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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
193/368

7-24

2025/01/10 加筆・修正しました。

精霊学試験の後は1日休講である。ロキたちはそれぞれの精霊を連れて各々自由に過ごしていた。


「どこぞの召喚された使い魔のラノベのようだ」

「誰も魔剣に選ばれてないわよ?」

「剣本人はいるがな」


クシャルダスとかいうこの暑苦しい青年は、この世界(アヴリオス)最上級火精霊(イフリート)の親に当たるという。本人は器が無ければ顕現できない、純粋なマナの集合体であり、器になるのは宝石や魔力結晶であると語ってくれた。


現在はバスタードソードに宿っているため、実はあまりロキと相性はよくない。ロキの適性が高いハルバードとは大分適性が離れているのだ。具体的な話をすると、ロキは剣の適性が日本刀に寄っている。刀は刀でも、日本刀に限定されている、と改めてアンドルフからは言われていた。まあ、最も適性が高い武器という前提は付くが。


「別の剣に移ることもできるからな、そいつ。もしも気が向いたら使ってやりな。あと、そいつ入れちまうと別の属性を付与されてる剣は火属性に上書きされて使えなくなる。そこは気を付けとけ」

「了解した」


アツシが取り扱い説明を行っているクシャルダスとヴルマギアは本来この世界に降りてくることなどないはずの存在であるため、教員側もどのランクなのか付けるのが難しかったらしく、評価がかなりもたついている。


魔力量を見ることができるメビウスがいるのでダントツトップであると言い渡されたのだが。それは教員たちだってわかっていた。とはいえ、ロキ的には本当にこれ以上この手のものに増えられても困る。


「しかし、主の適性も偏っているな。これではハルバードというより両刃の斧だ」

「しかも刀系か。こりゃ殺戮しまくるわけだわー」

「ええい、俺たちには見えないステータスの話をやめろ!」


ロキがツッコミを入れるとクシャルダスとヴルマギアは特に悪びれた様子もなくけらけらと笑った。

ロキは小さく息を吐く。


「しかしこれだけ某との相性も良いのに、何故こんなに後回しにされたのか気になりますね」

「容量の問題だろう。ただでさえロキ自身魔力半減、魔術の維持、世界に歯向かってちょっとずつ削られてるってのによ」


ロキとソルが顔を見合わせ、そっと音を立てずに口走ったデスカルに掴みかかった。


「おうデスカルさんよ、今のは一体なんだ?」

「うふふふふ詳しく聞かせていただけますか、デスカル・ブラックオニキス様――いえ、破壊神サッタレッカ」

「こんな時に真名を呼ぶとは酷い子だ!」


デスカルは自分の失態に顔を覆った。いつもの調子で言ってしまったのだから当然であろう。まだ皆には伝えていなかったのに。


「……あー、あのね。ロキは本来最終決戦の相手になるやつを庇ってる。それだけじゃないが、今のところまるっきり世界の在り方に歯向かってるんだよ。世界はロキを生かして次のステージに行きたい。ロキはその為にそいつが……その()が、踏み潰されることを是としなかった。で、その娘はロキが掛けたその結界を侵食して自由になろうとしてる。自由にしたらまたその娘を世界が全力を以て潰しにかかる。それをロキが止めて、魔力がガタ落ち中。現在はバルフレトが一回全部焼き払ったのもあって、その娘が直接奪っていた分は還元されてる」

「ちょっとぉ予想以上に重症なんですけどぉ!?」


ソルがツッコミを入れる。ロキは後半について目を丸くしていた。

そこまで重症だったのかという驚きもあるが、また別に、そこまでして自分が守ろうとする相手とは何だろうかと考えた。


「……そう言えば、デスカル。リリス嬢はどうなった」


ロキはふと思い出した白髪の少女のことをデスカルに尋ねた。デスカルはああ、あの子な、と小さく呟く。


「あの子は責任を持って対処させてもらった。簡潔に言うなら、あの子に外から繋がれていた術式も外したし他の干渉を受けさせないためにウチでシスターやってもらってる」

「……彼女は男爵家の出では?」

「ああ、でももう2年も行方が分からなかったらしい。今調べ中だが一回奴隷落ちしてる。家に戻るのは絶望的だ」

「――」


話を横で聞いていたカルたちが絶句した。令嬢が奴隷落ち。何故またそんな。


「クシャル、お前一応あいつらのこと調べてたよな?」

「教会に頭のおかしいやつがゴロゴロしてんのは確かだぞ? でも何度かその小娘は奴隷落ちを経験してる」


クシャルダスもこの世界をずっと眺めていたのだと知って、ソルたちは呆れて顔を見合わせた。


「教会が出てきたってことは」

「やっぱりまた教会絡み?」


しかし、とルナが声を上げる。


「リリスって、リリス・ガートナー? それなら白髪なんておかしいわ! 彼女茶髪だもの!」

「ルナが言うってことはヒロインかしら。でもそれならやっぱ変よね?」


精霊との仲を深める日なのになぜこんな話をしてるんだよと言われかねない状況だが、ソルたちはこれでいいと考えていた。聞き耳を立てている、現在は姿を現していない精霊たちの気配がする。


