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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
191/368

7-22

2025/01/09 加筆・修正しました。

「高等部鍛冶科の生徒から武器の発注書が届きました」


珍しく生徒達に集合が掛けられて、集まった2年生に紙が配られた。高等部鍛冶科の生徒への、オーダーメイドの武器の発注書である。


ロキは誕生日を過ぎたこともあり、あらかた武器は揃っていた。ただし、今年は鍛冶科の生徒が張り切っていると知っていたらしいフォンブラウ家の面々は、メインとなるハルバード以外の武器を贈っていたのだ。


まず、母スクルド。彼女はロキにレイピアを贈って来た。華美な装飾は一切なく、シンプルなもの。スクルドの得物もレイピアであるので、それにかけて贈ってきたようである。


次に父アーノルド。彼は小振りなナイフを贈って来た。野宿の時にも使えるもので、無駄の少ない父らしいなあとロキは思う。


祖母エメラルディア。彼女は根っから鈍器を得物としており、流石王族と思いつつ贈られてきた杖を眺めたものである。先端には大粒のダイヤモンドが組み込まれており、多くの属性を扱うロキ用に設えられたものらしかった。


曾祖母フィニア。彼女は鉄扇を贈って来た。象嵌細工の美しいものだが、魔術が組まれ、魔力を流すと先端が刃物になる。懐に忍ばせておくんですってね、とメッセージカードと共に送られてきたときは、これいつ使えってんだと本気で悩んだ。現在は胸ポケットに収まっている。


きょうだいから1本ずつ投擲用ナイフが贈られてきた。

残念ながら一番使いやすいのはコレーが贈ってきたシンプルなダガーナイフで、プルトスは装飾が多くて重い、フレイのは美しすぎて実践に使いたくない、スカジのは投げナイフではない、トールのは後で回収したくなる攻撃魔術の触媒を果たすものと、まあどうにも使いにくかったのだ。


コレーのナイフだけはそれこそ本当に懐に忍ばせている。学園内でも護身用の武器を身につけることは許可されているが、よほどのことでない限り皆表に出すことはない。

決闘が解禁されるのは中等部3年であるから余計に。


しかしやはりというべきか、カルの傍に居るロキ、ロゼ、レオン、レイン、セトと、エリオの傍に居るトールは武器を目に見える形で所持していても良いとされている。ロキもレオンもロゼもトールも見える武器を身につけていないのでわかりにくいが、セトだけは帯剣しているのでわかりやすい。


ロキの場合はゼロかシドが傍に居るだけでも十分脅威になるのだ。よってレオンも含め魔術による応戦のみを普段は想定していた。


「何作ってもらおうか?」


食堂ではそうして話し込んでいる生徒が多い。ロキたちが食堂に来た時点で大半の生徒が仲の良いグループで集まって喋っていた。


ところで、ロキたちが少しでも遅く来ると、1年生が窓際に座っていることがある。日当たりのいい席なのにどうして皆座らないんだろうかと思っている生徒も多いのだが、それは無論、カルたちがいつも座っているせいである。今日も遅れたので案の定1年生が座っていた。


「座られちゃってるわね」

「どうする、2階に行くか?」

「あの子たち退かされそうで怖いわね」

「今日はバラバラに座ろうか。ロキ様、ソル借りるわよ」

「ああ」

「また後で」


一緒に座ることに慣れてはいても、別の席に座ることに特に抵抗があるわけでもないロキやソル、ロゼ、ヴァルノスといったメンツは普通にさらっと分かれて別々の席に座っていった。

ロキは今回はカルの方に押しやられた。


「毎度思うが、ロキたちはもっと一緒に居たいとかは思わないのか?」

「? 何故です? いつも一緒に居るではありませんか」


これ以上どう距離を詰めろと。

ロキはそう言いながらカルの椅子を引く。ゼロとシドが給仕のためにわたわたと歩き始める。本来貴族はあまり使わなかったのだが、ここでは一応協調性を育むためとしてなるべく食堂を使うようにと学園側から言われている。正直ロキ的にはどちらでもいいのだが、皆でワイワイ喋っていた方が楽しいので、この制度は楽だった。貴族なら食事の時の作法として、喋りながらの食事は基本的にはしたないとされるのだ。


堅苦しくほとんど話すこともなくマナーをきっちりと守って食事をするなんて、まずフォンブラウにはありえない。食事の間に魔物の対策会議をするのが常で、話題の方向性こそ違えど喋ることに変わりはなく。


トラウマイベントは去れどシドのイベントが近いらしく、なるべく一緒に行動するようにとソルやヴァルノスから言われているのもある。給仕のために動くのが板についているのはシドの方で、ゼロは専ら護衛になってしまっていた。給仕のためワゴンに料理や飲み物を乗せて持って来る朝食の時はゼロとシドが一緒に向かっている。朝食以外でロキはシドとゼロだけにはしないと決めていた。


