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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
161/368

6-12

2024/10/23 加筆・修正しました。

メルヴァーチ領にいる魔物は基本的に植物型か水属性であることが多い。

魔物はその土地を流れる魔力の属性によって形を変えてしまうため、人間側の属性が水に偏れば魔物も水に偏るのである。多くの生物の発する魔力の概ねの傾向が土地の魔力を作り、土地はその魔力に染まり、そしてその土地で生まれる多くの生物もその魔力に染まる。


メルヴァーチは気候条件も必要な氷属性を主なものとしているため特に面倒な魔物はいないものの、ギルドで分けられているところの平均Cランクの魔物がいる領である。フォンブラウのように日常的にBランクが出てこないだけましだが、高水準の冒険者が常駐しているのだ。


ロキたちは子供たちの班と称された24人パーティで比較的メルヴァーチ領の中でも魔物が弱いエリアに向かわされた。大人たちが1パーティついて来ているが、フレイとプルトスがしっかりしているため仕事はないようだ。


ロキは魔物の様子を観察しつつ進んでいた。


「ロキ、変わったことがあるのか?」


気付いたフレイが問うが、ロキは小さく首を左右に振る。

何も変わったことはない。しいて言うならば、この先一歩踏み出せばヤバい存在がいることくらいだろう。これ自体は異常ではない。先日も気付いた気配であるし、スクルドたちも分かっていて避けていた。


コレーも地面を見ている。

顔を上げればロキと目が合った。コレーは震え始める。ソルが気付いて「どうしたの?」と尋ねる。コレーは何も言わずロキに跳び付いた。


「ロキ、コレー様どうしたの?」

「……たぶん、ここに居るやつにビビっちゃったんだろうね」

「ここに何かいるの?」


シドの答えにソルは首を傾げる。フレイたちがどんどん先へ行ってしまった。どうしたんですか、とアッシュとヴォルフが声を掛けてくる。


「あー、フレイ様たち行っちゃう」

「ソル様、早めに行かないと、フレイ様たち脚速いですから」

「そうね。でもコレー様が」


近付いてきたアッシュにふとソルは問いかけた。


「アッシュ、ここには何がいるの?」

「ヤマツミです」

「山祇? あ、地竜かしら?」

「ええ。上位種の地竜ですね。たぶん竜帝のドラゴン型の直系でしょう」


アッシュとヴォルフが上位者であることはソルとルナも知っているものの、ここに埋まっているのが上位竜だと聞けば驚きを禁じ得ない。まして山神とされているとは。


「そんなのここに居て良いの?」

「むしろここに彼が居るからこの付近は安定しているともいえると思います。上位竜はマナの分布に干渉しない代わりに、付近の状態を一定に保つ性質を持っていますから」

「……なんか難しいけど、上位竜がここに居るとマナ環境は変わらないってことね?」

「はい」


アッシュの説明にちょっと首を傾げながらソルはフレイたちの方を見やった。ほんの少しの間喋っただけのつもりだったのだが、結構離れてしまった。やば、と言いつつソルが走り出したのでロキもそれに大人しくついていく。勿論、コレーを抱えて、だ。


「アッシュ、ちなみにだがそのヤマツミというのはどういう竜なんだい?」

「あー」


走りながらのロキの問いかけにアッシュは同じく走りながら答える。


「ヤマツミというのは、ヤマサンと呼ばれている種類の竜の雄なんです。確か、長いものだと300キロメートルくらいにはなったかな」

「もうそれ山脈じゃない?」

「俺が遭ったことがあるヤマツミは確かに、山脈に擬態してましたね。その付近だけやたら植物の育ちが良かったり、変に植生が混じっていたりする山はヤマサンかヤマツミだと思った方が良いと聞いたことがあります」


アヴリオスにも上位世界の住人って住んでるものなんだなあ、と思ったロキだったけれども、日本語らしき言葉の響きだったのではて、と考えた。その間もフレイたちにぐんぐん近付き、コレーも一緒に首を捻る。


