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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年夏休み編
218/375

8-13 フォンブラウ領Ⅰ

2025/01/22 加筆・修正しました。

ゴトゴトと馬車が進む。最近は魔物の発生が落ち着いていることもあって、領都間の行き来が馬車で行われることも多くなってきたようだ。とはいえ、フォンブラウ家の馬は普通の馬ではないのでそれが当てはまるかどうかは怪しい所。


「父上、それは一体?」

「ああ……フォンブラウ領でまた魔物の被害が増えているらしい」


王都の南西に位置するフォンブラウ領都へ向かって馬車で移動している最中、ロキはアーノルドが読んでいた文書について問う。帰ってきた返答にロキは、またフォンブラウの土地に釣り合わぬ何かが起きたらしいことを知った。


ロキたちがフォンブラウ領に戻ってきて、最初に驚いたのは、魔物の量が減っているにもかかわらず死傷者が増えていることであった。本来ならば魔物の数が減っているのならば被害は減るはずなのだが、どうやら強力な個体が増えていることを示す結果であろう。


ギルドにアーノルドが息子たちを連れて顔を出した時、支部長は戦闘の結果、盾を持っていた左腕を失っていた。アーノルドの友人だったらしく、支部長の傷を見てアーノルドは冷静に次の行動を起こすべく指示をし始めたものの、その瞳は陰ってしまった。

ロキが持って行かれた腕を平気な顔をして生やしたりしなければ、そのまま支部長は前線を退いていただろうし、アーノルドも暗い気持ちのままでいたことだろう。


「王都でギャグをかましてきたのに帰省したらシリアスシーンとか笑えないわね」

「そうだね。……ソル、今回は一緒に魔物の掃討に参加するようにとアーサー曾御爺様が仰っているようだよ。支度を」

「了解。ルナは?」

「治癒部隊に回して。人手がいくらあっても足りないのが実情だろうから」


ロキとソルはさくさくと魔物狩りの支度をして、集合地点に指定されているギルドの集会場へと向かった。


2人とも服装は夏仕様である。

半袖に短パンのソルと、ノースリーブに短パンのロキ、とてもではないが貴族の服装ではない。あと、戦闘用でもないと思われる。


「今回近接はするなよ。お前が今使っているのはそこまで強度が無いのだから」

「わかってるわ」


ソルの武器は、学園からの貸与品である。別のものを使い始めたは良いが、このまま支給するより、後期に届くことになる武器に持ち替えた方がいいだろうということで、そのまま訓練用のものを渡されただけだ。


ゼロのように別の誰かの作品であるというならまだいいだろうが、ソルの武器の使い方自体はかなり粗いものであるため、鉄製ではだめだろうというのがロキの見立てである。単純に雑とかそういうだけの話ではなく、刺突系の武器なのだから下手をすれば折れるし曲がる、当然である。


集会場には腕利きの冒険者が大勢集まっていた。クエストボードに貼ってある紙には大きく“白銀級以上”の文字。白銀級以上の冒険者のみを募集するとは、相当追い詰められているのかと王都から来た者ならば思う。


が、フォンブラウは違う。

一味違う。


「ふむ、今回はアーサー様が出撃なさるので、最初は移動してそのままアーサー様の魔法の発動後、各自撃破の方向で予定を組んでいる。王都から来た者たちが前に出過ぎないようしっかり見ておけよ」

