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2024/12/12 加筆修正しました。
「2年生だーッ!」
「おー」
ソルの声に合わせてテンション低めに乗ったのがロキである。
パーティ中なのであまり大きな声出せなかったというのが本当のところだが。
王都に戻って来てからは酷かった。
王宮から呼び出しがかかったロキが王宮へ向かうと、エリオがロキと遊びたいと言い出したのである。ロキはとりあえずカルに言おうと思っていたバーベキューについての話をした後エリオと遊ぶ方に付き合うことにした。
その結果、何故かロキは家に帰れず、王宮に連泊する羽目になった。
エリオがロキに懐いているらしいことは分かってはいたのだが、まさか軟禁までするとは思っていなかったというのも大きかった。とはいえ、ロキとエリオは魔道具を作ることに情熱を傾けているという点では、共通の趣味を持っているので仲良くなりやすかったというのも大いにあっただろう。エリオが作った魔道具の価値をロキがちゃんと認識できるところもあるのだろうが。
そして今現在、ロキを挟んでバチバチと睨み合っている紅と紫。
紅毛黄目のエリオ・シード・リガルディアと紫髪瑠璃目のトール・フォンブラウである。
「……ロキ、あんた何があったのよ?」
「知らん」
煽るが声を掛けた時、ロキはどこか遠くを見ていた。この状況に疲れてきているのかもしれない。とはいっても男爵令嬢が何か申すわけにもいかず、ソルはロキに任せて放置する方向で考え始めた。
新1年生の入学式を終え、その日の午後からは歓迎パーティを行っている。毎年恒例の行事なので、そこまでは問題ない。バーベキューは後日またやってみようという方向で話が進んでいるのだとか。今現在の問題は、本来皆からの挨拶を受けねばならないエリオがロキの傍に居座っているという事実の方だろう。カルはもうすぐ戻ってくるだろうが。
「エリオ殿下、皆が困ってます、せめて挨拶を受けてからにしましょう!」
「えーヤダだるい、お前が受けろよ」
「俺じゃダメですって、きちんと王族の方が受けないと!」
トールが頑張ってエリオをロキの傍から引き離そうとしているが、効果は薄そうだ。もともと割と我儘を通してきたタイプなので、エリオが素直に同学年の生徒の言う事を聞くとは考えにくかった。
「……エリオ殿下、公的な場でくらいきちんとしてて頂かないと、お目付け役がもっと厳しい人になりますよ」
「え」
ロキは小さく息を吐いて、エリオに言う。エリオの事情をしっかりと知っているのはこの場ではロキくらいなので、この言葉が何を指すか周りは分からなくても、最も効果的な言葉であるのは察せられた。
「そ、それは嫌だ!」
「では、皆がパーティを楽しめるように、早く挨拶を終わらせてきてください。せっかくお会いできたのに、皆さんのことが心配で、このままでは魔道具の話も出来ません」
「う……」
気になって、ではなく心配で、と言うあたり、ロキの言葉選びって上手いよなと周りが思っているのは置いておく。
「そう言えばエリオ殿下、ライは元気ですか?」
「え、ライ? ああ、アニキに会えなくて寂しそうだったけど、流石にパーティだから置いてきた」
最後に、というようにロキはエリオに問いかける。ライというのは、エリオが家にいる間に訓練で孵した魔物の卵から生まれてきた魔物の名である。なお、種族はスライムであり、エリオにとっては今後ネックになっていく存在でもあった。そのことを知っているのは『イミラブ』を知る令嬢たちしかいないのだが、ロキは単純に王宮に行ったときに会ったのだろう。
「それと、エリオ殿下、校内ではその口調は御止めになった方が良いかと」
「そう言えばアニキ……ロキ、殿も、口調が硬い、ですね」
「エリオの礼儀作法の授業数増やしてもらおうか」
「王宮でちゃんと習ったっつの!」
