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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
187/368

7-18

2025/01/08 多少の加筆修正をしました。

「兄様! ちょっといいですか?」

「……トール?」


ロキが食堂に行くための準備をしているところに、トールが飛び込んできた。ごめんなさい、と言わんばかりにトールの従者がロキに頭を下げる。用件があったならそれこそ従者にでも言いつけて走らせればいいのに、どうしたのだろうか。ロキは準備と片付けをシドとゼロに言いつけて、トールの方へ足を向けた。


「どうしたの?」

「どうしたの、じゃありませんよ! 兄様ソル嬢とお付き合い始めたって本当ですか?」

「そうだけど、どうした」


トールの言葉の途中から防音障壁を張ったロキは決して悪くないだろう。

公爵家と男爵家の令息令嬢なので周りからの反対があるかとも思ったのだが、特にそんなことは無かった。いや、こんなオープンな状態で話していたらますますソルの立場が悪くなったりするかもしれないが、パーティで一度芝居も打っているし、まだ何かあるならそれはそれで対応すればいい。


ロキに婚約者は居なかったし、両親がそもそも婚約話を止めていたのだ。神子であるロキを他家に取り込まれないために打った策ではあったのだろうが、おかげさまで貞操観念が緩めの次男フレイまでも未だに彼女の一人もいない。その辺りは押しに弱いフレイ自身が案外避けていたのかもしれないが。


「何で教えてくれなかったんですか! 俺今朝ミューから聞きましたよ!」

「ミューは耳が早いね」

「恐縮でございます」


ミューはトールの従者だ。ズボラなトールを補うためにアーノルドが探し回った機転が利いて細やかな仕事を好んでやってくれる気質の者だった。ロキはアーノルドが彼をスラムから拾ってきた事を知っている。スラムって案外人材宝庫なんじゃないかと思い始めたロキである。


「手紙は父上と母上に送ったから、皆に広がるのは早かったろうね」

「だからって俺たちに教えてくれないのは何でですか??」

「あー、お前もなかなかフットワークが軽いね。普通は従者に情報を集めさせるものだと思うけど」


従者側にもいろいろとあるので、ゲーム的な概念にはなるが、鍛えなければならない。仕事の中でも鍛えられていくものだから、そちらにも気を配ってやれるとなお良い。


「もし、」

「ロゼ?」

「はい」


ロゼがロキに声を掛ける。どうやら会話に混じりたいらしい。


「お久しぶりですわ、トール様」

「お久しぶりです、ロゼ嬢」


ロゼとトールが挨拶を交わしてから、ロキはロゼに言葉を掛ける。


「どうしたの?」

「あんたソルと付き合い始めたなら言いなさいな。二人とも平常運転過ぎて素振りが全くないのだけれど!」

「俺は内心割と浮かれてるけど」

「気だるげな無表情で言われても説得力まっっっっったくないのですけど!」


ロゼからはそう見えてるのか、と思いながらロキは自分の表情について少し考える。考えてみても普段の表情は特に意識していないのでどうすることも出来ない。皆に分かりやすく感情表現するときだけ表情を作っているので何とも言えないのだ。


「これからは気を付けようかな」

「変わんない奴だわこれ」

「兄様の表情筋が仕事しないのには最近慣れてきましたよ! それより、ソル嬢と上手くいきそうですか? だとしたら許せません!」

「脅してどうするのさ」


トールの発言内容に少々問題がある気がするが、聞き間違いかもしれない。いや、ロキがツッコミを入れた時点で聞き間違いではないのかもしれない。


「何で許せないんだい?」

「兄様は俺の兄様です。他の人に取られるとか絶対無理です潰します」

「ブラコンが重症化してる」


可愛い顔してとんでもねえこと言いやがる、とロキが呟いた。ロキがトールとコレーを兄バカ気味に可愛がった所為だとロゼは言わないことにする。ロゼにはわかる、弟妹を上手いこと可愛がると嫌われたりはしないものなのだ。


