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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
156/368

6-7

2024/10/10 加筆修正しました。

死徒の中で最も恐れられる存在。それは恐らく、死徒列強第5席『狂皇』グレイスタリタスである。

たった1騎で国を亡ぼすほどの力を持つほか、周囲の生物全てを”狂気”の状態異常に陥れる特徴を持ち、”狂気”の状態異常になっている生物全てを指揮下に置くことができる。また同時に最も人里から離れた存在であるともいえる。


死徒列強は基本的に人里に積極的に関わって来ようとはしないのが常なのだ。そんな常識ともいえるものから外れた存在が居る。


それが、死徒列強第7席『狂魂喰(ベルセルク)』シグマである。


ざ、と人波が割れた。人目を引く真っ赤なロングコートを纏った、浅黒い肌の青年が現れる。人が割れるということは、ここではかなり彼は知られている人物であるらしい。


かつかつとヒールの音。

ロキは音のする方を見て、目を細めた。


スクルドとニンリルのおしゃべりも終わった。レインは周囲のざわつき方が変わったことに気付いてロキたちを見る。


「何であんたがここに……」


ニンリルはそう言って青年を見る。青年はニンリルを一瞥だけして、ロキと視線を合わせた。


『久しぶりだな、ロキ』

『お久しぶりですね、シグマ。元気そうで何よりですよ』


周囲はざわつき、ニンリルは目を丸くする。普段は全く声を発さない青年――『狂魂喰(ベルセルク)』シグマが理解不能な言語を使ったことで皆混乱したのだ。それに更にロキまで同じ言語を使うのだから困った。何を言っているか全くわからない。


「え、何? 知り合いなの?」

「ロキちゃん、死徒列強と仲がいいの」

「えーそれどういう状況??」


死徒列強と仲が良い、なんて随分な事である。しかしロキとシグマが続けて何かぽそぽそと話しているのを見ていると本当に仲が良さそうだ。


シグマという男は、ソウルイーターと呼ばれる種族の生まれである。所謂”吸魂鬼”と訳される種族で、古くから死徒と呼ばれた種族のひとつだ。死徒たちから列強が現れるよりも古くから、死徒と呼ばれてきた。故に畏れられる。正しい理由は伝わらずとも、ソウルイーターと呼ばれるその種族の特性を連想すれば必然的に恐れられていったのである。


「あー、そっか、人刃族だもんね」


ニンリルは何かわかったように小さく頷いて、スクルドに向き直る。


「スクルド、悪いんだけどコイツも一緒に連れて行っていい? ギルド内部に列強とか居たら皆委縮しちゃうわ」

「そうねえ」


スクルドの言葉を聞いたシグマがロキに言った。


『一緒に行ってもいい感じか』

『むしろついて来いって感じですよ。何か準備とかありますか?』

『いくつか素材が必要だ。10分ほど待っててくれ』

『分かりました』


シグマはロキの返答を聞くや否や足早にギルドを出て行った。外見を知らなければ彼はただのソウルイーター族の青年冒険者でしかないので、町の人々は彼を恐れたりはあまりしないとニンリルは零した。


「彼普段どうやって意思疎通しているの? 買い物大変そうだけれど」

「最初は筆談だったみたいだけど、同じものばっかり買うし、違うものでも指差しで指定できちゃうからあんまり買い物は困ってないみたいよ」

「あら、そうなの」


ロキはスクルドとニンリルにシグマの伝言を伝える。


「母上、ニンリルさん、シグマは10分ほどで戻るそうです」

「分かったわ」

「了解。じゃこっちも最低限の買い物だけ済ましておこうか」


ニンリルはギルド内部の売店の窓口に向かい、必要なポーションやスクロールの購入を始めた。ロキとレインは顔を見合わせる。


「……ギルドの売店って覗いたことある、ロキ?」

「無いね。ソル、ルナ、ヴァルノス、ロゼ、及び俺が作ったポーションとか魔道具のテストで事足りる」

「そうだったよ一番金掛かるところを自分たちの作ったもので終わらせる奴らだったよお前らは」


レインはジト目をロキに向けた。ロキやソルがポーション造りに勤しんでいるのは一部の生徒の知るところだ。というのも、どうにもグレイスタリタスが口を滑らせたらしい。聞き出したのが魔力無しで有名なフレッド・アネモスティだというから何とも侮れない。


