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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
183/368

7-14

2024/12/28 加筆・修正しました。

中等部2年になって増えた授業の中に、鉱物学がある。ロキたちからすると地学系の何かかと思ってしまうのだが、実際は魔術に使う鉱石について学ぶ講義である。

ロキの場合はメタリカのシド、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド、トパーズの6人がいるためそんなに苦にはならないのだが、通常は土属性に適性が無ければかなり苦になるとも言われている。


ロキの場合は本来鉱物に頼るはずの所を自前の魔力結晶で賄えるため取る必要のない講義ではあったのだが、基本的に石が好きなのだ。故に興味だけでこの授業を受けることを決めていた。


ロゼとヴァルノスは元々得意分野だったこともあり普通に取っているが、ソルとルナは適性がほとんどない。それでも取る気になったのは、ロキやロゼ、ヴァルノスと話していて、宝石に魔力を込めて準備をする、というのが気になっていたからである。


セトやカルも適性は高くないがやはりやりようによっては属性適性に関係なくその属性を扱えるというのは護衛、自衛のためにも必要ということで選択したようだ。他にもバルドル・スーフィーやウェンティ・ファルツォーネも参加していた。


シドに関してはもう何も言わない方がいいと皆思っているのか、放置気味である。そもそも鉱石生成系の精霊である以上彼ほどこの道に精通した者はいない。

この授業とヘンドラの魔術実技には今年から新任の教員が入った。メビウス・メイトリスという。


「メビウス・メイトリスという。今月から新任で皆に授業をすることになった。メビウスと呼んでくれたまえ」


メビウスは上位者であるが故に、その色彩と扱う属性に統一感はない。金髪に紅い瞳を持ち、よく使う属性は水と風と闇だった。本人の言葉を信じるならば、一番得意なのは土属性。


鉱物学はメビウスの方が詳しかったりするので、専門の教員がいなかったこともあってもっぱら彼の独壇場になっている。


現在、生徒たちの目の前には水晶の大粒の結晶が置かれている。宝石の持つ性質や、相性の良い魔力とそうでない魔力の差を見るために、メビウスが最初に提案したのが、魔力操作と鉱物学の組み合わせである、宝石に魔力を込める、という初歩的なものだった。


案外これが難しいもので、宝石には宝石で魔力を通すときに抵抗があり、なかなか魔力を込めることができない。魔力でごり押しすると石が割れてしまう。案外繊細なのである。


ロキは目の前に置かれた水晶に魔力を通していた。ロキの手元に大量のさざれ石があるが、これはロキがうっかり魔力を込めすぎて割ってしまった分である。中には変色しているものもあって、ロキが魔力の調整が上手くできていないことが伺えた。


今回の水晶もぱきゃ、と音を立てて2つに割れた。青く染まって、少し金のようなまろやかな光の反射を見せている。


「……また青くなったな、ロキ」

「……もういいや……」


案外諦めが悪いロキは、これでなかなか魔力の調整も上達したのだ。金属よりも鉱石の方が繊細な操作が必要となる。とはいえ、父親がそもそも水晶よりずっと強度があるはずのダイヤモンドを平気で割るので、それより魔力量が圧倒的に高いロキが水晶を割らずに済むなんてそもそもメビウスは考えてすらいなかった。最初に水晶を割った時、ロキは慌てて水晶をもとの形に戻したのだが、それでメビウスにはバレたのだ。お前の魔力量とその不慣れな魔力操作で水晶如きが割れないわけがない、と。


メビウスはロキの頭をそっと撫でて水晶を回収した。

本来ならばただ色がついているだけなのだが、ロキの場合は性質そのものが変質していることがある。簡単に言うならば、アイテム化しているのだ。


ロキは最初こそ石を悉く砕いていた、それはもう清々しいまでにさざれ石にしたり砂にしたりしていたのである。そうして一度魔力を通された石は変質し、ロキが後から石の形に戻してもすっかり別の性質を纏うようになるのだ。今は2、3個の破片になるだけなのだから大分進歩しているのだ。なお、さざれ石になった分は、積み重ねということで全部大事にヘンドラが保管している。