「ロキ様、今後ソル様を守るのは貴方の役目になりましてよ」

「ああ、それは分かっているよ。さて、どうやって俺が動いたと思われずにソルを守るかだなぁ」

「ですわね」


ま、そこは追々だ、とロキは言う。


「ところで、ロキ様にはソル様の目はあのガーネットみたいに見えているの?」

「そうだが」

「あんたの目怖い。ていうかあんな上等なガーネットよくありましたわね」

「ドワーフの店にあったよ」

「ああ、なるほど」


あんな宝石あったら最高よね、とロゼは言う。やはりロゼも、血が薄いとはいえ人刃なのだ。宝石を美しい物の基準に据えるのは致し方ない。瞳を宝石に例える者たちは居るだろうが、この国では種族的な文化形成過程で培われてきた、お世辞ですらない文字通り宝石の瞳を持つ者たちの会話になる。


「……ロキ様は最近鏡見てまして?」

「いや、あまり」

「自分の顔がお好きなら毎日でも見なさいな。まあそれは置いといて」


ロゼは真剣な表情でロキに向き直る。


「あなたの瞳、段々アレキサンドライトに近付いてましてよ。最近は虹彩の模様がよく見えるわ」

「……ちょっと待て」


トール、とすぐ傍でロゼとロキの会話を聞いていた弟に声を掛ければ、ミューがトールに手鏡を渡していた。トールの手からロキに差し出す。鏡を受け取ってロキは微かに目を見張って、瞑目した。


「……叫んで良い?」

「やめてくださいましみっともない」


ドワーフの娘だって瞳を見ても何も言わなかったはずなのに、どうして。

ロキの瞳は、カッティングされた宝石に似た模様を見せていた。そしてその瞳には、青い光の帯がまばらに散っていて。


「……ねえ、俺って“病弱”なの?」

「今更なの?」

「お気付きでなかったんですか?」

「進化してなお筋力で俺に勝てないんですからロキ兄様は虚弱です」

「トールの言葉が一番刺さるんだけど???」


ミューにまで言われてロキは項垂れる。いや、分かってはいたのだ、自分が病弱だという事実を認めたくなかったとかいう訳では、決して、無い。

ただ、進化して多少はマシになったかなと思ったのだ。でもまあ、生まれついての肉体そのものが新しく取り換えられるわけではないから、虹彩の模様なんて残っていて当然なのだろうけれども。


「ねえロキ君、どうかしたの?」

「……バルドルか……久しぶりに鏡見たら眼にシラー入ってた」

「え、ロキ君魔力放出苦手なの?」

「苦手だわ畜生」


白金の髪を揺らす同級生の登場に、ロキは苦笑を浮かべた。バルドルはというと、弟のホズルを伴ってこれから食堂に行こうとしていたようだ。


「ロキ様ー、準備終わりましたよー」

「……ああ、分かった」


準備を終えたシドが戻ってきて、ちょっとした人溜まりになっている主の傍を見て、どうしたんですか、と問う。ロキの瞳のことをロゼが指摘すると、シドは少し固まった。


「……やっべえ、旦那様に報告忘れてた」

「今すぐ知らせなさいな。放置してても碌な事にならないわよ」

「はい、すぐ行きます」


めんどくさい、とロキが呟いたので頬をつねってやり、ひとまず食堂に移動することにして、シドは足が遅いからということで、ゼロが丁度戻ってきたのでアンドルフたちの許へ報告に遣る。アンドルフはあまりよくわかっていなかったと戻って来たゼロは言い、逆にアンリエッタは慌ててアーノルド宛の手紙を書き始めたという。


