8-9 転生令嬢の茶会Ⅰ
女装描写があります。苦手な方はご注意ください。
2025/01/21 加筆修正しました。
次にロキが孤児院に訪れた時、ロキはディノに全くと言っていいほどに構わなかった。セトたちが構ってみたが、それはディノのお気に召さなかったようだ。
「なんで俺に声掛けてくれないんだよおおおお!?」
「えっ、あ、……っ」
「チッ、兄上にタルトあげなきゃいかんじゃないか!」
「待てカル、お前俺を賭けに使ったな!」
♢
「――ってことがあったの」
「ぷっ……!」
「ロキ様……やだそれ見たかった!」
ソルの話に対してロゼとヴァルノスが反応を返した。腐海に足を突っ込んだ女子は強い――などと言っているソルたちだが、まあ、それを言うならロキ自身足を突っ込んでいるので彼女らにネタにされるのはもう見越しているだろう。
「ちなみに、その子も神子でした」
「種族言わないってことはそういうことなのね。押してダメなら引くで落ちる狼とか、ぜひ見たかったわ」
「もう無理、オレイエさんといいカル殿下といいレイン様といい、なんでこう、ロキ様ってネタに事欠かないのかしら?」
「まあ、ロキ様って髪下ろすと気の強そうな令嬢みたいな顔してますからね。よく見れば男だってわかる顔ではあるのだけれど」
「もうちょっと成長しないと女顔の枠は出ないわね」
人の顔に何いちゃもんつけてんだよとツッコミを入れてくれるであろうロキ自身はここに居ないのでどうしようもない。
「それにしても、まさか皆集まれるとは思ってなかったわ」
「そうですね。でもまあ、親があれですからね」
「ヴァルノス様の御家強いですよね。強いというかつおいというか」
「うふふ」
ヴァルノスには婚約者ができた。よって相手がいないことになっているロキとの接触はあまりしないようにと動いていたのだが、その心配ももうしなくてよくなった。
ちなみに、マリアはここにはいない。現在は別の友人の家で茶会に出席している。
かわりに、ルナ、エリス、ナタリアといったメンツが一緒に集まっており、いろいろと話したいことを話している。例えばナタリアは教会を撒きたい、エリスはナイフをうまく扱いたい、ルナは攻撃魔術を磨きたい、ソルは問答無用で腐向け話題を惚気と共に、ヴァルノスもまた惚気話を、ロゼに関しては聞き手に回り続けていた。
「ナタリア様はこのままナイフをお使いに?」
「はい。やはりこれが一番かなと思いまして」
ナタリアはロゼの言葉に頷いた。
ナイフをここで出すわけにはいかないので、こんなナイフなのですが、とナタリアが笑って図示すると、あら、とエリスが声を上げる。
「イザークお兄様が私に下さったナイフもこのデザインだったのですよ」
「そうだったの。ここのはかなり持ちやすいから、結構気に入ってるの。お兄様いい趣味じゃない」
「振りやすいって言ってました」
エリスとまさか武器の話をするとはとルナが驚きの声を上げた。
エリスは攻撃魔術にあまり適性がないので、近接格闘をメインに据えている。とはいえ自衛程度しかできないのが難点だが。ロキはセトにナイフの使い方を習っておけとエリスに言った。
エリスはそのロキの言葉に従ってセトにナイフの使い方を習っている。
「そういえば、ヴァルノス様なんでずっとレース編んでいらっしゃるんですか?」
「ああ、セト様以外レースとか持って行きませんから、ジグソーパズルに置くものをと思いまして」
「そういえば最近まったくロキ様連絡してくださいませんね」
「ロキは自分のタイミングに合わせて開店しちゃうからね」
ジグソーパズル、ソルが命名したロキたちのフリーマーケットで出店していた店の名前である。ロキはほとんど開店連絡を回しては来ないが、ロキと共にいる時間が多いソルやルナは、ロキがいつジグソーパズルを開店しているのかを知っている。
「今度はいつ開くんですか?」
「たぶん、今週末は開くと思うわよ」
「今ロキ様何作ってるんです?」
「アミュレット作ってるわよ?」
「私たちの作ってる治療薬バカ売れしてますよー。いかがですかー?」
「ルナが売り子になる~」
エリスはルナを見てくすくすと笑った。ルナはエリスの髪を引っ張ってぐりぐりと弄り始める。
「どうせなら髪型変えたらどう?」
「ええー? お花でも挿してみる?」
「私花似合わないのよ。いいなぁ」
