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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
162/368

6-13

2024/10/27 加筆・修正しました。

「ホムンクルス発見」


独り言ちてロキは得物を構えてゆっくり近付いて行った。ホムンクルスと言えば、基本的には錬金術師系統の魔術体系を持つ家が作っている人造生命体であり、宗教的には、宗派によっては断固として受け入れられないものであったりもする。カドミラ教蔓延る今の御時世なら、周辺国家にはもういないのではなかろうか。カドミラ教はホムンクルスを命として扱うと同時に、製造を禁じている。


とはいえ、ロキが見つけたホムンクルス系の魔物、というのは、単純に錬金術師が作ったホムンクルスを指すのではなく、人工錬成生命体全般を指している。つまり、人型でも獣型でも錬金術の産物なら基本はホムンクルスという事なのだ。魔物としての単体発生はしないタイプで、近くで錬金術を使った何者かが居た痕跡である。


ロキはナイフでトス、トス、とターゲットの魔物の脳天を刺し貫いて絶命させていく。処理はせず適当に亜空間に放り込んでいるので、後で処理をせねばならない。


空を見上げ、遠くで雷が鳴っているのを見た。小さくロキは舌打ちして周囲を見渡す。

ホムンクルスがここに居るということは、人工的に作られた彼らを放った人物がいるか、作った本人が死んだことによって管理者がいなくなって外に出たかのどちらかであろう。


ホムンクルスは自分で成長するとホムンクルスを作るようになる。そこまで動けるようになる前に殺しておかねばならない。


ホムンクルスと人刃はけして相容れないので。


ロキは近くにいたシドに声を掛ける。


「シド」

「おう、ってこら血を被るなっつったろうが」

「返り血を全て避けるなんて無理だったぜ☆」

「アホか」


シドがタオルを取り出してロキが返り血を浴びた個所を丁寧に拭き始める。顔にタオルをかぶせられて、まさか顔にまでかかっていたのかと驚いたロキである。


「気付いてなかったろ」

「……ああ」

「戦闘で興奮すんのは仕方ねえけどお前結構性衝動と殺衝動がえぐいくらい隣接してるから気を付けろよ。被害被るのゼロだけど」


魔物故の性質と理解はしていてもなかなか受け入れるのには時間がかかる。本来はそうだったはずだ。ループを覚えているが故に遠い昔になった時間で受け入れてしまったシドは少し懐かしさを覚えた。そしてロキの細い腕脚に目を走らせたシドは小さく息を吐く。


「いよいよお前の細さが皆にばれちゃったわけだが、これマジこのままいくのか?」

「知らない。進化したら体重が増えにくくなったし」

「本来人刃に成長はねえからな……次の進化が起きるまで今の体重のままかもしれない。何キロだ」

「43キロ」

「……」

「……」


シドが固まった。


「……国内でも有数の最高品質のもの食ってるはずの公爵令息が43キロ。身長153センチで確かに小さいけど43キロの成長期男子はねえわ! 女子か!」

「前世の方が体重あるくらいだわこっちが文句言いてえよ!」


ちなみにシドの方は158センチ53キロである。彼の場合は骨が金属化しているのでそれでも軽い方だったりする。


「……ループ中の俺の体重ってどうなってた?」

「……17になって50キロ越えたって喜んでんのは見たことある」

「不健康ーー!」


このツッコミの矛先をどこへ向ければいいのだろうか。不健康にも程があるんじゃないか。

脳筋の家に生まれておいてなんだその軽すぎる体重は。


「すっげえがりがりだったり?」

「あんま食いすぎると動けないからって言ってたな」

「嘘やんそれ。動けないんじゃなくて眠くなるだけじゃね?」

「今はそうだろうなと思ってる」


ロキの言葉にシドが同意を示した。口調の崩れ方にそろそろ慣れてきたロキとシドである。ロキがというより、涼の口調に近いこの砕けた口調にも懐かしさを感じた。シドは目を細める。


