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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
2/352

1-2

キャラクターがガンガン増えます。キャラを章ごとにまとめるのでお待ちください。


2021/05/26 加筆・修正しました。基本の流れは変わりません。

世界樹アヴリオス。マナとエーテルの溢れる豊かな大地と、潤沢にマナを含んだ水を湛える、いわゆる剣と魔法の世界を支える世界樹の名である。


ロキが生まれたフォンブラウ家というのは、リガルディア王国という、緑豊かな大地と多くの川と水源を抱える大国の公爵家であった。


フォンブラウ家の当主は、火属性の優れた魔術師であることが多いため、赤い髪に赤い瞳の当主が多く、スクルドの夫である現当主アーノルドも、炎のような髪と瞳の色を宿している。


ロキが生まれた王都フォンブラウ邸は慌ただしくなった。というのも、連日公爵家の門を教会の人間が叩くようになったためだ。


ロキを抱えて庭の散歩をしていたスクルドは、庭園の向こう側に白いローブを見つけて、小さく息を吐いた。ロキが生まれて1ヶ月は、スクルドも動けなかったため教会側も流石に顔を出さなかったのだが、2ヶ月、3か月と経ってくると、スクルドも動けるようになり、ロキの情報を集めようと教会が慌ただしくなってきた。


教会は“神子”が生まれるとすぐに嗅ぎつけて来るので、貴族たちは教会を嫌っている。ロキの銀髪に色素の薄い肌は、神子であることの証明だった。


「……リウムベル、中に戻るわ」

「畏まりました奥様」


教会の人間にロキを見せたらどうなるか、少し考えればわかるというもの。教会と呼ばれる現状最大の宗教派閥の正式名称は、カドミラ教という。カドミラ教は、神子がいると聞けば自分たちの教会へ強制的に連れて行く強硬派が非常に力を持っている。


自分の子供を、信仰してもいない宗教派閥の手に渡そうなどと、誰が考えるだろうか。スクルドは、カドミラ教徒ではなかった。


庭園に咲き誇るパイナップルセージの花が揺れる。ロキがサルビアと呼んだ赤い花。地球でいうところの秋頃の気候を呈するリガルディア王国王都の晩夏は、穏やかな風が絶えず吹いている。


スクルドが部屋に戻るために踵を返した。ロキはもう少し庭園を見ていたかったようで、ちらと花壇を見やる。スクルドに抱えられて館に入るロキが遠くに見たのは、正面の門の前に立つ僧侶(プリースト)の姿だった。


「大丈夫よ、ロキちゃん」

「あぃ」


まだちゃんと自分の口で喋ることはできないものの、ロキは当然のように返事をする。スクルドは自室へと向かった。



銀色の髪、それが表すところは、“神子”と呼ばれる存在である、ということである。

神子、とは、多量の魔力を保有し、瞳、髪、肌の色が抜け、破壊と創造の神霊シヴァの“加護”を受けている者を言う――と、されている。


神子は、世界の理に干渉する力を持つとされ、力を使いこなせない幼少期の間は非常に危険な存在でもある。人の悪意に晒されればその力は歪む。成長に合わせて使う力も大きくなり、神子はその負荷に耐えられず死んでしまうことがほとんど。


神子たちはその力の危険性と、強大さゆえに、人々から迫害されてきた過去を持つ。


そんな彼らを保護してきたのが、カドミラ教会であり、神子は次第に神聖なものとしての地位を確立していった。カドミラ教会は、神子を保護し、神聖な場所で、人々の悪意から彼らを遠ざけ、その力を揮って命を散らすことのないようにと、守り続けている。


しかし、歴史の流れの中、もともと魔力を持って生まれる貴族の中に、神子が生まれるようになった。神子とは、強大な魔力を持っていたが故に迫害されてきた。だが、魔力を持っている者の中に、魔力を持つ者が生まれるのは当然のこととして受け止められる。


これまで神子を保護してきた教会は、貴族に生まれた白髪の子供も神子である、保護すると主張し、もともと多くの魔力を持つ貴族は、魔力を持つ子供を跡取りに据えるべく、教会に預ける理由がない、と主張した。


