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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
166/368

6-17

2024/12/06 加筆・修正しました。

メルヴァーチ侯爵邸に戻ってきたロキたちは、それぞれ冒険者が着ているようなラフな服に着替えて裏庭に集合した。


「「バーベキューだああああああ!!」」


この声を上げたのはソルとルナだった。

バーベキューと言いつつ炭火を用意した地域の運動会後の打ち上げ焼肉会みたいな状態になっているが、バーベキューなのである。茣蓙はない。準備されているのはテーブルと椅子である。


ロキは長い髪を三つ編みにして邪魔にならないようにしており、ソルたちもそれに倣ったため三つ編みの子供集団状態になっていた。

バーベキューという文化はリガルディアにはないのだが、言葉そのものは存在しており、やはりこれも転生者が関係している言葉だったらしい。通常は屋外で調理などほとんどすることはない。

また、バーベキュー用の皿などないし、紙皿や紙コップのような使い捨ての物もない文化なので、お皿どうしようと子供たちは心配していたのだが、そんな時はデスカルたちが出てくる。無論紙コップと紙皿、そして割り箸である。


「文明の利器……」

「お前さんらはこっちのが馴染みやすいだろ」


紙皿と紙コップを見たロキが不思議そうに透かしたりじっと眺めたり齧ろうとしたりしているのを見てデスカルは噴き出した。


「おいロキ坊ちゃんや、紙皿齧んな、曲がるし破れるぞ」

「耐久性……」

「紙だっつってんだろ、お前前世の知識実体験しようとするのやめな?」

「え、こんな面白そうな知識と実物が目の前にあるのに!?」

「お前俺の前でネコチャン脱ぎ捨てるようになったな??」


ロキのネコチャンどこ行ったんだ、とデスカルが言うのでナツナとカルディアが噴き出す。


「俺のネコチャンは出張中です」

「どこに出張すんだよ」

「たぶんフォンブラウ領」

「人それ帰省という」

「んっふ……!」


レインまで笑い出した。もうだめだ。

最近のロキは前世の知識を自分で確かめたくなる年頃であるらしい。デスカルが使う筆記具は普段鉛筆なのだが、それを使いたがったのもそうだし、消しゴムに対してもかなり興味津々である。ロキの中で前世が完全に知識になりつつあるのではないか、とデスカルは考えていた。


「あーあ、ロゼ様も呼びたいなぁ」

「カル殿下とかヴァルノス様とかもね。2年になったら学年でやってみても面白いかも」

「あー、それいいね。俺とカルとロゼとレオンで企画して提出してみようか」

「通るといいですね」

「皆でやったらきっと楽しいね」


順にルナ、ソル、ロキ、アッシュ、ヴォルフガングの言葉である。レインは笑いから回復してきて、今回楽しかったら提案してもいいんじゃない、と協力の姿勢を見せてくれた。


「あー、でもカイウス様に協力してもらうのも良いかも?」

「ゴルフェイン様を巻き込むの?」

「うん、次の1年を迎えるための気楽なパーティ未満の何か、みたいな? トールとエリオ殿下にも頼めば早く伝わるだろうし」

「クラウドにも言っとくかい?」

「そうだな」


トールとクラウドは一緒になってアツシの身に着けている装飾品を眺めている。アツシは黄金のリング状のアクセサリーを大量に身に着けていることがあるのだが、ロキが一度シドに聞いてみたところ、「族長の威厳的な?」という曖昧というかなんとも言えない回答が返ってきたので、特に何か理由があって着けているアクセサリーというわけではないらしい。


バーベキューなんて平民でもやらない。リガルディア王立学園は平民の特待生がいる。彼らはパーティにも慣れていないので、丁度良いかもしれない。


「……そういえばひとつ上の公爵家の方ってゴルフェイン様だけね?」

「だからカイウス様は生徒会長確定なんだろ」

「今年はスカジ様だったものね」

「副会長エミリオ様だったしねえ」

「アイシャ殿下は婚約話が進んでていつ国から居なくなるかわからなかったから会長にならなかったんだっけ?」

「そうらしいね。金髪碧眼の王族だからカル殿下派閥の邪魔にならんように降りたのかと思ってた」

「ロキ、外でそれ絶対言うなよ」

「TPOくらい弁えてるが??」


TPOってなんだったっけ、とレインはロキに問う。ロキはレインに説明を始めた。ソルとルナは顔を見合わせる。ソルとルナは社交界からの情報はほぼ入ってこないのでロキたちから聞くしかない。ロキたちは親から聞けるのだろうが。


