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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
189/368

7-20

2025/01/08 編集しました。

「シド、待て」


捕らえられた暗殺者の少年が、自分にとって毒にしかなりえないものを飲み込もうとしている。ロキは落ち着きを払った態度のまま、彼を止めようとしていた。


「仕事を失敗したんだ、死ぬのは当然じゃねえか」

「奴隷刻印ならば俺が消せる。俺にはお前が必要だ。シド、お前はすごい奴だ。その力を俺の許で揮ってくれよ」


シドが喜んでくれそうな言葉を探した。本当の気持ちも多分に含ませて、ストレートにぶつける。


「……ハ、お貴族様にしちゃ随分とラフな物言いじゃねーか」

「今全力で口説こうとしてるからな」


死んでほしくない。ここまで来て、失うものがあるなんて嫌だ。


「……だが、断る。お前は、俺の向こうに誰を見てる? お前の言葉は、俺に向けてのものじゃねえ、薄っぺらいんだよ」


シドの言葉に、ロキは固まった。


「お前はまるで俺を通して別の誰かを見ているみたいだ。お前の視界に、俺は、入りすらしてねえってことじゃねえか!」


暗殺者の少年が吠える。


「誰を見てるか知らねえが、代役なんざァ真っ平御免だね!」


がきん、と何かを噛み砕く音。暗殺者の少年が血を吐いた。ロキは、動けなかった。

ばたりと倒れた少年を前に、ロキは――。



ミーム・アネクメーネという少女は、ぼんやりとだが、前世の記憶を持っている。かつての名も思い出せないのだが、それはそれでいいとミームは思っている。

それと同時に、前世というよりも、どうやら自分がこの世界を繰り返していることを知った。


最初は自分だけなんで、と考えた。しかしその結末を選ぶ人間がいるからこうなっているのだと分かった時、その人間に恨みすら抱いた。なぜこんな不遇な人生を何度も繰り返さねばならないのかと。


前世のラノベに出てくる悪役令嬢の様にスペックが高いわけでもなく、ヒロインではもちろんない。そんな自分にあったのは、恐ろしいまでの【魅了(チャーム)】だけだった。


金髪と緑色の瞳。神聖さすら感じさせるその瞳に引き込まれるものは多い。

そして、それゆえに、異性絡みの問題を度々起こした。

拉致されかけることもままあった。

一度はそのせいで殺されたこともある。


ミームはこの力を嫌うようになった。

この力があったが故に親は愛してくれなかった。

怖いと、光属性のそんな部分は知りたくないと、光属性を絶対的に神聖なものとして扱うのだからそんな汚らわしい部分を晒すなと、そう言われてきた。


何が神聖だ。

人々を惹きつけてやまない神聖なものは、裏を返せばその力故に群がる群衆を魅了していることになりはしないか。何故そんなことにも気が付けないのだこの未開拓人め。


神聖なだけで成立するものなどないとミームは知っている。

よっぽど闇属性に生まれたかった。

そうすればきっとロキと同じ土俵に立てた。


ロキの事が嫌いだ。

けれど、同じくらいロキに好意を抱いていた。

例え男でなくても。


ロキは、その名故に。

その属性故に。

皆に忌み嫌われ、それでも彼は気にせずその力を振るい続ける。それが王家への、はてはカル・ハード・リガルディア王子への忠誠を示すとして。


そこまで強くなれたなら。

そこまで精神面を貫き通せたら。

ミームの人生も、もっと変わっていただろうが。


あんな化け物と一緒にするなと。

ミームは常々、思うのである。



「まずは、呼び出しに応えてくれたこと、感謝する」

「……いえ」


ロキからの呼び出し先は、サロンの一室。場所の提供をしたのはカルだったようで、王薔薇の間を使っていた。この部屋に自分が足を踏み入れることなど決してないと思っていたのに、まあ、目の保養になる見目麗しい男女がここにいるから、調度品とか、人とか、見てもいいだろう、それくらいは許されよう。


意外なことに、ロキの傍にゼロ・クラッフォンがいない。シド・フェイブラムのみ連れて、他に一緒に居るのは、ロゼ・ロッティ、ヴァルノス・カイゼル、ナタリア・ケイオス、ルナ・セーリスだった。これは確実に、シドとナタリアによる人選だと理解する。


ナタリアも覚えているのだと理解した時、舌打ちしたくなった。


「あまり時間を取らせる気はないから、単刀直入に聞こう。貴女は転生者だな」

「……ええ」


ロキが口を開いた。出された紅茶が湯気を立てている。


事実は肯定するべきだ。ロキ・フォンブラウはロキ神の加護の影響からか、嘘か誠かを判別できる。言いたくないことは口に出さなければいい。どうしても聞かなければならないことであれば突っ込んでくるかもしれないが、ロキは実際はそこまで追求が厳しい男ではない。追い込む材料集めの時にガツガツ行くタイプでないことを、ミームは知っている。ロキの思考は、追い込み型の猟師に近い。


「……なんでわかったんですか?」

「俺が日本語で話しかけたのに、君は返事をした。日本語が分かっているなら、転生者だろうなと思っただけだよ」

「……」


失態だったな、と思う。いや、恐らくミームが若干上の空なのを見越してミームを指名してきたのだろうが。ロキも本当にそういうところは変わらない。人が触られたくないことを積極的につつきに行くことがあることも重々承知はしている。


