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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年夏休み編
215/376

8-10 転生令嬢の茶会Ⅱ

2025/01/21 加筆修正しました。

「あら、ロキ様女の子に見えるわね」

「ぱっと見はね。ロキ様ってかなり身体薄いから」

「本人気にしてるのに言わないの」


写真モドキをヴァルノスとロゼに見せながら、ソルが話す。

エリスとルナもちゃんとのぞき込んでいるが、まあ、想像していたよりも写真写りがよくて驚いたのかいろいろと次の衣装について話し始めていた。


「ロキ様って、こう……」

「言わないの。でも次は黒いので合わせたいかも」

「次は赤い花はどうかしら」

「そろそろ彼岸花が咲くわね。曼殊沙華、だったかしら? 確か天上の花という意味があるのよね」


ああでもこれはもしかしたらオレイエたちの方が詳しいのでは、とソルたちは顔を見合わせる。


「とりあえず、ロキに次は黒いドレスでも」

「なんで女装させるのが大前提なのかしら?」

「似合うのが悪いわ」


あ、これお土産、とソルがクッキーを出した。


「これは」

「ジャムクッキー……シドかしら?」

「ええ。シドが、この写真の元ネタ提供者に、って」


ソルはケーキスタンドにマーマレード、レモン、イチゴ、ブルーベリーと4色のジャムをそれぞれ乗せたクッキーを並べてゆく。


「綺麗ね」

「ブローチみたい」

「おすすめはブルーベリーね」

「この薄黄色いのは?」

「レモンよ。さっぱりしてるの」


ソルはブルーベリージャムの乗ったクッキーを手に取った。宝石のよう、とはよく言ったもので、つやつやと光を受けて光っている。きっとシドがジャムを作るところから頑張ってくれたのだろう。


「あ、レモンもおいしいわ」

「イチゴおいしいよ」


それぞれ手に取ってクッキーを食べてゆけば、じきにメモが出てきた。


「あら、コレ紙が入ってるわ」

「いくつかメッセージ入れたって言ってたわ」

「あらあら、フォーチュンクッキーみたい。『次の髪留めは彼女の刺繍入りスカーフで』って。ソル様、刺繍はできまして?」

「げっ」

「あら」


ヴァルノスとロゼがニコ、と笑う。


「金糸銀糸を使った刺繍を習得させますわよ」

「ふっふっふ、しっかり叩き込んであげるわ、ソル様」

「ひえええええええ」


ヴァルノスがぱっと手を上げると、さっとメイドが現れて、人数分の刺繍道具が出てきた。それぞれに回して、じゃあ何を縫いましょうか、と笑みを浮かべ、ヴァルノスが言う。


「一応、ソル様が何を縫えるのか試してみましょうか」

「ええええやめてー! 私刺繍できないの! 本当に下手なのよ!」

「えー、ほんとにござるかー?」

「いやーほんとにできないのよー!」


ソルが嘆くように言った。


「なんで? そんなに難しくはないはずよ?」

「だって指が動かないんだもの! 何でこうなるのかわからないけど!」

「そんなの変だわ、ソル様指先は器用なのだもの、刺繍くらいできるわよ」


母親にも投げ出されたのよ私、とソルは俯く。

針をつまんで布に刺すだけなのに、と言いつつソルは刺繍を始める。貴族子女であるのだから、やっていないわけがなかった。


ヴァルノスがソルの手先を眺めながら丁寧な刺繍を施していく。

ロゼは薔薇の刺繍を施しつつ、不安そうにソルの方を見ていた。


「摘まめない?」

「なんか指動かないのよ」

「デザインは綺麗だし、ビーズ細工は普通に綺麗なの作れるのにね」


ルナの言葉も聞いて、エリスが首を傾げる。ナタリアが口を開いた。


「もしかして、ループの所為かしら?」

「え、ループの所為?」


ナタリアが自分の手元を見て、唐草文様の刺繍を施している布をそっと置いた。その趣味でいいのかというツッコミは一旦脇に置いておく。

ソルの元へ寄ってきて、その手を取る。


「ソル様ってもともと、刺繍が得意だったんですよ。すごく綺麗なのを沢山作って、どこのアジア民族の嫁入り道具ですかってレベルで作ってて」


ソルは小さく息を吐いた。


「そんなだったの?」

「ええ。でもですね、ソル様って全体的に見ると、義手になる確率が高いんです」

「え、義手?」

「はい」


ナタリアはソルの右手を両手で包んでもみほぐし始める。


「義手、ってことは魔導人形(オートマタ)技術の?」

「はい。その時はバルフォットがやられてセーリスは平気だったので、普通に魔導人形(オートマタ)は人形兵として普及するんです。ソル様は魔力放出型の第2回路ですから、手で放出するでしょう?」