ゼロは良い。が、シドにはそろそろ厄介なイベントが重なってくる可能性がある。そのイベントがただのヒロインとの過去のエンカウント程度だったならロキは何も言わなかった。


シドは、半精霊である。ビジュアルは多少変わっていようとも、半精霊の攻略対象であることに変わりはない。『イミラブ』の攻略対象は多かれ少なかれ、何らかの形で過去に傷を負っている。シドが攻略対象である以上何かイベントが組まれているのが普通であり、ヴァルノスとルナはそのイベントをよく知っていた。トラウマイベントと呼んで差し支えない事態はシドは既に起こっている。彼の両親も、ソルとルナの両親とともに消えた。


「揃いました」

「よし。じゃあいただこうか」


シドが料理が揃ったことを告げれば、カルが言った。シドとゼロは近くの席につく。


「いただきます」


ロキは料理を食べ始めた。



「それで、ロキはやっぱりハルバードを?」

「ああ、そのつもりだよ」


食事を終えたロキたちは何を作ってもらうかの相談に入っていた。ロキは無論ハルバードなのだが、絵が描ける体に生まれたのは幸いで、大体の図案を描き出していた。


「絵が描けるのか……」

「細工も好きだから、細かい作業に向いてるだけじゃないか」

「俺なんか線がガッタガタだ」


セトが言う。


レオンは投げナイフでも作ってもらうさと笑った。

レインは薙刀を試してみると言った。

カルはブロードソードを頼んでみようと言う。

セトはナイフを頼んでみると言った。


「セトはたぶんナイフの方が強いと思う」

「このガタイでかよ」

「元々バルフォットはナイフの人刃だからな。それに今もそこまで血が薄まってない」


これはロキのみが知っている状態ではあるが――。


「なんでわかる?」

「列強から聞いたのか?」

「いや。俺自身が進化個体だからな。……セトには浸食が効かないのだということを感じているだけだ」

「……人刃の浸食って、確か子供……」

「だな。ということは、セト先輩は少なくとも3代以内に転身できる人刃がいるってことか!」


流石はエリオというべきか。研究職気質の彼はその辺りの知識も持っていたらしい。


「そうなんですか、エリオ殿下」

「ああ、ロキ先輩が浸食できねえってことはそういうことのはずだぜ。系統が近いと浸食できるから、全く離れた系統だってこと」

「まあ、ナイフとハルバードじゃ違うわな……」

「ちょっと待て、てことはロキは俺たちを侵食できると」

「死にかけてもう助からねえなってなったら浸食してやる」

「出来るんだな!」


レインにも恐る恐る聞いていたのでカルは考え過ぎである。

王家に逆らうはずがない。間違えない限りは。

人刃の親子は、親側にかなり強い命令権が付与される。王族が侵食などされたら、いくらでも動かしたい放題だ。まあ、人刃は人の心など分からないと言われるので、命令を粛々と遂行する方が性に合っているのかもしれないが。


