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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
174/368

7-5

2024/12/16 加筆修正しました。

次の講義までに準備するものを伝えられたロキたちは解散した。


デスカルは小さく息を吐く。スピカが視線を向ければ、デスカルは苦笑を浮かべた。


「どうした」

「いや、ソルちゃん大変だなと思ってね」

「……妙なところでは手を貸さないんだな、お前」

「それが俺たちとここの世界樹との約束だからな」


デスカルは皆にただノートを持って来るだけでいいと言った。筆記具は高級なものが多いので俺に預けろ、とも言った。ソルたちは全く疑うことなく渡して来たのでちょっと心配になる。


「で、それの意味はあるのか?」

「効果があればいいがなあと思ってるだけさ」


じゃあ、そろそろ戻ろう。

デスカルとスピカは早急に荷物を片付けてさっさとそこを離れた。



セトはロキとレインを誘って訓練場へと向かった。途中で何を聞きつけたのか出現したトールとエリオも巻き込んで、訓練場へ向かうと、スパルタクスが訓練場を見守っているのが目に入る。


「こんにちは、スパルタクス先生」

「む……ああ、こんにちは」


スパルタクスは少しの間ロキたちを見ていたが、まあ、視線は合わなかった。背中側に目が向かっているのを知っていたロキは大人しくそのままにしていたが。


「……やはり、子供の翼は美しいな」


彼が特殊なスキル持ちなのは生徒たちによく知られている。解放奴隷であるということもあって、生徒によってはスパルタクスを見下している者もいるが、ロキたちはそうではないのでスパルタクス自身がかなり気を許している面もあった。


セトにスパルタクスが紙を渡す。利用者として名前を書いて、訓練場を利用するのだ。


「何やる?」

「魔術の練習でもいいかもな。ロキは?」

「何でもありで1本」

「僕が相手をしよう。これでも最近ロキの動きに慣れて来てね」


ロキとレインはすぐに内容が決まったのでジョギングをしに行った。ロキがレインと交代で短パンとノースリーブ姿になったのを気が付いた生徒たちが眺めている。セトたちは少し後をジョギングで追いかけながら何をするかを決めた。


余談だが、初等部から訓練場を利用し慣れている生徒は、相応しい服装だと考える服装になっていることが多い。ほとんどの場合、発汗量に合わせてではあるが、動きを阻害しない半袖短パンであることが多く、大半の生徒は男子である。女子生徒で戦闘訓練をしている者は、多くはない。


外面をあまり気にしなくていいという解放感もあるのかもしれないが、上流貴族の子女がこぞってボディラインの見える服装になってしまうのは、本来は許すべきではない。だがしかしそこは教員たちも基本的には目を瞑っているようだ。体育服とかいうものは存在しない。女子の少ないながらのその姿を見るために訓練場に来ている奴もいるんじゃないかとロキは思っていたりする。


ジョギングを終え、軽くアップをこなしたロキとレインが端から中央付近に出て来ると周りの生徒は彼らが組手でもするのだろうとあたりを付けて集まってくる。見学だけでも得られるものがある生徒もいるものなのだ。


「あ、フォンブラウがメルヴァーチとやり合うみたいだな」

「見とくか?」

「俺まだ追えねーんだよなー」

「メルヴァーチ終わったら頼みに行かね?」

「行こうかな」


口々に生徒たちが言うのが聞こえた。

ロキは虚空からハルバードを出現させる。レインは同じく虚空からパイクを出現させた。


「殺し以外は何でもあり、ね」

「ああ」


最終確認を終えたロキとレインは、訓練場の中央でぶつかり合った。

接近しなければどちらも突きは使えない。リーチはパイクの方が長いためレインに有利である。逆に近付くほどロキはハルバードの斧部分をレインに叩き込むことができる。ともなれば、2人が選ぶのは。


「凍り付け、【フリーズ】!」

「こんなのはどうかな? 【凍てつく檻(フロストケージ)】!」


互いに足止めの魔術を放った。ロキは直接魔術にぶつかったところでほとんどダメージがないのだから、突っ込んで来てもおかしくはない。レインはギリギリでロキの放った魔術を逃れる。レインに当たらなかったロキの魔術は激突した地面を凍り付かせ、瞬時に氷の壁が四面突き立った。


「うっわ! ロキなんだこれ悪趣味だな!」

「ゾンビを凍らせるの、地味に魔力が要ったから! それ対策!」

「これ終わったら教えてよね!」

「無論!」


戦闘中に話せるのは余裕のあるやつだけとか周りで様子を見ている生徒たちの会話がちらちら聞こえてくる。ロキは周りの声が聞こえているらしく口元が笑っていた。


パイクのリーチよりも内側にロキが入った時点でレインは突きをやめて、薙ぎ払いにかかる。ロキは振るわれた棒の部分に手をかけて飛び越え、ハルバードを振るった。


「ッ」

「ハ!」


レインはハルバードが振り抜かれる前にパイクの石突を滑り込ませ、柄の部分同士を打ち合わせることでロキの攻撃を阻止する。


人刃族は、基本的に戦闘民族と呼ばれるほど好戦的な種族だ。訓練用の貸し出し武器であるはずのハルバードとパイクがミシミシと音を立てている。人刃の膂力で振るわれたら、生木では耐えられない。ロキも、たとえ血が薄まっていようとレインも、人刃であることに変わりはない。魔力で補強が施されているものの、進化個体たるロキの一撃を受け止めたパイクの柄の部分はメキ、ミシ、と音を立てている。


