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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年夏休み編
217/377

8-12 王宮

2025/01/22 加筆・修正しました。

『ロキ・フォンブラウ殿 3日後、王宮に来られたし。エリオ・シード・リガルディア』


ロキ宛で受け取った手紙を見たアーノルドは一言言った。


「手紙の書き方がなっとらん」



王宮に呼ばれたロキが出向けば、今回の出迎えはエリオだった。そもそも今回ロキを呼び出したのはエリオなので当然ではあるが。


「アニキ!」

「王宮ではその呼び方になるのか。ロキで構わんといっとろうに」


目上の者が目下の者を呼び捨てにするのは悪いことではないだろう。エリオがなかなかアニキ呼びを止めないので放置してしまっているが、王族の言葉遣いではないことだってわかっている。

一方でロキは意識して使わなければ敬語が使い辛くなってきた。アーノルドに理由を聞くために出した手紙への返答は『人刃の力の所為』で、人刃族は血統の濃さで能力値が決まることを改めて知らされ、同時に思い知った。前世で流行っていた異世界転生物のようにはいかないらしい。


人刃はもともと自分の使い手を選ぶ傾向があるため、相手と対等か相手よりも上の立場として自分を認識している。元来人刃は横暴な態度を取る者が多く、元をただせば神剣や付喪神の類に行きつくため、多少の横暴はもともと許されている節があるそうだ。ロキが他の人刃相手に敬語を付けなくなっているのはロキ自身が現在純血の人刃と同じ等級にあるためだろうとアーノルドは言った。


「なんか収穫あったか?」

「お前の作った魔道具だが、もう少し持ち運びやすくしてほしいと言われたよ。改良の余地はあるかな?」

「術式の組み込み方を考え直すか? 魔法陣(コード)これ以上複雑にしたら暴走しない?」

「立体に組むか。魔法陣を重ねて互いの干渉を防げばもう少し小さくなるだろうし」


王宮の廊下を歩きながら2人は話す。

魔術研究に暇の無い人種なのだ。ロキはもちろん、エリオもその類の人間であり、故に王には向かず。


しかし使えるものを、作ってしまうから、権力争いの駒にされるのは分かりきっている。

ロキはエリオも守れるならば守りたいのだ。


部屋に着いたロキはアイテムボックスから早速魔法陣(コード)の図を広げた。


「新しく作ったやつ?」

「ああ。後は、別の大陸から渡ってきた文献を調べて拾ってきたものだよ」

「図書館やべえな……」

「まったくだ」


ロキはそれ以外にもラックゼートやらロード・カルマやらから文献の提供を受けている節があるので余計に情報を手に入れやすいのではあるが、読めるかどうかはまた別の話である。ロキはそれを勉強の傍ら読み進めているから恐ろしい。


日当たりはそこまで良い部屋ではないが、薬品やらなんやらの保存にはもってこいなこの王宮の一角の部屋を、エリオは工房にしている。

王宮からすれば、代々工房にされている部屋がいくつかあり、その1つにエリオが入ったにすぎないのだが。


ロキも1つ部屋を使っていいとジークフリートに言われてはいるが、使ったことはない。荷物を置いておくこともない。彼は工房を作ろうとしていないのだ。

そこについては、実はまた別の方向で話が進んでいるのであった。



「――というわけで、ロキにはそれだけの権能がつくことになる。承認よろしく」

「相変わらず決定事項しか言ってこないなあこの女神!」


謁見の間にて、赤毛の少女とジークフリートが話していた。その横には宰相職についている痩せぎすな男が蒼褪めて突っ立っている。


「けっ、そもそもお前らがあの小娘を止められていればこんなところまでロキも拗らせやしなかったさ。あいつは持ち物が多くなる。工房は別のところに作るのが最も効率的だろうよ!」