「わかってますってー」


「なんかやたら獣人が多くないか?」

「しかも赤銅級も黒鉄級もガキばっかだ」


「あの若い子王都から来たのかしら」

「1人っぽいね。誘ってみる?」


各々の会話、支部長からの指示、加えて知らされるアーサーの出撃。ロキは眉根を潜めた。


「今年は3人くらいかしら?」

「去年は20人くらい巻き込まれてたからな……」

「あれは前に出るなと言われてたのに出たのがいけないわ」


ソルとロキの会話もこんなもんだった。

アーサーの加護による固有魔法――【エクスカリバー】、ロキたちからすればどこぞの英霊の必殺の一撃として顕現する光属性の最上級広域殲滅魔法。


詠唱も少々長めだが、その威力は申し分ない。

『剣聖』の名をほしいままにしているという事実のある魔術一門出身のアーサー・フォンブラウ、王家に忠誠を誓っていることでも有名な男なのだが、なにぶん孫と曾孫は溺愛しているのだ。ロキたちが彼の厳しい面をあまり知らなくても無理はない。


加護を持つ者は大半がその加護を与えている名の固有魔法を持っている。神霊、英霊、英雄の名は地球と変わらないためロキたち転生者も予想がしやすくて助かっているが、例えば騎士王アーサーは【エクスカリバー】、ロキは【レーヴァティン】、トールは【ミョルニル】といったふうに、伝説で語られる武具の名を冠された固有魔法が多い。


それもこれもが基本的には周辺を巻き込む広域殲滅魔法であり、しかし同類の、家の血統ごとに持っている魔法とは別ベクトルで桁違いの威力を誇っている。


「早く神話学の続きが聞きたいなあ……」

「ソルは特に面倒な神格だからね」

「だからといって私女なのにアポロンやヘリオスと一緒にされても困るわ」

「まあ、そこは、ね。ルナがセットだからお前がローマのソルだってわかったんだろう?」

「ええ、普通にソルで女だったら北欧神話のフェンリルだかスコルだかハティだかに食べられる方を思い浮かべるでしょ」


ちなみに、だが。

この世界でももれなくソル、ルナのローマセット(ロキ命名)、ソル、マニの北欧セットは男女である。


「どっちにしてもわけわかんない状態ではあるのよね」

「まあ、ケルトに北欧、ギリシャにエジプトが混じってる時点で、ローマが出てきても何も言えなかったと思うけど」

「それもそうね。ていうか、こっちでは神話体系を主神の名前で呼んでるわよね。主神何柱もいて名称ごちゃごちゃだし宗教的には呼び方全然違うの困るんだけど」


ソルとロキがそんな会話を繰り広げているうちに、今回の割り振りは決められた。2人は回されてきたメモを見て、小さく頷いた。


「まさかの一斉ぶっぱね」

「炎は何よりも分かりやすく相手の命を刈り取るからね。それに今回は火山が近い。転身するかもしれんな」

「おーけい回収は任せなさい」


ソルとロキの割り振りは最前線である。最前線で魔法を撃っても構わないと、そういうことだろう。ロキはそう理解する。そして、ロキが転身したら回収を任せられるのは事実上ソルだけなので先に頼んでおいた。



「ドラゴンがたくさんいる……」

「ダメだろこれ……」


出撃後の集合場所にて、ロキとソルはアーサーのすぐ横に立っていた。予想に反して2人はただ傍にいればいいと言われたのでここに居たわけだが。

眼下に広がる群れたドラゴンの巣の群を唖然として見下ろした。身体の色は大体緑であるため、所謂プレーン体のドラゴンであるらしいことを理解して、それでもこの数は嫌だ、とソルとロキは顔を見合わせる。


ざっと数えても3メートル前後のドラゴンが50はくだらない数の巣を構えているのだ。ほとんどの巣は1頭で巣を守っている。このタイプのドラゴンは雌雄別体なので、最低でも倍の数になると考えていい。


「被害が大きくなってたのはこれの所為のようだな。ロキ、これは全部下級か」

「はい。おそらく上級に進化した個体が移動してきたときについた群れかと」


ざっくり群れを確認してロキはアーサーの問いに答える。ここまでの群れを維持するにはリーダー格が必要になる。ここにいるドラゴンはほとんどが下級ドラゴンだったため、中級か上級のドラゴンが群れを束ねているとみるべきだろうと判断した。イミットと番っているドラゴンは群を作らないので、問題なく屠っていいだろう。