「あとは、火属性には近付きません。でも上を通るくらいは許されます。あと確か、ロキ神のこと大好きですよ」

「止めろまるでこいつが起き上るようなことを言うんじゃねえ」


ロキはそう言いつつももぞもぞと動き始めたのではないかと思うような揺れを感じていた。


「そら見ろ動いたじゃねえか……」

「あれ、俺何も感じませんけど。ロキ様って結構敏感ですね!」

「……お前のその口調俺に対しても有効なの?」

「当然ですよ、気に入った人はいじり倒しますので!」

「……俺が性格被ったのかね……」

「大丈夫です、ロキなんてみんなこんなもんです、ええ!」

「お前の前前世が見てみたいよ……」


会話を聞いていたヴォルフが「ごめんなさい」と言い出す始末である。この間、皆ちゃんと走っていた。レインが驚愕の目でロキたちを見ていることは追記しておく。

ヴォルフが下を見て口を開いた。


「アッシュ、こいつ動いてる。しかも結構ヤバいよこれ」


ヴォルフがそう言ったためアッシュが問う。


「結構ヤバい? そんなにですか?」

「うん、こいつかなり年がいってる」

「あー、それは拙いですね」


やり取りを聞いて年齢によって気性に変化があるの、とロキが問えば、ええ、とアッシュから返答がきた。


「ヤマツミは年齢とともに体長は長く、気性も荒くなっていきます。正直5キロメートル越えてたらもう死徒列強に頼まなきゃ追い払うこともできません」

「属性でどうこうは?」

「《ムスッペルヘイム》でも使えなきゃ話になりませんね!」

「《インフェルノ》の上じゃねえか!」


シドのツッコミにロキは苦笑する。《ムスッペルヘイム》も《インフェルノ》も魔法である。魔術では歯が立たないという事なのだろう。

足元が本格的に蠢いている気がする。ロキ以外にも分かるのか、ソルもぎょっとしたような表情でちらと足元に視線を向けた。


「ええいくそっ、俺が行く! 皆先に行っててくれ」

「分かりました。終わったらすぐ連絡くださいね!」

「おう!」

「シド、気を付けて」

「おうよ!」


シドが皆から外れて近くの森の方へ走って行った。ただでさえ足が遅いシドなので後で追いつくのは難しくなるかもしれない。いいのあれ、とソルが問えば、アッシュが大丈夫、と返した。


「同じ土属性ですから何とかするでしょう。アウルムさんの方が霊格は上ですし」

「なら心配はいらないか。コレーちゃん、寒くない?」

「大丈夫です」

「よし」


ロキたちが追い付くころにはフレイたちは少し先で止まっていた。やっとロキたちが離れたのに気付いたらしい。近くの大人たちはロキたちが離れた時には少し距離があったが、今は近くまで詰めてきていた。


「ロキ、シドは?」

「この付近にヤマツミという地竜が潜んでいたようでして。シドに話を付けに行ってもらいました」

「平気か?」

「問題ありません。彼は基本的に遊撃手なので」


ロキが手短に報告を終えると、フレイはもう少し歩こう、と言って皆のペースに合わせてゆっくり移動を始めた。


走って汗をかいてしまった者たちは身体が冷えてしまわないようにタオルで汗を拭っている。ロキによって地面に降ろされたコレーは自分の足でちゃんとついてきた。


「こうして見ると、かなり魔物と人間って隣接して暮らしているのですね」

「そうだな」


コレーの言葉にロキは小さく頷く。迷い込む魔物の方が可哀そうなくらいの目に遭っているフォンブラウ領は置いておくとして、それ以外の領もおそらくかなり魔物との距離は近いのだろう。そんなことを考えて、ロキは小さく息を吐いた。


ロキの体温が低いのか、はたまた水分をあまり含んでいないのかは分からないが、ロキの吐いた息は白くならない。極端に寒いと感じている場合発動する霜の巨人(ヨトゥン)の加護のせいだろうとはニンリルの言葉である。


