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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年夏休み編
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8-11 フリーマーケット

2025/01/21 加筆修正しました。

ソルが聞き出した次のフリーマーケットへの出店は、その週のサファイアの日だった。その次でもいいとロキは言ったのだが、ソルたちは何があったのか沢山作品というか商品を作り溜めていたため、出品することになった。


ロキは台に並べられた治療薬の入った瓶を見て、ソルとルナがエングライアの系統に属していることを改めて実感した。カラフルな瓶を、色と形で薬の種類を分けているのは、ロキもやっているし、元はエングライアが始めたことである。入れる瓶の種類と中の薬の種類が一緒だとか、エングライアの分類そのまま使っているとか、系統が同じソルたちが同じことをするのは慣れによるものなのかもしれない。


ロキは自分に合わせて開店するので、セトたちからは「先に予定教えろよ!」とよく言われている。リストを作り、どの値段のものがどれくらい売れたかをチェックして、それぞれに金を分配している。


今回はロキ、ソル、ルナ、そしてセトの4人がスペースに突っ立っている状態だった。もともとは茣蓙を敷いているだけだったのだが、夏になって気温が高くなってくるとなかなか暑いので、テントを用意したり、建物から日よけの布を引っ張って棒で固定し、影の中で露店を出すことになる。

ソルとルナは冒険者が傷を診せれば丁寧に傷薬を選んで治療をしていった。


「大銀貨1枚でーす」

「はいよ」

「ありがとうございましたー」


ソルたちに男性客が群がってしまうのは致し方ない。今回踏み倒す客がいないのはいつだったかのフリーマーケットでロキが料金を踏み倒そうとした相手の足の骨を一発の蹴りで折って騒ぎになったためだ。ちなみにソルたちは一緒に美味しい食品の屋台まで紹介するのでそちらの売り上げも順調に伸びているようである。


ロキの方に女性客が来るのも分かっていたことだ。現在は、目の前に、マールを名乗る少女がやってきていた。


「お久しぶりです、ロキ様」

「いらっしゃい……ああ、久しぶりですね」


相手が自分が贔屓にしているスイーツ店の一人娘であることにロキは気付いた。


「綺麗なアクセサリーですね」

「すべて手作りですよ。いかがですか」

「あ、結構安いんですね」


マールはその茶髪を装飾の無い髪留めで縛っている。菓子店を続けているということはそこまで困窮していないはずなのだが、彼女が単におしゃれをあまりしないたちなのか、かわいい顔をしているのだからもったいないなあとロキは思う。


女にとって外見は最大の武器であろう。飾らないところが好きだという者もいるが、ロキはどちらかというと飾りがいのある方が好ましい。ソルのように、自分では髪も編まないタイプというのは、いざというときにロキが手ずから髪を編んだり花を挿したりもできる。ソルは基本自分のことは自分でできるので、よほど難しい髪形にしない限り問題はないのだが。


マールが髪留めを見ていることに気付いて、ロキはふと口元を緩めた。前世の記憶では、男女問わず料理の時は三角筋を頭に着けていたものだが、こちらでは基本白い布が最も安い。純白のものは逆に高く、麻布などは染めない限りそう高くはならない。


ここに出しているのはどれもこれも布製の髪留めばかりで、金具を使ったイヤリングやピアスをそろえているが、ゴムはない。ゴムはさすがに劣化も早いことや、硫黄を加工するなどの技術はメタリカにはないこともある。シドが今日いないのはデスカルたちに呼び出しを食らったからであり、ゼロがいないのは刀を研ぎに出してくると言ってホウとオウの工房へ行ってしまったからだ。


「布製の髪留めは使いにくいですか?」

「ええ……だからといって、さすがにバレッタはちょっと高いのが多くて」


マールは苦笑を浮かべた。ロキは布製の髪留めばかり使っているので分かり辛いのだが、案外簡単に外れたり、髪を巻き込んだり、留めるのが面倒だったりと問題も多いのだ。基本を多量のピンで留める髪型が多いため、髪質によってはそれこそどこかでふとした時に外れて失くすなんてこともある。


一方バレッタは装飾品として貴族にも好まれている。

その分宝飾品として飾り付けられていることが多く、ロキはあまり使わない。使ったのはせいぜい女だった時に、少しばかりつけているだけだった。銀髪であったから、あまりダイヤモンドなどの透明な石は身に着けるのに向かなかったのだ。


ということで、ロキ自身あまりバレッタは作っていない。

まったくないわけではないが、そちらはリフレクターを組み込んだためちょっと高いのである。


「あれ、これはすごく高いですね……? 良心的じゃないわ……!」

「ええ……冒険者向けの、リフレクターを組み込んでいますので」


ロキはセトの方を見た。セトは皆の目の前でレース編みをしている。脳筋だとばかり思っていたのに、意外な一面を見ている気分である。目新しくもなんともないのに、ロキよりも太い指と大きな掌が薄く柔らかいレースを作り上げていくのが不思議なこととして目に映るのだ。


「あれ、このレースはテーブルクロスですか?」

「……」

「セト?」

「ん?」


セトが顔を上げた。レースに集中していたためかまったく話は聞いていなかったようである。


「これ、テーブルクロスか?」

「ん、ああ。それは丸テーブル用だ。そっちに畳んでるのが長テーブル用」


セトは目の前にいるマールに気付いた。

ああ、そういうことね、と言って、マーク用のリングをかぎ針にはめてそれを置く。ロキが編み物をしていた前世の母親のことを思い出したことでロキの手によって作成された木製のリングだった。