「え、ええ」

「ロキ様やロゼ様は魔力放出量が少ないタイプなので、本来攻撃には向かないのですが、ロキ様はその属性と使い方で、ロゼ様は属性相性で攻撃ができます。お二人は周辺に術式を展開するけれど、ソル様は分かりやすく手から火を飛ばすので、手を狙われたんですよ」

「ああ、それで腕を失って義手になるのね」


ルートによっては戦争が起きるなんてことは最早皆知っている。ソルは自分の手を見つめて、じゃあ、と呟く。


「それで刺繍ができなくなるのね?」

「はい。戦争中でしたから、簡易の戦闘用のものを使ってましたし。その影響が強いんじゃないでしょうか」

「えー……もう、何よそれ、生身と義手を一緒にすんじゃないわよ……」


訓練すればきっといけます、とナタリアは言った。


「訓練していくしかないわね。まあいいわ。もともとできててループ中にできなくなったってんなら、絶対きれいな刺繍出来るようになってやるんだから」

「まあそうじゃないとロキ様の奥様になった時馬鹿にされますわね」

「そこよね、一番問題なのは」

「ロキ様もかなり刺繍上手いですから。この間ゼロのスカーフに銀糸でクラッフォン家の紋章刺繍してましたし」

「女子力高い」

「ロキ様のそれもループの産物ですよ。女性だったときは徹底的に刺繍やってましたから。魔法陣(コード)も金糸銀糸でササっと縫ってリフレクターを御友人に配ったりしてましたよ」


ナタリアから聞くロキの姿は、きっとその人生をちゃんと楽しんでいたのだろうなと容易に想像できるもので、ソルはそれはそれでいらっとするなあ、と思うのだ。


「ロキ様って本当は金属の加工の方がお得意で、実は金糸銀糸までなら権能の範疇なんですよ。神話でロキ神はレーヴァティンを作った、ってこっちでは明確に語られてるでしょう?」

「ああ、なるほど。糸は本当に女性としてのロキが会得したものなのね……」

「下地はやっぱりロキ神が持ってたと思いますけどね。でもほら、フォンブラウというインテリの皮を被った脳筋に降り立った技術系の人ですから。……日本人と小手先の改良が上手いロキ神ってかなり相性がいいらしいんですよ。戦いました、こんなところの改良できませんか、って持って行ったら1ヶ月後には相手を圧倒するようなパワー調整して使いやすくしてってのを出してきましたし」

「関係は?」

「私が実働部隊でロキ様は技術改良班ですね」


もう、終わったループはいいじゃないですかとナタリアが苦笑する。ソルはそうね、と返して刺繍を再開した。



「これでどうだああああ!!」

「すごいですソル様!」

「商品レベルね! それ今度から売りなさいよ! 言い値で買うわよ!」


ソルが無事ナタリアの言う“かつてのソルの息抜き”レベルの刺繍ができるようになったのは毎日欠かさず練習をし続けて1ヶ月ほど経った頃だった。つまり、夏休みが終わる直前。しかも、週に3日は一日中刺繍をしてこれだ。


「こんなに綺麗に花って刺繍できるのね……」

「ロゼ様は薔薇を好まれるので茎の方をもう少し細かくしていくと良いと思います!」

「まあ、一端に口出してくるようになったわね!」

「えへへ。ロキに渡す奴何色にしよう……」


頬を染めたソルに、ロゼたちは顔を見合わせた。


「立派に恋愛してるわね」

「ロキ様カッコイイですもんね。しかも中身は知り合いという」

「ゆっくりお互いの歩幅で歩いて行ってほしいわね」


放置してるとまた走り出していきそうで怖いですけどね、と呟いたナタリアに、それを止めるのが私たちよ、とヴァルノスが答えた。


空は高く澄み渡っている。

カイゼル家で行われた御茶会は、平穏無事な世界の中のこと。


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