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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
157/368

6-8

2024/10/13 加筆修正しました。

アヴリオスには、銃というものは存在している。

異世界から流れ着くモノもあれば、そもそもアヴリオスで過去に製造されていたものや、神々が人々に与えたもうた力としての銃も存在する。


シグマはおよそ1000年以上前にアヴリオスにやってきた転生者だ。その頃はまだ、神霊も今よりは地上に姿を現していたし、現在の死徒列強の大半は神霊を神々と呼び尊び、彼らが影響力を色濃く残していた時代に、彼らに直接加護をくれと強請りに行った世代である。


シグマに加護をくれたのは、何の縁であろうか、武神アレスであった。軍神アテナもそこには併記するべきではあるものの、概ね戦うために必要なものを広く浅くでいいならば、彼らが最も対応できる加護を持っていた。


シグマはアレスに特に身体能力強化系を、アテナには武器強化系を頼み、その身一つで世界を飛び回り、冥王たちの末端として動くことを良しとした。

武器は総じて最も扱いに長けているのがヘファイストスら鍛冶神で、次に扱いに慣れているのが軍神たちである。様々な武器を使うことになったシグマにとって、武神や軍神の加護を受けるのは都合がよかったのだ。


かつてまだ言葉を交わせていた時代、神々はシグマにこう言った。


――かつて、理術師ギルドと呼ばれていたギルドがあった。


シグマにとっては伝聞でしかないそれは、シグマの知る限り、元々は特定の神の加護を受けた集団であったという。彼らは一様に銃を扱い、魔力を放出し、魔術を込めた弾――魔弾を撃つことができた。そしてそれは魔銃と呼ばれた。



メルヴァーチ領にある古戦場は全部で3つあるが、今回の目的地の古戦場は、リガルディアがまだ旧帝国ガルガーテの一部だった頃にあった大戦の戦場のひとつだという。この古戦場は広大だが、冥王の加護が掛かっていると噂され、その噂に違わず草一本生えない荒野が広がる。


「母上、空気が変わりました」


ロキの言葉にニンリルははっとした。メルヴァーチ領はそもそも寒いエリアのはずなのだが、レインがやたら暑いと言って上着を脱いでいた。ロキはそれを止めず、寧ろレインに水分を与えたりマメに様子を窺ったりしていたので、やたら構っているなとは思っていたのだ。


「レインちゃん、大丈夫?」

「はい、まだ大丈夫です」


レインの答えに長居はしない方が良さそうねとスクルドは呟いた。ニンリルに目配せしてくるので、ニンリルは小さく頷き返す。死を司る神霊の領域には独特の匂いがある。スクルド女神も軍神の一派に属するので死の匂いには敏感だ。ニンリルは残念ながらそこまではっきりとは感じられないけれども。