「寒い分魔物たちの動きもだいぶ緩慢になっている。確実に数を減らしていくぞ」

「「「「「はーい」」」」」

「子供は狙わないように。親が出て来て面倒になるからね」

「「「「「はーい」」」」」


フレイとプルトスの指示を受けて子供班の24人が散開した。

ロキはボウイナイフを確認して、ゼロに目配せする。ゼロは小さく頷くと近くにいた一番身体の大きな犬型の魔物に石を投げつけた。


「ロキ、平気なのか?」

「問題ないと思います」


ゼロにヘイトを向けた魔物を釣ってゼロがロキと対面になるように誘導する。ロキは手にしたボウイナイフを魔物の背に突き立てた。そのまま引き裂いて飛び退く。


「キャィン!」


魔物が跳ねる。ロキの方を向いた瞬間、ゼロによって首を切り飛ばされ、ロキはさらっと【水障壁(アンブレラ)】で噴き出した血を受け止めた。


「……ロキ、お前ナイフ使えたのか」

「? はい」


フレイの言葉にロキはフレイたちの前でナイフを使ったことがほとんどなかったことを思い出した。そもそも人前で使うの自体ほとんどない事だ。ロキがナイフを使えることを知っているのは、ロキとよくナイフの訓練をしているセトやルナ、エリスぐらいだろう。


ゼロとロキが始末した個体を皮切りに、子供たちは数人ずつで魔物1頭を囲み始めた。大人たちも近くで身体の大きな個体を相手取り始める。

ロキはレインの方を見やった。レインは小さく頷き、その手に槍を構える。


「ロキ、これ各パーティで動く?」

「いや、3人で囲めば行けると思うよ。あと俺に指示仰ぐな」

「いいじゃない、気心が知れてるのよ」


ソルの問いにロキは答えつつナイフを再度構える。ゼロは小石を投げつけて数頭釣り、他の子供たちが背後に回りやすい状況を作った。

ソルがレイピア、ルナがナイフを取り出す。

コレーがメイスを、トールがハンマーを、スカジは槍を、フレイはロングソードを、プルトスは杖を取り出した。


「魔物が何種類か混じっているから、対応は間違えるなよ!」


フレイの言葉にそれぞれが返事をして、他の子供たちもゼロの補助なしで魔物を囲み始める。ロキはゼロとレインの3人で的確に魔物を囲みながら屠っていった。


魔物たちの中には犬型の”ブレイドファング”と羊型の”ストーンシープ”が混じっている。これ以外の大柄なものを大人が釣っていくので子供たちは比較的安全に魔物と戦うことができているのだ。


ロキが石を投げた魔物はロキの方へと近づいてくる。ロキは魔物たちをじっと見て、声を上げた。


「ストーンシープは火に弱いみたい。毛が欲しいなら氷かな」


きっと肉も取れるな、とレインは呟く。ロキは突進してきたストーンシープの脳天にナイフを真っ直ぐに突き立てて、その身体を横に引き倒した。


「うわ」

「何製だそのナイフ」

「知らない。ゼロが俺の誕生日に押し付けてきたんだ」

「それ十中八九素材提供者がゼロだろ」


ロキがゼロを見ると、ゼロはただ笑みを返しただけだった。


「従者からの愛が重いわー……」

「ゼロがヤンデレなんてゲーム時代から分かってたでしょ」

「眺めてるのと現実は違うわー……」


ソルのツッコミに対しロキは小さな言い訳を積み上げながら手早くストーンシープの首を切って血を抜く。少し頸で刃が当たってロキは顔を顰めた。


「……ちょっと骨が硬いや」

「普通の骨も十分硬いはずなんだが」

「それよりもっと硬いですよ。フレイ兄上、ここの魔物は身体強化を使っているかもしれません。突進は避けるように指示をお願いします」

「ああ、分かった」


フレイやトールは素でもそれなりに戦えるが、相手の突進してくる力を受けて相手にダメージを与えるカウンター型の戦い方のほうが得意であるため、待ちの構えだと周りを巻き込む可能性がある。こういう狭い場所に大人数でいるところでは殴り掛かった方が良い。


比較的弱い魔物とはいっても人里の近くで暮らすということはそれなりに人間の魔力の影響を受けて知能が比較的発達している可能性は否めなかったのだが、ロキの言葉でそれは確実なものとなった。


