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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
228/377

9-7

2025/01/27 加筆修正しました。

神学の講義はつつがなく進んでいる。ロキたちは特にそうだ。黒箱教の考え方は他の宗教を否定したりは特にしない。世界樹が存在するという点を否定さえしていなければ。


「今日は、そうさな、精霊について話そうか」


デスカルはそう言って、教室移動しまーす、と笑顔で告げた。

ロキはカルと顔を見合わせて、席を立つ。彼女の教室移動は、彼女が転移で行うため基本的に移動とか言う必要はないのだが、今回言ったということは。


「浮島ですか」

「ああ。舞島に行ってな。風精霊に協力を頼んであるから、集めてくる。俺は後から合流する。アツシも連れて行きな」

「はーい」


基本自由にあちこち行き来する彼女がわざわざ言うのならば、それはちゃんと理由がある。それぞれ席を立ってアストと共に顔なじみになって久しい転移魔法陣の番をしている騎士の所へと向かった。



リガルディア王国の中でも、王立学園が所有している浮島は4つ存在している。舞島へ行くのは初めてのことで、どっちだよと言いつつ適当に右、と呼ばれる方の舞島へ向かったロキたちは、舞島に集まる沢山の精霊に目を瞑った。


「眩しい」

「私も眩しいです」

「なにも見えません……」

「……チカチカする」


順にカル、エリス、ナタリア、ロキの台詞だ。ロキたちは元々魔力を視る力が強かったり、魔力が多かったりなどそれだけのスペックがある。魔力酔いはしないが注意が必要だ。視界の調整をしつつデスカルを待つ。


「ん?」

「どうした?」

「白が増えてきたよ」


ロキがそう言うと同時に風が吹き抜け、よしよしタイミングばっちり、と声がした。


「デスカル?」

「あー、舞島は結界の類を全部打ち消すからなあ。急にマナの奔流に呑まれて驚いたろ」

「そんな機構がここにあるなら先に言ってほしいものだな」


デスカルの言葉を聞いてカルがそんなのあったなそういや、なんて言うからロキたちは肩の力が抜けた。


「知ってると思ってた」

「……俺たちが行くのは基本的に闘技場と平島だけだ」


魔力が多い子供はマナを見る適性が高すぎて、酔ったり視界を奪われたりするので視認できる魔力の量に上限を設けて調節する魔術が存在している。なるほど術を打ち消されただけかとロキたちは改めてマナを視認する感度を下げて息を吐いた。


「やっと見えるようになった」

「舞島って精霊がいっぱいいるんですねー」

「力が強いのも大変だな」


闇属性補正で精霊が見えているだけのセトが他人事のように呟いた。デスカルは笑ってついて来い、とロキたちを手招き、神殿跡へと踏み込んだ。


神殿跡と言っても遺跡と呼べる程度の物があるだけである。石作りで、廃墟ながらも美しい。化粧石が残っているのがすごいなとカルが呟いた。


「その辺に座りな」

「はーい」


促されて倒れている石柱や石段に座れば、デスカルはぽいぽいとブランケットを取り出す。


「?」

「舞島は一番高い所にあってな。転生者共、ここは富士山より高い位置にあります」

「「「「「ふぁっ」」」」」

「ロキ共々同じ反応御苦労様」


風が吹けば寒くなるだろう、と言われてブランケットを支給され、ロキたちはそれにくるまった。


「フジサンって?」

「3000メートル越えの火山」

「登るのか……?」

「登ってる人は多かったみたいだな」


レインの問いにロキが答えれば、レインは何が楽しくて登るのかわからないと首を傾げた。大丈夫、ロキもよくわからないので。


「はい、本日は精霊についての話をします。全員精霊は見えてると思うが、まあこの子たちこの世界の風精霊な」


デスカルはふと視線を上げてロキの後ろに陣取っているヴェンを見上げる。


「ロキの契約してるヴェンだが、一応風精霊の長な」

「は?」

「長って言っても何をしてるわけでもなく世界中を飛び回っているだけだからな、気に入った子がいれば引っ付くだろ。ロキがそれだっただけだな」


デスカルも風精霊の側面があるのでなんとなくわかるのだろう。なー、とヴェンに声を掛けている。

逆にロキは不思議な気分だった。


「それで、どんな話をなさるつもりで?」

「精霊についってって言っても、神話に出てくるところくらいしか話さんよ。精霊について学びたいなら精霊学取ってるだろ」


デスカルは風精霊たちが捕まえて来ていた他の精霊たちをロキたちに預け、話し始めた。


「まず、この世界における精霊の立ち位置から。精霊を形作ってるのはマナなわけだけれども、このマナを生成するのが世界樹な。世界の殻を作るのもコレ」

「せんせー、世界樹ってなんで見えないんですか?」

「裏世界にあるからな、ここの世界樹は。世界樹の端末が世界の支柱って奴らなんだが、そいつらは特に精霊に好かれやすい。一定条件下による場合もあるが、たとえロキなんていう裏切り者の名前が冠されててもだ、残念ながらロキ君は一定条件下の方だけどな」


