方が性に合っている」

「まったく……教えたのはロゼだな。王族がそんな力を持ってどうする気なのやら」


カルはルキフェルに手を伸べる。


「俺はカル・ハード・リガルディア。契約を申請する」

「――我が名はルキフェル。光と祝福の御柱。『傲慢』の守護精霊。契約申請を承認する」


カルの腕に金細工のブレスレットがはまった。ベリアルが満足そうに笑みを浮かべ、ロキをつつく。ロキは小さく笑い、手を振ってベリアルを見送った。



――カル・ハード・リガルディアの『傲慢の器』が解放条件を満たしました。解放します。


――カル・ハード・リガルディアの『傲慢』が解放されました。以降魅了系スキルにプラス補正が掛かります。


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