「そういえば、シグマは単独で行かせて大丈夫だったの?」

「まあ、彼の特性上彼の言葉を理解しない限りは発狂しないだろうからね。まあ、気になるなら行かせるけど」

「何、そんな条件あったの?」

「まあね。詳しいことは後で」


レインとロキが会話を切ったところでスクルドから一応見に行ってもらえる、と言われたので結局ロキは契約精霊ドゥンケルハイトに声を掛けることになった。


「ドゥー」

『はーい! なぁに、パパ?』

「シグマの後を追ってくれるかい? 傍に居て見てるだけでいいから」

『はーい!』


黒い髪、ラベンダーの瞳のドゥンケルハイト、もといドゥーは人工精霊らしいロリータ姿だ。闇属性なので黒と紫が基調になってはいるが、所謂とてもひらひらふわふわなのである。


「……さらっと監視役に精霊つけるとこお前のスペックの高さを思い知らされる」

「何言ってるんだよ、俺を基準にしたら全てインフレしちゃうぞ、……」

「……今その後何言おうとした?」

「ふふふ言わないでおきますいろいろ体裁を保つためにも、ええ」


レインとの会話はロキにとっては小気味良いものだ。ロキは誤魔化しとわかる誤魔化し方をした。

レインのことを認めているからこそではあるが、つい「追いつきたいなら進化しろ」などと非現実的なことを言いそうになっただけである。



さて、買い物からシグマと後を追わせたドゥーが戻って来て、ニンリルはスクルド、ロキ、レイン、シグマと臨時パーティを組み、ひとつ依頼を受けて街の外へ繰り出した。


「いやー、まさか純粋な死徒と一緒に依頼受けるとは思ってなかったわ」


ニンリルの言葉にシグマはそれもそうか、と日本語で呟く。ロキがシグマの言葉を理解できる理由がこれだった。元日本人の転生者で、日本語を聞き取れなければシグマの言葉は理解できない。


『……俺には言霊使いの加護が掛かっている。だからあなたが理解する言葉で話すことはできない』


シグマがまた日本語で返した。ロキの方を見たので、ロキは通訳を頼まれているのだと理解した。


「彼はゾーエー神の加護を受けているようです。だからお互いが理解できる言葉を話すのは危ない、と」

「え、何それめっちゃいいやつなの?」


ニンリルの言葉にシグマは苦笑した。ニンリルは日本語は分かろうはずもないが、シグマは千年以上アヴリオスで生活しているのだ。その間に数年も滞在すればその国の言葉は書けなくても会話はできるようになってしまっている。


ゾーエー神というのは、言の葉の神である。ギリシャ神話には多くの神々が居るとはいえ、言の葉の神、という括りでゾーエーという神は存在しない。ロキはこのゾーエーという神が古い時代の日本人転生者であるというまことしやかな口伝の話をラックゼートから聞いた。


ロキ自身若干接触の機会があったので理解している。ゾーエー神は間違いなくアヴリオス出身の神であり、価値観はロキの前世に近い。

そして恐らくだが、日本人だったと噂されるのは、転生者や転移者のためにその言語に関する権能を振るっているせいだろう。日本人以外にも間違いなく力を発揮するだろうが。


一度正式にゾーエー神の社を訪れるべきかもしれないと思いつつ、口を開いたニンリルの方に意識を向けた。


「そういえばひとつ確認したかったんだけど、シグマ、あんたなんでここに居るの?」


そういえばそうだったな、とロキは少し考える。ロキは、シグマは普段ギルド以外に用事はないので宿をとるより野宿の方が多いはずだとカガチから聞いていた。


死霊術師(ネクロマンサー)を追っている』

「待って今ネクロマンサーって聞こえた!」


ニンリルはうわあ、と顔を蒼褪めさせる。というかネクロマンサーという発音はリガルディア語でも同じ発音だったのか、と明後日の方向に思考意を飛ばしつつロキは情報を整理する。


