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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
194/377

7-25

2025/01/10 加筆修正しました。

なんだあいつ、と無粋な声が聞こえる。しかしその声にはどちらかというと心配の色が滲んでいる。それを聞き届け、銀髪の男が歩いていく。その身体に纏う金の鎧と、大きな耳飾り。目立つことこの上ない武装に加え、精霊だと言われれば皆が信じるであろう浮世離れしたその器量に皆の視線が奪われる。


彼は、この国の人間ではない。冒険者ギルドに所属しているため、依頼を受けてこの近くに来たのでここへと立ち寄っただけである。身分はがっつり平民。


色白すぎる肌に銀の髪はどこか、この国で騒がれている公爵子息を彷彿とさせるが、その瞳は温かみのある黄色、日光の色を呈していた。

背負った得物は弓であり、長身でやたらとほっそりした体躯が特徴である。


鎧の上から服を着るとまあ、擦り切れるのが早いのでほとんどの場合彼は上からゆったりした布を被っているだけだ。

もう彼はそれにすっかり慣れている。


彼の外見はおよそ10代後半から20代前半。


彼がギルドへ真っ直ぐ向かったのを見た街の者たちは、ああなるほど、別の国の子だったんだろうなと勝手に納得した。



学生たちにとって、夏休み間近というその時期のこと。

ロキたちは合宿に出るために1班につき1人ずつ先輩と冒険者を捕まえておかねばならなかった。

ロキたちに関してはただでさえおそらくオーバーキルの班になることが考えられたので、カル、ロキ、ゼロ、シド、セトの5人で班を組むことになっていた。


本来はもっとバランスを考えなくてはならなかったのだが、イミットの生徒が他にほとんどいないためゼロはロキの所へ入れられたのである。

シドはロキの契約精霊である以上ロキと組まされるのが分かっていた。


そして王子殿下を危険な目に遭わせるはずもなく、最も武力に優れた者がその傍を固めることになった。ロキはその面ではダントツの実力者であるため、こうして組まされることになったのだ。今回はレオン、レイン、ハンジといったメンツは別の者たちと組まされている。


「しかし、まさかもう来週だというのに今頃になって急に冒険者の協力を取り付けて来いとは……」


カルの文句は最もだがなあとロキは思いながら、冒険者ギルドの集会場で、シドとナタリアが言い出した“いい人”を待っていた。

残念ながらその2人も特に面識があるわけではないらしいのだが、頼めば絶対に断らない人物なのだと彼らは経験上知っているなどと言う。つまりループしてきた中でもその人物と組んだことがあるということであるとロキたちは理解した。


「ロキ、言っとくがそいつかなりヤバいからな」

「どんなヤバさだ」

「まんまお前を聖人にしたらああなる」


シドがそれだけ言ったのは、それだけは伝えておかねばならないと判断したためであろう。

一緒に席に座っているリズことエリザベスとルガルはロゼたちの班とレインたちの班を担当してもらうことになっている。


「ロキを聖人にって言われても、これがどう聖人になるってのよ」

「いや、なんというか、そうとしかマジで表現できない」

「そうなんですよ。ロキ様を、そう……皆を掌で転がさないロキ様?」

「それだ」

「意味不明それはもはやロキじゃない」

「俺のアイデンティティそこなの?」


ロキたちのみならず他にも生徒が来ているためいつもよりも人数が多くなっているギルド集会場は最初あまり明るい雰囲気ではなかった。

ロキとハンジは理由を知っていたが。


「しかし、また魔物が大量発生か。ここ数年ずっと増え続けてないか?」

「ええ、まあ、そうですね」

「ん、その反応は、知ってるな?」


カルの言葉にロキは向こう側に座っているハンジを見る。目が合ったハンジは苦笑を浮かべた。


「えっと、なんていうのかな。あんまいい話じゃないんですけど」

「こちらを見るな。任せた」


ロキはハンジに説明を丸投げした。ハンジは仕方ないかあと呟いて、前世の知識で知っていたこのイベントについてのことを話した。


簡潔に述べるならば、毒花型の魔物の大量発生に起因する魔物の大移動が一因である。

その原因はまた帝国側にあるのだが、一平民のハンジがそれを知らされることはない。


「あ、これ被害者出たら帝国とリガルディアが戦争案件じゃないか?」

「ハンジがフォンブラウに懐いてるから裏切られる可能性を考えて帝国側から勧告してきた形になってるんじゃないかな。ハンジの対死徒概念特攻はリガルディアにはかなり痛いから」