食堂に移動すると、シドが準備した席が既にあったので、その付近にロゼたちも陣取った。ロキはシドが支度した席に着いて、小さく息を吐いた。


「物々しいな、どうしたんだよ」

「あ、レオン様」

「こんにちは、ロゼ嬢」


レオンが食事をこれから摂るのか、トレーに乗せてうろついていたようだ。ロゼが気付いて声を掛けたので、ロキは視線だけでシドを動かして、レオンの席を準備させる。


「ロキ、悪いな」

「気にするな」


突っ伏した身体を起こして、皆の食事の支度もいいか、とシドに言えば、すぐ持ってきます、とシドは言って去っていった。

ふとロキはレオンの目を見て、目を見開く。


「……どうかしたのか、ロキ」

「……いや、少し驚いただけだ」


ロキが驚いたと認めたが、いったい何に対して驚いたのか、レオンには皆目見当がつかなかった。ロゼも同じような反応をする。どうしたことだろう。


「一体何なんだ」

「後で一緒にお互いの瞳でも観察しないか?」

「言い方がいかがわしいわ! 鏡でも見てろ」


レオンも辛辣だ、とロキが笑った。



食事を終えると、レオンが口を開いた。


「結局、瞳がどうかしたのか?」

「ああ、今後俺とレオンは余計に狙われる可能性が高くなったなと思ってさ」

「はあ」


レオンはいまいちピンとこないようで、微かに首を傾げている。ロキは軽く防音結界を張って、口を開いた。


「レオン、お前の瞳には金色のシラーが入っている」

「……まじで?」

「マジだ。レオン、今までよく頑張って魔力放出量のコントロールしようとしていたな。これで晴れて訓練から解放されるぞ」

「良かったけど全っ然良くない!!」


シラーというのは、宝石や天然石に見られる光の効果を指す言葉である。有名なのは、ムーンストーンであろう。


「すみません、シラーが入っている瞳ってどういう意味があるんですか?」


会話についてこれなくなったのか、単に疑問を抱えていたのか、珍しくホズルが口を開く。バルドルが横で何か感動していた。


「……欠陥個体だ。公爵家にしかいない」

「欠陥個体??」


ホズルは初めて聞く言葉だったらしい。


「魔力放出に関する何かについて、通常と違ってあれができないこれができない、っていうのがある人の事さ。まあ、ロキはそもそも魔力回路は閉鎖型だったから、よく考えればシラーが出てもおかしくはなかったな」

「レオンもね。まったく魔力放出のコントロールができていなかった時点で気付くべきだったかもしれない」


そこそこ魔力量が高く、公爵家くらい安定して人刃の血が混じっていないと出てこない効果でもあるため、伯爵以下の家にはあまり知られていなかったようだ。バルドルが知っていたのは、恐らく後継であるからだろう。


「シラーが入った瞳は何か特別なのですか?」

「宝石としてはかなり質がいいな」

「俺やだぞ眼だけ抉られるとか、絶対痛いじゃんか」

「レオン、そういう問題ではないと思うが」


今後もっと狙われることになるだろうという予想が容易くつくので、レオンとロキの周りに警備の人が増えるかもしれないなと何となく思って、当事者2人は項垂れた。


「これ以上周りが物々しくなるのは嫌だ」

「欠陥品が当主でいいんかクローディ。モーリッツたちはこのことまで予想していたっていうのか……???」


思考の海に沈んだ男2人を放置して、ロゼが口を開いた。


「どうせ魔力放出できたってできなくたってこの2人は強いんですから放置ですわ、私たちに何かができるわけでもございませんもの。それより、見てくださいな、簪を買ったの!」


ロゼが話題を切り替える。ロキとレオンは軽く顔を見合わせて、それに乗ることにする。


「簪か、先日俺も見てきたぞ」

「それはどう使うんだい、ロゼ嬢」


実際にやって見せますわね、と言ってロゼがバルドルの髪を簪に巻き付け始め、ホズルが慌てつつ、このまま友達になれたらいいじゃん、という兄の心の声に従って、言葉を交わしつつ髪弄りを皆で楽しんだ。


「ねえロキ君、僕も簪欲しい」

「オーダーメイドは大白金貨1枚でーす」

「ありがとう、僕に似合うの作ってね!」

「ぼったくりだって気付け」


帰り際にバルドルがロキに注文をしていったのだが、その金銭感覚に何となくバルドルの方がお坊ちゃん感覚してる、と思ってしまったロキだった。

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