「ロキは細かい作業はできるが、あまり脆いものは訓練がいる。まあ大方バルフレト殿に焼かれたせいだろうが」

「言わないでください……」


ロキは思う。それはもうどうしようもないのだから穿り返さないでくれ、と。デスカルが魔力回路に関しては補助をしてくれたと聞いているが、他人の身体に魔力回路を引くのは並みの事ではできないのだ。特にロキのような魔力の多い者は、その個体の魔力耐性を越える魔力で一気に回路を引き切らねばならない。まだ魔力がそこまで多くなかったとはいえ、かなりデスカルの魔力を持って行ったのは事実だった。


「まあ、命を繋いだと思えば安いか。あまり回路を絡ませるなよ。どちらかの魔力回路に絞って細かい作業をしていくか、魔力操作の腕を上げるかどちらかだな」

「了解……」


シドは難なくこなしているが、そもそも培ってきた経験が、全くここに居る誰よりも多いやつと隣になどなるものではない。

ロキはもう一回、と顔を上げた。


「お、やるのか」

「はい」


半ば自棄になってはいるが、やろうと思うだけ彼はマシだろうな、とメビウスは思う。

水晶を置いてやればありがとうございますと礼の言葉が返ってきて、ロキは魔力を水晶の中に通し始めた。


メビウスは他の生徒達を見て回る。この1ヶ月ですっかりメビウスも馴染んでしまったが、彼が上位者であることをちゃんと察知できるようになっていく生徒が多くなってきてメビウスは御満悦である。話を聞くだけだと半信半疑の者は多い。が、それを自分で察知できるようになるとメビウスを怖がる者が出てくる。その反応は正しいとメビウスは思っている。そもそも、上位者でありながら恐れられないドルバロムたちの方がおかしいと思っているくらいである。ドルバロムの場合、意識を個人に向けるとかなり怖がられるのだが、普段向けられている個人というのが契約しているロキであるためほとんど怖がる反応はない。


ソル、ルナの透明な水晶を見て、合格、と言ってやると2人はハイタッチをきめた。なんだかんだ言って双子なのだなあと思う。

輪廻転生とはよく言ったもので、前世が兄弟であろうと恋人になっていたりするし、ロキとソルはいい例ではなかろうか。


本人たちが前世で持っていた意識が薄れてきていることの表れなので、このまま行って明だの涼だのという呼び方が出てこなくなればなお良しと考えているくらいだ。

ロキたちには伝えてはいないが、もう薄々感じているのではないだろうかと思っているところである。ドルバロムからは何の音沙汰もないのでわざと沈黙していると考えていい。


「ギャー!」

「何コレ何が起きた」


突然シドとロキの悲鳴が上がったのでメビウスはそちらへ足を向ける。

傍にまでやってきて愕然とした。まろやかに光を反射する、青い結晶。メビウスははっとなって先ほどロキが割ってしまっていた方の水晶を見る。こちらはだいぶ色合いが薄いが、同じようにまろやかに光を反射している。


「メタリカブルーか……!」


メビウスは目を見開いて呟いた。ロキが反応する。


「……なんですか、それは」

「メタリカの傷を治すのに必要な特殊な魔鉱だ。そうか、お前これを生成できるのか……」


少し考えて、メビウスはロキの魔力をざっと見てみる。特にマナに変動はない。ロキがこれを故意に生成できるとしたら、とんでもないことになる。


――どうやってやった。


メビウスが念話で話しかけると、ロキは少し戸惑った後、シドのことを考えた、と答える。


シドは半精霊だからまだいいのだが、メタリカ族というのはそもそもあまり傷付かないが故に傷の治りも遅く、金属を直すにはもう一度熱して――などということを考えなければならなくなる。つまるところ、メタリカにはまともな回復手段がない。それにロキは気付いていたのだろう。その考えもあってシドについて少しばかり意識に留め置いたらこれが出来上がったと宣った。


メタリカブルー、それはメタリカの傷の修復に必要な魔鉱である。素材としては、硬さはオリハルコン級、希少さで言うならこの世界におけるヒヒイロカネを越える。


「メビウス先生、メタリカブルーですか?」

「ええ」


話を聞いたヘンドラが手元に大きな図鑑を持ち出して来て、何か調べているようだったが、小さく息を吐いた。


――ごめんなさい、資料が載ってないわ。

――ヘンドラ先生、メタリカブルーというのは、希少価値はどれくらいですか?