何の話、とカルが口を出す。対死徒概念特攻ってなんぞ。


「対死徒概念特攻は死徒と認識している種族の者に対して与えるダメージが大幅に上がるバフの一種だよ。こいつは先日の精霊召喚でさらっと最上級光精霊(リヒト)を召喚してたけど、本質は浄化作用さ。遠く遠い王家と同じ血筋に当たる」

「マジか……」

「とはいっても、新しい血統ではないんですよ。帝国()族の血が入ってるせいで先祖返りを起こした個体なんです。だから王家が出ればリガルディアでも俺を抑え込めます」


ハンジはそう言いつつもすっと笑みを消した。


「――まあ、今更俺を保険のようにリガルディアにポイした帝国に従う気なんてありませんが」

「恨まれてるな、帝国」

「最後まで反対してくれたオーディン殿下……にだけは融通してもいいですけどね?」


ハンジはからからと笑った。別の名前を並べるか迷ったようだが、その名を聞くことはなかった。死徒や戦争が絡むと人格が豹変したように好戦的になるのがハンジである。


ハンジがロキに懐いているのは事実だし、光属性持ちが分かって自軍の中心に据えようと帝国が動くことをゲーム知識でハンジとロキは知っている。だからこそロキはハンジと自分が親しいことを見せつけるように動く。それが最善だと勝手に選び取っていく。


その時、ざわ、とあたりの空気が変わった。

誰かが来てもギルド内が騒がしいのはいつものことだが、何やら雰囲気が変わった。何だろうとロキがそちらへ視線を移すと、そこに、そこそこ背の高い男がいた。


男と呼んでいいのかと一瞬疑うほど若々しい。見た目は10代後半から20代前半。というか、19歳から21歳の間、と言われても信じる。

銀髪は三つ編みにして肩から身体の前面に垂らしている。

瞳は温かみのある黄色。白くみずみずしいは肌は異常なまでに白い。黄金の鎧を身につけ、背負っている得物は弓である。


どうやらクエストから戻ってきたらしい。


ロキとハンジは顔を見合わせた。

なんでこいつがここに。

もっと先ではないのか。


「知っているのか?」

「……センチネルの対神兵器殿です」

「……誰だそれは」


カルの問いにロキとハンジは再び顔を見合わせる。


「……前世の知識なので詳細はお伝えできません」

「……そうか。分かった。だが、シドとナタリアはあの人物に声を掛けているな」

「「マジか」」



男は目の前に出てきた黒髪とピンクパールの髪を見て、今日で間違ってはいなかったなと思い安堵する。2人は声を掛けてくることなく、男はそのままカウンターにクエスト達成の報告と証明となる魔物の身体の一部を置き、報酬を受け取る。ついでに魔核を換金して、亜空間に弓をしまえば、ようやく先ほどの2人組――シドとナタリアが声を掛けてきた。


「どーも」

「そこの黄金の鎧のお兄さん」


男は声を掛けて来た2人を改めて見る。片や金目の半精霊、片や闇属性の申し子。

男は属性で相手を決めつけることはしない。


「何の用だ」


言い方がぶっきらぼうなのは突き放しているのではなく平常運転。


「私共は王立学園中等部の学生です」

「この度合宿の班行動に同伴して下さる冒険者の方を探しています」

「「是非受諾を。お願いします」」


本来は依頼する側はもっと下手に出るべきだろう。だがしかしこの2人はそうしない。

この男に物を頼む時、ここだけは外せないのである。


「……分かった。請われたならば断わる道理はない。受けよう」

「「ありがとうございます」」


そう。

この男。

請われたら絶対受けるのである。


2人は男を連れてロキたちの居る席へと戻って来た。


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