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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
19/368

1-18

2021/07/21 大幅に修正しました。

2023/03/01 エメラルディアの瞳の描写の間違いを修正しました。

アンリエッタが丁寧に魔力を魔石にかざす方法を教える。プルトスは水属性、フレイは火属性と植物属性、スカジは火属性と氷属性、水属性を発現していた。ロキは魔力を動かすことはまだできないだろうとアンリエッタは判断し、封印から漏れ出ている魔力をアンリエッタが魔石にかざすことで判定を行った。


「……ロキ様は、火属性、氷属性、闇属性、あと何か祖の属性をお持ちですね」

「祖ですか」


祖の属性、というのは、魔力の属性の分類がしにくく、血統的にそこに出現するはずのない属性の系譜のことを言う。ロキは火属性系統のフォンブラウ家と氷属性系のメルヴァーチ家の血統を継いでいるはずなので、判定で出た闇属性とこの祖の属性はロキ神の加護に付随するものと考えられる。それを言うならば、フレイの植物属性もそうだが、こちらは分類が容易なため植物属性として現れたようだ。豊穣神フレイの加護に付随するものなのは疑いようがない。


ロキたちのいるリガルディア王国のみならず、この付近の国家が持つガルガーテ帝国式の魔術体系は、属性を基本の4属性と少々特殊な2属性に分けて考える。基本四属性と呼ばれるのは、火、水、風、土であり、水は火に、風は水に、土は風に、火は土に強いエレメントである、という考え方をする。双極属性と呼ばれる光と闇は、互いに強いという特徴を持っており、光属性の防御を闇の攻撃は貫けるが、闇の防御を光の攻撃も貫くことができる。


「……ロキ様、エメラルディア様の血統はどこに置いていらっしゃったんです?」

「お婆様の血統はきっと父上の所で止まっとるんです」


ロキたちの祖母、つまりアーノルドの母であるエメラルディア・ガーテ・フォンブラウは、リガルディア王家から降嫁してきた元王女である。エメラルディアは炎の如き赤毛と名の由来となったエメラルドグリーンの瞳を持つ、光属性と火属性の優れた使い手だ。アーノルドも光属性の魔術が使えるほど光属性の適性は高くないので、ロキの言葉は正しい。


「……でも、これだとロキ様は確実に光属性が明確な弱点属性になります。精霊でカバーしませんと」

「精霊ですか」

「はい、こう、周りに沢山光の粒子が遊んでいるのが見えますか?」


アンリエッタは何気なくもっとも一般的な足りない属性の補い方――精霊契約の話をロキに振った。ロキは目を少し見張って、こてんと小首を傾げた。


「見えません」


フレイとプルトスが目を見開いて顔を見合わせる。どうやら2人には見えているらしいとロキにも分かってしまうだろう。アンリエッタは慌ててフォローしようと口を開いた。


「大丈夫ですよロキ様、魔力が少ない平民たちや、伯爵家までのの人たちは見える方の方が圧倒的に少ないですから!」

「……そうですね。きっと精霊とロキ神は折り合いが悪いんでしょう」


アンリエッタは自分がフォローに失敗したことを悟る。いや、そうか。ロキは公爵家の人間だ。今のアンリエッタの言葉は、普通は公爵家の人間は見えるのだと言ったようなものだ。しかもアンリエッタは平民出身でありながら、精霊が見えている。


かろうじてロキ神の加護の所為にしてくれたロキだが、これからどうフォローしよう、と思っていると、トールが口を開いた。


「よくまどの外にあそびに来てくれる光は精霊さんなんですか!」

「そうみたいだよ、トール」

「ロキねえさまにもいっぱい精霊さんくっついてるよ! みんなきっとロキねえさまのこと好きなんだよ!」

「本当? ありがとう、トール」


ああ、加護の所為にして逃れた部分をトールが塞いでしまった。アンリエッタは頭を抱える。フレイが流石に見かねてトールをスカジに預け、ロキを抱き寄せた。

フレイは何かとロキを気にかけているが、こういう時は本当にありがたいものだ。


「……ロキ様、通常精霊は、召喚したり、大精霊の住む地域に行かなければ姿を現しません。ロキ様が精霊を見ることができないのは、この地域に闇属性の精霊が居ないからかもしれません」

「そうなんですか?」

「はい。ロキ様は血統的には火属性と氷属性が出るはずですが、加護の影響が強いためか、闇属性が最も高い適性をお持ちです。御自身の闇属性の魔力と、後は、ドウラ公の封印が邪魔になって、精霊を見ることができないだけかもしれません」