「……ロキはむしろ、その噂知ってたんだ」

「俺闇属性だが?? 俺の索敵範囲舐めるなよ??」


レインは小さく言いを吐いた。ロキの心配をしているらしいことが伺える。

公爵家で一番年上なのはゴルフェイン家の長男である。その2つ下にフレイとプルトス。もう1人ソキサニス家に特殊な立ち位置の令息が居る。その2つ下がスカジ、エミリオ、更に1つ下にカイウス、その1つ下がロキたちだ。さらに1つ下にトール、その2つ下にコレー。あらためてフォンブラウ公爵家の子供多いな……と過ったソルだった。


「おーい、そろそろこいつらの紹介さしてくれー」


デスカルの声にハッとしたレインがそちらを向くと、青紫の髪の少年と金髪の少女が待機している。ここで彼らのことを知らないのはレインたちだけなので、レインは慌てて一度家族の居る方へと向かった。


アーノルドがナツナとカルディア、デスカル、アツシをメルヴァーチ家に紹介すると、メルヴァーチ家の面々はある程度あっさりと受け入れ、レインとリーフはそれに驚いた顔をしてしまった。クラウドだけは何が何やらといった様子だったのだが。


「ロキの周りに上位者が沢山」


ロキたちの所に戻ってきたレインの感想を聞いてロキは横に来ていたアツシと顔を見合わせた。



使用人たちが野菜と肉を鉄板に乗せる。焼肉とバーベキューの違いとは何だろうかと割と平和な話題で盛り上がったロキとソルとルナを眺めつつ、レインは皿に使用人たちが焼きあがったものを盛り付けていくのを眺めていた。肉類の仕込みをしている班、焼いている班、ドリンクなどの他の準備をしている班で別れて作業中である。


転生者が一様に「まだ? まだ?」といっているのを見て、たぶん焼きながら食べる文化圏の人間だったんだろうなと概ね予想がついたレインだった。


子供たちの様子を見ながら大人たちは使用人たちが支度を終えるのを待つ。デスカルたちもアーノルドたちの側に居り、今後の動きや予定の擦り合わせの話をしていった。


「――って感じか」

「ふむ。概ねそれでいいだろう。緊急には応えてもらわねば困るが」

「そこは大丈夫さね。郷に入っては郷に従えっていうだろ?」

「ああ」


デスカルは個人での活動ではなく、ネイヴァス傭兵団としての活動が多い。個人で動いている方がどちらかというとアーノルドの所での活動になっている。そもそも幹部クラスなので当然ではあるが、そこまで長期で傭兵団を離れることも少ない。


とはいえ、アーノルドはデスカル個人に依頼してロキの傍についてもらっているわけではなく、ネイヴァス傭兵団に依頼している状態なので、デスカルが居ない時は他の誰かが居るのだ。そもそも、聞けばロキと契約して大事になったドルバロムもネイヴァス傭兵団の所属だったりする。アーノルドたちに個人的に力を貸したいと言ってフォンブラウ領の方に上がり込んでいる上位竜人たちが居るが、彼らも同じくネイヴァス傭兵団の所属だ。


ネイヴァス傭兵団自体がそもそも下位世界との接触機関である可能性も高い。傭兵団を名乗っているのは、受け入れられやすいためだろう。余程平和な場所でない限り、傭兵は概ねどこにでも存在する。


「あ、そうだ、アーノルド」

「む?」


デスカルとアーノルドはアーノルドが学生の頃からの知り合いである。ネイヴァス傭兵団そのものは割と有名な上位者組織であることもあり、デスカル・ブラックオニキスという彼女の活動名そのものは割と有名である。とはいえアーノルドが大学生の時にはっきりと知り合ったという認識なので、アーノルドとの仲はかれこれ20年近くになる。今回は無礼講ということでデスカルは口調を崩していた。


「実はこっちの魔導師がロキに会いたいと言っていてね、どうせならロキの周り全部レベル上げて来いって言ったら教員に捻じ込んでくれって言われたんだわ。頼まれてくれる?」