「やはり教会をやたらアーノルド殿が潰したがっていたことに関係があるのか……?」

「あるでしょうね。あの子供がロキのためにそこまで動くようになったとは、喜ばしい限りだ」

「ちょっとヴルマギアの言葉が不穏だね!」


もう私疲れた、とソルが嘆く。そんなに一度に情報を持ってこられても困るのだ。


「んじゃ、この話は今日はここまでにして、お前らは一旦精霊との触れ合いタイムに移りな!」

「デスカルさらっと逃げようとしてるね!」

「今度資料持っていらしてくださいな、時間はたっぷりありますわ」

「くそ、何故逃がしてくれないんだ!」


すかさず声を掛けたエリスとロゼに、エリスよお前もそっちかと乾いた笑みを浮かべるアツシがいた。



「流石に火属性のやつといると暑いな……」


カルの言葉に、ロキはすっと扇子をカルに向けた。ヴェンに頼めばそれはそれでいいのだが、人の手でするのもまた一興だろう、という事らしい。


「それ、イミットがたまに使ってる」

「扇子だ。見た目も涼しくできる」

「おお、結構風が来るな」


カルを扇いでやれば目を細めて風を受け、カルが柔らかく笑みを浮かべた。こうしてみると徐々に、着実に、彼らは乙女ゲーム『イミラブ』の攻略対象の姿へと近付いていっていると、ソルたちには感じさせるのである。


ソルが口を開いた。


「とりあえず、アイスでも食べない? こういう時には先人に本当に感謝するわ」

「ああ、そうだな。何が食べたい?」

「中央ギルド前にアイス屋がある」

「行ってみるか」



今日は大所帯だね、と言われて学園を出てきたロキたちである。現在彼らは、校外にいた。生徒の中には早速訓練場へ行ってパートナーの実力を見ている者もいたのだが、ロキたちはその中で、単純に絆を深める、よく相手を知る、というために対話を選んだだけのこと。


「そういや、ロキって今回は無事にソル嬢ちゃんと付き合い始めたのな」

「クシャルいい加減地雷踏み抜いたら火口湖に放置するぞ」


ロキが割と本気で脅しを口にした。その表情は実に晴れやかな笑顔だったのだが、クシャルダスは縮みあがってヴルマギアに隠れた。


「某に隠れるのをおやめなさい!」

「だってロキ怖えんだもんよ!」

「貴殿が怒らせるからでしょう! 某は貴殿と違って触媒が鉄なのですから貴殿が怒らせたらモロ某が被害を被ることになるのだが!!」


この2人は仲はいい方らしく、2人だけでちょくちょく言い合っているのを見かける。ロキは一旦怒りの矛を収め、ソルたちと共にアイスを買いに向かった。


クシャルダスはそっとヴルマギアに耳打ちする。


「ちょっと厄介なやつが来てるな」

「……ああ、彼か。彼は来たり来なかったりするのか?」

「ああ。俺よりお前に用事があるはずだぜ、あいつは」

「まったく」


2人の会話の意味を知る者はここにはおらず。会話を聞いていたが意味が分からなかったらしい居残り組のヴァルノスやレオン、セトが首を傾げるだけだ。


「あー、ロキ君たちもここに居たんだ!」

「あ、ウェンティ」


ヴァルノスたちの前をウェンティが長い髪を靡かせて走っていく。近くのベンチに腰かけているヴァルノスたちにも気付いて軽く手を振ってロキの方へ走っていった。


「ロキ君もここにアイス食べに来たの?」

「まあね。ウェンティも食べるかい?」

「食べる!」


ウェンティの肩に乗っていたフードを被ったような姿の妖精がクスクス、と笑う。


「この子がウェンティと契約してくれた精霊?」

「うん! めっちゃ可愛いでしょ!」

「うん、とても可愛いね」

「でしょ~! あぁぁかわいぃいいい」


ウェンティが契約精霊にデレデレになっているのを見てレオンがぽかんと口を開けたまま固まってしまった。どうやらウェンティ好みの精霊だったらしい。ロキは良いねえ、と笑った。だってウチに来たやつ厳つくて暑苦しい大男と優男の2人組でしかも上位者だぞ。


「ウェンティ様のとこの子中級?」

「うん、中級風精霊(ルサリィ)だね! かわいぃぃぃ」


クシュっていうんだ、よろしくね!


すっかりウェンティはこのクシュという精霊とお友達になるつもりである。それでいいとロキは思う。だって精霊には敬意と愛情を持つのが礼儀ってもんである。ただで力を貸してくれるわけではないけれども、精霊に意思が無いわけではない。彼女らは基本的に生物でないだけで思考し、人格がある。


「クシュ、一緒に食べよ!」


クシュが頬を短い手でぷにぷにと押しているのが見えた。ウェンティは沈んだ。

だいぶ慣れて来たカルがアイスを1つウェンティに差し出す。今日はロキの奢りにしといてやる、面白いものを見せてもらった、と勝手にロキの奢りにされた。大人しく奢ることにする。


「え、良いの、ロキ君?」

「いいよ。こんなに可愛いお友達も紹介してもらっちゃったしね」

「わ、やったぁ!」


「甘いなぁ」

「甘いですなぁ」


ロキたちの後ろの方でクシャルダスとヴルマギアは勝手にアイスを食っていた。勿論ロキが払った。

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