――ヒヒイロカネよりも希少よ。生成できるとばれたら狙われるわ、隠しておいてくださいね。

――わかりました。


この世界の金属は卑金属、貴金属、霊金属に分けられている。霊金属というのは、ミスリルやオリハルコン、アダマンタイトやヒヒイロカネのことを指している。

魔鉱とは、特別加工しなくても魔力に対して何らかの影響を持っている強力な魔力反応のある鉱物の事である。ついでに言うと、魔鋼は魔力を帯びるように生成された金属全般を指す。


卑金属よりも貴金属、それよりも霊金属の方が基本的に魔力との親和性は高い。基本的に、と付くのは、アダマンタイトが魔力をエーテルとマナに分解する、言い方を変えるとマナを吸着する、または固定する性質を持っていることで、魔力との相性が最悪であるためだ。頑丈さと魔力との親和性は反対にあるものであるらしい。


――メタリカブルーは、どの金属とも反発せず、合金にならず、時に近くにある金属に変質します。どんな金属にも成れる金属なのです。


生き物か何かだろうかと思いながら、ロキは手元に転がるメタリカブルーを見つめた。メビウスが再び念話で言葉を投げかけてくる。


――メタリカブルーは産出量が圧倒的に少なく、尚且つ、メタリカの半精霊を殺すと手に入るので、メタリカ狩りの一助になっている。お前は生かしておかねばならんから浚われるだろうなあ。


メビウスの言葉にロキは薄ら寒いものを感じつつ、先に知ることができたのだからよし、と思うことにした。自分の希少価値が上がっていることからはそっと目を背けて。


「ヘンドラ先生、メタリカブルーって何ですか?」

「金属精霊の半精霊を殺すと手に入る魔鉱です。皆この授業で見たこと誰にも言わないでくださいね」


ヘンドラがさっと生徒たちにくぎを刺した。生徒たちは驚いてロキとシドを見る。シドが金属精霊の半精霊であることは、見ればわかってしまうので、隠しようがない。


「ロキって相変わらずすごいなあ」

「それで済ませてくれるのはお前くらいだと思うぞ、バルドル」

「そうかなぁ?」


今日も今日とてバルドルはバルドルだった。


メタリカブルーについていろいろと教えられないのは、半精霊を守るためだ。金属精霊の半精霊のみがドロップするとはいえ、そこまでの詳細を知らされている者の方が少ない。半精霊を息子に抱えている今の王家が半精霊を殺すと手に入るアイテムをありがたがるわけもない。


とはいえ、リガルディア王国以外の国では存外知られた事実であるため、半精霊が狙われていたら守ってやるようにと言い含められた、


「精霊学でこのことは詳しく教えよう」


良い感じに終わらせようとしたメビウスにソルが問いかける。


「それ、生成できるロキも今まで以上に狙われることになりませんか?」

「なるが?」

「……ロキ、この後すぐに他のメタリカたちと契約なさい」

「これ以上俺の上位者の契約増やしてどうする気だ」

「自分の身を守るのは当然だけどアンタの場合どこから狙われるか分からないんだからね? 大体自分単独じゃなかったらアンタ逃げないでしょ」

「何を根拠に言う」

「俺を置いていかなかったこと、忘れたとは言わせんぞ、ロキ」

「チッ」


レオンが口を挟めばロキは舌打ちしてそっぽを向いた。ソル以外にこうしてロキに強気な発言をする者もいない上に、ロキには婚約者もおらず、むしろソルとくっつくと目されている状態で、ロキへの不敬だ、などと野暮なことを言う者はいなかった。


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