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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
224/378

9-3

2025/01/24 加筆・修正しました。

“太陽神同盟”というのは、スーリヤを中心とした太陽、光、熱、炎の神霊が組んだ同盟である。

この同盟というのはそもそも、“軍神同盟”に端を発するものだが、今は置いておく。


太陽神同盟が司るのは主に、転生者の監視である。冥府の神、太陽神、軍神の3つの性格を取って、3つの同盟を合わせて“3神連盟”と呼ぶ。

転生者の管理を行うのは“3神連盟”の仕事であり、転生者の選定を冥府の神霊が、転生した者の監視を太陽神たちが、そして力を振るいすぎた転生者たちを処分するのが軍神の仕事である。


最も過酷とされるのが軍神であり、軍神にとって最も困るのが転生者との戦闘だ。

軍神は、アヴリオスに留まる条件として、アヴリオスにとってよろしくない暴れ方をする転生者を追放するために冥府送りにする役割を担う。

既に全盛期の半分以下の力しか出せない軍神が多く、彼らの大半は転生者との戦闘の中で倒れ、御柱を砕かれることも少なくない。世界樹がセーフティをかけているため御柱の消滅はありえないが、近しいことは起こる。


太陽神は失えば土地の状態が悪化してしまう。太陽神は世界樹と共にあるもの、そこに普遍的に在ってもらわねば困るという世界も存在する。

時に神殺しをなす転生者は世界樹にとっては厄介なものであり、神霊と利害が一致した、だから軍神による多少の世界の破壊を許容し、太陽神を守ってきた。


そんな事実をその世界に住む者が知るはずもない。太陽神を世界から追放して滅んだ世界は多く、理由も分からないまま世界そのものの死に合わせてその世界から出ることのできない魂は存在したことを他の世界が覚えるのみで存在は消滅していく。


その世界に根差す神霊はその世界でそのまま消滅し、加護も力を失ってゆく。

ただ、それだけのことである。


太陽神同盟は、もともと異なる世界線にある神霊たちの中で、太陽の神格に近しい者たちが共同で話し合いの場を設ける、と言った体のモノである。

幸いにもアマテラスたち一部の神格は生まれの場、祀り上げた民たちが比較的おおらかであったこともあり、他国の神霊がやってきても特段争うこともなく話し合う場の空気を作ることもできた。


その影響で、アマテラスたちが守ってきた民を転生者とすることが多くなっていった。

神のもとに絶対従うと言った体でもなく、隣にいてください、最後の神頼み、などと言って転生者もある程度忠告すれば聞いてくれる者が多かったこともあるだろう。


「――かくして太陽神たちの選定に選ばれるのはもっぱら日本人になったのでした。日本人転生者がやたら多いのはこの辺も関係しています」


デスカルの解説を聞きながら、ロキはぼんやりと考えた。

なるほど、現代の日本人もいくら昔よりは西洋寄りの考え方になったとはいえ剣と魔法のファンタジー世界に神がいてもおかしくないと考えていることが多いだろうし、神のいる世界観ならそれはそれで受け入れている者も多かろう。

順応性の高いものを転生させるのは合理的だと言える。


「ま、格別この世代でぶっ壊れ性能はお前だと言っておくよ、ロキ。何せ一見自分のエゴで動いてるようで、そのエゴは結局国のため王のためカル殿下のためで固まってて砕けやしない。まあ、そんな世界観を固めてしまうから『世界の支柱』なんて大層なもん付与されたんだろうけど」


デスカルたちはロキたちのステータスの確認ができる。それが恨めしくなったロキたちである。


「まあ、太陽神は失っちゃいけないってのは分かったけれど。それが何、って感じなんだけど」

「ソルちゃんが死ぬとローマの太陽神ソルが御柱折られます」

「え、そこまで行っちゃうの!?」

「そうじゃなきゃこんな話しないさ。スーリヤはまだスーリヤ本人がいるからいいが、ローマの神霊の名前があまり出てこない理由でもある」

「遠いんだな」


カルの言葉にデスカルは頷いた。


「ああ。そもそも、アヴリオス自体が、アヴリオスと神霊の距離が近いほど強い力を使えるようにルール設定してるんだ。この距離っていうのは、アヴリオスと、オリンポスとか、ユグドラシルとか、それこそ高天原なんかの、神々のおわす場所との物理的な距離のことだ。んで、距離のせいもあって、アポロンとヘリオスが混同されて一緒に祀られてる状態のソル神よりも、アポロンとヘリオスで別れて別の神を立てているギリシア側……霊山オリンポス派の方が加護が細やかってのもある。もともとあまりローマの神霊はこの世界では強くない。だからオリンポスの神霊がローマの神霊の権能を託してあった」


