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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年前期編
171/368

7-2

2024/12/12 加筆修正しました。

ロキ・フォンブラウ、とは。

人呼んで、『銀の貴公子』。


フォンブラウ家の子供の中でも最も出来が良いのだとか。

曰く、転生者である。

曰く、英雄になる。


まあ好き勝手言ってくれやがって、とロキは思うだけなのだけれども。


「去年はほとんどサロンも開かず部屋をほったらかしにしてたので、今年はちゃんと使おうと思います」

「せやな」


ロゼの言葉にソルたちが同意を示した。折角サロン棟が解放されたのにほとんど使わなかったのが心残りだったらしい。現在、もれなくその割り当てられた部屋を使っている。本来ロキ、ソル、ルナ、エリスはこの部屋への立ち入り権利は持っていないが、ロゼとカルの招待によって立ち入りの許可を得ている状態である。ロゼたちの王薔薇の間の方が広いからこちらに集めた方がいいというロゼの判断によるものだ。


「次のサロン分けの発表っていつだ?」

「去年のから言ったら、中間テスト後ね。まあ、ほら、ゲーム攻略情報が必要な時に呼びなさいな。私新しく友達できたんだよね」

「そっか。まあ、空いている時で構わないからな?」


ソルとロキが話しているのを見ると、やはりロキは不思議なやつだなとカルはつくづく思う。ロキは表裏があるというよりも、その時を楽しんでいるという点では一貫しているのである。自己中というのが最も正しい表現であり、語弊がある表現となるだろうか。


ロキがこうしていたって平穏な風景の中にいると不思議な感覚を覚えるのは、夢の影響だろう。カルはセトに視線を向ける。セトはずっと魔術の教科書を読んでいた。


「着実にソルの交友関係が広がっていて何より」

「まあ、半分くらいロキ目当てだって言っとくわね!」

「人脈があって良いにこしたことはないだろ?」

「正論で返さないでよね。ああ、でもやっぱり情報通はいるものねー」


ソルの言葉にヴァルノスが眉根を顰めた。


「もしかして、魔導人形(オートマタ)の件?」

「あらヴァルノス、よくわかったわね!」


ソルの周りに寄ってくる生徒たちは、半分くらいがロキ目当てらしい。ロキの見目が良いのは事実なので致し方ない部分はあるだろう。


「こっちはカイウスから散々ソルに会わせろと催促がかかっていて肩身が狭いんだけどね」

「あらま、何で? こっちは親がいないから婚約も無理何も進まないわよ? とはいっても中等部まではフリーで居たいもんだわ。あ、でもロキ、ルナの光属性に目を付けたやつがいたら叩き潰して頂戴ね?」

「分かってるよ」

「いよいよ皆さん婚約の話が大詰めになって参りましたわね……」


ロキとソルのやり取りを聞いていたロゼが苦笑を浮かべた。

ヒロインがまともに働かないでいられるこの状況で、ロキが気を抜きすぎるとは考えられないが、懸念事項が浮上したため、今日は彼らをサロンに呼び集めたのである。部屋の隅で茶を淹れる練習をゼロとシドに見てもらっていたハンジがロキの方へやってきた。


「ロキ様ー」

「どうした」

「今思い出したんですけれど。『イミラブ』シリーズって3年後の『イミラブ2』以外同世代じゃなかったですか? 俺の記憶が正しければ、ヒロインって合わせて9人いるはずなんですよ」


ハンジの言葉はロゼが言わんとしていたことでもあり、驚いたロゼはハンジを見た。


「ハンジ、どこで知ったのそれ」

「涼はあんまりイベントには参加してなかったですけど、俺コミケとか行ってたんですよ。それで、9人のヒロインの話があったんです。2人は『イミドラ2』にも出てくるんで覚えてました」

