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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
186/368

7-17

2025/01/08 加筆・修正しました。

「お待たせしました」

「そんなに待ってないぞ」


学園の出入り口でロキとソルは待ち合わせをしていた。ソルと約束していたスイーツ店でのデートだ。誰が何と言おうとデートにしか見えないので、やっぱりあの2人付き合ってるんだとかなんとか噂が流れている。


ソルは落ち着いたネイビーのAラインワンピースに深緑のサテンのリボンとスクエアカットのブルーサファイアのブローチを付けている、ワンピースの裾や袖口には白いレースのフリルが付いていて、ソルがかなり相手を意識したことが伺える。


ロキは白いシャツにクールグレーのベスト、ネイビーのズボン、ネイビーのシルクのリボンタイ、紺のフロックコートを身に着けていた。


ソルのサファイアはソルが母から譲り受けたものだという。じゃあ行こうか、と言って2人で歩き出す。サファイアが日光を受けて、深い青に輝いていた。



学園の外に出ると、2人は馬車を使わずに2人のペースで歩き始めた。本当ならば護衛が付いているのだが、今日の護衛はガルーの親戚のようで、気配がほとんどない。気にすることなく2人は言葉を交わした。


「ソル、まずは、誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。ああ、今日にしたのわざとだったんですね」

「先にそこか」

「歩きながら言う事じゃない、って言った方がよかったですか?」

「正直、そっちを予想していたよ」


朝の日差しはロキの瞳を煌めかせるのに十分な光量を持っていて、人刃特有のガラス質の瞳が宝石と呼ばれる所以が理解できるような気がする。

ソルは血縁に人刃こそいるものの、基本的には人間だ。故に、ソルもルナも、瞳は人間のものだ。リガルディアは大体王族とイミットが竜の目、公爵家、侯爵家と伯爵家の一部がガラス質の瞳、伯爵家、子爵家、男爵家、騎士爵家は人間と同じ瞳であるとされている。


ロキのような公爵家ともなると瞳はそれだけで宝石に例えられるレベルのものになる。魔力を使うと余計に光る者もいるというが、ロキの場合は目の色そのものが変化するので、余計にその瞳の美しさをもてはやされる。社交の場にほとんど顔を出していない今はいいが、今後はどうなることやら。


「あ、そうだ。今後のイベントの情報いる?」

「今はまだ攻略対象のトラウマ形成期じゃなかったのかい?」

「私の知ってるトラウマは全部時期を過ぎたわ。カル殿下に関しては、そもそも気にしなくてもよさそうだし」


ソルの言葉はもっともだ。ロキにとってはカルは守る対象なのだが、ソル曰く、カルがゲーム内で抱えていた問題は、どちらかというと婚約者であるロキに対する嫉妬みたいなものだったのだという。今はループの解決の方に頭が回っているせいで嫉妬も焦燥も表立っては見られなくなっていた。


「そういえばカル殿下の問題は俺の婚約者だったことだったっけか」

「一番大事なのに忘れてやがる」


ソルの言葉は一理あると思うが、ロキは終わったことは終わったことで、もう気に掛けなくていいのなら一旦記憶の端に追いやってしまう質だ。


「エリオ殿下は、パーティを警戒すればいいし。トール様はロキ様にべったりだし。アレクセイ様は神出鬼没だ(よくわからない)し、セト様は領地も家族も御無事、ゼロもお母様は生きていらっしゃるわ」


アレクセイだけよくわからないと評されているのが少し不思議に思う。ロキが知っている限り、ソルはアレクセイ推しだったはずなのだが。


「アレクセイのことは良いの?」

「やだ、私アレクセイ様の御顔すら拝見したことございませんよ」


アレクセイ・フックスクロウは『イミラブ』の攻略対象の1人であり、隠しキャラだった。ハズレもいることを考えるとなかなかボリュームがあるゲームだったことが伺える。


「大体、私がアレクセイ様推しなのは前世からの引継ぎみたいなものです。貴方の御尊顔に比べたらなんてことないわ」

「アレクセイに失礼じゃないか、こんな悪役顔と比べるなんて」

「でも御自身の御顔好きでしょう、ロキ様?」

「まあ、父上によく似て整っているからね」


本当にアーノルド様のこと好きですねこのファザコン、とソルが笑う。事実なので開き直って肯定したら大笑いされた。


なんてことない会話を交わしていると、じきに目的地のスイーツ店に辿り着いた。

正確にはケーキ屋なのだが、イートインスペースがあるのでなかなか盛況なのである。今回は予約をわざわざとって準備していたので、並ばなくてはいけないとかそういう事は一切なかった。


人が並んでいるが、その横をすり抜けて店内に入る。ロキがポケットからカードを取り出し、ウェイトレス姿の娘が出てきた。


「いらっしゃいませ。お客様、お久しぶりですね!」

「ああ、久しぶり、マールさん。予約してたんだけど、いいかな」

「はい! 学園で口調変わりました??」

「そんなに違ったかな?」

「結構違いますよ! 少々お待ちください!」


ロキが渡したカードを確認して、マールはおかあさーん、と厨房に居る母親を呼びに行った。予約席の準備は既に済んでいるのだろう、すぐに戻ってきて、マールが案内してくれる。