ロキが笑っていた。見開いた瞳が青緑に変色している。レインはそれを確認した途端、ぶわっと身体を寒気が駆け巡るのを感じた。この感触が、レインは嫌いではない。


レインの瞳が日光を受けて、ガラスのように煌めく。微かにカッティングされたように光の強弱の表情が現れた瞳を見て、ロキが笑みを深めた。ロキの瞳だってよく見れば似たような光の反射の仕方をしているのだけれども。


近付く。押し合いでレインは基礎体力が本来ロキを上回っている。進化個体であるロキが今は上なのだが、であるならば、わざわざ押し合いしてやる必要もない。

一瞬押し合いの為に籠めていた腕の力を抜き、交差した柄を避けて肘を撃ち込む。気付いたロキが片腕でガードすると、そのままパイクで弾いて仰け反らせ、続けてロキの腹に蹴りを叩き込んだ。


直前に腹に力を入れたらしく、ロキは吹き飛ばず体勢を崩して勢いを殺しつつハルバードを地面に叩きつけた。軌道上に居たレインはハルバードをパイクで受けつつ微細な氷を展開した。


「吹き荒れろ、【ブリザード】!」

「荒れ狂え、【竜巻(トルネード)】!」


レインは微細な氷を発生させ、突風と共にロキへとぶつける。ロキはレインの発生させた氷を巻き込み、横方向に竜巻を発生させて薙ぎ払った。詠唱を省略しているのはそういう訓練だからである。

氷を吹き返されてもレインの魔力で作った氷なのでレインには問題にならない。ロキの視界が氷に覆われた一瞬でレインはロキに接近し、膝蹴りを放った。ロキは寸でのところで気付き、肩で受ける。


互いを弾き合い、飛び退き、地面に足をついた瞬間、もう一度踏み込む。


「はああああッ!!」

「おらァあああッ!!」


ほぼ同時にパイクとハルバードが振り抜かれ、ガン、と柄同士がぶつかり合った。

実力が拮抗しているのではないかと思わせるほどに白熱した戦いは、それでもレインの方が不利だ。膂力も魔力も、レインでは今のロキに遥か及ばない。ロキに攻撃をいれることができなければ、意味がない。


ロキがグ、とその細い腕に力を込めて振り抜けば、体重を載せて振り下ろしたはずのパイクはいとも簡単に弾かれ、レインは身体ごと後方に吹き飛ばされた。


「うわっ!」


地面に叩き付けられたレインは背中で滑る。

ロキは追って来なかった、結構な時間組み手をしていたように感じる。レインは衝撃を和らげるには転がった方がいいとロキたちに教わっていたため、しばらく慣性に任せて転がった。


息が上がっている。さっきまで気が付かなかったのにと思いながら身体を起こすと、青緑と濃桃色のオッドアイになっているロキがゆっくりと傍にやってきた。


「平気?」

「ああ、うん。平気」


差し出された手を取って、レインは立ち上がる。

土を軽く払えばロキが背中の砂を払ってくれた。


「ッ」

「……ああ、擦ってるな。【治癒(ヒール)】」


布が当たって痛みを感じたレインが身体をびくつかせた。気付いたロキは簡単にレインの傷の手当てをして離れる。ロキの方は傷一つついていないのだから憎らしい。


「その堅さ、どうにかならないの? フェアじゃない」

「格上が格下を誘っている時点で察して。お前が一番面倒がなくて楽なんだよ」

「歯に物着せぬ物言いだな全く」

「隠したところで気持ち悪いとか言い出すだろ」


確かになあとレインは納得して、ゆっくりと歩き始める。一応ダウンの意味もあった。ロキはすぐに次の申し込みがあるだろうことを予想してか特に何をするでもなく中央へ戻っていく。

ロキ自身の防御力はとても低いのだが、当てられなければ意味がないとはまさにこのことなのである。レインの攻撃力と膂力ではロキに傷を付けることができない。それが改めて再認識されただけだ。


「はい、次俺!」

「ああ、かかってこい。何なら組んでも構わないよ」

「お前らがこないだ言ってたレイドってのをやってみたいな」

「じゃあ簡単に24人で組め。6人ずつ4パーティで俺に協力して挑んで来い」


マジかよ、じゃあ俺らもやらせてもらうわ、と言って参加してくる生徒が多い。ロキがこういう状況で人気なのはいつものことである。


「何あれ、レイドでもやるの?」

「うわー、前衛ばっかりだ、あれじゃ負けちゃうよ!」

「何事も体験……」


レイド戦を知っているらしいペリューン、アラン、スパルタクスの声である。ここにヘンドラやハインドフットがいれば必ず後衛を一緒に組ませていたことであろう。


レインは外側で皆とロキが戦い始めるのを見ていた。

ロキは最初から剣を持っていた。ハルバードは使わないつもりらしい。


「あー、レイド練習してる!」

「見学しようか」


やって来たソルやヴァルノスのせいで、ロキは負けられなくなったのではないかと思ったレインだったが、結果を見ると、そもそも負けるような内容でもない。


「パーティ全員死亡判定。ロキ君の勝利!」

「「「「「もう一回じゃああああああッ!!」」」」」

「また今度な」

「「「「「そんなあああああ」」」」」

「もうカル殿下の誕生日が近いんですから、皆正装に近いものを用意しておかないといけないんですよ、準備してますか脳筋共」

「「「「「「あっ」」」」」」


ここまで揃うと乾いた笑みさえ浮かんでくる。ロキはきっちりダウンまでやってから上着を羽織ってレインたちと共に寮へと戻っていった。


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