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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
17/368

1-16

2021/07/08 加筆修正しました。

ソルが先に到着し、後からロキがやってきた。開始時間の10分ほど後からやってきたフォンブラウ家を出迎えて、カイゼル家での茶会がスタートする。


「子供たちは3人だけで話したいことがあると思うの。終わったら、お母様たちに教えて頂戴ね?」

「はい、母上」


スクルドの言葉でヴァルノス、ロキ、ソルの3人は親たちから少し離れたところにセッティングしたガゼボでお茶を飲み始めた。


「まずは、ロキ様、ソル様、今回の招待に応じてくださってありがとうございます。ヴァルノス・カイゼルと申します」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます、ヴァルノス嬢」

「お招きいただけて嬉しゅうございます、ヴァルノス様」


ヴァルノスが略式でお辞儀をすると、ロキとソルもそれに倣った。ソルはミントグリーンのワンピース、ロキは一見ドレスにも見える裾を広げた派手なジャケットにトラウザーズを身に着けている。


「こほん。では、早速本題に入りますね」


ヴァルノスはわざとらしく咳をして、切り出す。


『前世の名を松橋久留実と言います。涼君、明、招待状をちゃんと読んで下さってありがとうございました』

『前世の名を高村涼。松橋、鈴木の紹介だと聞いた時には驚いたぞ』

『……私どう反応したらいいのコレ?』


ロキは予想通りの反応だったが、ソルの方が固まってしまった。ヴァルノスは苦笑する。


『明、だろ?』

『そうよ。貴女が涼って、マジ?』

『大マジだとも』


どうやら男が女に転生したことが信じられないという様相だ。ソルは少し考えて、再び口を開いた。


『どう考えても女の声なんだけど?』

『令嬢だよ、ちゃんとな。下着でも確認するかい?』

『女ならちょっとは恥ずかしがりなさいよ!』

『精神が完全に男だからなー』


初対面のはずのソルとロキが軽口を言い合っている。で、ちゃんと名乗っておくれよ、とロキが一言かければ、ソルは小さく息を吐いた。


『前世は高村明よ。久留実しか知らなかったけれど……ロゼ様も?』

『ロゼ様は佳代ちゃんだよ。今のところ確認できるのはこの4人だけね』


そう、何を隠そう、ソルの前世はロキの前世の双子の姉だったのだ。


『悪役令嬢2枠友達と弟で埋まってて草』

『涼君はロゼが悪役令嬢だって知らないでしょ』

『あ、そうだった』


ロキに余計な説明を求められるのが確定したソルは小さく項垂れた。ロキは懐かしいものを見る目でヴァルノスとソルの掛け合いを見ている。ロキの知らない情報をうっかりソルが口走ったようだが、ここで追及するつもりはないらしく笑みを浮かべているだけだった。


『……なんか聞きたいことあります?』

『とりあえず悪役令嬢ロキの過去とこれからの資料が欲しいな』

『書くわ』

『じゃあそこはプレーヤーだった明に任せましょうか』


ヴァルノスがケーキスタンドから小さめのタルトを取って口に運ぶ。ロキもそれに倣ってタルトを手に取った。


『日本語で当たり前のように喋ってるけど、こっちの人たちって日本語は全く分からない訳じゃないわよね? 大丈夫かしら?』

『本当に分かってたら、ソル様が私たちに敬語ほとんど使ってないのもバレバレですよ』

『おーまいごっど』

『じゃあ、我々だけで会うときはタメで喋ってもいいことにしよう。正直、外に出てずっと女口調で喋るのってめちゃくちゃ疲弊するんだよ』

『ロキ様にさんせーい』


ソルが自分のやることを軽くメモして紅茶に口を付ける。ほんのりとオレンジの甘い香りがした。


『ああでも、公爵クラスになると、日本語で字を書くとばれるぞ。フォンブラウの蔵書にヤベーのがあった』


ロキが口を開く。ソルがロキの方を見る。


『それってどんなの?』

『なんていうかな、お侍さんの手紙っぽいんだけどさ。筆で書かれてて全然読めないんだけど、父上に聞いたら普通に読んでて。学園に行き始める直前位で手習いにも使うって聞いた』