「……そういう事にしておきますね」


違うと薄々ロキ自身が感じているのがなんとも辛い所だ。アンリエッタの目にはロキの周りを不安げに飛び回る瞬く光が映っていた。



夕食まで世話になって、アンリエッタはアーノルドの執務室を訪れた。今日は屋敷で仕事をしていると聞いていたので、迷わず執務室へ向かったのだ。ガルーは何も言わずに通してくれた。


「アーノルド、ロキ様の事で報告があるわ」

「――なんだ?」


アンリエッタは現在通いでロキたちの勉強を見ているが、もう少しロキの私生活を見たいと思った。病気がちな人刃など聞いたことが無いし、実際に見るまではアーノルドの共有してきた情報も過保護だとしか思わなかったのだ。でも実際に見てみたら、人刃族の血をひいた身としては、ロキはあまりにも病弱で、アンリエッタはきっとこの子に自分の持つ常識は通じないとさえ思った。


――何か、ヒントを掴まなければ。

アンリエッタは、ロキに感じる違和感を、放置できなかった。


「あんなに精霊に好かれている人刃が精霊を見ることができないなんておかしいわ。人刃は元を辿れば神刀や妖刀の付喪神の類の魔物のはずでしょう」

「……やはり、アンリエッタも感じたか」

「上位者を呼ぶべきだわ。精霊の支配者層である上位者なら何か知っているかもしれない」

「……」


アーノルドは書類から視線を上げた。かつて同じレベルで魔術を語り合った同士であるアンリエッタ。彼女はアーノルドが知る限り、最もまともな()()だった。子供たちを任せても良いと思えるほどには。


「……ネイヴァス傭兵団に、連絡を取っている」

「! 返事は?」

「来る、とは言ってくれたがな、早くともひと月はかかると連絡を受けたのが、1ヶ月前だ」


と、いうことは。

アーノルドが少し口端を上げた。


「ネイヴァス傭兵団第3師団長デスカル・ブラックオニキス、及び副隊長アスティウェイギア・メタリカーナ・オーロ。約束は取り付けた」

「アーノルド! やっぱり貴方って人刃にあるまじき、すばらしい交渉力を持っているわ!」

「……ロキが、ロキ神の加護を持って生まれたのは、俺の責任だ。いつか、このことも話さねばならん」


アンリエッタは、自分がわざと言った棘をスルーしたアーノルドに憐れみさえ覚えた。ロキが生まれたのは、アーノルドとスクルドが望んでの事だったはずなのに、加護持ちとして生まれたロキへの申し訳なさを抱え込むアーノルドと、いつ裏切るかわからないロキ神の神話を知っているがために自分の行動にかなり自制を掛けているロキ。このままではどちらもが潰れてしまう。


「アーノルド、明日貴方は?」

「ん? ああ、宰相が隠してた横領の件を片付けるまでは帰ってこれんな」

「ああ、明日からなのね」

「ああ。かなり規模が大きいから、3日くらいは帰ってこれないと思う」

「……いざというときスクルド様では話し合いにならないの、分かってるでしょう?」

「何かあったら知らせてくれ」

「分かったわ」


話すべきことは話し終わったかな、と思ったアンリエッタに、アーノルドが声を掛ける。


「アンリエッタ、ロキの“晶獄病”の件が片付くまで、うちに住み込みで居てはくれないか」

「!」


自分から言わねばと思っていたのに、アーノルドから言われてしまった。よほどロキの症状が拙いものに映っていると見える。


「分かったわ。他に生徒は受け持ってないし、大丈夫よ。明日から泊まるわ」

「ああ、頼んだ」

「移動費は削ってもらって構わないわ。それから、ロキ様にどうしてドウラ公の封印がかかっているのか、詳細な情報を頂けるかしら」

「明日までに用意しよう」

「ありがとう、アーノルド。それじゃ、失礼しますね」

「ああ」


アンリエッタが出て行くまで仕事の手を止めてくれたアーノルド。真面目な男だと、あらためて思う。これが学生時代は下町のギルドに入り浸って魔物討伐に精を出して、暴れん坊と呼ばれていたフォンブラウの長男とは思えない変貌っぷりだった。


アンリエッタは帰宅して、明日の準備を始める。魔術師の家は、アンリエッタにとっては居心地が良いものなのだ。アーノルドが部屋を用意してくれるだろうから、ついでに今借りている宿の部屋も引き払っていいかもしれない。アンリエッタはもともと平民の冒険者だから、実家以外に家を持つなんてことは夢のまた夢だった。工房の作り方をプルトスとフレイにはもう教えておかないと、学園に行きだしたら困ってしまうだろう。


子供に勉強を教えるのが好きなのは昔からだったけれども、よく話を聞いてくれる子供の方が可愛いのは、致し方ない。アンリエッタは翌日のプルトスの勉強の支度をして、眠りについた。



上位者が来る前に、まさかあんなことになるとは、思ってもいなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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