カルが目を細めた。デスカルは分かっていて煽るような言い回しを使っている。ロキは小さく笑みを浮かべた。


「ロキにロキ神の神話をあてはめてくれるな」

「当てはまるような動きしてきたのはおめーだわ」


シドはロキの傍でもはや眠りこけているが、デスカルは特に気にした様子もなく、精霊について話を続けた。


「ま、精霊というのは先ほど言った通り、マナの集合体だ。現在はもはや魔物との差が殻を持つか否かになってしまったけれどな。ああ、銀製のアイテムを精霊に向けるんじゃないぞ。銀はマナの結合を断ち切ってしまうから、精霊を殺すんだ」


デスカルの言葉にああ、とロキは納得した。銀製品の武器を扱うことは少ないから気にしたことなどないけれども、こちらの世界でも“魔物は銀に弱い”のである。それどころか魔物の方が銀に対してはそれなりに対応しているものなのだ。


「精霊が銀に弱いっていうなら、銀を触媒にして召喚できる精霊がいるのはなんで?」


レインの問いにデスカルが答える。


「そりゃ銀精霊だからだろう。金属系の精霊にはたまにいる」


デスカルは足元に擦り寄っている猫型の精霊を抱え上げた。


「銀精霊のトップはアルグと呼ばれていてね。生産量は少ないんだが、戦闘能力が高い。銀精霊が近くにいる場所は基本魔物が寄り付かないから聖域なんて呼ばれていることもある。もちろんメタリカだ」


デスカルは猫型の精霊をひとしきり撫でて、空を見上げる。青い空を雲が流れていく。随分雲が近くにあるのが印象的だなとロキは思った。


「ロキ、なんとなくわかってると思うがアルグは知り合いだからな」

「銀河でしょ?」

「正解」


デスカルの言葉に知人の名を出せば、返って来たのは肯定だった。精霊の知人多すぎね? とセトからもっともな言葉が返って来たが、彼らと知人だった頃はそんなこと知らなかったのである。ロキに対していろいろ言われても困る。


「まあ、銀河がいる場所なんてもうわかってんだけどなあ」

「ガントルヴァだろう?」

「そ。しかも留学生として高等部に入ってからしか来ません。そこの仕様はゲーム通りな」


あーあ、といつの間にか起きていたシドが息を吐いた。シドにとって、前世の金子奏斗という少年にとって、銀を表す精霊は表と裏、コンビだったのである。ループをいくら繰り返したとて変わらない事なのだろう。


「確実じゃないんでしょう?」

「ああ、今まではな。でも今回はそうでもない」


ロキの問いにアストが口を開いた。


「あいつはどちらかというとループみたいな地道な作業をあまり好まないからな。お貴族様ってのもあって自由に動けなくてだいぶ前から痺れを切らしててな。別の化身も作って動いてる。……銀精霊の特性上ループによる記憶抹消が働かねえんだわ」

「あー……あいつなら確かに痺れ切らしてますねー。結構な回数顔出してるっぽいし」


シドがゆっくりと身体を起こしてロキにもたれかかる。


「お前があんまり悲惨な死に方するからだろ、シド」

「いやあそこはもう? 主人に最後までついて行くんだーって?」

「待て俺はどんな死に方をした」


ロキが真顔で問い掛ければシドは苦笑を浮かべた。


「お前のシナリオの中にはな、俺たちを使い捨てにするルートもあるんだよ。全然気にしてねえよ? 死にたくなきゃ降りろっていう最終通達無視して走ったのは俺たちだ」

「――」


ロキは軽く目を見張り、少し俯く。しかし何も言葉は出てこない。


「……そうか」


そう言うのが、やっとである。

いつの間にか来ていたメビウスが柔らかく笑み、そっと緑茶を出してきた。


「ロキの在り方は複雑だからなあ。なあに、ゆっくり歩けば良い」


デスカルの手から猫型の精霊がするりと抜け出す。柔らかな風を運ぶ精霊たちは、ロキたちが精霊たちをまじまじと見つめるのを許していた。


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