『習字みたいなものかしら? でもこっち羽ペンよね?』

『ああ、今のっていうより古文書参照の折に、って感じかな。古い文献が縦書きばっかりだったよ。活字もあったけど、遺跡から出てきた異世界からの流れモンだとさ』

『うっわ、私たちの転生の理由がすっごく説明しやすい環境出てきた』


言葉が飛び交い、互いの状況をしっかりと確認できそうな材料を提供し合う。ヴァルノスはじっとロキの指先を見ていた。


『日本語で手紙を書くのはNGかしら?』

『うちは大丈夫だぞ。魔術で親御さんに封をしてもらうとかで対処してくれると助かる』

『うちは互いの手紙の内容なんて確認しないから平気よ』

『うちが一番問題じゃん! えー、でもうち男爵だし大丈夫かな……?』


ソルが不安げに母親の方をちらりと見やる。過保護気味な親を持つと、手紙のやり取りすらやり辛いものだ。


『ソル嬢、セーリス男爵家は学者の家だ、内容がばれるのは仕方がない』

『もともと男爵じゃなかったのよ? 下手な希望は持たないことね』

『うち別に環境が悪いわけじゃないからね!?』


少し考えて、ヴァルノスが小さくあ、と声を上げる。


『どうしたの?』

『ああ、いえ、ロゼ様とやり取りするときにね、案外活字で書いた方がばれないものよ、って言われたの。……ロゼ様が転生者だってバレたのも、ロッティ公爵が日本語を読めた所為かもしれませんね』

『可能性は高いよ。……まあ、俺が転生者であることを確かめるために、わざわざ先に情報開示を行うくらいには、周りにばれてるってことだと思う。王家に伝わってしまえばそれ以上隠す相手など居ないことだし』

『そっか、カル殿下とロゼ様っていとこだったわね』


親戚の繋がりでバレてしまったのかもしれない。まあ今ここにロゼ本人が居ないから、礼を言うことも出来ないが、後で手紙でも書こうかなと考えたのは3人とも同じだ。彼女の家がカイゼル家を誕生日パーティに招待していなかったら、彼女がロキの誕生日に顔を出していなかったら、ロキもソルもヴァルノスもばらばらに行動しなくてはならなかったかもしれないのだから。


『……後でお手紙でも書こうかしら』

『私も』

『帰ったらすぐに書かなければいけないな』


3人は顔を見合わせてクスッと笑い合う。今日ロゼも来れていたら、きっともっと話は盛り上がっただろう。だって、彼女らは、この世界を知っている。


「さて。私主催のお茶会だし、私が仕切っても大丈夫ですか、ロキ様?」

「ああ、大丈夫だとも」

「では、早速。――ここに、第1回『乙女ゲーム“Imitation/Lovers”』悪役令嬢断罪回避のための会議を開催します!」



「まずは、大まかな本編の流れをおさらいした方が良いわね? ロキ様は『イミラブ』より『イミドラ』派だったし」

「そうしてもらえると助かるよ」

「ソル様、お願いします」


ここからは日本語ではなく通常通り、リガルディアの言語で話していくことになった。ヴァルノスも手帳を広げている。紙が手軽に手に入る世界だったことで、ソルも手帳を準備できていた。転生者が多い国であるから、紙の作り方を知っている転生者でもやってきた事があったのかもしれない。


「『イミドラ』のスピンオフ作品である『イミラブ』は、私の記憶では3つのタイトルがあるわ。1作目と、『イミラブ2』、んで『イラメア』ね。『イラメア』は『Imitation/Lovers MEMORIA』の略ね」

「1作目と『イラメア』が同じ時間軸、『イミラブ2』が3年後だったね?」

「ええ、そこは覚えてた?」

「ああ。どうもこの身体は相当記憶力が良いらしい」


良いわね、とソルは笑い、ロキが理解している部分をメモ書きする。どの情報を開示していくかを考えているのだろう。ヴァルノスは手元のメモを見て少し首を傾げた。


「ヴァルノス様、どうしたんですか?」

「あー、うん、何でも無い。私の情報が何だか食い違ってるから、後でまとめて報告するね」

「大丈夫?」

「では後でまとめて言ってくれ」

「ええ」


ヴァルノスがメモを追記してペンを置くまでソルは少し待つ。情報の食い違いは擦り合わせがしたいが、ロキがいる状態で、余計な情報を詰め込むとロキに持って帰ってほしい情報まで訳が分からなくなるかもしれない。


「この3作の中で、悪役令嬢ロキが登場する作品――まあ正直、3作共に登場するわ」

「2作品は何となく時間が同じならあり得るとは思うけれど、3年後にも、出てたね、そういえば」

「あんた『イミラブ2』はちょっとプレイしたからわかるわね?」

「ああ」


疑問を口にしようとした瞬間に思い出して疑問は消え、肯定だけが残る。


「つまり、今のところ考えられることとしては、本来この『イミラブ』シリーズは、中心人物は悪役令嬢ロキの方よ。ロキの周りの人間をわざと攻略対象に選んでいるって言われても文句言えないくらい周りの子ばっかりだもの」


