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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
160/368

6-11

2024/10/20 加筆・修正しました。

冒険者ギルドは基本的には魔物を狩る、魔物の素材を売却する、がメインの活動だ。そして魔物を狩るにあたって、目的の魔物が特定されていない場合、属性武器を持って行くのは悪手である。その為冒険者には複数の属性武器を持っている者か、何の属性も付与されていない武器をひとつふたつ持っているばかりの者かが多い。


「――というわけで、こちらで用意できた人員は50名弱でした」

「十分よ、ありがとう」


冒険者ギルドメルヴァーチ侯爵領領都支部、スクルドの希望で集会場にてスクルドとロキ、レインはジェイドの報告を聞いていた。ヘイムダルの指示に従って、討伐隊が組まれることとなったのである。

今回ロキは動きやすい服装で来ることになり、いつものシャツに黒系のジャケット姿ではなく、シャツと気配遮断の術式が付与されたオリーブカーキの薄手のジャケット、濃い目の藍染のジーパンと軽量化の付与された革ブーツという軽装にボウイナイフを2本腰に下げている。


「ロキ、その服、なんかシーフみたい」

「シーフイメージで作って来てるから問題ないよ」

「いや、貴族がシーフは駄目じゃない……?」

「別にいいんだよ、ここで見栄張る必要ないでしょ」


ロキには様々な戦闘職の適性があるらしいことをレインは知っているが、詳細を聞いたことはない。見た感じ、戦闘職のひとつである盗賊(シーフ)のような姿をしているものだから、つい苦言を呈してしまった。レインは戦士の姿だ。とはいえシャツの上から軽装の皮鎧を着ているだけなのでそれだけで何となくレインが貴族であるのは把握できてしまう。


スクルドはドレスの上からゴツめの鎧を着込んでいるのでこれもまた貴族だとはっきりわかる。とはいえかなり良いものであるのも分かるので、実力者が実力に見合ったものを装備しているだけだと分かるだろう。リガルディア王国の貴族には、当主になるならば必ず満たさなければならない条件が存在しており、それを満たせなかった場合はどれだけ愛されていようが嫡子が他に居なかろうが容赦なく爵位が別の条件を満たせる人物に移る。


冒険者たちにとっては、案外貴族の子弟で冒険者ギルドに顔をよく出す者であれば顔馴染み程度には仲良くなっていることも多く、何なら相手が貴族子弟と知らずに、領主になった挨拶に来た時にやっと知った、なんて事例もちらほら見かけられるほど。結果的に冒険者ギルドと貴族側の摩擦は少ないことが多いか、解決が穏便に済まされる場合が多くなる。


冒険者たちはある程度の範囲ではあるが、ロキたち貴族子弟についての情報も持っている場合があるのである。授業でいろいろとお願いをすることもあるので、学園側としても冒険者ギルドとは仲良くなっておきたいというのが実情なのだ。


ロキの服装は貴族らしさがなく、どちらかというとシーフ職に特化している者がしていることが多い服装だ。まだ冬の様相の残るこの時期、しかも水と氷のメルヴァーチ侯爵領で、シャツは長袖とはいえジャケットの方は半袖なので、なかなか寒そうな服装であることにかわりはない。が、しかし、実際のところ霜の巨人(ヨトゥン)の加護を持っているロキには寒さなど全く苦にならないらしい。


「かー。先代の支部長も寒さにやたらめったに強かったよなあ」

「アン師匠だろ? あの人も霜の巨人(ヨトゥン)の加護持ってたからなー」


ロキの名を聞いてフォンブラウ公爵家の人間だと理解した冒険者たちは、自分たちが持っている情報と照らし合わせてロキが霜の巨人(ヨトゥン)の加護があることに気付いた。寒い所での行動にうってつけのこの加護は、悪者のイメージが付いてしまうので好まれはしない。しかしギルドの集会場に集まった者たちの会話から分かるのはどうやら、先代の名前がアンというらしいことと、慕われた人であったらしいことだった。


「アン、なんて名前の加護が……?」

「いや、アングルボザだと思うよ。ロキ神の霜の巨人(ヨトゥン)の嫁だね。アース神族だとシギュンが奥さんだけど」


レインは毎度思うが、ロキの前世が知っている神話と異説として伝わるリガルディアの神話ではだいぶ違うところがある。それでもロキの知識量には驚かざるを得なかった。よくもまあ加護と名前の省略と付属情報だけで名前まで特定できるものだ。ロキの答えに小さく息を吐いた。