「お待たせしました! 個室にご案内いたします!」


マールは恐らくだが17か18くらいだろう。ソルたちより少し大人っぽかった。

貴族に臆さないという点では喋っていると楽しい相手なのかもしれないと思いつつ、ソルはロキと共にマールの案内について行った。


「中でお待ちください」

「はい」

「ありがとう」


個室と言いながら、8畳くらいの広さはある部屋だった。明らかに貴族用だ。2人掛けのソファが対面で置いてあり、ロキとソルはそれぞれソファに座る。テーブルにはメニューが置いてあり、食べ放題、飲み放題の文字があった。


「食べ放題飲み放題、マジか」

「その分良いお値段してるけどね」

「え、でも嬉しいです。最近滅多にお菓子食べなくなっちゃってたから」


ソルはメニューを見て顔をほころばせた。この店ではロキがお試しで作ってみたカメラモドキをケーキの撮影に使ってみて、それをメニューに張り付けたのだ。


「これ、写真?」

「チェキモドキを作った」

「え、売らないの?」

「……」


量産体制ができていないことと、プロデュースが確実にセーウネス商会を通すことになるということから、確実にお高いものになることが判明している、とロキはソルに言った。まあカメラなんてそんなもんよね、とソルは納得した。


「カメラの構造とか話してたら一日が終わりそうね。でも写真があるのは良いわね、メニュー見て選べる」

「うん。文字だけではわからないからね」


そんなことを言っていたら、じきにマールが戻ってきて、アイスティーを置いていく。ミルクとシロップもついていて、甘くしても飲めるよと、気楽に話しかけてくれる。彼女が戻るときに、フルーツタルトとチーズケーキを頼んだ。


「……」

「……」


マールがいなくなって、2人の間に沈黙が流れる。


「……ソル嬢」

「……はい」


ロキはソルを呼ぶ。ロキが軽くテーブルに手を置くと、ソルが視線で追って、そのまま耳まで赤くなった。


「……あらためて。誕生日おめでとう」

「……ありがとう、ございます」


まさかこうして面と向かって言われて、2回目なのに顔が熱くなるとは思っていなかったのだろう。ソルは少し狼狽えているようだった。


「……どうした、今日は随分と、平静を保とうとして、饒舌だったけれど」

「ああああやめてください、ロキ様の声好きなんですけどこんな聴き方したら茹っちゃいます!」


少しゆっくりめにセンテンスを切ったのがいけなかったらしい。ロキから見てもはっきりわかるくらい赤くなったソルを見て、嬉しい、楽しい、という感情がロキの中にふつと湧いてくる。


今までの生活では絶対にぼろを出さなかったソルである。それが今こんなにもアワアワ言っているのが、可愛らしくてたまらない。


ロキはそっとソルの隣へ移動する。軽く肩を抱き寄せても、特に抵抗はなかった。

ロキはソルを腕の中に収める。香水は、ほんの少し香る程度だった。


「……ロキ様色っぽすぎ」

「……なん、だろうな。すごく、満たされてる」


ロキは呟いて、ソルと少し身体を離す。

言うことは言わねばならない。小さな包みを取り出して、中に入っているものを取り出し、ソルに渡す。


「ソル嬢。ずっと好きだった。俺と付き合ってください」


メルは目を見開く。自分の瞳と同じ色のガーネットのはまったヒマワリのペンダントだった。

ソルは耳まで真っ赤に染めたまま、笑った。


「喜んで」


――かちり。歯車が、はまったような。



学園に戻ってきた2人を見て、最初に仕事を放り投げて報告に全力疾走したのは、シドだった。足が遅いことを自覚している彼が、それでも走ったのは、それだけ嬉しかったからだろう。シドが使用人棟に居るアンドルフとアンリエッタに伝えたことで、2人はアーノルドたちに手紙を出すことになった。


学園内に噂が流れるのもそう遠い話ではないだろう。


「ロキ様、ようやく婚約相手を見つけられましたなあ……」

「これで煩い貴族たちを黙らせることができる材料が増えましたねえ」


アンドルフとアンリエッタは一緒に茶を飲みながら、感想を言い合う。神子であり、フォンブラウの血を引いているロキに申し込まれる婚約は数知れず。それを全てロキの意思を反映したものとしてスクルドが悉く切り捨ててきた。取り付く島もない。


「しかし男爵令嬢では少々押しが足りないのでは?」

「まあ、12歳の時の判断をカウントするかどうかは王家にかかっていますからなあ。その辺りは、アーノルド様がなんとかなさるのでは?」


2人はそんなことを言いつつフルーツタルトに舌鼓を打つ。ロキがお土産で買ってきたものだ。甘過ぎずさっぱりとしていて、老齢なアンドルフにも食べれる。ロキがゼロのおやつのために探した店で、ロキ自身も気に入っている。


「うまくくっつきましたな……」

「ソル様の演技力がすごかったですねえ。あんなにラブラブになっちゃって。信じられないわ」


同じ屋敷にいたのにまったく素振りも見せず、休暇中もまったくぼろを出さなかった。もしかしたらスクルドやメティス、コレー辺りは分かっているのかもしれないが、アーノルドやプルトスは確実に騙されていると見て良い。俺たちが見ていない間に何があったんだアアアと絶叫するブラコンたちの姿が目に浮かんだ。


「……トール様、耐えられますかねえ」

「儂はメルヴァーチのレイン様の方が気掛かりですがの」

「それを言うなら、ゼロ君は……」

「……あの子には、触れないでいてあげましょうぞ……」



全くの余談になるが、ロキが先日ソルへの誕生日プレゼントを購入した際に廻った店の1つに、珍しいことに、教会の服を着た神子が訪れたという。

その神子は、白い髪に、青い瞳をしていたのだという。

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