先日ルナからドラゴンゾンビの出現に関する情報提供があったタイミングで、シグマが死霊術師(ネクロマンサー)を追っている、という発言は無視しがたい。ロキがちらりと見やったレインは顔を青くしていた。


というかこれは、ほぼ確定だろう。


『シグマ、それ何割ぐらいの確率ですか?』

『8割ってところかな。カガチはここの領内に入れないからさ』

『ああ……カガチってメルヴァーチとは不可侵だっけ』

『うん。面倒な嫁を貰いやがったもんだよまったく。政略結婚に巻き込まれてんじゃねーよ天下のソウルイーターが聞いて呆れる』


シグマの愚痴にロキは苦笑を浮かべた。そうか、シグマの奥さんメルヴァーチの人なのか……。

遠い親戚の可能性を感じながらロキは質問を重ねる。


『8割って言ってたけど、実際どうです? クロ?』

『まあ、クロだと思うよ。今も領内に居るかはわからないけれど』

『実は領内で今年中にドラゴンゾンビの出現が予見されてます』

『あらま。その感じだとスクルドの権能じゃないでしょ? その予言者誰?』

『ルナ・セーリスたち、と言っておきますね』

『……』


ルナ、と名を聞いてシグマは何かに思い当ったらしい。


『……もしかして、イミット?』

『正解です』

『あー……前々回もこの時期ドウラ君動いてたなぁ……』


どうやら世界回帰の周回前の事を照らし合わせたらしい。ルナの名を出したのに、と思ったロキのことを見透かしたようにシグマは言った。


『なんだかんだソルちゃんとルナちゃん一緒に動いてることが多いからね。ルナちゃん転生者っぽいところあったけれど、本当だったんだ』

『……他言無用でお願いします』

『ああ、分かってるよ』


僅かに強張ったロキの表情を見落とさなかったシグマは、警戒させちゃったね、ごめんよ、と苦笑を浮かべる。転生者であることを周りに大々的に触れ回らない方が良いのは何となく察せられることだ。シグマがそこまで神格にあまり知識がないことも記憶にあったので加護の関係で、と繕うつもりだったのだが、転生者であるという方がばれてしまった。迂闊なことをしたかもしれない。ロキの警戒度が一気に跳ね上がったことを察したシグマはどうやってロキの警戒を解こうかと思案し始める。ロキの警戒は自分以外が絡んでいると極端に緩みにくくなるのでシグマの方こそ迂闊に口に出してしまった、と思った。


『ごめんごめん、警戒させるつもりはなかったんだ。大丈夫だから』

『……何が大丈夫なんですか』

『ルナちゃんのことを狙ったりはしないってこと。勿論誰かに彼女のことを言う事もない。それにほら、俺はこの通りだからね』


他者とまともに話せないのはロキが一番よくわかってるだろ、とシグマは示す。ロキが警戒しているのはこのロキが発端になってルナに不条理が降りかかることだ。シグマはそれに手を貸さないことを示す必要があった。ロキを手助けしたいと思っているシグマにとってはこのロキの警戒は痛手なのである。


『……一応確認なんだけれど、ルナちゃんは前世の知識をロキたちに教えてくれたってことで合ってる?』

『……合ってます』


ロキの口からちゃんと確かめておくべき言葉は引き出せたのでよしとする。一応シグマも元日本人なので警戒自体は解いて貰い易いタチではあるのだが、それよりもロキは身内にずっと甘い男であるようだ。身内を守るために自分の大切なモノをポイ捨てした場面を知っているシグマとしては、そこに自分が噛むわけにはいかなかった。


『オーケー、それなら話は早い。恐らくというかほぼ確実にドラゴンゾンビ出るし死霊術師(ネクロマンサー)もいる。死霊術師(ネクロマンサー)は俺の獲物になるから、情報集めていく方向でいいかな?』

『……分かりました』


ロキが飲んでくれたので一旦良しとするが、これは後で御機嫌取りの何かを贈っておきたいところである。カガチに相談するべきだ、と考えつつラックゼートにも連絡を取ることを決める。ロキの好みはラックゼートの方が把握しているはずだ。カガチはマメな男であるのでいろいろと手を貸してくれる。同族のよしみもあるのだろうが。


