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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
188/368

7-19

2025/01/08 加筆修正しました。

ロキ・フォンブラウ。

白銀の貴公子。

神子様。


呼ばれ方は様々だが、彼についての噂は絶えず流れている。

ロキという名から、裏切り者の印象が強く、公爵家にその名が生まれたことを皆が嘆いていた。両親以外はたった1人、国王以外。


故に、大人の貴族たちからのロキへの風当たりは非常に強い。スクルドとアーノルドがきっちり守っているだけのことである。


ロキの行いはたまに度を越して破天荒だったりもする。それに皆が巻き込まれた時のことを考えなかったのかと言われてつつかれればロキは口を噤むだろう。反論の余地なしと判じた時、ロキは余計な口を出さないのが基本である。


そして極稀にだが。


そんな、大人の言い分を聞いて育ち、それを刷り込まれ信じ切った者というのが出てくる。


「――だから、貴方が他の公爵家の皆様や、殿下たちのお傍に居るのは場違いだと申し上げております。即刻立ち去りなさい。貴方が居るのは殿下たちのためになりません」


あーあ、何でこんなことになっちゃったんだろ。

()()()がロキに絡むのを見て、小さく少女は息を吐いた。


何だって、()()()()ちょっと親しくしていた令嬢がロキ・フォンブラウという公爵家の令息に突っ掛かっていくのか、よくわからなかった。しかも理由なんてどうでもよさそうなことで。


少女の名は、ミーム・アネクメーネ。アネクメーネ伯爵家の娘で、蠱惑的に笑むものだから、令嬢たちからはあまり好かれていなかった。

そんな彼女は中等部で、あたりさわりのない関係を他家の令嬢たちと築いていた。それ以外に自分の生き残る方法が分からないので、そうしている。


さて、今回お友達の1人が今回、ロキに突っ掛かったのである。

ああまったく嫌になると思いつつも、間に入ることはせず、ずっとぼんやりお友達の話に耳を傾けていた。いや、俯いていたが。

周りにはロキに申し訳なくて頭を下げているように見えるだろう。何せそのお友達はミームよりも階級が上だ。


現在がなっているのは侯爵家の令嬢であるため、ミームではどうあがいても止められない。願ったり叶ったりであるコノヤロウと半ば投げやりになりながらお友達の話を聞き流した。


「……悪いが、その言を受け入れることはできない。そんな風に離れてしまえば、他にも迷惑が掛かるから。……話はそれだけかな」

「……ええ」

「そうかい。――無駄に時間を喰った。シド、ゼロ、矛を収めろ。御令嬢に向けるものではないよ」

「――応」

「…………承知」


後ろに控えていた黒髪の男子2人がふつふつと怒りを溜め込んでいるのに気付いていただろうか。ミームの背に冷や汗が伝う。何だってあんな最高峰の殺気を叩き付けられねばならないのだ。もう手を切ろうかなこの令嬢、巻き込みやがって。


「ロキ、――」

「……そうか。ミーム・アネクメーネ伯爵令嬢」

「!? は、はい!?」


いきなり呼ばれて驚いたミームは顔を上げた。

銀糸は背に流され、黒い服ばかり好んで着ているためいつだってその髪が映える。美しい人だ、と最初見たときは思った。

今だって、神々しいその姿、ずっと見ていたくなどない。


将来これがどうなるのかを知っているからこそ、嫌なのだ、この人とは親しくなりたくない。自分の惨めさが分かるから嫌だ。


『少し話したいことがある。後日手紙を送る。日程調整はその時に』

「あ、はい」

「――行くぞ、シド、ゼロ」

「「はっ」」


ロキが踵を返して歩いていった。

ロキに言いたいことをひたすら言った令嬢はといえば、ロキに“無駄に時間を喰った”と言われたのがよほど癇に障ったのか、ぶつぶつと呪詛を吐いていた。


その様子を見かねたのか、そっと近くにいたマルグリッドが声を掛けてくる。


「チェニファル様、ミーム様」

「何ですかマルグリッド様。貴方はロキ様擁護派ではないですか、何の御用でしょう?」

「……あのねえ。ソル様へのいじめをロキ様が潰しになったのは御存知でしょうに、どうしてそのロキ様本人に突っ掛かっていくんですの? あまり大人の話に流されない方がよろしくてよ」