「ゼロ、群れが出てきたらお前の属性でなんとかしてね」

「了解」


ロキがゼロに言うと同時に、フレイが声を上げた。


「刃が通らないと思ったら退くように! 硬いやつは打撃か魔術で対処しろ。くれぐれも正面からは受けるなよ!」

「「「「「はーい」」」」」


元気な子供たちだなあとロキは思う。大半をロキが知っているとはいえ、今回は1パーティ分知らないメンツがいた。彼らはギルドに所属している者たちの子供なのだろうが、皆剣筋もよい。唯一のネックは、前衛に偏っていたことだろう。

魔術師を目指している者がいなかったわけではないが、やはり平民出身で魔術をガンガン使えるような豊富な魔力量を持っているものはいなかった。


ロキは狩り終わったストーンシープを簡単に解体準備だけして亜空間に放り込んだ。

血の匂いに寄ってこられても困るのだ。


「それはこの地を保つもの、大地を清める大いなる円環、足早に訪れる循環の足音。【清掃(クリーン)】」


ロキは呟いてその場に魔力を含む水を生成し、血を洗い流す。地面に水がぶちまけられてぬかるんだ。実は使える者の少ない魔術なのだが、ロキが元々のものに自分が使いやすいように改良を加えたものである。魔力を含んだ水でその場の淀み、主に血や溜まり過ぎた魔力などを吸い取り、薄め、正常化するサイクルを早めるものだ。通常は光属性らしいが、ロキは闇属性での再現に成功した。


「ロキ兄様、後は私が」

「ああ、お願いね」


コレーが出てきたのでロキはそこまででとどめる。本当は地面を乾かすまでしなければならないのだが、ここでコレーが出てきたということはここにはしばらく腐敗臭が漂うことになるだろう。大地の営みを促進させる力を持つコレーはそういう点ではある意味“死”に近いかもしれない。ロキが使った魔術が自分の使う加護の力と似通った原理であることにコレーは気が付いたらしい。


「風下に被害が行かないようにね」

「はい!」


ロキはストーンシープが大人しそうな顔をして肉食なのを知っていた。ゲームの知識によるところが大きいが。今回は故に狙った。人を襲うタイプの魔物を優先的に狩るのはよくやる魔物狩りの掃討順であったりもする。草食の魔物は基本後回しだ。


「ただいまっス」

「お帰り、シド」

「どうでした?」

「どうも地下に元々あった空洞に住み着いてたみたいだ。寝返り打ったら地震が起こるアレですわ」


息を切らすことなく戻って来たシドを迎えたロキとアッシュは地下の様子を尋ねる。

戻ってきたシドが伝えてきたのはまあつまり、ヤマツミは起きてはいなかったということであろう。寝返りを何度も繰り返していたのだろうか。寝苦しいのか。ロキはそっちの心配をしたが、アッシュは問題ないと判断したらしい。


「さて、ならとっとと魔物狩りをした方が良いでしょうね。ロキ様、俺らの次の獲物は?」

「……人工的に錬成されたホムンクルス系の魔物だね。羊が多くなってきたら叩き潰していいよ。あれは肉食だから」

「うわ怖えー」


ロキの言葉にアッシュは棒読みで答えた。どうせロキより魔物に対しての知識は上だろうから特に言う必要はなかったかも、と気が付いたけれども、他の皆に対する情報共有という点でも発言はするべきだったと思い直し、踵を返そうとする。フレイの指示で班に分かれるためだ。そこにアッシュから声が飛んできた。


「ロキ様、貴方血浴びないでくださいね。日本人の魂にもれなくついてくる妖刀村雨の概念どうにもなんねえから」

「……俺の方がよっぽど狂気に満ちてるな?」

「オリハルコンぶった切るからなアレ……」

「……そんななることある?」

「なったから言ってんですよ」


アッシュの暴露に震えつつ、ロキはフレイの指示を待つ。


「それでは、それぞれ事前に分けたパーティでの戦闘開始だ。何かあったら言ってくれ」

「あんまり勝手に遠くに行かないでね」


プルトスからも注意を聞いて、それぞれ散開した。

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