「はぁ……わかった。ロキをこれ以上傷つけないでくれよ! あとうちの子たちも!」

「そんなもんはナイトメアどもに頼め!」


赤毛の少女――デスカルは宝石を埋め込まれた分厚い本を手にする。正式契約書を保管するための魔導書だ。その権能の持ち主は名を忘れられてしまったのだけれども。


「ったく。俺は大切なロキ君たちを守ってやりたいのに、本人たちは勝手に突っ走るタイプだし? 手綱握っとれよまだあいつら成人前だろうが!」

「そうだけれども!」


ジークフリートに言ったところでどうしようもないことは把握している。デスカルは小さく息を吐いた。宝石に光が宿り、ふわりと正面に布を簡易的に纏った男が現れる。


『……おお。おぬしか』

「お久しぶりですね、ダルマ。やはりこちらは貴方がたの力が強いな」

『は、は、は。それこそ、シヴァの示すままに。――して、何用か』

「今ロキに掛けられる一番近い制約は何だ」


ダルマ、と呼ばれたそれは、神霊である。

この世界に神霊はもうほとんど姿を現さないはずでは、とロキたちならば言ったことだろう。


『不破の制約、だ』

「おお。結構ヤバいのが使えるな。条件は、カルあたりか?」

『ああ、あの金髪の子だ』


神霊の会話などにジークフリートはわからない。ただ、どうやらデスカルの持たない範疇の権能を保持している神霊がこの男の方であるらしいことは分かった。


「なら後の儀式の一切を任せてもいいだろうか。あの聖人英雄、堂々とロキたちに接触してきたからな」

『あの子がそんなことをするとは。わかった。こちらにしばらくとどまろう』

「助かる」


デスカルは本を宙に浮かべるとそこから離れる。


「ジークフリート王、かの神霊はあまり有名な神格ではないから、魔力供給を忘れるな」

「あ、ああ」

「あと、そこの宰相はやめさせた方がいいんじゃねえ?」

「あ、やっぱりそう思う?」


宰相は相変わらず青くなっているのだが、デスカルはそれを眺めて、カツンとヒールを鳴らした。宰相の肩が震える。


「国内、特に政の場を変えなくては何も変わらない。で、教会を抑え込むにしてもセネルティエ本山とは連絡が取れずじまいだろ。いつぞや手紙が返ってきたのはラッキーだったな」

「まったくだ」


セネルティエ王国にあるカドミラ教総本山と連絡が取れない期間が長くなってきている。ジークフリートにとっては、総本山に居る教皇ジュードは友人であった。連絡が取れなくなる期間は今までにもあったが、ここ最近は特に酷い。カルが生まれた前後でも連絡が途絶えたことがあったが、今年は前回連絡が取れたのが半年以上前となっていた。ジークフリートは宰相に退出を命じて、デスカルと2人でのんびりと話し始める。


「とりあえず、ロキを守る方向で神霊は動く、と?」

「いいや。神霊が動いてくれるわけじゃない。特に、ロキは神霊の加護なんて受けられやしない。ただ、今回はロキが()()()から気が向けばロキの仲間くらいは助けてくれる。ロキ本人は無理だ。あれはそもそも()()()()()()()()()()()()()に世界樹が選んだ魂の器さ。神霊の加護を切り裂くレベルのモノをわざわざ使ったのは世界樹の判断であり、むしろ今現在こういう状況になっているのがおかしいんだぞ?」


本来ならばこの状態はいつ神々のちゃちゃが入ったっておかしくない、とデスカルは言って、まあ、と付け足す。


「神々にいつ見捨てられたっておかしくない位置にある世界だもんなあ……ま、国民を守りたいならロキに教会が手を出すのは止めろ。全部死ぬぞ」

「……権能の関係かい?」

「いいや。流れない時間も、外に世界がある限り世界回帰などということも本当はありえないんだ。ロキはそもそも()()()()()()だ。お前たちにとってどれほどロキが大事な存在になろうとも、その手の中に納まっていてくれるほど大人しい奴じゃない。ロキを捕らえようとすれば問答無用で焼き払われる。予定になかった魔力量で回してる上に、闇竜が味方についた時点でお察しだ。バルフレトが降りてきたところで気付けって話だが、あちらさんも皆頭がおかしいじゃないか」


ジークフリートは小さく呻いた。

デスカルの指摘はもっともだったからだ。


「凍土の住人にして炎の神格。ロキって名前は伊達じゃない。あれは世界を焼き滅ぼすだけの火力だって持っている。あいつ自身が望めばそれこそ、この世界も危うくなる。あいつはずっとこの世界を守ろうとしている。そうあいつが思うところまで手を繋いで追いすがっていたあいつの兄弟に感謝しておくといい。赤い方の王子もその中に入ってるが、まあ、今が最適解ってことなんじゃないのかねえ」


そろそろ俺は戻る、とデスカルが言った。

ロキ自身の知らないことを散々この女神は情報として零していくが、ジークフリートは当事者ではないのだから、ここに情報を持ってこられても困る。


当事者ではどう足掻いても無駄な時だってあるのだとは、分かっていても、文句が口を突いて出るのは許してほしいものである。



ちなみにこの時の会話を後のロキに伝えた時、ロキは「俺がラスボスか」と頭を抱えたのは脇に置いておく。


ロキ君が伝えたかったことを一言で表してくれました。

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