しかし神霊の名など八百万よろしくごまんとあるのである。ロキが知らない神の名もあるだろう。

偶然知っている名が出てきているだけのこと。


さて、ロキの現在の服装と武器についてだが、盗賊風の軽装である。武器はボウイナイフ2本とファイティングナイフを4本。ハルバードもバスタードソードも装備はしていない。

これはロキが盗賊風な姿に合わせようと考えたことと、ロキの華奢な体系がよく見える服装になっていたからだった。


髪が白い、肌が白い、幻想と神秘で構成されたような外見のロキは、その名から外れることなく魔術特化型の華奢な体形をしている。

これを知っているのはゼロやシド、後はスクルドとコレーくらいなものだろう。コレーが真夏に寝起きの時間帯にロキに突撃してきたことは二度や三度ではない。よくもまあ男兄弟の部屋に、プルトスの制止を振り払ってまで突撃してきたものだとロキは思考を飛ばす。


「ハルバードは使わないのか」

「……レインならこんな細身のやつが身の丈以上のハルバードを装備していたら何て言う?」

「絶対止める」


そら見ろ、それが答えだ。

ロキはそう言ってレインの腕をつつき始める。


スクルドは戦乙女の名であるがために華奢でも平気だがロキの場合はちょっと事情が異なる。ロキ神は戦神ではない。ロキは正真正銘その実力でハルバードを振るっているのだ。進化個体であるロキが一般人もしくは血のだいぶ薄まった人刃程度の出力だとは思わない方がいいが、周りの人々にそんなこと分かるはずも無いし、ロキ自身進化個体であることを言いふらしたいわけではない。


「最悪の場合はハルバードだって何だって使うさ」

「お前の場合最悪は魔法で吹っ飛ばすんじゃないのか?」

「可能性は高いね」


レインとロキが軽口を叩き合っていると、幾つかの班に分けましょう、とスクルドが言って、6人班4つの24人で1部隊としての編成が始まった。


「今回の指揮官は?」

「ヘイムダル御爺様です」


ジェイドの問いにスクルドが答え、周りの冒険者たちの反応が様々に分かれたのをレインが眺めていると、レイドバトルにならないといいなあ、とロキがぼやく。


「レイドバトル?」

「……ゲームの戦い方なんだけれど、6人パーティを4つで24人、それで戦ってやっと倒せるようなアホみたいに強い敵と戦わなきゃいけない、ってやつ。その24人で戦う戦闘をレイドバトルと呼んでたんだよ。まあ、多分幾つかのパーティが連合で倒さないといけないような相手との戦闘をレイドって呼ぶんだと思うけれど」


ロキの理解は概ね正しい。実は、『イミドラ』の死徒列強戦もレイドバトルであった。

ロキの前世、高村涼の知識ではレイドバトルと区切られていたものを総合すると複数パーティが協力して倒すイベント戦的なニュアンスが強い戦闘だ。


『イミドラ』ではオフラインなので分かり辛いのだが、プレイヤーがNPCを冒険者ギルドから借りてパーティを4つ編成して挑まなければならなかった。ターン制で分かりにくいがこれはレイドバトルに分類されていた。


「決闘は3年で解禁だったよな。2年のうちにパーティ戦もやってみるか? カル殿下もレインもどうせ一兵卒じゃないんだし」

「ロキは?」

「俺は一兵卒の方が楽だよ。あっちがやられそうこっちがやられそう、じゃああっち遠いし援軍間に合わねえから斬り捨てましょうさようなら死んでも生きててもどっちでもいいっすよーみたいなことになりかねないし」

