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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
199/368

7-30

2025/01/10 修正しました。

ずしゃ、ずしゃ、と。

何かを引きずる音が聞こえていた。


ロキは全く銃を撃っていない。撃つタイミングがないのである。魔物は常に先頭か背後からしか襲ってこなかった。


その分、先に魔力量の少ないセトがへばった。

結果、ロキたちは現在、魔物に囲まれてゆっくりと移動している。


「悪い……」

「仕方ないさ。元々お前の魔力量はレオンより低いし。へばるのも分かっていたから」


セトの謝罪にロキが答えた。ロキはといえばむしろもっと早くダウンすると思っていて、ここまで頑張ってくれなくてよかったのである。


「オートに銃の才能があって助かった」

「分かるわそれ」

「これでも器用な方なのさ!」


オートは風属性を持っていることもあり、セトが行っていた魔術のいくつかを受け持つこともできたのである。とはいっても、攻撃系の威力は段違いに落ちてしまっているが。


「もうちょっと魔術の訓練しとかないといけなかったな?」

「僕は機械いじりの方が楽しいの!」

「そう言って生温かい視線を受けてきたんだろうに」

「事実を突きつけて僕のライフを削るのは止めてね!」


臭いで追ってくる魔物を巻けなくなったのだ。しかしロキはむしろ回収できる素材が増えるので問題ないのではとすら思っている。


ダン、と銃声が響き、一応近くにいる敵は掃討した。倒れた魔物は少し離れたところから追ってきているゼロが回収しているのですべて終わってから解体する予定だ。


辺り一帯を血の海に染め上げたロキたちは一息ついた。こんなに魔物が寄ってきているのはどう考えてもおかしい。


「これ、どうなってんだ……」

「バルドルを皆が避けてるとか?」

「可能性はあるな。他の班も大変だろう」


バルドルの特性は、所謂”的にならない”ことである。攻撃の意思のあるものによるターゲット判定を受け付けないのだ。これが結果的に周辺への流れ弾の多さに直結する。ここまで生徒の負傷者を見ていないので大丈夫だとは思うのだが。

ロキたちは遅々として進まない歩を進めつつ、他の班を探した。


「もしかしたら、こんな状態だったから森から出ている、とか?」

「可能性はあるな」

「いったん戻るか?」

「こんな血みどろでどう戻れと?」

「そういやロキ、お前さらっとオートを庇って返り血まみれになってるよな……」


今更というものである、とロキは言うが、白いシャツを中に着ていたせいで出血したのかと問いたくなるレベルでシャツが赤くなっていた。オートもなぜか白衣を着ているのでところどころ赤くなっている。