『……ちなみに今から行こうとしてるのは?』

『……こっちだと、古戦場ですかね。ちょっと待っててください』


シグマの質問にはちゃんと答えてくれるロキは、歩を進めながらニンリルと話していたスクルドに問いかけた。


「母上、今から行くのって、古戦場ですか?」

「あら、そうよ、ロキちゃん。古戦場は定期的に見ておかないと、障りが起こるかもしれないからね」


ロキの問いかけにスクルドは答える。障りというのは、魔力が溜まって人体に被害を及ぼすことを指すもので、障ってしまうと晶獄病のような症状を呈する。違うのは、魔力の放出回路が開いている部分に結晶ができやすく、身体の先端から結晶化していくような症状が出ることだろう。また、眩暈や吐き気に襲われて動けなくなることも多い。


「そうなんだ……」

「だから古戦場って皆気にしてるんですね」

「そうよ。レインちゃんも初耳かしら?」

「はい」


レインも障りが起こることに関しては初耳だったらしい。それを聞いたシグマが少し考えていたが、大方全開のことでも考えているのだろうと察したロキは、自分がいちいち言葉を訳するのも面倒だからとアイテムボックスから最近弄っていた玩具を取り出した。


『シグマ、これ差し上げます』

『何だい、これ』

『”神殺し”を再現したものです。身に付けさせてないと意味無いですけど』

『なんかまたとんでもないもの作ってるな!?』


シグマが大声をあげたので前を歩いていたスクルドとニンリルが振り返る。


「あら、ロキちゃんそれ、この前まで弄ってたやつじゃない?」

「はい。丁度良いのでシグマにテストしてもらおうと思って」

「えー、それ大丈夫?」

「シグマの持ってる発狂効果を打ち消せるんじゃないかなと」


シグマは受け取った玩具――もといバングルをまじまじと見つめる。緻密に術式が組み込まれた宝石の組み合わせと、金属部分の模様も意味のある文字の組み合わせときた。これは試作品なのかもしれないが、ロキの細かなこだわりに舌を巻く。


着けてみてください、とロキに言われ、シグマはバングルを身に着ける。

尚、シグマは自らのステータスを確認できる時代の生まれだ。


『ステータスオープン』

「……そんなのあるんですか」

『昔は皆使えたもんだけれどね。ロードも使えるし』

「へー」


シグマの視線が虚空を流れ、ある一点で止まった後、視線をロキに向けた。


「……ロキ、ちゃんと聞こえるかい」

「あ、ちゃんとリガルディア語ですね」

「まぁ」

「わぁ」

「……!?」


一番驚いていたのはレインである。

シグマは聞かれるより先に口を開いた。


「俺の加護によるスキルが無効化されてる」

「そのスキルって何て名前なんですか?」

「『言霊(狂声)』だ。普通の『言霊』って使用スキルなんだけどな」

「この感じだとパッシブっぽいですね」

「だな。これはありがたいや」

「あ、バングル外したら効果なくなっちゃうんで、使いたい時にはバングル外してもらって」

「分かった」


勝手に話が流れていった。レインはまだ目を丸くしたままだが、どうやら稀に見るスキルの変質したものをシグマは持っていたらしい。そこまで理解できたところで、レインは歩くことに集中しだした。ロキとシグマの会話には興味を引かれるが、頭がいっぱいになってしまったのだろう。


「ロキちゃん、あれどういう効果があるの?」

「『神殺し』の再現をちょっと。シグマはソウルイーター族なので、影響を及ぼすなら神霊かなと」

「まあ。それじゃ、あのバングルを身に着けている間は神霊の力は及ばなくなるってこと?」

「はい」


なかなかえぐい事をするじゃないかとニンリルは慄いた。

神霊の力に直接干渉するような魔道具は聞いたことがない。友人の息子がとんでもないものを作ってたとニンリルは内心震えていた。


「……スクルド、あんたの息子ヤバイわね?」

「あら~、”ロキ”ちゃん凄いでしょ?」

「あ、そうか、加護持ち……!」


ニンリルは友人の息子が神を恐れぬ巨人の加護持ちであることを思い出す。だからこんな恐れ多いことをしでかしたのか、と震えるニンリルに、スクルドは笑みを浮かべただけだった。