「やっほー」

「!」


上流貴族の御令息の集まり状態のこの場に声を掛けてきた人物が1人。紺から碧へのグラデーションのストレートの長髪を揺らした少年。


「ウェンティ」

「やっほ、ロキ君!」

「来ていたのか、ウェンティ」

「カル殿下も、どーも!」


よく見ればウェンティの手にも注文書が握られている。ロキたちが居るのを見て寄って来たのは他の生徒の情報が欲しかったからかもしれない。


「ウェンティはもう書き終わったかい?」

「うん、僕は弓にしたよ! ロキ君は?」

「俺はハルバードを頼むことにしたよ」

「あ、今回は刀じゃないんだ! どんなのになるか楽しみだね!」

「うん、て、俺刀頼んだことあるの?」

「あったはずだよ! とはいってもなんか朧気だけど!」


シドがいつの間にかウェンティの分の椅子を持ってきている。

ウェンティはそこに腰かけると、自分の注文書を見せた。そこには簡単な弓の形と要求の箇条書きがある。


「デザインの細かいところまでは指定しなかったけど、大きさと弦の張り具合にはちょっと口出させてもらったかな!」

「あー、そっちの方が良いな」


ロキは自分の描いていた細かい図を消して、シンプルなものに描き変えた。そして押さえておいて欲しい部分の書き込みをしていく。


「……ウェンティ、このコンポジットって何?」

「……へっ?」


ウェンティの注文書を覗き込んだレインの言葉にウェンティが固まった。


「……あれ、ロキ君、コンポジットボウってリガルディアに無かったっけ?」

「……そういや見たことないな」

「……マジ?」


ウェンティは驚いてさらに凍り付いた。


「……リガルディアの人って、強弓が主流なの??」

「……ヒューマンの膂力と比べない方が良いかな」

「……お母様だけじゃ、なかったんだぁ……」


ウェンティは椅子に沈んだ。シドが慌ててクッションをウェンティの頭と腰に据えて痛くないように気遣いを見せる。


「ウェンティのご母堂様って確か……」

「センチネル王国でも有数の強弓使いだったアスターシャ様だね」

「ミスリル級よね確か」

「そうだよ!」


ウェンティは復活した。


「お母様が使ってるのはロングボウなんだけど、すごいんだよ! もうね、あれはね、ラー〇ャン」

「ラージャ〇かよ」

「僕あの弓を見た時に思ったんだよ。”僕これ大きくなってもひけない”って」

「どんな弓だよ」

「〇ージャンの弓みたいな」

「あれ和弓だろ」

「形はロングボウだけどあんな感じのぶっといやつ!」


ウェンティの言っている意味が分かるロキとシドがひたすら腹を抱えて笑うのを堪える羽目になる。カルがそれ何、と突っ込んで質問を始めたせいで話題が進まない。レインは一通りロキとシドがカルの疑問を答え切ったところで再び口を開いた。


「で、このコンポジットって何?」

「あー、そうだった」


レインの質問にも答えなければならないのだった、とロキとウェンティは顔を見合わせる。


「えっとね、ショートボウくらいの大きさでロングボウの威力が出せちゃう優れものなんだよ!」

「そんなことある……?」

「実際、原理を理解できればレインにも理由がわかると思うよ。ウェンティ、コンポジットボウにしてくれって書いておかないとショートボウで来る可能性があるんじゃないかな」

「そうだね! 見せててよかったー! そういえばなんでショートボウとかロングボウが来ちゃうことがあるのか分からなかったけど、僕が書いてなかったせいだったんだね!」


ウェンティは注文書にコンポジットボウにして、という要求を追加した。ロキはその間にコンポジットボウに興味を示したレインとカルに簡単な原理を説明しておく。


「あ、シド、ソルが注文書にコンポジットボウって書いてるかどうか見てきてくれないか? 確かソルとルナ嬢もだったろ」

「あー、そうだったっスね。アッシュに伝えときます」


シドが念話を飛ばし始めたのを確認して、ロキは自分の注文書を仕上げた。視界の端に映ったソルがアッシュに何か言われて慌てて追記しているのを見て、セーフだったとウェンティと顔を見合わせて笑う。


ロゼたちも書き終わったそのタイミングでふと、窓際に目を向けると、どうやら同級生が1年生に注意しているようである。

ロキと今度はカルが顔を見合わせた。


「またかい?」

「そのようだな」


カルが小さく息を吐く。


「まあ、これはあれだな、俺が行って頭を下げればすべて終わるな」

「お前なぁ……」


ロキの言葉にレインが無言で叩きにやってきた。ロキはそんなレインに苦笑を向ける。


「わぁ、レイン君とロキ君仲良しだね!」

「まあね」

「いぇい」


ウェンティの言葉にロキははにかんで見せた。ロゼが席を立とうとしたところで、ウェンティが立ち上がる。


「僕が行こうか?」

「あら、良いの?」

「いいよいいよ、向こう伯爵家だし、ヴァルノス嬢はまだ時間かかりそうだしね!」


ちらっとヴァルノスがいる席に視線を向けるとヴァルノスは自分の武器の注文書をどう描いたものかと悪戦苦闘しているのが見えた。

ウェンティが動こうとした時、瑠璃色の髪が窓際の席に近付いて行くのが見える。


「あ、アンディだ」

「あら」

「3年生が出て来たな」


アンディと呼ばれた3年の生徒は背が少々高い。席に近付いて、軽く腰をかがめて窓際の席にいる1年生に何か話しかけ始めた。そして2年生の方にも話を聞いて、何か言ったようだ。1年生、2年生ともに言われたことに納得したようで、2年生は1年生に何か言った後、その席を離れて行った。アンディという生徒も軽く1年生に手を振ってその場を去る。


いつの間にか話を聞きに行っていたらしいゼロがひっそりとロキの横に戻ってきた。


「あれ、いつの間に聞きに行ってたんだお前」

「シドに言われてちょっと」

「シドスゲーな」

「いや気付かれずに行ったゼロの隠密スキルあってこそっつーか」


シドはゼロを誉めつつで、とゼロに情報を聞く。そして軽く掻い摘んでシドがロキたちに説明をくれた。


「……あー、やっぱりあの席殿下と側近候補が座ってる席だから皆空けてて、それが分からない1年生が座ってた、って事みたいだ。日当たりが良いし気持ちいいからな、あそこ」

「本を読むには適さないけれどね」

「日光の中で本を読んだら目が悪くなっちゃうよ!」

「先に紙が劣化しそう。ね、カル殿下」

「なんで皆で俺を見る!? 俺だけじゃなくてロキもだろ!」

「ほら俺、本は保護してるから」


本の紙の日焼けを気にしてカルに丸めた矛先が向く。おぉん、とカルは大人しくつつかれ始めた。

ヴァルノスまで書き終わったところで、ウェンティの分も含めてヴォルフに預け、提出してもらった。

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