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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年夏休み編
219/377

8-14 フォンブラウ領Ⅱ

2025/01/22 加筆修正しました。

ロキとソルが目標を見つけた時、なるほどこれは、と2人で嘆息し、顔を見合わせた。


今回のドラゴン、種類自体は割とどこにでもいる鱗が緑のタイプである。が、何せ巨体であった。およそ体長10メートル。ここまで巨大に育つものなのかと2人で疑問を浮かべ合ったものである。10メートルと言えば通常は大型に育つファブニルやバハムートが有名だからだ。


「どう?」

「鱗がかなり厚そうだね」


ロキの銀髪が木漏れ日に照らされて煌いている。


そう、ここは、森の中であった。


ソルの赤い髪、火を表すこれは、森では好まれない。が、フォンブラウともなればもう話は変わってくる。そもそも2人がとどまりドラゴンの様子を窺っているこの樹も、実際は魔物であったりする。人面樹とはよく名付けたものだ。どこかのRPGの敵にいるが、それは置いておく。魔物の影に隠れていなければ、ロキの気配はドラゴンに勘付かれる可能性があった。


たとえ樹であっても、魔物であれば、多少は魔術に逆らう術もある。火の最高峰と謳われたフォンブラウの領地に在りながら規模を年々拡大しつつあるこの“魔樹の森”は、そのほとんどが人面樹とドライアドで構成されている。精霊も多く、魔物が棲む。


ドライアドは精霊にも魔物にもなる。植物限定であるので、土属性の精霊の中ではあまり攻撃には向かない。


ドラゴンの周辺の樹は倒され、悲しみに暮れてすすり泣くドライアドたちの姿が見える。本体である樹を失うと消滅するのは精霊のドライアドも魔物のドライアドも変わらない。

ドラゴンに同胞を蹴り倒されたドライアドたちになす術はないのだ。彼女たちは基本的にその場から動けない。


「これ以上広がる前に何とかできるかしら?」

「ソルの最大出力、植物ならば耐えられるだろ。俺は退散させてもらうけど」

「意気地のない。まあ、完全な無機物じゃないから仕方ないか」

「是非も無し」


ロキとソルはポンポンと言葉を交わし、得物を手に取る。ソルはロキに貸し与えられたレイピアを手に取っていた。


「そのレイピア、魔力への耐久性はそんなにないよ。お前の一撃で溶け落ちると思う」

「ええ、一撃耐えられればいいのよ」


せっかく作ったのに、ごめんよ?


謝る気もない謝罪の言葉に、ロキは嘆息した。

別にいい。それはまだ魔力回路が形成されてすぐに作ったものだから。

分かっていてソルも言ったのだ。


ドラゴン自体の分け方は、下級から中級に、中級から上級にと変遷していくが、上級種となるとイミットの親となっていることも多い。イミットと無用の争いを避けるためには、中級以上は狩らないこと、である。


ロキはしかし、ドラクルが人を寄越したことに気付いていた。


「こいつは本当に殺していいのよね?」

「さっきドラクル公がハドと他数名を派遣してきたようだからね。巣の方は平気だろう。こいつをやるだけだ」

「ドラクル公が認めてるならいいわね。じゃ、行ってきます」


ソルが音もなくドラゴンの背に飛び乗った。

ドラゴンはそれに気付いて顔を上げた。


ドラゴンは肉を食うが、魔力も食らう。ドライアドのような魔力保有量の多い魔物や精霊はいいように狙われたのだろう。火山が近いにもかかわらずそちらへ彼らが行かないのはドラクルがいるからか。


「ハッ!」

「ギャアアアアアアアッ!!」


ソルがレイピアに体重を乗せてドラゴンの背を突き刺す。そのまま魔力を流し込めば、レイピアは赤熱し始める。

じきにレイピアは原型をとどめていられなくなり、どろりと溶けだした。いくら分厚いとはいえ、鱗1枚を狙って突き刺せば破れよう。割れた鱗から魔力でのヒートに耐えられなくなった鉄が流れ込んでいく。