「……俺は家名を盾にするのは好まないと知っているだろう」


ロキはソルたちと一緒に焼きあがったものが盛り付けられていくのを食い入るように眺めている。

アーノルドはロキを見やった後、デスカルに視線を戻した。デスカルはアーノルドの横にまでやって来る。


「そういう問題でもないんだよ」

「どういうことだ?」

「この魔導師ってのが、メビウスってやつでね。何でもござれのハイパー魔導師さ。で、こいつはロキに魔術を教えることができる。加えて、今学園の方にはグレイスタリタスが居るだろ?」

「ああ」

「グレイスタリタスは強いよ、俺たちでも痛いくらいだ。でも、アイツは一騎打ちタイプであって、軍勢が居ない状態で学園自体の守護にはならん。違うか」

「……」


デスカルの言葉にアーノルドは口を噤む。事実であったし、グレイスタリタスの周囲には指示が通りにくくなる。グレイスタリタスそのものが周囲を発狂させるパッシブスキルを持っているからだ。それは元来グレイスタリタスが『狂王』と呼ばれる理由に起因する。グレイスタリタスはロキと同じく王種だ。狂戦士族と呼ばれかつて恐れられた、紺碧に銀の筋のある髪と深い赤の瞳の部族の長だ。


「……メビウス師匠が来るなら、良い、のか……?」

「あ、そういやお前さんメビウスの弟子だったか」


アーノルドは懐かしい名前が出たことに驚いていた。

メビウスという人物は、アーノルドの家族が魔術師家系であるにも関わらず残念ながら脳筋加護(大変不敬)ばかりでアーノルドに魔術を教えることができなかったため、アーノルドにとっては祖父であるアーサーが知り合いの伝手を辿って家庭教師として呼んでくれた魔術師として出会った。


今でも連絡を取り合っている仲でもあり、確かにロキに魔術を教えてくれるならメビウスは良い師であるとアーノルドは思う。問題点としては、メビウスはレイヴンに似たところがあることだろうか。観察の為ならちょっとした危険の中に子供を放置したり放り込んだりするタイプである。


「……師匠ってちゃんと子供たちを守ってくれるのか……?」

「アーノルドから随分疑われてんなアイツ」

「12歳当時ヘルハウンドの群れの中に取り残された時のことは今でも忘れてないからな……?」

「そこは大丈夫だと思うぞ?」


メビウスという上位者は、リガルディアの魔術師の間では割と有名な存在である。とある神の化身だとされていたが、実際活動していたので神というより上位者だったことが発覚した。そのとある神というのが、魔創神メイトリス。魔術師たちに多く学びを与え、魔術や魔法の研究を見守っているとか何とか云われている存在である。


「……どうよ?」

「……分かった」

「おし!」


拒否権なんてあってないようなものだった。それに気付いてアーノルドはうなだれた。

むしろこうして連絡が来るだけでもありがたいと思うべきかもしれない。普段彼らは嵐の如くやってきて去っていくのだから。というかそんな話になっているのであれば、メビウス師匠から一言くれと思わないでもない。


焼きあがった肉と野菜の盛り付けられた皿をデスカルが受け取り、アーノルドの前にも皿が置かれた。


「まあほら実際、メビウスには『神殺し』も効かないからな。ジークフリート王以外で考えるとお前とロキぐらいしか『神殺し』くらって動けそうなのがいないだろ? メビウスが来るのは悪い話じゃないはずだ」

「……これ以上上位者が来ても、平気なのか」

「世界樹が素通りさせてんだからいいんじゃないか?」


アーノルドが思っている以上に上位者がその辺をうろうろしているものだから、不思議な気分になってくる。ではいただきましょうか、とレイラが声を掛けて、それぞれ食べ始めた。


「まあ、世界樹にとっちゃ、ロキ以外はいなくなろうが死のうがいなかったことになろうが関係ないだろうけど」

「――」


デスカルの言葉に、アーノルドはとっさに反応できなかった。

デスカルが言った言葉の意味をちゃんと理解できるほど世界樹について知っているわけではないし、そもそも世界樹などアーノルドは見たことが無い。けれども上位者が皆口に出す“世界樹”という言葉に、やはり世界樹が存在するのだと漠然と思っていた。