ロキとシグマが小声でやり取りをしている。彼らにはやはり死の匂いはよく薫るものなのだろう。

シグマがジャケットを脱いで腰に巻き付ける。彼も厚いのか、とレインが呟いた。


「ロキちゃんは暑かったり寒かったりは?」

「ありません、大丈夫ですよ、母上」


ロキは特に脱いだりもせず長袖のままだ。スクルドとニンリルですら腕まくりをしたぐらいなのだが、ロキはこういう気温の上下には強いらしい。


「なんでこんなに暑いのか、わかる?」

「……断言は避けますが、ここはハデスの加護領域なんだと思います。彼らにとっての死の季節は夏だったという説がありました」


ロキの言葉にそうなんだ、とレインが素直に感嘆を零した。ロキは古い神々の神話をよく知っている。シグマにとっては有益な情報だ。


「ロキ、それならあまりお前にもよくないはずだ」

「……ロキだからですか?」

「ああ。意外と引っ張られやすいからな」


シグマの言葉に、そうですか、とロキは返した。ロキの視線が地面を見る。引っ張られ始めているかもしれない、とシグマは呟いた。

その時、レインがふらつく。ロキがレインを抱き留めた。


「レイン?」

「……足の感覚が、無くなっちゃった」

「あまり無理はするな」


シグマの言葉に、レインは小さく頷いた。


「あまりここでは我慢しない方がいい。ヘルのように半身が腐ってしまうぞ」


続けたシグマの言葉に、レインは目を細める。何か言おうとして口を開きかけ、すぐに閉じて、また口を開いた。


「……この場合、錆び朽ちるのでしょうか」

「……かもしれないね」


レインが何を想像したのかはわからないが、苦しげな表情を見て、何か夢を視たのだろうとシグマは悟った。


シグマは俺が連れて行こう、とロキに断ってレインを背負う。すみません、とレインが言うので、大丈夫だ、と返した。あまり長居しない方が良いなら、ここからは走るべきだろう。


スクルドの先導で走り出し、ロキ、シグマとレイン、ニンリルの順に列を組んで進んでいくと、人影の様なものの群を見つけた。


「前方にアンデッド発見。あら、群れだわ!」

「こちらも確認できたわ。うわッ、何コレ酷い腐敗臭!」


スクルドの声にニンリルが応えた。ロキと並んだシグマはロキが眉根を寄せて不快感を露わにしているのを見て驚くが、シグマも血肉の腐る匂いは嗅ぎ慣れない。

スクルドとニンリルが足を止めた。ロキたちも止まり、口を開く。


「酷い臭いだな……」

「母上、骨は?」

「いないわ。全部肉付きね」

「焼いて粉砕ですかね」

「そうね。リッチ系になってしまう前に破壊あるのみ」


スクルドはそう言いつつレインの様子を窺った。


「……ロキちゃん、これ割と本格的なものかもしれないわ」

「……シドを呼びましょう。効率的です。最後どうせ遺体の検証もしないのならば」

「……じゃあ、お願いしようかしら。シグマさん、魂持ちがいたら回収をお願いします!」

「了解」


レインの傍からロキが離れることはできない。前衛はスクルド、ニンリル、シグマに任せることにして、ロキは目を閉じ、自分の中の繋がりを手繰った。


――ロキ? どうした?


すぐ、来てくれ。アンデッドが沢山いるんだ。


――分かった。すぐ行く。


シドはロキがしてほしいことを正確に読み取ってくれたようである。

少しばかり重い気もするが。


「……ロキ、大丈夫?」

「……少し重たいな。何か一緒に連れて来ている気がするや」


レインの言葉にロキは答え、直後、そこに、6つ。光が、広がった。すぐ傍に契約を辿って現れたシドにロキは視線を向ける。


「……シド、これはどういうこと?」

「族長……アツシ、が。連れてけってよ」


ロキの目の前にいたのは、黒い髪の男子4人と茶髪の女子1人で、皆目の色がルビー、サファイア、エメラルド、トパーズと宝石をイメージさせるもの。黒髪の少年の1人は水色がかった瞳の色をしていた。