リガルディア王国は、特に貴族の魔力量が多く、貴族によく神子が生まれた。教会と貴族の溝は深くなるが、教会は民の信仰に浸透していった。王家の子供が神子だったこともあった。王女を教会に“保護”され、上流貴族と教会の対立は浮き彫りになっている。


「お引き取り下さい」

「そう言わず、何とか……せめて御顔を拝見させていただくだけでも」

「なりません。奥様の御意思でございますので。お引き取り下さい」


連日訪ねてくる教会関係者は、まだ見ぬロキの力の強大さを知っているような様子が伺える。家令であるガルー・ソイフォンは、教会にこれまでにないほど薄気味悪さを感じていた。会わせることさえしたくない、と思うのは当然であっただろう。


生まれた直後の子供は、身体が未発達であるため、魔力量もそこまで多くない。生まれたての子供の魔力量なんて誰もそう変わらないのである。なのに、まるで、その先を知っているかのような、畏怖と敬愛の混じった眼差しをした教会の人間の多いこと。ガルーはアーノルドについていくことも多いため、ハウスキーパーであるリウムベル・アルルーシュと情報共有を密に行い、教会関係者を家に入れないよう努めていた。


スクルドは産後の肥えも良く、健康体そのものだ。それでも何やら生まれたてのロキが問題を抱えているようで、余計な勢力の手出しは御免だとスクルドが教会を追い払う方針を決めた。当主であるアーノルドが外交で出かけているので、今はスクルドが権限を握っている。


スクルド――それは、未来を司る運命の女神の名。

スクルドはその名にふさわしく未来視の力を持ち、ロキやその兄姉のために力を存分に振るっていた。


スクルドはロキの前に次男フレイ、次女スカジを生んでいる。スクルドにとっての初めての子供はフレイだが、アーノルドには側室であるメティスがおり、メティスが長男であるプルトスを生んでいた。


フレイとスカジは生まれたてのロキに興味津々だ。フレイは赤い髪に赤い瞳、スカジは蒼い髪に赤い瞳を持ち、かなり魔力量が多めの子供たちだった。まあ、アーノルドとスクルドの事を、2人が生まれる前から知っているガルーとリウムベルからすると、アーノルドとスクルドの子供なんだからこれくらいの魔力は持ってるだろう、と思えてしまうが。


スカジは怪力なので、ロキには触らせられない。人間の成人男性の腕をへし折れる2歳児など、聞いたことが無い。多分、ガルーの常識は間違っていないはずである。



スクルドの部屋にフレイとスカジがやってきた。ロキに構いたいのだろうが、メイドが止めようとしているのが聞こえていた。戦闘も出来るメイドを付けてはいるのだが、スカジは戦女神スカジの加護を持っている。じきにメイドが怪我をしそうで安心はできない。


「ははうえ、ろきはおきていますか?」

「りょき、しゅかじねーしゃまがきたじょっ!」


スカジのよく喋ること。フレイは4歳になってちょっと落ち着いてきたが、スカジはまだまだ落ち着きそうにない。メイドの制止の手をすり抜けて、ロキを抱えたスクルドの膝に飛びついてきた。


「えーぁあ」

「ねーしゃま! ふへへ」


ロキがこてん、とスカジの方を見て手を伸ばすと、スカジが指を差し出す。スカジの手をロキが握るのは全然問題ないので、見守りながらスクルドはフレイに声を掛ける。


「フレイちゃん、ロキちゃん撫でてみる?」

「なでますっ!」


フレイもスクルドの膝に飛びついてきて、スカジの指をにぎにぎしているロキの頭をそっと撫でる。ふわふわした赤子特有の髪の感触に、フレイが目を見開いて、楽しそうに撫でまわし始めた。ロキはきゃあ、と笑う。


たっぷりと妹を堪能した2人がメイドたちに連れられて出て行った後、スクルドは腕の中のロキに魔術を掛ける。


「音を介さぬ思いの言伝。結べ、【念話(テル)】」


本来であれば、あんなに自分より大きなものにもみくちゃにされたら、赤子は泣いて嫌がるものだ。どうしてロキは嫌がらないのか? スクルドは以前、一度未来を見た。未来のロキは、少年の姿をしていた。


リガルディア王国は、元々転生者が多い国だ。本来転生というのは、自分の記憶を持ってはいかないものだというが、そんなものは人間の常識に過ぎない。高い魔力を持つ者であれば、記憶を引き継いだまま転生することの方が多いくらいだ。つまり、ロキは、精神的な年齢が赤子ではない可能性が高かった。