それが、“ロキ以外どうでもいい”とは一体どういうことだ。

いや、きっとそんなに深い意味はない。むしろ字面通りとみていいだろう。

それでもそれを理解できなかったのは、アーノルドが人間の思考回路のそれであるからだろう。


「……ロキが助けたいと思った者をも見殺しにするのか?」

「ああ、基本的には見殺し。つーか、世界樹にとっての身内以外は基本助けないぞ」

「ロキは世界樹にとって身内なのか」

「ロキたちがたまに北欧神話だのなんだの言ってるんだがね。世界樹にとって身内と呼べる神話体系の奴らがいる。ロキはそれ。んでもって、今戦ってる相手との因縁もロキに起因する。どちみちロキはそいつと戦わなきゃならないのさ」


だから、それに必要だと判断されれば多少の融通は利くよ、とデスカルは笑う。


「やたらロキを好きな子たちがいるだろう? あの子たちが世界樹のサポートを受けてるのさ」


と、言うことは、とアーノルドは子供たちの態度を思い返した。


恐らくだが、親族で顕著なのはレインとトールで間違いない。

他に考えられるのはシドとゼロか。


と、言うことは。


「まさか、プルトスは」

「あ、気付いちゃったか。ああ、プルトスはちょいと世界樹から嫌われてるな。特にあの子は文字通りの第一印象が悪かった!」


一番最初のことを未だに引きずってやがる、とデスカルは笑うが、アーノルドはそんなこと言われても、という話である。


「そんなもの、どうすればいいのだ?」

「別に、どうもしようがないさ。プルトスのことはプルトス本人がなんとかするよ。それぐらいできるだろ、お兄ちゃんなんだからさ」


デスカルは言う。


「加護持ちだからといって、神の性質に振り回されたままでは、神離れできないよ。神ってのは、傍にあるより、遠くから見守ってくれているくらいでいいんだ。神の干渉なんてなくたって、世界樹の民は生きていけるんだからな」


デスカルの言葉に、アーノルドは自分の加護レベルがやたら軒並み高い子供たちを思い浮かべた。プルトス、加護レベル5。フレイ、加護レベル4。スカジ、加護レベル3。ロキ、加護レベル5。トール、加護レベル4。コレー、加護レベル3。加護レベル3はこの子加護が強いですねと言われるのが普通のレベルである。加護レベル5なんて最早まともに成長できるかどうかも怪しい。本人の性質と神の性質が混じり、人格が破綻することも稀に報告されるレベルだ。


「……神の加護も、精霊の祝福も、あまりすぐ傍で感じるべきものではないのかもしれないな」

「そういうものさ。感情精霊の有り余った力を揮うのが狂王なんだし、今代の精霊の愛し子は世界を俯瞰で見ていて目の前の人と目線が合わないらしいじゃないか。仮にも上位者である俺が言うのも何だが、碌なもんじゃないと思うね」


アーノルドは少ししんみりした気分で目の前の皿を見つめる。プルトスには色んな意味で手を焼いているが、まさかデスカルからまで言われるとは。回帰前に何があったのか、それは知っておかなければならないと思い始めていた。


「ま、一応言っとくとね、今まで割と事態が動くのが5年後くらいだったから、あと2,3年の内にいろいろ回帰前のこと思い出すと思うぞ。お前さんは発狂したくなるだろうけどな」

「……そんなにか」

「お前さんの子供碌な目に遭わねーもん。特に第4子と第5子」

「スカジとロキといえ」

「父上、お呼びですか?」

「うお」


アーノルドがデスカルとの会話に夢中になっている間にロキがすぐ傍まで来ていたのである。アーノルドはロキの方を見た。灯に照らされているとはいえ、それ以外の光――この場合は魔力であろうが、髪が薄っすらと光っているのが見える。


アーノルドはフォークを置いてロキの頭を撫でた。


「?」

「呼んだわけじゃないが、デスカルとお前とスカジのことを少し話していた」

「そうだったんですね」

「ああ」


ロキはアーノルドの手が離れるとお話し中とのことなので、と言って近くの使用人の方へ歩いて行く。皿に何か入っているがあれは何だったのだろうか。


「ありゃりゃ。ああいうところホントロキって良い子ちゃんだよな」

「そうだな」

「……知ってるかいアーノルド、ロキの前世ではこんな言葉があった」

「?」


デスカルはちょっともったいぶった言い方をする。


「”大人が言ういい子とは、大人にとって都合が良い子である”」

「少し席を外す」


アーノルドは席を立ち、すぐロキの後を追った。転生者であるロキは大人の道理をある程度理解できている。真っ当な子供のように大人の事情を汲み取らず大暴れしたり泣いたりはしないものだ。転生者がやたら大人しいことが多いのはそのせいだし、ロキも我儘を言う子には育たなかった。