「急いだほうが良いようなので、先に名乗りだけ。ルビーです」

「サファイアだよー」

「僕はエメラルド」

「トパーズです」

「ダイヤモンドだよ~」

「……ロキだ」

「レインです」

「シグマ」

「スクルドよ」

「ニンリルだよ」


名乗るだけにとどめ、シドが先行け、と言って5人を先にアンデッドたちに突っ込ませた。それぞれ得意な属性があるようで、火やら水やらも飛び交い始める。


「……シド、彼らは? メタリカなんだろうけれど」

「ああ、俺の後輩。テメーともちゃんと縁ならあるぞ」


メタリカ族と呼称される上位者たちは、宝石質や金属質の瞳を持ち、鉱物を生成する性質を持つ。それが名となり、所属を表す苗字となったという。

ループ過程で契約を結んでロキが一方的にブチ切った(契約破棄した)内のメンツなのだなというのはそれだけですぐに理解が及んだ。


「止めろここで協力されるといろいろと断り辛くなる」

「今更テメーのチートに拍車がかかったところで神も世界も何も言わねえわ!」

()()をチートにしてどうする気だよ」

()()()そんだけ大事にされてるってこったろ!」


シドはけらけらと笑いながら5人と同じようにアンデッドの群れへと向かっていった。

スクルドとニンリルもそれに続く。


「……どうなるんだ、アレ」

「僕に聞かれても困るよ、ロキ」


アンデッド型の魔物というのは、総じて命に危険を感じているときに限って寄ってくるもので、ゲームでは生命感知とか言われる類である。

これがロキには効かない。人刃は分類によるが精霊の一種とみなしてよい存在でもあるため、命あるものかと問われるとそこは手放しでの肯定はしかねるのだ。


ロキが突撃したほうが圧倒的に被害は少ないだろう。

疲労感を感じているときにも寄ってくるものなのだ。シグマが口を開いた。


「回復が使えるんだろう、ロキ?」

「はい。俺はヒーラーを務めようか。指示通りの場所に壁を作ったりは?」

「出来る」

「よし。それじゃあ、お願いしますね」


ロキは空を飛ぶことだってできる。魔力を纏ってロキが宙に浮きあがると、数体のゾンビがロキを見上げた。ロキはそれを確認して素早くシドに指示を飛ばす。


――シド、お前の後ろ3メートルくらいの所に魔力に反応したやつがいる


――了解


シドは言い終わる前に身体を反転させて、金属でできていると一目でわかる手をゾンビに向けた。手が触れたゾンビはベキべきと音を立てながら小さな金属の玉になっていく。恐ろしい力だな、とロキは思った。

魔力に反応したゾンビの位置を全て教えると他のメタリカ5人がぱっと動きだし、殲滅を開始する。


「リオ、ドゥー、この付近の情報を集めてくれるかい?」

『わかった』

『はーい』


ヴェンはどこにいるだろうか。自由にしていいといっているので縛っていない結果、すぐ傍にはいないという状況になっている。このままでいいとロキは思っている。もうすぐ彼女らの力を借りるでもなくなってしまうらしいのだから、今のうちに精一杯頼っておかねばとは思うのだけれども。


ロキもなんとなくわかっているのだが、普段のヴェンはデスカルとの仲立ちをしている。デスカルが風を司っているのは精霊の間ではよく知られたことであり、風の最上級精霊であるシルフィードに分類されるヴェンですら、デスカルからは小間使いと変わらない。


一体どこから湧いたのかといいたくなる量のアンデッドを処理したスクルドたちは、日も傾く頃ロキたちの元へ戻ってきた。ロキが回復魔術を使用したのは1度きりで、それ以降ロキはかなり暇を持て余した。レインは途中から暑くなくなったと言って普通に服を着こみ始めたので、おそらくアンデッドの中にレインに何かしらの効果を及ぼす魔術を纏ったものがいたか、ハデスらの加護を強める効果を持つ者がいたと考えられる。


「何か分かったことはありましたか?」


レインが戻って来たシドたちに問いかけると、シドは苦笑した。


「思い出したか、レイン」

「……不本意な記憶だがね。それで?」

「ちょっと面倒なんだが、先代ペルセフォネの装身具を身につけた女性がいた。ハデスの加護が強まってたんだろうな」


ロキの予想通りのことをシドが告げ、レインは小さく息を吐いた。


「死してなお加護は健在、か……」

「死霊魔術の起点になるのに十分な魔力を蓄えてたんで、回収した。ロキ、魔力を抜き取ってくれ」

「ん」


ロキがシドから渡されたのは胸元を飾るネックレスで、大粒の宝石がいくつも品よくちりばめられたものだった。


「……これが、ペルセフォネの?」

「ああ。回復系の……闇属性で、な。かなり古い型だ。500年は前の型だぜ、これ」


このころはカボッションカットが流行ってたんだ。そう言ってシドは目を閉じた。早くしてくれ、ということだと判断したロキは、魔力をネックレスから抜き取る。その過程で、冷たい感覚も流れ込んできた。