髪にも血が付着している。


「こりゃ酷いな」

「水が欲しいな。どちみち移動だ」


オートとクルトの班員はまだ見当たらない。

が、その時、声がした。


「ロキ!」


ロキが振り向けば、そこにはソルが居た。

服は動き易いパンツスタイルだが、その脚からは白い肌がのぞいている。


つまり、彼女は服を切られていた。


「……ソル。戦闘を?」

「ええ。流石にロゼには戦わせられないでしょ?」


ソルはその手にレイピアを持っている。おそらく火属性は森では扱い辛いからとあまり使っていなかったのだろう。それ故にこうして彼女は怪我をしているのだが。

ロキは小さく息を吐いた。


「まさか怪我をしているとはね」

「あら、仕方がないじゃない。私はナタリアやセトほど近接戦闘に長けているわけじゃないのよ?」


ソルはそれにしても、とロキの上から下まで見て言った。


「血まみれだわ。返り血?」

「ああ」

「アンタ水使えるでしょ、って今終わった感じか……」


やたら魔物が多いわねー、と言いつつ、ソルは近くに寄って来ていた魔物をレイピアで刺し殺す。


「こんな使い方してたら折れちゃうわ」

「かなり戦闘してるな、もう刃がボロボロだぞ」


シドがソルからレイピアを取り上げる。いくら支給され貸し与えられている物とはいっても真剣だったのだ。ここまで摩耗したらもう使えやしないだろう、と。


「……ソル、魔力で覆っていたのか」

「ええ。鉄は本当に魔力と合わせて使うのに向かないわね。すぐ摩耗したわ」


ソルの言葉に、レイピアを眺めてオレイエが口を開いた。


「……火ではなく熱で囲うべきだったな。概念は持っているのだろう、訓練しておけ」

「はーい」


ソルが返事をしてぐっと伸びをする。


「とりあえず、合流しましょう? ああ、バルドルたちとも会ったの。レオン様とレイン様ともね」

「そうか。手間が省けたな」

「班同士で組んでもいいって言われてる分、その辺は楽ではあるわね」


ロキたちはソルの案内に従って他のメンツと合流した。



バルドルたちは小さな泉の傍に行た。


「クルト、オート! 心配したんだよ!」

「申し訳ありません、バルドル」

「ごめんねー」


家格はオートの方が下だが、オートはバルドルと気安い関係を築いているようだ。

白金のバルドルの髪は差し込んでくる日光に照らされて煌く。


ふと、バルドルがオレイエの方を向いた。オレイエはといえば泉を覗き込んで魔物が潜んでいないかを調べているようだったが、じきに縁を離れてロキの許へ向かう。バルドルはクルトとオートを他の班員に任せてロキの許へ足を向けた。


ロキは服を脱いでうわ、と自分の服にドン引きしているところだった。


「ロキ!」

「ああ、バルドル――やめろこっちくんな汚れるから」

「返り血でしょう? 僕どうせヤドリギ以外効かないよ?」


オレイエは全くバルドルを気にしていない。バルドルはこれはまた珍しいなあと思った。


バルドルは、愛されやすくできている。愛されるものであった。

神としてのバルドルがそうだったように、同じような加護を受けている。


「ロキ、この方は?」

「オレイエ殿だ」

「オレイエ・シル。家名はない」

「ああ、センチネルの人なんだね。山脈越え、お疲れ様」


バルドルはロキに問う。


「彼は神子なの?」

「いや、どちらかというと御御子だろう。……何故本人に聞かない?」

「……なんだろうね、格の違い? を、感じるというか」


バルドルが名乗っていなかったので名乗らせた後、ロキはオレイエに問う。


「英霊本人とかの庇護下にある俺たちとじゃそりゃあ格も変わるんだろうけれど。オレイエなんて英雄自体は存在してないし?」

「だから不思議なんだよ。それに、僕に全く目もくれなかった! ロキと同じような反応する人は珍しいんだよ! ロキは加護的にそうなってるんだと思うけど」


ロキは何となく、オレイエと同じように加護を持ち合わせている英霊の弟のことを考えた。

十中八九、オレイエの言う弟がそれにあたっている。ループしているというならその記憶もあるだろう。


「オレイエ殿の弟に、ものすごく愛されやすくできている者がいるはずだよ。名は確か、白、だったかな?」

「ああ。ブランという。……たとえあれがこちらに来たとしても、俺のことは言うな。あれはまだ俺が兄だとは知らないからな」

「神話なぞるなアンタ死ぬぞ……!」


ロキには通じてもバルドルには通じない。バルドルが首を傾げたのでロキは簡単に説明をすることにした。


「……俺の前世では案外出回っていた話でね。インドラ神とスーリヤ神の息子に仲が悪いのがいるでしょう?」

「ああ、うん。加護を持たせない英霊だからその名前出すと個人特定になるんだよね。アルジュナとカルナだっけ」


つくづくこいつも見識が広い、と思いながら、ロキは小さく頷いた。


「カルナがこいつ」

「はい、カルナです」

「黄金の鎧はそれか!」


漸くオレイエの正体が分かったバルドルは満足そうな表情を浮かべた。


「なるほど、太陽神と死後一体化するような英霊だったか! それで“光”である僕は格上に感じるわけだね」

「そのようだな」


しかしそうか、カルナの加護は存在するんだね、とバルドルは小さく呟いた。

ロキも、そうだね、初めて聞いた、と口にする。大体どの神話体系も資料が残っているものなのである。それが無かったということは、おそらく今までいなかったか、または、カルナとアルジュナの名を意味で変換した名を付けられている者がその加護を受けてきたか、であろう。


カースト制度がなかったのならば案外カルナの方を見つけ出すのは難しかったことであろう。何せ川に流された子である。低いカーストの人物たちによって育てられたという特徴を持つカルナは、目印となるカーストを失ってしまっているのだ。どこに行きついたか分かったものではない。


「とりあえずロキ、服を洗え。それと、ここの泉にはヴォジャノーイ型がいるな」

「あー、マジか。あんまり安全とは言えないな」

「トピェレツではないし、沐浴には使っていいと言っていたぞ?」

「そらお前だけだカルナ氏」

「俺の名はカルナではない、オレイエだ」


意味は一緒だとは言わないでおく。


一応、オレイエを通じて願う形で、全員頭を下げて、魔物との戦闘による疲れを癒すために合宿の1日目をここで終えることにしたロキたちだった。


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