表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年後期編
222/376

9-1

2025/01/23 加筆修正しました。

後期が始まると同時に、戦闘訓練に実戦が加わった。

学園が飼っている魔物を相手に対魔物戦の訓練を、決闘形式で行うことで対人戦の訓練を行う。


「まさか後期一発目にこれとは」

「いいんじゃないか」


セトとロキが軽く言葉を交わし合う。

魔力とパワーのバランスを見て、ロキの相手ができる者がほとんどいないことから、軍の動きでもいいのでは、とロキが提案したことによって、ロキ、セトが本日のエネミー役となった。


ロキは魔力のみでの応戦と自分に縛りをかけている。セトはそんなロキの傍を守るだけの役だった。


「で、皆どう動く気だろうな」

「セオリー通りなら、カルを下げた状態でファランクスかな。レインをまず俺にぶつけて、その間にお前を押し切る気じゃないかな。最初から分かれようか」

「わかった。突撃はお前が?」

「ああ。風を使えよ?」

「おう」


ロキの言葉にセトが頷いた。ロキは基本この場から動かないようにすることを目標にする。


ソルは敵側になったのが不服だったらしいが、たかが訓練のチーム分けごときでそんなことを言わなくてもと諫めればソルは小さく息を吐いたのだった。


そのくせして現在は最前列で朱色の瞳を煌かせてロキを見つめている。突っ込んで来る、と、セトは思った。


「始めッ!」


アランの声が訓練場に響き、ロキはまっすぐに走り出したソルと向かい合う。


「せえええええッ!!」

「ハ!」


ソルのレイピアが炎を纏って突き出される。セトはソルを蹴り飛ばす。


「あら、無粋ね!」

「後続を連れてこないお前さんが悪い!」


ソルは蹴り飛ばされたまま体勢を崩してそこを離脱する流れに持って行った。後続として続いていたのはバルドルで、ロキとセトはそこで別れた。バルドルは相手取ると面倒だ。


バルドルがそのままロキ側に向き直った。なるほど、バルドルに攻撃が当たらないことを利用してロキを押しとどめさせる気のようである。


だが。


ロキは口を開いた。


「なんだ、カルの立案じゃないのかい?」

「あ、わかってしまったかい?」

「カルなら、俺を止めるなんて非現実的なことはしないだろうからね。するとしても自分で来るかな」

「いったいいつそんなことを知るほど親しくなるんだい?」


バルドルはロキの言葉に答えつつその手にした短槍を突き出す。ロキはそれを軽く払って飛び退く。バルドルが追撃をかける。


「セト! こっちにこい! バルドルを止めろ!」

「はあ!? この状況見て言えこら! お前のカノジョ強いんだぞ!?」

「恐縮だわ!」


セトはソルのレイピアによる刺突を避けるので精いっぱいになっているようで、下手をすれば武器をへし折るだけの力はあるのだから問題ないとロキ的には思うのだが、何やら女子に手はあげられないらしかった。


「こっちは魔術縛りなんだがなあ――咲き誇れ、【紅蓮の天竺牡丹(フレイムダリア)】」

「それここで試すのやめなさい! 散りなさい、【朱炎の(フランメ)小菊(クリュザンテーメ)】!」


ロキの放った魔術に対しロゼがすぐに魔術を行使する。紅い巨大な炎と多量の朱い炎が互いの魔力を飲み合った。相殺される。ロキは杖を持っていないので分かり辛いが、杖なぞロキが使ったら誰に止められるというのか。ロゼは杖を使用している。


「ロゼ、効率を上げたね!」

「アンタに追いつくには私には技術と効率以外にないのよ!! その辺は自分に合ってない魔力回路で残念だったわね!」

「最終的に耐えられるならどうとでもなるさ。出力を上げるよ、水の盾の準備は終わったかい?」


ロキが周囲の状況の変化に気付いていないわけがない。ロゼはパッと後方に跳ぶ。


「気にしたら負けよ! 盾を展開しなさい! 即破られるわ、次段構えて!!」


ロゼが叫ぶ。魔術戦になるのは仕方がない。そもそも学生でロキに物理的に攻撃を加えられる者なんてほとんどいないのだ。


「「「――【アクアウォール】!!」」」


生徒たちの周りを水の膜が包み込む。

魔術を発動させた3人の生徒に対し、ロキは笑みを浮かべた。


「さて――舞い躍れ、【蒼炎の天竺牡丹(ブレイズダリア)】」


ロキが次に繰り出したのは青い炎のダリアを模した形の魔術であった。花弁が散るように少しずつ青い炎が水の盾にぶつかっては水蒸気をあげる。ロゼの言葉通り、たった一度受けただけで水の盾がすべて水蒸気へと姿を変えた。


「ワンフレーズであの規模の魔術とかふざけんなよ!?」

「ロキなんてあんなもんだ。大人しくやられろ」


ロキはバルドルを避けた場所からほとんど動いていない。それだけバルドルの今の攻撃は足止めにもなっていないということなのだが、流石に水蒸気が充満したので驚いたオートが声を上げた。