ロキはポケットから何かを取り出し、テーブルに置いた。


「俺からの要件というのはまあ、これを身につけていてほしいってだけだ」

「?」


テーブルに置かれたのは小さなバッジのようだった。


「ベルトにでも通すんですか?」

「つけ方はそれぞれだ。対人用の【リフレクター】を付与している」

「……転生者狩りですか」

「ああ。貴女は貴族街から出ないとは思うが、最近冒険者ギルドにも行方不明者の捜索が多く依頼されているらしい」


ミームのことをある程度は調べているようだ。それにしても、冒険者ギルドでそんなことが起きていたとは、初めて知った。もっと情報をしっかり集めなければ。情報は、あって悪いものではない。


「人攫いなんて不穏ですわね」

「教会が一枚噛んでいる。教皇は全く関係ないそうだけど」

「……」


そこまで情報を仕入れているなら根本から潰せよ公爵のくせに、とミームは思う。

そんな簡単に行かないことも分かっているけれど、やはりなんだか反発心を抱いてしまうから。教皇と何時繋がったのやら、ミームが会うときは大体両者は既に知り合っている。


「……話はこれで終わりですか? 終わりならもう――」

「いいや?」


シドが刺すような声を発した。

あ、ヤバいんじゃないか、とミームが思った時にはもう遅かった。


「こいつ、【魅了(チャーム)】魔法持ちだぜ」

「「「「「は?」」」」」


その場にいた、ロキも含めて、シドとミーム以外の全員が声を発した。


なんだ、ロキには知らせてなかったのかとか何で言いやがったこいつとかいろいろと思うことはあったが、舌打ちして睨むにとどめる。


「光属性の魅了持ち?」

「え、ロキ様、この方、アネクメーネ伯爵の令嬢様ですか?」

「ああ」


ルナが声を発し、ロキが肯定する。ミームはその場の全員に【魅了(チャーム)】を放った。


「【術破り(ブレイク)】」


ロキがそれに対応する。

ルナが口を開いた。


「ミーム・アネクメーネ……精神汚染とはまたエグイ名前ですよね」

「うるさい、男爵令嬢は黙ってちょうだい。私だって好きでこんな体質してるわけじゃないんだから」


ミームは忌々しげにロキを睨む。不敬罪に当たるだろうか。まあいいや。どうせ自分はいてもいなくても同じだ。どうやったってこいつらは最終決戦まで行くだろ。


「……シド、なぜ彼女の神経を逆撫でするようなことを?」

「あいつが特定の人間に一度でも魅了をかけて自分の難を逃れようとするとな、ロキさん裏切りルートまっしぐらなんですわ」

「「「「「あー」」」」」


そこで納得しないでほしい。というかこいつら皆転生者か。


「わ、私だってあんなことになるなんて思ってなかったのよ! わかってたらやらないわよ! なんで好き好んでこんな化け物みたいな人を相手にしなきゃなんないわけ!?」


言ってしまって、しまったとミームは思った。

ナタリアがミームを指差して言った。


「貴女、ループしてるわね」


――だから何だという話だ。

ミームは開き直った。


「そうか、彼女もループしているのか。なら話は早いな」


ロキはそう言って、ミームの方へ近付いてくる。ミームは席を立って離れようとする。

パチンとロキが指を鳴らし、令嬢の姿に変わる。これに出られると厄介だ。男の姿ならいろいろ言いくるめて放させることができるのに。


「貴女は私が――いえ、ロキ・フォンブラウがお嫌いでしょう。それは何故? 私は知りたいわ。万人に愛される性格でないのは知っていますけれど」


ああ、そうだ。

ロキの性格は万人受けはしない。

注意深く見ていると偶に漏れる言動の端々に、彼がサディストとか鬼畜生とか呼ばれるタイプの人間であることが読み取れる。


男の時に特に稀に見られる威圧的な言動。あれは生まれついてのもの、というか、人に指示を出す上の立場、貴族として戦場に立ったことがある所為で子供らしからぬ行動が、立ち居振る舞いが、残ってしまっているだけだ。それ以上の感情なんてない。


考えるほどイライラが募っていく。

どうして自分は愛してもらえないのか。

愛されたかっただけだ。


何で愛されたいと望んだ先に、ロキの裏切りがあったのだ。


だから怖くてたまらないのに。来てやっただけでも御の字としてとっとと引っ込んでいろクソガキども。


ロキが愛されて自分が愛されないことに理不尽さを感じるのだ。

これが悪役令嬢とモブの差かと思って納得していたのに。


「……私は貴方が大嫌いよ。ええ、大っ嫌い。似てる部分が多いのに、ロキ神の加護まで持ってるくせに、貴方ばっかり愛されて、狡い」


気付けば話し始めていた。


「私は貴方のような力を持ってはいなかった。持っていたのは厄介で、あると困るようなもので、それが理由で親も怖がって私を愛してくれなかった。この力を使えば好意的に見られるって分かって喜んだわよ。でもそれは上書きされたものでしかなかったの、術を解けば誰も私のことなんて知らん顔、誰も愛してくれなかった。愛されたかっただけなのよ。ねえ、家族に愛されていらっしゃるロキ様。転生者のお仲間もいて理解者がいて独りぼっちなんて経験したことのない裏切りの騎士様。ねえ答えてよ、英雄(ヒーロー)。それだけの物を持ってるくせに、あっさり死んで皆に絶望をぶちまけるくらいなら、もっと昔にくたばればよかったと思わないかしら」


このロクデナシ。


「……」


ミームの言葉を聞いて、ロキは静かに目を閉じた。

ミームから手を放し、男の姿に戻る。

目を開け、そうだな、と小さく言った。


「貴方は俺の救いたい範疇にないと見た」


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