スクルドは知っている。ロキ神の本領はこんなものではない。ロキが都合よく使っているのでこんな片鱗しか出てきていないだけだ。


王立学園では神学という講義がある。ロキたちはまだ神学の講義を受けることはできないので知る由もない事なのだが、現在、冥界の仕事を回している神々には問題が起こっている。それは、多少なりとも地上に留まってしまっている死者たちの魂の回収に向かえる神がいなくなっているということだ。


死者の魂を回収する、と言えば一番の代表格は死神タナトスだが、ほとんどこの世界から乖離してしまっているオリンポス系の神々の力は、いまだ健在とはいえ直接世界に赴けるほどではない。タナトス神はそれでも多少アヴリオスに顔を出せるのでまだ有情というやつである。とはいえ毎回直接回収に向かうことはできない。

そしてそれはケルト系やメソポタミア系にも言える。


直接赴けないから、自分の名を冠することを許した加護持ちにその権能の一部を運用させる。タナトスならば死者の魂の回収を行う。そしてタナトス神を信仰し、転じて力の一部を与えられた種族がソウルイーターと名付けられ、ソウルイーターが回収した魂を直接冥界へ送っているのが族長(カロン)である。


ハデスやエレシュキガル、ヘルといった冥王と称される系統の神霊は死者たちを振り分けたり受け入れるだけだったりとやっていることはバラバラだが基本、死者を迎え入れる、という権能を有している。冥界との入り口を開く権能といった方が分かりやすい。ハデスに関しては例外的ではあるが。


そして、北欧系。ここに関してはよりにもよって冥界の女王ヘルが権能を失っている。故にその親であるロキの名を持つ加護持ちにその権能の一部を担う柱の役割が付与されているのだった。


「……女神ヘルの代わりに世界を回す歯車の一つになった気分はどうだ?」

「神話と何も変わらないですよね!」

「それもそうか」


シグマの言葉に、ラグナロクの引き金を引いたロキ神と何も変わらないとロキは笑った。

子供にはアンデッドには近付くなというくせに、大人は散々屍の山に突入しているあたり、リガルディアの子供と大人の間にある差はかなり大きいものであるらしい。


「久しぶりの戦闘だわ。気を引き締めていきましょうか!」

「ところで母上」

「どうしたのロキちゃん」

「ドラゴンゾンビになりそうなドラゴンの遺骸ってどうするんですか?」

「ドラゴンゾンビにしてしまった方が早いわ。メルヴァーチではゾンビ化して出てくるまで待ってる」

「分かりました」


スクルドは笑って虚空からレイピアを取り出す。

全てがよく鍛えられたミスリルで作られた逸品だ。いくら軽いミスリル製といってもかなり重たい部類に入る。


「ロキちゃんとレインちゃんは魔術だけでいいわ。ロキちゃんはいいかもしれないけれど、アンデッド系って貫通系には強いから槍は向かないの」

「「分かりました」」

「シグマさんはこの子たちをお願い。飛び道具でしょう?」

「ええ。お任せください」


シグマはホルダーから二丁の銃を引き抜いた。


「ロキも撃ってみるか?」

「いいのですか?」

「内部構造もしっかり知っておけ。お前なら解体も取り上げることも容易いだろ?」


これから先、下手に銃を持つ者たちが現れたときのために。

シグマの言外に告げた未来について、ロキは小さく頷いた。


「一応こっちからな」

「何でスミスアンドウェッソン」

「一番最初に持たされてたのがそっちだった」


渡された銃の会社だけは分かった。サバゲーはしていなかったから仕方ないじゃないかとロキは独りごちる。レインは何それというような目をしていた。


「敵がいたら撃ってやる。驚くこと請け合いだがな」

「ロキ、お前王都に帰ったら魔銃の開発したほうがいいかも」

「なんでまた」

「俺がそう思うだけ」


シグマについて思うところは色々とある。だがそれを話すのは今でなくてもいい。

ロキはシグマの告げる未来について頭の片隅に追いやって、古戦場への道を進んで行った。

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