「今回は白だけで作ってますが、どうですか。他にもカーテンとかいろいろ作ってますけど」

「カーテン? ああ、それじゃこれくらいの窓に掛けるレースカーテンとかありますか?」

「そりゃこっちですね」


セト、一体何を作れるのだろう。

ロキが疑問を感じたのは致し方あるまい。


リズとルガルがやってきたのが見えて、ロキは軽く手を振った。


「リズさん、ルガル、お久しぶりです」

「久しぶり、ロキ君」

「久しぶり。相変わらず繁盛してんな」

「最近魔物が少し減って、新人育成が進み始めたようですからね」


2人の言葉にロキは辺りを見て、タグが黒鉄級や赤銅級の冒険者たちを顎でしゃくった。


「という君も赤銅でしょう」

「昇格手続き、時間なくて受けられないんですよ」

「この時間に行けや」

「片やレース編みに集中して周りが見えない脳筋、片や頼りない令嬢。ソルを任せられませんね」

「ソルちゃんが一番しっかりしてると思うけど!」

「おう、おめでとさん。まさかお前に春が来るとは」

「なんでバレんだ畜生」

「なんでそこ通じてるの??」


周囲の喧騒にまぎれる程度の声で、3人の会話に花が咲く。少し話してからこれで治癒ポーションな、と小金貨1枚を渡され、ロキは自作のポーションこと治癒薬をコトコトと並べ始める。


「あ、ロキ君、こないだの、叩き割るタイプの使い捨て魔道具なんだけど」


リズの言葉にロキが笑みを浮かべる。ロキにとっては一番感想を聞きたかったものだ。掌サイズの成形された四角いクリスタルで、ポーションのような効果を持たせてあった。色と刻んだマークで効果の該当ポーションを判断できるようにしてある。


「ええ、どうでした?」

「あれ使いやすかったよ。作ったの誰?」

「……あはは。ちょっと耳貸してください」

「うん?」


ロキは魔道具の制作者を耳打ちした。


「ええええええ!? ええええええ……」

「えーじゃわかんねーよ」

「いや、だって、アレ作ったの、……」

「……マジかよ」


小さくルガルにも伝えたらしいリズはうわー、と呻いた。


「まあ確かに、ロキの知り合いって時点でそんな低い家じゃなさそうってのはあったよな」

「まあね……でも、王子かよ……」


カルではなくエリオだけどな、とロキは笑みを浮かべる。

エリオの魔道具やら魔術やらにかける思いは一級品である。ロキはそのアイデアに少しばかり改良を加えるだけ。使いやすく、リピートを狙って。


「試しで冒険者に使ってもらって、うまく作用しそうなら近衛に、騎士団に、国境警備に、物資として回す予定です。改良すべきところは積極的に改良しないと」

「あ、一気に貴族の顔になっちゃった」

「ほんとになー」


ロキとしては、エリオのこれを実績にして、エリオをカルが抱き込むことでその立場と、お互いの命とを守る方へ傾くことを望んでいる。

エリオは確実に魔導師団を束ねることになるだろう。ロキがそこに収まらない限り。


リガルディア王国内でも案外王位継承権のある王子が2人居る状態というのは派閥を生む原因になっているもので、ロキはカルの下に完全にエリオを入れ込むことで衝突を避けたいジークフリートの意見に従う父親のために、自分たちにできることをやっているだけだ。上手く功績になりそうなところが恐ろしいが。


何はともあれ、ポーションにしろ他の薬品にしろそのためにいろいろと準備をしているので、ロキ的には皆が使ってくれると非常に助かる。ロキ自身があまり使わないうえにそんなに魔物との戦闘を行うわけでもないので、現場の声をぜひとも聴きたいのである。


「……俺は王都にずっといるわけでもないけど、魔物の恐ろしさは知っているつもりだよ。2人のパーティには実験体になってもらうしかないかな!」

「まあ、確かにそこそこ力はあるがよぉ」

「ああ、それなら、アイテムポーチが欲しいわ。採集をメインにしてるパーティもかなりあるから」

「近くにも道具袋系を売っている店があったよね?」

「あそこのおじいさんもうすぐ辞めちゃうらしいのよ。エルフ用の特殊なタイプだし、知り合いのエルフとかいない?」

「いるけれども」


今のロキは非常に交友関係が広い。年齢を問わなければそれこそ死徒列強まで含まれるほどには。

知り合いのエルフの1人や2人はいるだろう。そう思って言ってみただけだったのだが、本当にいるとは、とリズはもはや呆れた。エルフはロッティ領の森に住んでいる以外の住居が分からないのだ。


「【アイテムボックス】が使えない冒険者用によろしく!」

「ああ、考えておくよ。――ソル、薬はもう切れたのか?」


ロキは視界の端に映ったソルが手早く片付けを始めたことに気付いて声をかけた。


「ええ。もう治療用のは切らしたわ。私刺繍用の布探してくるわね」

「刺繍? ああ、そう言えばトールが欲しがっていたな。俺も行こう」

「あらら。ルナ、セトから離れちゃだめよ」

「わかってるよ。いってらっしゃい」


簡単に言葉を交わしてからロキとソルがその場を離れる。いまだにマールとレースについてしゃべっているセトはこの際無視することにした。マールも思う存分フリーマーケットを楽しめばいいと思う。それと同時に、セトの女子力がさらに上がってくること間違いなしと思ったのだった。


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