息を吐いたマルグリッドはチェニファルに呆れたような視線を向けた。


「子供の噂より大人の話を信じて何が悪いのでしょうか?」

「実際にロキ様を見ていなくてはダメ、と言っているのですよ。……貴女が初等部で3組だったのは知っていたけれど、ここまで尾を引くなら最初からロキ様に報告しておけばよかったわ」


マルグリッドは現在、ロキをよく思っていない貴族たちからロキを守ろうと動き始めている。ロキ自身はあまり頓着しないタイプであるため、誰かが守ってやらねば自分を放置していく男だ。何となくほっておけないというのもあるが。


そして、マルグリッド側にいるのはロキと同じクラスになった――つまり、初等部でロキが知り合った約40人程度に絞られている。初等部にいなかった生徒も多いため、ロキの雰囲気からとっつきにくそうだと判断している者はまだ多い。


にもかかわらずロキは人気の高いカルやエリオと仲が良く、ほとんどの場合傍に居る。それが余計に皆の敵対心を煽っているのだが、ロキはだからといってカルの傍を離れるなんて考えてはおらず。


「何が関係あるのですか」

「……今は夏服だもの、こうなっても仕方ないか……」


制服ではないのでどんな服装になったとしてもおかしくはないのだが、ロキの場合はほとんどそのまま公式行事に出るのかというような服装である。戦闘訓練時はそれが()()()()()()()()()()姿()というから一度覗いてやろうかと思ってしまったミームだった。


「……ミーム様は興味を持たれてしまったようですわね」

「ええ……」

「シド様が何か仰っておられましたから、何か思うことがあったのでしょうね。ロキ様に嘘は通じないから、家を危うくさせたくなければあまり嘘はつかない方がいいわ」

「怖いことを仰いますね、マルグリッド様。私これでも清廉潔白でしてよ?」


今は、ね。

ミームはそう内心付け足した。この令嬢とはいずれ手を切ることになるので、早めに手を切ることも視野に入れるべきかもしれない。帝国の情報戦に強い貴族令息を思い出した。


まあ、シドは警戒するほかないとしても。

シドはきっと()()()()()()()()()()()()()()()


近付きたくないが、どうしようもあるまい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あら、もうこんな時間。私はこれで失礼させていただきますわね」

「ええ」


マルグリッドが次の授業へ向かったことで、チェニファルははあ、と息を吐いた。


「私の家よりも下のくせに……!」


あーあ、この人も大変だなあ、とミームは思う。というかマルグリッドの家とは同格だろうに。マルグリッドの家は現当主がクローディ公爵がレオンの父に代わった時にその補助に回ったことで、ロッティの補助に回ったチェニファルの家よりも勢力を削がれた形になっている。とはいえ、次代のマルグリッドがロキ援護、つまりフォンブラウに与する動きを見せている以上、チェニファルは早めに切り替えをしておかなければ、王家に叩き潰されることだろう。第2王子カル・ハード・リガルディアがロキ・フォンブラウを殊更大事な友人として扱っているのは気付かないのがおかしいくらい見えているのだから。


ミームは初等部には通っていない。領地が遠かったためである。体質のこともあるのであまり学園の外には出ないようにしているが、警戒するにこしたことはなかった。

だからこそ、自分の最も得意とする魔術を、魔法を、未だに封じたままなのだから。


自分の力を使っていい相手と使ってはいけない相手がいるのは分かっている。

今回は、シドはダメだ。

ロキの傍に居る人間にはしない方がいい。

ロキを敵に回したくない。


「……」


夏も間近だというのに、肌寒さを感じて、ミームは身体を震わせた。


ミームはロキの事が嫌いだ。

何だってできるあの男が嫌いだ。

何だって持っているあの男が嫌いだ。


()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


本当は呼び出しなど無視してもいい。けれども、ロキの周りの人間のことを考えると少しそれは困るのだ。

特に、ヴァルノス・カイゼル。

彼女に引っ掛けられるとまずい。


ミームはヴァルノス・カイゼル――というよりも、()()()()()から、一度も逃げ遂せることができたためしがなかった。

ロキは、というよりシドが動くはずだ。シドはヴァルノスを使うだろう。ヴァルノスも、おそらく何のためらいもなくミームをロキの許へ連れていくだろう。


「……こちとら前世の名前すら思い出せないのに、あんたたちばっかり、狡いわよ」


呟いた言葉は誰に聞かれるでもなく風に溶けて消えた。


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