半分はそれが原因で浮草病を発症したのだ。加護があろうと関係ないほど、魂がこの世界に根付かなかった。ロキの場合は加護が悪さをした可能性もある。


デスカルはちゃんとロキの後を追いかけたアーノルドを評価する。ちゃんとわかっているじゃないか。


「……アーノルド、お前さんは随分前の回帰前にそれができなくて、スクルドの忘れ形見になったロキを喪った。もうああはならんだろ」


メビウスの件も話せたし、ゆっくり楽しむか。デスカルは切り分けて盛りつけられた肉と野菜をフォークに刺した。


アーノルドはというと、ロキが何やら作ったという不思議なタレに目を輝かせていた。刻まれた白ネギ、塩コショウ、レモン果汁はアーノルドにも分かった。所謂ネギ塩レモンをロキは作ったらしい。何かが足りないと首を捻っていたが、とりあえず今のロキに再現できるのはここまでであるらしい。


「特に何も味を付けていない肉をこう、タレにつけて食べると焼肉というらしいです?」

「曖昧な知識なんだな……」

「バーベキューの肉って味ついてるんだって初めて知りましたし」

「そうだったのか」


使用人にタレを渡して味を調えてもらって使ってみたいという相談をしたようだった。父上に見せに来た、のだ。アーノルドはこういうロキが意外と親にあれこれ見せたがる性質があることには、気付いていた。


父上に食べてと持って行くより先に使用人に渡して整えてもらうべきだった、とロキは苦笑したが、最初にまだ見せに来るのが何とも可愛らしく感じて、アーノルドはまたロキの頭を撫でる。


使用人たちが改めて味の付いていない肉を少量用意して焼き始める。切り落としでいいなんてロキが言ったので味を調えるために本当に切り落としで実験を始めたのだからメルヴァーチ侯爵家の料理人たちもなかなかだ。


「珍しいな?」

「ロキ坊ちゃんが美味しいものの知識を見せてくださったとかで料理長が張り切ってます」

「なるほど」


転生者の中にはやたらと美食に偏った知識を持っている者が居る。ロキはそれ以外の知識もすごいので偏っているわけではないのだろうが。


談笑を楽しむ婦人たち。取り残された旦那衆。騒ぐ子供たち。なんだかんだあちこちに散らばっている傭兵たち。使い終わった食器や器具類の片づけを始めた使用人たち、味付けにあれこれ悩む料理人たち、味見を頼まれて立ち止まっている使用人たち。


食事は楽しくていいじゃないか。


このバーベキューにはしれっとメルヴァーチの私営騎士団の面々も参加しているのだが、きゃっきゃと笑っている子供たちを見て驚いていた。ロキもレインも基本的にあまり表情を崩さないので、一緒になってトールやクラウドも巻き込んでわちゃわちゃしているのが珍しいのだ。


「ロキ兄さん、これ美味しい」

「お、よかったよかった!」

「ロキ、こっちちょっと砂糖入れてあるって」

「酸っぱいのダメならそっちの方が良いんじゃない?」

「これは、ニンニク入れるべき……?」


盛り上がっている内容が美味しいとか味の改良とかちょっとばらついてはいるが。



結局バーベキューは大成功だったと言っていいだろう。

使用人たちが後片付けやら風呂の支度やらで動き回っていた。ロキをはじめとする子供たちはほぼほぼ騒ぎ疲れ、満腹になって眠っていた。


夜にはちゃんと起きたロキはもう一度入浴して(流石にゼロとシドにめっちゃ綺麗に洗われた)眠った。

翌朝寝起きにロキに何か言われたらしいゼロがしばらくそのまま手洗いから帰って来なかった理由を、当のロキは覚えておらず、シドは「お前ってホントに罪作りなやつだな」とだけ返しておいた。


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