「確かにお前ならその判断が冷酷なくらい早くても僕たちは驚かないな……」


フレイとプルトスもスカジもトールもコレーも出撃準備は万端である。リーフとクラウドはまだ怖がっている節があったが、致し方ない。

父親が治癒術師なのだ。リーフやクラウドより戦闘慣れしているレインがおかしいだけだ。根っから脳筋に彼女らが染まるのはそう遠くない日だろうが。


「フォンブラウ家の奴ら皆好戦的すぎないか」

「まああのアーノルドの、というよりテウタテス様の孫たちですから」

「スクルドの子ですからねー」


どんだけ親の世代って脳筋だったんだろう。

冒険者たちの言葉を聞くと疑問を抱くのは仕方がないだろう。


「子供たちにも手伝ってもらうことになっています。子供たちへの指示はフレイ様達にお任せします」

「俺たちですか」

「子供たちには比較的弱い魔物を向けます。鍛錬として考えておけばそう怪我もしないかと」

「分かった」


指示を受けたフレイとプルトスが出発の準備の最終確認に移った。ロキは班分け表を改めて見る。

不満しかないが、致し方ないのではなかろうかとも思う。


「ロキはレイン、トール、クラウド、シド、ゼロと組むんでしょう?」

「ええ」

「不満なの?」

「……いいえ」


この不満は今言っても仕方がないと思う。

前衛をやれる人間しかいないのでシーフの戦い方は必要ないという事実である。まあ、ロキも特段シーフの戦い方に魅力を感じているというわけでもないので(やってみたい、くらいの気持ちはあるが)、別に自分が何もしなくていいという状況は歓迎すべきなのだが。


「トールたちはシーフと組んだことなどないですからね」

「今教えてくださいロキ兄様」

「盾にならん前衛は黙っててね」


両手ハンマー持ちが盾に成れるわけもない。トールはロキ兄様酷い、と小さく鳴いた。

ロキの外見で前衛をするなどと言われたら基本止める。それをニンリルがやんわりととどめているのだが、それでもこんな細っこいやつが戦闘に出るなんて信じられねえとギルドに出入りしている男たちは話す。


「盾に使ってくださって構いませんから!」

「寝言は寝て言ってね。盾役は基本的に戦士職か騎士がメジャーでしょ。俺より背も低い体重も軽い状態で盾になるなんて、俺が盾をやった方がましだよ」

「でもロキ兄様は長柄斧ではありませんか!」

「ハルバードを正規兵装にしてるのどこか知ってるかい、トール。王宮騎士だ、騎士だよ騎士。全身ミスリルのごっつい鎧に覆われて頑強さに定評のある騎士。そもそも俺は魔術だって使えるし、個人で言わせてもらえば単純に前衛後衛と役を決められるより中衛に置いてもらう方が動きやすいの。攻撃の時は嫌でも前に出なきゃなんないしね。それにうまくいったとしたらヘイトの擦り付けも起きる。まともに鎧のない状態で盾役なんてしないでおくれ。よっぽどお前自身が広域殲滅魔術を放った方が良いよ」


ロキが語る配置に関することはゲームでの知識といえど概ね事実である。

例えこの世界における魔術師も騎士も、どちらか片方だけなんて軟弱者と罵られているものだったとしても。


「……分かりました。でもつまり騎士になったらそういう連携は可能と言う事ですよね?」

「……お前はどちみち防御を鎧に頼るだろうから、最終的にはできるだろうね」

「よしッ」


ガッツポーズをしたトールに、「お前一応フレイ兄上のスペアなんだけど……」とは、もう言わないことにしたロキだった。


「妬けるな」

「フレイ兄上?」

「トールはお前にばかり懐いたものだ」


フレイとプルトスが苦笑を浮かべて立っていた。ロキの頭をそっと撫でて、じっとロキの腕脚を見る。


「……ここまで細かったのか、お前」

「お恥ずかしながら」


子供の時期に進化してしまったことも関係はあるのだろう。人間ではなく人刃として成長を始めた証拠に他ならない。ただ、そのベースになったのは人間の血が多量に入った状態のロキだったはずで、やはりベースはとんでもなく細っこかったということだ。


「……父上が高い位でよかった……」

「何故豊穣の男神の加護を受けている方にその心配をされねばならないのですか……」

「攫われそうになったら絶対逃げろよ」

「兄上、ここは街中ではありません平気です」

「フレイ、もしそんな命知らずがいたら1年前よりひどいことになるさ」


アーノルドとスクルドが大暴走したあのレオンとロキが拉致された事件からもうすぐ1年が経つ。ロキは苦笑した。


「さて、そろそろだな。皆、暖を取れるものは持ったな? 出発だ!」


フォンブラウでもやったねこれ、とコレーが言いつつ、ロキたちは魔物狩りに出発した。


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