「さて。そろそろエレメント族が出てくる気候になって来たな」

「ああ。いったん戻る?」

「だな」


ロキの班は皆遊撃だったので2人ずつに分かれて活動していた。皆アイテムボックスを持ちというのも理由のひとつではあっただろう。



「――そろそろ戻ろう」


フレイが皆に声を掛ける。少し離れていたロキたちが戻って来たのを見たからだ。


「もうですか、フレイ様」

「ロキたちが戻ってきた。何かあったんだと思う。早めに戻った方がいいかもしれない」


問い掛けられたフレイはそう答えてロキに声を掛ける。


「ロキ! どうした!」

「遠くで雷が鳴っています。もうじきエレメント族が現れるかと」

「分かった。撤収だ! 支度をしろ!」


フレイがすぐに指示を飛ばす。エレメント族はアストラルボディといって基本的に物理攻撃が効かない身体の持ち主である。魔力耐性は魔物の中では最も高く、唯一効果的な武器があるとすれば銀製またはアダマンタイト製のものであろう。


「エレメントを狩ったりはしないんですか?」

「雨だと俺は得意な魔術は使えないし、火だと皆が焼け死ぬ。雷は人間は焼け死んでしまう。ロキならやれるかもしれないが、1人で置いていきたくはないんだ」


尋ねてくる班員の問いにフレイはそう答え、撤収作業を始める。

ロキは一旦皆狩った獲物を出せと言って提出させ、簡単に血抜きを始めた。アイテムボックスでは時間も止まってしまうので鮮度は保たれたままだ。


首を切って血を抜いて、1人分ずつ丁寧にアイテムボックスに仕舞わせて、帰りの準備を終えた。


「大人たちの方何もないといいですが……」

「ヘイムダル曾御爺様が指揮を執っておられるのだ、何の問題もあるまいよ」


フレイたちは帰りはゆっくり戻ることにした。

ゆっくりと列を組んで戻っていると、途中でぱちぱちと火花を散らして紫色のエレメントが現れた。美しい澄んだ光を放っているが、これも魔物の一種である。間違いなく魔物の中では精霊に近いものではあるが。


「エレメントだ」

「マジで出てきたな」


ふわふわとエレメント近付いてくる。

ロキはぞくりと背筋に寒気が走り、肩がびくりと震えた。ロキは口を開く。


「フレイ兄上」

「どうした」

「鑑定を掛けられました。向こうの興味は俺かと」

「……あまり離れるなよ」

「フレイ兄上かプルトス兄上の視界に入るところに居るよう努めます」


ロキはシドを伴って列を離れた。ゼロが少し渋ったが相手が雷ではどうしようもない。


ロキとシドが離れると、そちらにエレメントが寄って行った。

やはりロキに興味があったらしい。


「エレメントから同族と思われてんのかもな」

「それは少し困る」

「そうか?」


エレメント族というのは基本的にマイペースである。

彼らは精霊のなりそこないと言っても過言ではない。ロキは純粋な風精霊を連れているため、似たような雰囲気を纏っているとしてくっつきに来たのかもしれない。


ロキは纏わりついてきたエレメントがぼろぼろとクリスタルを落とし始めたので慌てて拾う。アイテムボックスに放り込めばエレメントは何やら満足そうに去っていった。その場に周りからどんどんエレメントが寄ってくる。前に進めなくなり、20分ほどロキとシドはその場に拘束された。


「……なんだったんだ?」

「そろそろお前もルーンストーン作っとけよ。ロキの名前の一番でかい効果が得られるのはルーン魔術だからな」

「はっ、その材料にこれを使えと?」

「ああ」


エレメントは気に入った人間にクリスタルを押し付けていくことがある。

そんな話を、ハインドフットから聞いていた気がする。それにしてもこんなにクリスタルを押し付けられても使いきれないが。


「さて。もうすぐ大人との合流地点だぜ、ロキ」


シドの言葉を受けて、もうそんなところまで来てたのか、とロキは辺りを見回す。少し離れたところにいるフレイたちがロキとシドの方を見ていた。クリスタルの回収をしていたロキとシドを見て笑っているプルトスが見える。