「……冷たいね」

「冷たい、程度ならそこまで怨念が溜まってたわけじゃねえんだな」

「怨念?」

「ロキには効かねえよ? 状態異常無効舐めんな」


シドとロキは言葉を交わし、早速作業に入る。魔力の流れを見て丁寧に魔力を宝石からすべての魔力を抜き取りきった。宝石や魔力結晶といったものは魔力を大量に溜め込む性質がある。それを抜き取ってしまえば魔道具といえど効果を発揮することもできなくなる。


「終わった」

「よし。ついでなんで破壊しまーす」


シドはロキから受け取ったネックレスをぐしゃりと握り潰した。レインが小さく罰当たり、と呟いたので、シグマにお祈りしてもらった後なんで大丈夫です、と返す。


「あー、真鍮だこれ」

「合金は取り込めないの?」

「ああ。完全に自然産出のじゃねえと無理」

「そのルビーは接収します」

「ダイヤも使ってあるね~」

「サファイアもある」

「エメラルドもあるね」

「トパーズはないですね。それシトリンです」


わらわらと寄って来たメタリカたちは口々にこれは接収、と物騒な言葉を発しながら金属部分が変形して外れてしまった石を回収していく。トパーズはないなあ、とトパーズが少し残念そうにぼやいた。ある程度石の回収が終わったところで、メタリカたちは中央にはめ込まれているエメラルドグリーンの宝石を見て小さく息を吐いた。


「……これ、アレキサンドライトですね」

「先輩、何でアレク呼ばなかったの? ロキの目すごく似てて綺麗だよ?」

「あいつが引き籠った理由自体がロキなんだがな」

「「「「「あーね」」」」」


納得してしまったらしい5人は残りの石だけを取り込んで、口々に別れを告げて一旦姿を消した。


「嵐のようだったね」

「……あいつらとも契約は結んでもらうぞ、ロキ」


ロキの言葉に対しては答えず、シドがロキに要求を突きつける。ロキは小さく息を吐いた。


「これ以上俺に上位者を抱えろと?」

「最後はテメーが上位者になるんだよ!」

「……話が飛んだな!?」


いいじゃねえか結論、とシドは言って、戻りましょう、とスクルドらに声を掛ける。日が落ちるまでには城門の中に戻っておかないといけない、という常識がこの世界には存在する。もうじきエレメント族と呼ばれる魔物の出現が始まるからだ。


「この様子だと……風と雷のエレメントが出てくるな」

「氷は何とかなるがよォ、俺は雷ダメなんだ、早く帰りてえ」

「……戻りましょう母上」

「ええ、そうね。ああそうだ、テレポート用のマーク石は私が持ってるの。石に直接触れないとダメなんだけど」


スクルドが亜空間から美しい水色のクリスタルを取り出した。

冒険者ギルドは遠方へ出かける冒険者のために、事前に指定した冒険者ギルドに帰還できる転移系の魔道具を販売している。それが、テレポート用のマーク石、なのだ。


「私は別に持ってるからいいよ」

「うん、じゃあまたギルドでね、ニンリル」

「また後で、スクルド」


ニンリルは言葉通り、自分の懐から水色のクリスタルを取り出し、「【ホーム】」と呟き、姿を消した。


「これは赤銅級からしか持てないの。ロキちゃんもレインちゃんも、ゆっくり取ればいいからね」

「「はい」」

「いくわよ。【ホーム】」


スクルドの手に置かれたクリスタルにロキ、レイン、シドが触れたのを確認して、スクルドは唱えた。

光に包まれ、4人はその場から姿を消した。


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