「『イミドラ2』? ――あー、あー。イナンナとナージャだな」

「はい」


シドの相槌に、キャラ名知ってたのかー、とロゼは思いつつアッシュたちを見て、彼らが眉根を顰めていることに気付いた。


「アッシュさんたちどうなさいましたの?」

「……いえ、イナンナの方がちょっと問題があります。彼女転生者なんですよねー」

「接触があったのですか?」

「ぼんやり覚えてるみたいで、その世界線では初対面のはずなのに『あー、見覚えあるな、国違うしたぶん戦争先かなあ』とか言ってたんで戦争ルート回収してますよアレ」


アッシュが包み隠さず伝えれば、ヴォルフがつけ足した。


「でも彼女、今回ロキを探してるみたいなんですよね。女の子の方を」

「てことは、令嬢ルート?」

「そうだと思います」


ヴォルフの答えにロゼは一旦そのことは頭の隅に置いておくことにした。8歳の時、呪いの如く掛けられていた変身魔法を解除して男の姿に戻ったロキ。前世では目にしていたから懐かしいが、女の姿などカルも含めてほぼ見たことがない。

ロキは本当に隠し事の多い男だ。実際、別に終わってしまったのでもう報告しなくてもいいことではあるだろうが。


「私がロキ様にお伝えしたかったのはイナンナとナージャのことです。警戒しておくにこしたことはないので」

「気に入らなければドゥーが勝手に妨害するんじゃないかな。ところでヴォルフ、その情報はどこから?」

「村に来てた魔人の傭兵さんだよ。……今思うと、上位者だったのかもしれないけど」

「もし会えたら、俺が礼を言っていたと伝えてくれ」

「うん」


ロキはテーブルに乗っている皿からクッキーを摘まんだ。

かなり上位者が顔を出している、とはデスカルから聞いていたので今更驚きはない。


むしろ、2年になったということで早く皆に紹介せねばと考えている上位者について――この場を借りて話してしまおう、とロキは考えていた。


「皆に言っておかなきゃいけないことがあるんだけど」

「お」

「ロキからとは何ぞや」


ロキの言葉に皆がロキに注目する。レインとシドとゼロ、ソルとルナ、アッシュ、ヴォルフは何のことを言っているのか分かったらしく、苦笑した。


「……俺は、この春休み中に上位者ライフレイカと契約を結んだ。彼だよ」


ぱちんとロキが指を鳴らすと、少しばかり部屋の温度が下がって、藤色の髪の少年が姿を現した。臍出しスタイルの黒いベースの上着と白いズボン、外套、青を基調とした装飾の入った服は、どこか民族調だ。


「この時間軸では初めまして、だよなぁ。上位者、氷の怪鳥ライフレイカ、普段はナツナって呼んでくれ」


ナタリアが目を見開いた。


「私が見ただけでも貴方に会うのは3回目だわ」

「ああ、久しぶりだな、ナタリアちゃん。今度はロキを敵に回すなよー?」

「もう貴方と組んだロキ様の相手なんてこりごりだわ!」


ナタリアの言葉にうすら寒いものを覚えるロゼだが、ナツナと名乗った少年はそのままロキの傍に浮かび、ナタリアと言葉を交わす。


「まあ、結局アレは王族が悪いしなあ。男爵令嬢を怖がらせても一緒かー」

「分かってるならやめてよ! どうせ相性最悪なんだから!」


ナタリアはほとんど悲鳴を上げているような状態である。

この部屋にいるのは彼女の属性が氷に利用される立場にある闇であることを知っている者ばかりであるため、同情的な目をナタリアに向けていた。

恐らく同情している余裕など皆にも無いであろうことは想像に難くなかったが。


「ていうか今さらっと俺ディスられたな?」

「王族ディスるとか今に始まったことじゃないだろ。意外と慣れてるんじゃないのか?」

「慣れてはいるけど上位者からまでディスられるとか思わないだろ!」

「色恋沙汰で国の根幹を揺るがした御花畑」

「……やっぱりその世界線の俺を殺す方法はないか?」


カルが割と本気で言えば、ナツナが笑った。


「その時のお前に対するレインの反応が割と面白かった」

「へえ。どんな反応してたんですか?」

「『自分が裏切った方に庇われてのうのうと生き延びる気分はどうですか?』って」

「わーッ!」


俯いて、この感情まさか消えないのかとか拗らせすぎだろうとか小さく呟き始めたレインと、ループ中のレインからまで文句を言われている自分に絶望中のカルは置いておくことにして、ロゼたちは菓子に手を伸ばした。