ソルが自分で出した結論なのだろう。ロキは、攻略対象に誰がいたかを知りたいな、と呟いた。


「勿論。『イミラブ』の攻略対象から行くわよ」

「ああ」


『イミラブ』の攻略対象と呼ばれる男主人公は、6人と隠しキャラ1人の7人である。『イミラブ』シリーズの特徴として、ヒロインが2人と、隠しヒロインが1人の3人のヒロインが登場するのだが、攻略対象側もハズレと言われるキャラが登場する。


「まずはメインヒーローのカル・ハード・リガルディア第2王子。悪役令嬢ロキ・フォンブラウの婚約者」

「既にバックレたんだが」

「ええ、最高の選択をありがとう。キャラごとに5つずつのエンディングがあったのは覚えてるかしら?」

「ああ」


よくもまあこれだけのキャラに5つもエンディングを用意したものである。ハッピーエンド、グッドエンド、トゥルーエンド、ダーカーエンド、バッドエンドの5種類あり、各攻略対象の好感度とサブイベント攻略の有無でエンディング分岐が決まるという割とシビアな判定のゲームだった。


「カル殿下のルートだと、ハッピーエンドでロキ様処刑、グッドエンドで国外追放、トゥルーエンドでカル殿下と結婚、ダーカーエンドで娼婦落ち、バッドエンドで行方不明よ」

「悪役令嬢に救いを用意してもろて」

「まあそうなるわよね!」


悪役令嬢ロキとして活躍するロキはカル王子ルートとフォンブラウ公爵令息トールのルート、そしてロキの従者のルートで登場する。他のルートにはそれぞれ他の令嬢が登場するため、ロキが登場するのはこの3ルートがメインで、後は他のルートでモブの如くスチルの背景に居たりする。白い髪が作中彼女くらいしか出てこないのでロキだと分かるだけで、顔がはっきり描かれているわけではないので、ぼかしてある背景で彼女の色を見つけるだけだ。


「ロキ様が関わるうちもう1人は、トール・フォンブラウね」

「……トールも?」

「あら、原作じゃちょっと仲悪かったのに、どしたの?」

「あんなに可愛い弟の何処が仲が悪くなる原因に……?」


ソルとロキが顔を見合わせる。ヴァルノスの方を見ると、ヴァルノスは蒼褪めていた。


「どうしたの、ヴァルノス様?」

「……ちょっと待って、この違和感滅茶苦茶大事な気がする」

「……俺がロキという令嬢に入ったから起きている変化、とかではなく?」

「私の知ってる令嬢ロキはトール様を溺愛してるはずだから、ソル様が持ってる情報がおかしいのかなって思ったんだけれど、まだ何とも言えないのよ」

「……もう少し情報を出してみるか」

「そうね」


ヴァルノスがメモを取り、ソルとロキもそれぞれメモを残していく。


「トール様とロキ様の仲が悪い原因としては、身体が弱い姉に親が構ってばかりだったから僻んだ、って感じね。後は、トール様からはロキ様って何考えてるかわからない読めない人だったみたい」

「ああ、ゲームの令嬢ロキ演技派だもんな」


ロキとソルがそっとヴァルノスの方を確認する。ヴァルノスが小さく頷いた。


「私の持ってる情報は、トール様は病弱なお姉さんをせめて物理的に守ろうと騎士になることを目指す、よ。むしろソルのそれ『イラメア』のレイン様に近いかも」

「あー、そう言えばレイン様もそんな感じだったわね」

「待て、レインも? 悪役にリーフ姉が出て来るんじゃないだろうな?」

「大丈夫、悪役令嬢はロキ様よ」

「安心できない! けどちょっと安心した……」


難儀なものだ、とロキは呟く。この調子だと今日だけで話し合いは終わらないかもしれない。


「とりあえず、トール様からすると、親から愛情を受けられなかったお姉さんを、お兄さんと一緒に大事にしてるって設定だったと思うんだけど」

「ヴァルノス、それ何のスピンオフ?」

「公式情報のはずよ、これ確かファンブックに載ってたものだし!」


ヴァルノスの前世である松橋久留実はゲームプレイヤーというよりも資料やアンソロジーなどを集めることが好きな少女だった。公式資料を散々読み込んでいると自負があるヴァルノスが間違った情報を死ぬ可能性がある張本人であるロキに嘘を伝えることはまずないだろう。ロキは2人とも本当のことを言っていると思った。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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