赤子であるうちはどう頑張ったところで魔力を扱うことができない。だから、もし転生者である可能性があるのであれば、親が転生者の意識の有無を確認せねばならなかった。主な手法としては、【念話(テル)】を使った会話が挙げられる。とはいえ、あまり長時間やって身体に良いことは無いので、常時というわけにはいかない。なんだかんだいって精神干渉系の魔術であるからだ。


スクルドが最初にロキの精神年齢を確認した時、ロキの精神は成人間近の男性のものであることが分かった。生憎とアーノルドが出張中だったので伝えることも出来なかったが。転生者の事を手紙で伝えるなんてそんなリスキーなことはできないのである。


「ロキちゃん、今日はアーノルドが戻ってくるのよ。今夜アーノルドに話してみるわ」

(分かりました。お父様はどんな顔するんでしょうね)

「天を仰ぐのが目に浮かぶわね」


ロキはきゃっきゃと笑った。スクルドの念話にここまではっきりと受け答えしてくる()の名は、高村涼。ロキの肉体に宿った、転生者。彼はこの世界を知っていると言い、スクルドを驚かせた。


(でも、いいんですか? 私が男の精神だと言ったところで、娘として生まれたことは変わらない事実でしょう?)

「そこは心配しないで。お母様頑張っちゃうわ」

(あ、お母様が頑張ったらどうにかなっちゃうんですね)


かなり察しの良い子のようで、赤子であるはずのロキの表情が生暖かい視線になっていた。目が口ほどにものを言っていて、見ていると面白い。


ロキの部屋は、女児向けの玩具や調度品を一通り揃えられており、これらはスカジが予想以上に男物を好んだためにおさがりでロキに回ってきた調度品たちである。この様子だとロキも男物を好む可能性が高い。スクルドの部屋に置くには、ちょっと子供っぽいものばかりだった。


「それよりも、心配なのは王家の方ね。ロキちゃんよりひと月遅れで金髪の王子が生まれているの」

(あー、カル・ハード・リガルディアですか)

「あら、知っていたのね?」

(転生前の知識として、存じております)


スクルドはロキが王子を知っていたことに驚いた。この世界を知っているとは聞いていたが、まさか同じ世代の事だったとは。


「ロキちゃんが婚約者にされそうで怖いのよ」

(断固拒否させていただきます)

「それがそうもいかないのよねえ」

(そんな! BLは見るのは好きですが体験はしたくないです!)


ロキの趣味がちょっとわかった瞬間だった。



「ちちうえ、おかえりなさい」

「ちちうえ!」

「おとうさま、おかえりなさい!」


炎色の髪をした男が、家に帰ってきた。

子供たちの出迎えを受けて、男――アーノルドはふっと笑みを浮かべる。子供たちの頭を撫でると、嬉しそうに3人とも笑う。


長男プルトス、次男フレイ、次女スカジはプルトスのみ側室メティスの子であり、フレイとスカジは正室スクルドの子供だ。3人とも可愛い。メイドが1人奥へ向かったのが見えた。

少し待っていると、メイドに連れられて、ロキを抱いたスクルドが玄関ホールにやってくる。


「おかえりなさい、アーノルド」

「ああ、ただいま、スクルド」


じきにメティスも姿を現し、家族全員での食事となる。食事の支度が出来ました、とガルーが告げて、食堂へ皆連れ立って歩き始めた。まだロキは物は食べられないため、スクルドはロキをリウムベルに預ける。


「ロキちゃん、いい子で待っててね」

「あぃ」


ロキの頭を撫で、スクルドは食事のために去っていった。


「ロキ様」

「うー」


ロキを任されたリウムベルはロキに話しかけた。スクルドからロキが転生者であるという話は聞いている。今後ロキ付きになるであろう候補のメイドの名を呼ぶ。


「アリア、手伝って頂戴」

「はい。じゃあ、今日はこれを読みましょう!」


菫色の髪のメイドが絵本を持ってついてくる。ロキの食事は母乳であるため、スクルドが戻ってくるまでロキは食事を摂ることができない。アリアはロキに国の成り立ちの絵本を読んで聞かせてくれた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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