ちぇ、と小さくエリスが唇を尖らせた。エリスはふわふわした金髪であること、桃色の瞳を持っていることから花がとても似合うのだ。ルナは蜜柑色の髪はストレートで、どんな花が似合うかと言われればちょっと悩む。花が似合う令嬢はとても可愛い系か美しい系に大別される。ルナは可愛い系の顔立ちだが髪の色が濃いめなのでふわふわしたパステルカラーの花が似合わない。残念。
「ロキ様なら結構飾らせてくださるのに」
「エリスの前世、美容師の勉強してたんでしょう? 髪のセット、好きならやってもらいたいかも」
「え、本当ですか?」
「いいよー」
「ああ、では私もやっていただこうかしら」
ソルとロゼの反応にエリスが目を輝かせた。
「ロキ様はあの髪に白い花とか編みこんでみたいですけどね」
「それは分かる」
「薔薇よりは百合かしら」
「でも黄色い花、タンポポとかもいいですね」
男の髪に花を編みこむ話などしていたらそれはそれで話題の中心の男はなかなか反応に困るだろう。
ちなみにロキの髪に花を挿すのはゼロが既にやっている。その時ゼロがロキに挿した花は鈴蘭であった。
「そのうち桜とか梅とかを絡めていきそうですね?」
「紅梅でいこうか!」
♢
結局エリスがロキに贈った花は、菫だった。
「ロキ、コレ髪に編み込んでみようよ」
「……花言葉は気にしない方向でおk?」
まあまあとソルは笑ってロキの髪に菫を編みこみ始める。
エリスが公爵家に来るわけがないのでソルがやり方を教わってきたのである。
「写真っぽいものを撮れる記録用の魔道具をシドが作っていてですね」
「なんだと」
「うふふふふ、ロキなんて写真撮っただけでもうアイドルよね! スクルド様に差し上げなくては!」
「やめろっ、おい、待てルナ、なんだその白いドレスは。せめて男の格好をさせてくれよ!」
ロキはルナが持ってきたストラップタイプのドレスに少しばかり表情を歪めた。
「ソル、やめろ。そのヴェールはいらない」
「えー、どうせですから全部つけましょう?」
「やめろ最後俺にブーケ持たせる気だろう。どうせだからブーケはお前が持ってろ畜生」
「あら、最低限来年までは結婚なんてできませんよ!」
「俺がフォンブラウ出て行かなきゃそもそも立場すら桁違いだろう」
じりじりと椅子を挟んで2人は向かい合う。
「はいはいちょっと化粧しましょうロキ様」
「あっ?」
ルナに引っ張られてあっさりとロキは椅子に座らせられた。
「ちょ、」
「はい動かない」
ルナがあっさりと化粧をロキに施し始める。ロキも諦めて動かず化粧が終わるのを待った。
「ルナつおい」
「ハイハイ早くロキ様の服もやっちゃえ」
ルナが化粧を施し終えて、ロキに問答無用でドレスを押し付ける。
「~~ッ!」
しばらく逡巡したロキもやるしかねえ、と腹を括ったか、さっさと服を着替え始める。
「……毎度のこと、ロキ様って身体薄いですけど筋肉ありますよねー」
「人が気にしていることを……」
「すべすべのお肌……」
「肩甲骨浮いてる……」
「やーめーろ」
ドレスを着て、上から一枚パーカーを着る。白いヴェールを掛けられたのに関してはもう何も言う気が起きなかったらしく、小さく息を吐いていた。
「完成」
「うわーもう無理ロキ様美しすぎでしょう」
「連写にするな」
「あれ、なんでばれてんの!」
ソルは魔道具をテーブルに置く。
ロキのヴェールをめくればラズベリルの瞳と視線が合った。
「……やだ、ベリルの目って白に合うわね」
「青っぽい赤は黒より白の方が合うからね」
ロキのヴェールを片方だけ下ろそうか、と言って帽子につけると、ソルは帽子ごと位置を調整する。
「なんでウェディングのにしないの、ソル?」
「え、だってそこはどっちかっていうと私がしてもらいたいというか」
「ソルは白じゃなくて黒じゃない?」
「同感だな」
「あら酷いわ」
私は黒い方がいいっていうの、とソルが問うた。
「まあ、黒の、目の細かいヴェールはあまり顔を隠すのには役立たないだろうけれど、自分より先に花嫁の顔は見せない、という趣向には思うところがあるかな」
「盛大に氷砂糖ぶち込んできたわね」
「ソルのツッコミで台無しだよ! 今のは私が砂糖を吐くところだったのに!」
女が3人で話しているようにしか見えない。
結局締まらない会話なのであった。
マジでロキは締まらない男だなぁ畜生!
女装……女そ…う…? 自分からやったわけじゃないからいいのか……?