王宮と違い、学園内は生徒は一律同列で扱われる。子供よりも大人の方が偉いのである。エリオは使い分けが下手くそだから、とはカルの言である。
カルの言葉にエリオが喚き、ロキは、一応ジークフリートが一通り無理矢理にでもエリオに基礎を叩き込んでいたことに驚いた。
「ジークフリート陛下がそこまでしてエリオの研究の時間を削っていたとは」
「驚いたの、ですか? 大体おや、父上……これもダメなのかよ……陛下は、俺が最低限ちゃんとできなかったらみっちりやらせるために監視に来るくらいだった、ですけど」
親父と言おうとしてカルに睨まれ、父上でもいい顔をしないので陛下と呼ぶことに決めたらしいエリオだった。
「敬語をずっと使っていないのがバレバレだな。ロキ、暇があったらエリオの練習に付き合ってやってほしい」
「承知いたしました」
「……兄上、あに、じゃねえ……ロキ殿とはいつもここまで堅苦しい口調で会話を?」
「そんなわけないだろう。パーティ中だからだ」
「でも、上級生と教員には敬語を忘れないようにしてくださいね」
「はーい」
ちなみにこのお説教を横で聞いていたトールは自分の行動を振り返っておかしなところがなかったかどうかを確かめ始めていた。
「……ロキ兄上、自分は大丈夫だったでしょうか?」
「トールは基本的に普段から敬語を使っているから、問題ないだろうね。それよりも、お前にはエリオ殿下のフォローに回ってもらいたいんだ。特に対人関係。……まさかないとは思うが、特定の子女の取り巻きなどにはなるなよ?」
「決してなりません。ロキ姉上を貶めるような子女など切って捨てますのでご安心を」
「……そこまで言ってない」
此処にもループの被害者が、とロキは頭を抱えた。
「お前もか……」
「カル殿下もなのですか?」
「ああ。ロキが女の姿の時は夢でもハラハラする。死にやしないかと心配で心配で……」
「分かります」
「ロキ追放すんのカル殿下とかトール様とかエリオ殿下とかですけどね」
「「「その世界線の自分を殺すにはどうすればいい?」」」
「……そこまで思いつめるな。恋は盲目というじゃないか」
ソルの言葉に攻略対象という言葉でくくられる金、紅、紫の3人はうなだれた。ロキがフォローしてみるが効果はない。どこまで傷を抉るような夢を見ていたのだこいつらは。
「エリオ、トール君、そろそろ1年生の所へ戻りなさい。あとはゆっくり放課後にでも話せばいい」
「……はい。では、また後で。行くぞトール」
「カル殿下、ロキ兄様、また後程お伺いします。失礼いたします」
エリオがトールを伴って1年生の多くいる方へと向かい、入れ替わるようにヴァルノスとロゼが戻ってくる。すれ違ったトールがエリオを止めてロゼとヴァルノスに挨拶をしていた。
「……トール優秀だな……」
「駆け引きは苦手だから、令嬢に言い寄られたら俺のところに逃げ込んでくる可能性もあるけれどね。まあ、後先考えない下半身脳ではないだけマシだな」
ロキの言い草があんまりだったので、カルは苦笑する。
「フレイ殿はその点随分ふらふらしていらっしゃるな」
「豊穣の神の名を貰った時点でお察しの通りだよ。もしかすると双子の妹がいるのかもしれない」
「フレイヤ女神か」
「ああ」
ソルがロゼとヴァルノスを迎え、カルとロキはそこで会話を止めた。きょうだいのことなんてどうせきっと親に聞かねばわからないのだし、今まで言ってくれたことなどなかったのだからこれからも言われることはないだろうと思ったのだ。つまりこれからも分かる可能性は低い。
「カル様、ただいま戻りました。あら、ロキ様まだ何も食べていらっしゃらないの?」
「おかえり。さっきまでエリオとトール君と喋っていたからな」
「どうせなら皆揃ってからでもいいと思いまして」
「それもそうですね」
エリスとルナが戻ってきて、セト、ナタリア、レオンが寄ってきたことで集合完了と見たロキたちは、食事にゆっくりと手を付けた。