「びゃあああ!?」

「セトを叩けっ! 火を使ったら爆発すんぞ!」

「いや、全部凍らせろ!」

「馬鹿、ロキも氷持ちだぞ、盗られるに決まってんだろ!」


生徒同士で怒号が飛び交う。ロキは軽く片手を上げた。


「やるしかないでしょう――」

「君か、レイン――」


ロキの手の動きを見ていたらしいレインが前へ進み出て、声を上げた。


「「――顕現せよ、【吹雪(ブリザード)】」」


ロキは前世で培っていた気象の荒々しさを見る目を以って。

レインはロキよりも高い水と風の適性を以って。


周りの生徒も巻き込んで、水蒸気が全て雪の結晶へと姿を変える。小さくセトの舌打ちが聞こえた。雪の結晶が、小さな氷が、魔力に形作られた渦に飲まれて吹雪を形作る。


「ロキ! 行けるか!?」

「無理だな。風の複合となると俺では少々力不足だ。だから――」

『私が出てもいいのね、愛子』


しゅる、と風が姿を結んだ。若葉色の髪の精霊を見つけたレインは小さく舌打ちする。


「どうした、レイン!?」

「ロキの風精霊が出てきた」


カルが口を開けば、どうやら今回作戦を立てたらしい男子生徒が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「精霊だと? あの時の火精霊だけじゃないのか!?」

「フォンブラウの傍に複数の精霊がいるのは知ってたが――風と火だとメルヴァーチが押し切られる」


カルが立ち上がる。自分で出てくるつもりになったらしいとロキにはもうばれたことだろう。強い精霊はさらに成長していく可能性がないわけではない。カルが知っている風精霊の状態よりも若干銀色の光を纏っている気がして、いやな予感がするのだ。


「グダグダ言わずに最高戦力をロキにぶつけておけばよかったものを。俺が出る。セトは抑え込めよ」

「そんな、殿下!」

「ロキならばまず最初に威嚇用に俺に一発撃たせただろうな。一番ド派手に相手の心を叩き折る、戦争のように」


カルは制止の声を無視してその手にバスタードソードを構え、中央へ向かった。

ロキがハルバードを使わない以上ロキは接近戦で潰すほかない。セトさえ止めれば時間切れまで持ち込めば拮抗する。人刃であるためもともとパワーがあることを考慮せねばならないが。


「拘束せよ、【フォトン】」

「――【魔術解除(ブレイク)】」


放った魔術には対処された。小さく舌打ちしたロキは魔術の維持をヴェンに放り投げて、カルの方に別の魔術を放つ。本来ならここでロキはハルバードを取り出しているはずだから、勝ち目など無いのだけれども。


【アンサズ】

「ルーンっ……!」


ルーン文字を無言であっさりと宙に文字を描いて炎を放ってきたロキにカルはとっさに腰を落として回避する。

後ろにいたセトを押しとどめていた生徒に当たった。


「あっついいいいい!?」

「おわ、ロキ、焼き殺すなよ!?」

「知らん。水でもくれてやるがいい、じゃなかった、人命救助の訓練ぐらいに思ってね。戦場でこれぐらい日常だろうし」

「うわー! 青き煌きの清き恩恵よ! 【アクアブルー】!」


燃え始めてしまった生徒に対して慌てた青い髪の生徒が水をぶっかけた。

ちなみに周りの生徒まで巻き込んだ。セトは風で避け切ったようだが。


「ロキ、今のはだめだろう!」

「単騎で突っ込んできたお前が悪いよ。カル、お前の本領は遠距離からの大雑把な範囲砲撃だろ。せめて別の属性を扱う連携相手を連れてきなよ」


カルはバスタードソードをロキに振り下ろす。ロキは軽くそれを避けて後退しつつ別の字を描く。


【イサ】

「今度は氷かっ!」


鋭く飛んできた透明な氷にカルはバスタードソードを盾代わりに使った。

氷を振り払えば、ロキが後退してまた別の字を描く。


【ソーン】

「っ、焼き払え、【ブレイズ】!」

【イサ】

「チッ!」


ブリザードの撃ち合いはまだ続いている。むしろレインは後方の皆にブリザードが及ばないようにと魔力を割き始めていた。


「ヴェン、術式を放棄して!」

『わかったわ、愛子』


しゅるり、とほどけるように風が消え、レインが倒れる。それをセトがひっつかんで後退する。ロキが同じくしてセトの元へ戻った。


「どうすんだこれ!?」

「温めるさ。んでもって盾にする」

「えげつねえ!」

「文句があるならとっとと1人くらい狩ってこい」

「へーへー」


今回の戦いにシドが参加していない――なんてことはない。普通にロキの背後に現れてその腕を振るった。

ロキの髪の先が青い炎に包まれる。


「ッ!」

「3000度あればお前も溶けるか」

「こえーよ!」


ゼロもロキに向けてその刀を振るう。ロキはゼロへは問答無用で氷をぶつけていった。ゼロが刀を振り下ろす。


「ふッ!」

「刀を使うときは引いて斬れと言っているだろ?」


そら、と軽く刀を弾けばゼロの手首からごきりとしてはいけない鈍い音がした。


「ッ」

「砕けていないと良いな。治すのが面倒だ」


ゼロはそのまま投げ飛ばされ、刀を奪われた。これで必要なら相手の対象に向けてぶん投げようか、と思ったところで。

アランが声を上げる。


「そこまで!! 勝者、ロキ、セトチーム」


その声と同時に、ロキは一旦立ち止まる。周囲をちらと視線だけで見渡して、とりあえず介助が必要な相手を探す。そしてロキは倒れたままのゼロを掴み上げて刀を鞘に戻した。軽く気を失っているゼロをそのまま担いで、授業の終わりを以ってそのまま医務室へと直行だ。


「……ロキ様ってなんだかんだで面倒見いいよね……」

「あ、わかる。他のケガしたやつも皆転移で連れてったし」

「いつ見てるんだろうねー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