ゼウスをはじめとするギリシア系列の神々の宗派は霊山オリンポス派と呼ばれている。

ローマの呼称はないらしく、故に霊山オリンポス派に含まれている扱いらしい。そしてその霊山オリンポス派の中心であるオリンポスとアヴリオスが離れてしまったから、ここでソルという名が存在している以上、その名を持つ者が殺されれば柱が折られ、再生することはない。


ソルはおそらくソル神のアヴリオス最後の加護持ちになるだろう、とデスカルが言った。


「……黒箱教って、そんなことまで言っちゃっていいの?」

「いいも何も、黒箱教に聖典なんざねえしな。前期で教えたとおり、俺達の権能を知っていればいい。それだけだよ」


デスカルはロキの後方に目をやった。


「そうだな、例えばクシャルダス。そいつの本質は炎と煙。煙で見せた幻を現実にする、望みを叶える万能の精霊」

「存在しないものは出せないがな!」


ポンと姿を現した赤い髪の青年は、オレンジガーネットの瞳を煌かせた。

呼ばれてもいないが黒髪に赤くグラデーションのかかっている青年が姿を現す。


「某に絶てぬ万物はございません。切断の概念でございます故」

「ヴルマギアの方は人間がいないと生まれなかったタイプだ。人間に合わせて神霊も変わっていくってことだな」


デスカルはそう言ってああ、もうすぐチャイム鳴っちまうな、と結晶時計を見て呟く。


「黒箱教って宗教なのに聖典なくていいのか……」

「結局のところ、誰が必要なのかとかそんなのは人間が決めることで、俺達には関係がないからな。聖典なんてのは規律だとかそういった人間をまとめるために必要なものを組み込んだものであり、俺達にとってこの世界の民は俺たちが直接触れることはほぼないものでしかない。故に俺たちが下す戒律も規律も不要。そもそも、自然の力の象徴でしかない俺たちが人間に新しく規律をくれてやる必要はないだろ」


チャイムが鳴る。そんなものかと考えて、確かにそんなものかもしれないと腑に落ちた。

割り当てられているブースからロキたちは退出していく。


「デスカル」

「ん?」

「次はループの原因でも聞かせてはくれないか」


カルの言葉に、デスカルがにぃ、と笑う。


「いいぞ。俺たちは神託はやらんタチだがな、お前さんらが知りえない過去を暴くのは容易い事さ」


デスカルのペリドットの瞳がキラキラと光る。アツシの黄金色の瞳も、逆光の中で光っているのだから、ああやはり彼らは超常的な存在なのだなとカルは思ったのである。


「ああそうだ、今度バルティカが遊びに来るんだとよ」

「は、なぜ?」

「お前エルフの知り合いいるだろ。そのせいだ」

「ああ、そう言えばバルティカはエルフの庇護者だったな……フレイ兄上と仲良くなれるのでは?」

「可能性はあるな」


デスカルはじゃあな、と言って風に溶けて消える。

カルが問いかけた。


「ロキ、バルティカってまさか……」

「ああ、『魔王』だね」

「ここに来るなんて言わないよな?」

「さあな……まあ、グレイスよりはマシだと言っておくね。どちらかというとシドと同類だよ」

「そもそもエルフの庇護者、とは。まあ、確かに森を領してはいるが」

「バルティカ自身エンシェントエルフだぞ」

「まじか……」


古代エルフ族とも呼ばれるエンシェントエルフは、もともと浮島が大陸だったころに住んでいた種族である。神代から続くが、長い寿命と引き換えに子供は育ちにくくまた生まれる確率もかなり低い。


結果、数を減らしていったエンシェントエルフは現在ほんの少数がエルフと共に暮らしている。その場所の長が、バルティカ・ペリドスである。


バルティカ・ペリドスは比較的穏やかな死徒列強だ。

彼の種族は“魔族”。エンシェントエルフと精霊ペリドットとの間の子であるため、エンシェントエルフの中でもかなり異質なものだったのだ。


エルフ以外にも人間からつまはじきにされたものを受け入れている。エルフは今でこそ血統主義に染まっているが、エンシェントエルフはそうではなかった。そういう意味ではかなり人間とは話のできる列強でもある。


人間に絶望した列強ではないからこその特徴であるともいえる。


「シド、バルティカが来るなら茶菓子を用意しなくちゃ。クッキーの準備を。数日以内に来るだろうし」

「了解。茶は?」

「アールグレイに調節してくれ。俺が淹れる。ゼロは下がっていろ」

「わかった」


どうせだからカル殿下もいかがですか、とロキが誘いをかける、カルはそれに乗ることにした。


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