「ロキって凄惨な死に方しかしないのかしら?」

「ヘイムダルが近くにいるときはロキの裏切りを阻止するんだけどなあ。まあ、ロキが手を抜いたらヘイムダル絶望エンド、そこそこ頑張ってたら相討ちエンド、ロキが本気出してたらヘイムダルは討ち取られてラグナロク」

「本気じゃなくて普通に頑張ってるルートは?」

「ロキもヘイムダルもズタボロだな。まあこれはこれでいいかってロキ言ってたからたぶん国の崩壊は避けられたんだろ」

「1人で国を救うスケール」


ツッコミが追いつかねえなあ、とセトが言いつつ紅茶を飲んだ。どこか他人事のように情報提供をしてくる転生者たちを恐れない訳ではないけれど、齎される情報の中には幼馴染を救うために必要な情報がある。カルはロキを守りたかったし、ロキはきっと死にたくなどないはずだ。そう思っていてくれなければあまり意味はないのだけれども。


「で、これ以外の連絡はあるかしら?」

「はーい」

「ヴァルノスさん」


ロゼが挙手したヴァルノスを指名する。


「はーい。実はそろそろ変な子が学園内に入り込みます」

「変な子?」

「うん。もし転生ヒロイン系だったら入ってくる可能性が特に高いんだけど」

「そいつヒロインなのか」

「ええ。転移で飛ばされて学園内に入り込んじゃうらしいわ」


それおかしくないか、と小さくレオンが呟く。


「転移は転移先を設定していなければ使えない。探すか?」

「無駄だぜ」

「シド?」


シドが口を出したのでロキたちが首を傾げた。

が、ナツナがけらけらと笑って続けた。


「ああ、無駄だ。だってその術式を設置しているのは闇竜だからな」

「闇竜が?」

「闇竜って言ってもドルバロムじゃねえけどな」


ロキはああ、それなら無駄だな、と言って息を吐いた。


「闇竜って文献が無いからよくわからないのだけれど。ロキ様は御存知なのですね?」

「……闇竜の魔法は、というよりも、この世界(アヴリオス)以外ではどうだか知らないけど、少なくともこの世界(アヴリオス)では上位竜人がルールだ。闇竜が『こうあるべきだ』『こうだといいな』と言えばそれがこの世界(アヴリオス)では当然になってしまう。……あれは火竜だったけど、俺の魔力回路を第1も第2も焼き払ったようにね」


火竜バルフレトの一件のことだとすぐに理解したものの、あの時ロキの身体は少なからずダメージを受けていた。そのことについては、とカルが視線でロキに問えば、ロキは肩をすくめた。


「でもあんたの場合は結構デスカルが出しゃばったって聞いてるけど?」

「全身焼かれて先に身体が死んだら元も子もないからね。だから先に俺の身体に回路を刻んで、溢れたダメージはデスカルが受けてくれたんだって聞いてる」


だからデスカルには頭が上がらないのさ、とロキは笑う。あらためて聞いたロキの当時の状態が芳しくなくて、カルは眉根を寄せた。聞いたソルも難しい顔をしている。

ロキは少し話題をずらすように続けた。


「……そう、確か。上位竜人の使う魔法って、ティーカップに“壊れろ”と命じながら、“そこにあれ”と命じているような状態、なんだと思う。街を一つ消し炭にしながら中に住んでいる人間は生きていろと願えばそれが実現する、だったかな」

「わけわかんない。それこそ魔法だわ」

「だから魔法だと言っているじゃないか」


ロキとソルの会話にエリスとルナが顔を見合わせているのを見つつ、ナツナは目を細めた。その空間を見守っているドルバロムと目が合って、ナツナは笑みを深める。


「ま、精一杯楽しめよ、ガキ共」


小さく呟いたナツナの言葉は、温かくなってきた春の空気に溶けて消えた。

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