「頭を探せ。儂は彼奴等を屠ってから行く」

「承知いたしました」


アーサーの言葉に、ロキは一歩引いた。ソルがロキの傍で薬品の準備を始める。


「では――降り注ぐ金色は恵みをもたらす数多の光、注ぐ熱は命の息吹。束ね、絡まり、編み上げられし極光。湖の乙女は告げる、これは一筋の光、己が正義に振るわれる剣。立ちはだかるを悪と做し、眼前一帯、薙ぎ払え」


アーサーが鞘から引き抜いたブロードソードに光が収束する。


「【騎士王の光剣(エクスカリバー)】」


収束した光はアーサーの振るった剣を離れ、辺り一帯に巣食っていたドラゴンをその巣もろとも吹き飛ばした。


下級竜はドラクルからすれば同族というよりは狩りの対象。ならば刈り取ったとしても文句はあるまい。

フォンブラウはそうしなければ、魔物が増えすぎるのだから。


「よし、行け!」

「「はい」」


ロキとソルが返事をして、たっ、と軽い足音と共に駆け出した。2人とも動きやすい姿をしている。つまり、2人とも丈の短いズボンをはいている。子供の内だからできる服装だなあとはテウタテスの言だ。流石にロキはシャツを着ることにしたようだが。アーサーは駆けてゆくロキとソルを見て、満足そうに笑みを零した。


「え、あの子たちは」

「フォンブラウ家の子でしょ。あ、四番目の子だわ」

「ロキ様、な。横の子は、セーリスの娘さんか?」

「だろうな、一緒によくいるし。つかあの速度で走るか。すごいな」

「脚が綺麗だなぁ……」

「どこ見てんだこいつ!」


慣れた冒険者と不慣れな冒険者でかなり話の内容に差がある。ロキとソルがあっという間に見えなくなって、アーサーが皆に号令をかけた。


「皆、ここからは各々のパーティで魔物を狩ってもらう。ここに居たのはおそらく移動してきた母と子のドラゴンのみだ。これから雄との連続戦闘になる! 心して掛かれ!」


はいはい、と慣れた様子の冒険者たちが陣を組み始める。


「あの2人が親玉を殺りに行ってるってんなら、こっちはチビばっかりの相手になる! 盾持ちは前へ出ろ! 下級ドラゴンはそこまでデカくねえ、盾の奴を中心に組んで、盾の後ろに陣取れ! 半端な双剣士は邪魔だ、周りの掃討してろ!」


下級竜、と言えど、それは単純に強力な魔法を放ってこないだけのこと。そこまでの知能はない。頭で言うならば人間よりは知能が低い、しかし彼らには有り余る魔力と種族魔法のブレスがある。


盾役がいなければベテランでも死ぬ。なるほどどうやらほとんどの死者たちは盾役のいないパーティであったらしい。


巣を焼かれたことに気付いたドラゴンたちが戻って来るなりブレスを吐く。

後方にいたアーノルドが珍しく引っ張り出してきたその大振りな杖を掲げた。


「――」


炎が空を走り、ドラゴンの翼膜を焼く。飛行能力の根底を失ったドラゴンたちが墜落してくる。その中に、焼かれていないドラゴンたちの姿。


背に、槍を持った少年を乗せたドラゴンが飛来した。

ドラクルだ、と誰かが言った。数名他に同じような風貌の子供が居り、ドラゴンたちは彼らを墜ちていないドラゴンの真っただ中に放り込むと、去っていく。


「布は? どっちだ?」

「赤! 足止めだ! 全員防御に集中! イミットが加勢に来たぞ!」


声が飛び交い、冒険者たちはドラゴンを足止めし、その命を確実に刈り取っていった。


ロキとソルが帰還するまで、あと30分。


アーサーの詠唱ちょっと伸ばしました。為を做に変えたのはわざとです。

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