プルトスが笑っているのを見てロキはわずかに口元を緩めた。ロキにとってはプルトスの機嫌というのは割と気にしている部分なのかもしれない。シドがそんな思考を巡らせていると、シドの身体に軽量化が掛かった。ロキがシドの”スロースターター”を気にしてくれたのだろう。2人は大人の待つ方へ歩く。

門から中に入ってギルドの集会場へと向かえば、先に戻ってきていた大人たちが待っていた。


「よかった、皆戻って来たわね」

「はい、誰も欠けてはおりません」


ニンリルの言葉にフレイが答えれば大人たちはほうと息を吐く。ロキは血の匂いを嗅ぎ取って眉根を顰めた。


「ロキ?」


レインがロキの名を呼ぶ。

ロキはレインの方をちらと見て視線を戻し、中央に立っていたヘイムダルに問いかけた。


「ヘイムダル曾御爺様」

「む、ロキか」

「何にやられたのですか」


ロキの視線の先には、ヘイムダルの奥の、頭に包帯を巻いた男たちの姿があった。


「……ヘルファングがいてな。何体か取り逃がした」

「……マナドレイン、ですか」


大人たちが少なからず被害を受けたのだと悟った子供たちの表情が陰る。

ヘルファングというのは、ギルドでは単体でBランク、群れるとAランクに分類される、メルヴァーチ侯爵領では極稀にしか出ない種類の魔物だった。その牙に呪いの術式を忍ばせており、噛まれた者は体内のマナを吸われ、見る見るうちに魂を削り取られ死に至るという。解呪が難しく、加えてそもそも解呪自体が高度な技能であるため、その牙を受ければまず助からないとされている魔物だ。


「ロキ、どうする気だ」


ロキが怪我人の方へと向かったのでヘイムダルが声を上げた。


「こういったことに使うくらいなら、そこの神官様たちも許してくれるでしょう」


ロキは神官服を纏った男たちを見て、笑みを向ける。彼らも装備は綺麗なままとは言い難いし、頑張ってくれたのだろう。魔力切れ寸前らしき神官も見受けられた。

今回の魔物掃討戦には教会からも希望者が参加してくれていたらしい。基本ヒーラーとしての運用ができるのが神官や僧侶たちしかいないので掃討戦の時はヒーラーをある程度募集しているのが普通ではあるが。


「……神子の力とはこういうことに使ってもいいではありませんか?」


この神官たちがヘイムダルの許で何もしなかったとは考えにくい。よって、解呪は行おうとしたが弾かれた、というのが正確な所だろう。


怪我をした男たちに手を向け、ロキは彼らに掛かった呪いの類の術式を洗い出す。いくつかの術式が絡んでいるのを見つけ、目を閉じた。


「【欠損魔法(ラック)】」


がきぃん、と金属のぶつかり合うような音がして、ロキは目を開ける。神官たちが感嘆の声を上げた。


「おお……」

「あれが神子様の御力か……!」


ロキは感動に目を見開く神官たちを無視してヘイムダルを見上げる。


「……数日以内にヘルファングの討伐を完了してください。今は50ほどの術式を俺が一気に止めていますがドレインが掛かったらそう長くはもちません」

「……分かった。今回は教会に助力させる。教会に知らせろ」

「はっ」


1人の騎士が出て行った。蒼銀の鎧はメルヴァーチの私営騎士団の団員のものだ。

ヘイムダルはロキに向き直り、ロキの頭を撫でた。


「……?」

「あまり無茶をするな、ロキ。神子の力は頻繁に使っていいものでもない」

「……はい」


ラックゼートからは逆のことを言われたのだが、それは黙っておこうと思ったロキだった。


「私は一旦残る。皆はそれぞれ解散。近々もう一度やるから、その時のために静養しておけ」

「子供はまだ精算が終わっていませんのでさっさとやってしまいましょう。ほらこっちに持っておいで」


ジェイドがカウンターに向かい、子供たちが我先にとそこに並んだ。倒した分をお金に変えてもらい、子供たちは解散した。

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