ドラゴンが苦痛に身をよじり始め、ロキとソルはその場を離れて様子をうかがった。


「やっぱ熱耐性あるわね」

「予想できていたことさ。ドラゴンは火山でも凍土でも生活できる。さて、次は俺だな」


痛みに荒れ狂って木々をなぎ倒し始めたドラゴンの元へ、ロキが駆けてゆく。ロキの得物はハルバードである。ドライアドの嘆く声がやたら大きく聞こえた。


「悪いな、若竜」


ロキは小さく言って、ハルバードを振り上げた。

ドラゴンが気付いてブレスを吐こうとする。


「【魔法解除(ブレイク)】」


吐け、なかった。

ロキに先に封じられた。


そのままロキがハルバードに体重を乗せてドラゴンの眉間にその刃を叩きこむ。鱗が割れた。


「グギャアアアアアアアアッ!?」

「お、やっぱ硬いな!」


ロキはその手に魔力を纏わせた。ハルバードを引く時間が惜しかった。

ロキはロキ神の加護持ちだ。返信はお手の物。そして、身体の一部を転身させるなど、もはや造作もなかった。


こういう時に限ってゼロとかシドとかのメンツがいないのだから笑えない。ロキは腕を転身して、伸びたその長い穂先をドラゴンに突き刺した。


ドラゴンが再び口を開く。

ブレスが来る。


「チッ!」

「【魔法強制解除(アンチマジック)】」


ソルが援護に入れば、再びブレスを阻止されたドラゴンが唸った。

ロキが腕を引き抜いて足を転じさせ、蹴りつける。

ドラゴンが尾を振るって樹が倒れた。


ブレスは封じられると考えたのか、ドラゴンはロキに噛みつく。ロキはそれを避けて飛び退いた。ハルバードががらぁんと音を立てて落ちる。


「うっわ、治ってるよ!」

「見ればわかる。一度打ち上げるよ?」

「はいはーい」


ロキが再度ドラゴンに接近する。ドラゴンがその身を丸めた。守りに入るドラゴンは地竜が多いが、火竜タイプも守りに入るものなのだなとロキは思った。


が、身体を丸めているのはむしろやりやすい。

おそらくこれだけの巨体、支えるにはいくつかの魔術を発動させる必要があるだろう。


「【極化(ポール)】」


ロキの中の概念に依ったものは基本的に詠唱はいらない。ロキ神さまさまである。

磁石の極を地面とドラゴンに対して付与する。ドラゴンの身体が浮いて、ドラゴンが驚いたように顔を出した。


「我は世界を映すもの。像を映し、記すもの。【空間停止(フォトグラフ)】」


ソルが魔力をフルに使って大規模な魔術を行使した。

ロキはその間に【極化(ポール)】を解除して、宙に浮く。


「ッ……!」

「あんま言いたくねえんだがな」


ソルの魔力量は多い方である、が、流石に空間相手の魔術行使は辛いのだ。脂汗が浮いている。後で労わってやらなくちゃな、とロキは思った。


「9つの国を薙ぎ払う、汝は炎、世界樹を駆けた大いなる焔。焼き尽くすは極彩の世界、金色の光に選ばれた、戦を求める流転の世界。赤く染める、これはその前座である。――焼き払え、【黒炎剣(レーヴァティン)】」


ロキがその手に黒い炎を纏わせ、ドラゴンに触れる。ドラゴンは動くことができぬまま、断末魔をあげながら黒い炎に焼かれて燃え尽きた。


「うわー、えげつないわね」

「もらえる素材は剥ぎ取ってるけどね!」

「うわー、うわー、手癖が悪いー」

「あとで分けてあげる。……おそらく今ので俺が【レーヴァティン】を使ったのはアーサー曾御爺様にばれたと思う。無茶をしたと言われるだろうから、まあゆっくり休め」

「ええ、そうさせてもらうわ」


ソルは小さく笑って、それにしても、と呟く。


「本当に恐ろしい出力してるわね」

「あそこまでとは俺も思わなかったがな」


ドラゴンを突き通すロキの作ったレイピアがすごいのか、それを溶かすほどの熱量を発現させることができるソルがすさまじいのか。

しかしやはり、何よりすさまじいと思われるのは、そんなドラゴンすら焼き払ったロキの炎であろう。


ロキは咄嗟の出力が極端に低い、閉鎖型と呼ばれるタイプの魔力回路を持っている。しかしそれは咄嗟の時や詠唱破棄状態の魔術に掛かってくるだけで、詠唱をすれば問題にならない。ロキたちの魔力は魔力として使うためにマナとエーテルから魔力を編む必要があり、編んだ魔力を魔術に使用する。ロキたちはいつでも魔術を使えるように魔力を無意識でも編めるようになっているのが普通であり、その魔力を撃ち出す出力に関係するのが第2魔力回路と呼ばれるものである。ソルは第2魔力回路が放出型で、ロキは閉鎖型なのだ。


閉鎖型の回路を持っている場合、魔力放出が苦手なのであまり魔術の撃ち合いとなる魔砲戦を得意とする者は少ない。詠唱はその魔術を編む時間であり、その時間をかけられるならば閉鎖型回路でも魔砲戦はできる。ロキは詠唱時間さえあればどんな魔術でも撃てるだけの魔力量を誇っているので、本当に、詠唱さえできれば敵なしなのだ。


2人は元来た道を戻り始めた。

2人が静かに森を抜けて駆けてゆけば、鉄臭さが鼻につき始める。


「派手にやってるわね」

「ああ、本当にね」


森を出て視界が開けた。広がる光景にロキとソルは小さく息を吐く。死屍累々とドラゴンの死骸が転がっている。

2人でそこを駆け抜けて元の位置――アーサーの傍に戻れば、どうやらこれから剥ぎ取り作業に移るらしかった。


「おお、戻ってきたか、ロキ、ソル嬢」

「はい。これから剥ぎ取りですか、アーサー曾御爺様」

「ああ。お前たちは休みなさい」

「わかりました」


ロキが受け答えをして、それぞれ獲物の剥ぎ取りに向かう冒険者たちをソルと共に見守った。


「して、何がいた」

「10メートル級の火竜です」

「なるほど。お前が【レーヴァティン】を使うわけだな」

「やはり見えましたか?」

「ああ」


アーサーとロキは言葉を交わしつつ、回収した素材をロキがアーサーに示した。あの一瞬でどうやって剥ぎ取ったのかとソルは思うが、気にしていてはいけない。

ロキ神とはそういう神格でもあるのだ。

そんなロキの疚しさを倍増させてさらにブーストをかけているのが手先が器用になる概念であると言われた日には、「お前の前世日本人」と指差してやりたくなった。日本人だったという概念一つにブーストをかけられる個別概念が多すぎて困る。


剥ぎ取りを大方終え、冒険者たちの帰還を以って、解散となった。皆各々の収穫に頬を緩めながら帰路についたのは言うまでもない。


ちなみに、今年アーサーの魔法に巻き込まれた阿呆はソルの予想通り3人だったそうな。


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